「じゃ、食器は俺が洗おっかな」
「えっえっ。いいですいいです。わたしやります」
「お願いするわ!」
「ひさびさなんだからさ、積もる話もあるよね? 姉妹トーク、どうぞ!」
涼太郎さんの粋な計らいです。お言葉に甘えまして、わたしはお姉ちゃんに涼太郎さんとの事を根掘り葉掘りしちゃいます。きっとわたしの瞳はキラキラと輝いていたことでしょう。お姉ちゃんはお姉ちゃんで、わたしよりももっとキラキラして話してくれました。
「――元はね、大学のゼミで一緒だったのよ」
なるほど! それなら、わたしにチャンスが来るのもこれからです!
「それでね、たまたま同じ会社に入って……夏のバーベキュー大会でね、うふふふふふふ」
「何があったの? 何があったんです!?」
「うふふふふふふふふ」
「笑ってないで! もー!」
「ちょっと恥ずかしいな……」
涼太郎さんも照れてます。いかにも、まんざらでもないって感じのご様子です。
「どっちからいったんですか!?」
わたしの直球を食らえです!
「えーと……あれは、なんていうか……」
「涼太郎からよね! 涼太郎からだったでしょう?」
「いや、ちょっと違くないか……?」
「うふふふふふふふ」
なんだか結局、洗い物をしながらも涼太郎さんはすっかり巻き込まれてしまいました。その洗い物も終わり、選手交代です。紅茶を淹れに、わたしが台所に立ちます。
「お姉ちゃんは、三上澄子になるんだね……」
ふと、そんなことが頭に浮かび、ぼそっと呟きました。ティーバッグの紐を三つ揺らして、こたつに戻ります。
「…………」
お姉ちゃん、座ったまま、目を見開いて真っ赤になってました。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「そうよね、そうなるのよね…………」
ほとんど聞こえないくらいの小声で、何かそう言ってるように聞こえました。涼太郎さんもなぜだかなんだか固まってます。そして――
「ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いします……」
「こちらこそ……」
な、なんですかこれ!? なんで急にこんなところでかしこまって深々とお辞儀しあってるんですか!? 二人とも! いまさら!
「あっ! そうだわ! 涼太郎、あれを!」
「あ! そうだった! あれな!」
今度は何なんでしょう!? 涼太郎さんがそそくさと外へ出ていきました。車でしょうか? でも何だか、二人とも、息ぴったりな感じがします。とってもお似合いです!
……うん? なんでしょう、このやるせない気持ち……ちょっとだけですけど、今、急に湧いてきました。あ、ちょっとまずいです。今はダメダメ、我慢我慢……。
「はい! 海香ちゃん、これ!」
涼太郎さんが戻ってきました。おや? 両手で何か大きな物を抱えています。
「じゃーん! ほーら海香、電子レンジよ!」
「俺のお古で悪いんだけど」
「海香、壊れてるって言ってたでしょう?」
涼太郎さんが持ってきたのは、電子レンジでした!
「お世話になりに来たんだもの、手ぶらなわけないわ!」
「そんなに使ってないから」
「えっ! でっ、でも、いいんですか? 涼太郎さん困らないんですか?」
「来週引っ越すから」
「うふふふふふふ……」
「えっえっ。引っ越しって、つまり……新居ってことですか!?」
「そうよ! そうなの!」
「とりあえず賃貸だけどね」
ぎゃひー! 結婚式は来月と聞いてたんですが、はあああ、そっか、もう一緒に住み始めるんですね! ぎゃひー! お姉ちゃん……進んでますね!
「だからね、今日はこれから、新居用のあれこれを買いに行くの。海香も来る?」
「あ、いいね、それ。意見が分かれたらあれだし。海香ちゃん、どう?」
「えっえっいいですいいです! お二人が意見分かれることなんで無いと思います! 大丈夫だと思います!」
ここはさすがに遠慮します! 邪魔しちゃ悪いですし、さっきのやるせない気持ちが加速しちゃいそうですし、あと、お腹もすいてきましたし……。
「ええー?」
「海香ちゃん、何か予定入ってた?」
「あっあっ。べ、べつに……あ! そうです! 家庭教師のアルバイトがあるんでした!」
嘘ついちゃいました!
「ああ! そうだわ! 叔母さんにも、ついでに挨拶しに行きましょう! ちょうどいいわ!」
ぎゃひー! 墓穴を掘っちゃいました!
「そうか、それはちょうどいい! よし、じゃあみんなでさっそく行こうか!」
あわわあわわ、どうしましょうどうしましょう!
「どうしたの海香、ほら早く! 行きましょう!」
ぎゃひー! 手を引っ張らないでお姉ちゃん! えと、火の元は大丈夫です! わたしの顔は大丈夫じゃないです! 叔父さんがいないことを祈ります! パスタは腹持ちがちょっとよくないです! わたしはもっと食べたいです! でも、今日はひとりじゃなくてなんだか嬉しかったです! 電子レンジがもらえて、よかったです。
~つづく
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