相変わらず手汗が酷い。一滴でも垂れ落ちれば居場所が把握されてしまいそうなくらいに。
それはまるで潜水艦の中でレーダーに把握された時のよう。まさに海の中の戦場と言ったところか。
だが今は地上戦だ。例え話はおいといて遂に対峙したG.Wは戦いに突入しようとしていた。
幸いな事に敵機は単体が多かった。きっとG.Wの開発に時間をかけ基地は蔑ろにしていたのだろう。
ゼクスはG.Wを歩かせアサルトマシンガンの射程に入ろうとした。敵機の武装はアサルトショットガン。ここは距離を詰めるべきだろうと判断した。
残りの二機はゼクスのG.Wと陣形を維持しようとしていた。隊長の命令がない限りは単独行動は許されなかった。
ゼクスのG.Wから飛び出した連弾は熱いが敵機が被弾した後は冷めていた。まるで敵対する者に容赦せぬ冷酷なまでの眼差しと言った感じだ。
だが冷徹なのはゼクスだけではなかった。敵機は被弾を避ける為に歩きながら左手甲に付いた楯で防御し途中からホバー走行に変えていた。
どうやら敵機は一気に近付いてきアサルトショットガンを撃ちかます気のようだ。ゼクスのG.Wは急にホバー走行をし楯で防御した。
逃げるどころかどんどん速度を上げるゼクスの機体。それはまるで撃たれる前に体当たりを仕出かそうとしているようだった。
まさにその通りだと悟った敵機はアサルトショットガンを両手で持ち撃つ瞬間を見計らっていた。だがこれでは体当たりを受けてしまうだろう。
臆病者はすぐに作戦を変えてくる。これはいわばチキンレースだ。どちらかが脱落するまで最後の瞬間は変わらない。双方は勇敢だ。
いくら楯を構えているからと言ってアサルトショットガンの威力を舐めていては駄目だろう。下手をすれば腕ごと吹き飛ぶ可能性もあった。
これは最後の瞬間が変わらないと心のどこかで双方とも思っていたのだろう。一か八かの大勝負にゼクスのG.Wは打ち勝つ事が出来るのだろうか。
ゼクスのG.Wは楯を構えたままアサルトマシンガンから武装をパイルバンカーに切り替えていた。単にアサルトマシンガンを九十度回転させ楯の中にしまいこんだ。
実はパイルバンカーと楯は一体化していた。左は普通の楯だが右手甲は特殊な楯だった。これは巨大企業――アルトラズカンパニーが提供する武装の一緒だ。
パイルバンカー。いわゆる釘を打つ銃と思えばいい。ただ銃は銃でも弾を消費しない。ただ単に釘を打ち込み穴を開ける事が主な攻撃手段だ。
戦法としては敵機から楯を奪い取る事も出来るがかなりの熟練度がいる。今のゼクスではそれは出来なかった。だが体当たりの瞬間に打ち込む気のようだ。
手に汗を握るとはまさにこの事だ。一瞬の判断を間違えれば命はない。出遅れるは死を意味する。この世界に特別は存在しない。あるのは不平等な死のみ。
敵機は急に止まりアサルトショットガンを撃ってきた。恐怖を覚えたのか距離があった。散弾し過ぎたからか威力は減衰しゼクス機の楯は無傷だった。
そしてゼクスのG.Wは無傷のままに僅かな隙を付いた。体当たりを仕出かす前に楯の構えを解きパイルバンカーで装甲を貫く動作に入った。
ゼクスは雄叫びをあげたい気持ちを抑えさらに敵機が撃つ前に体当たりを仕出かした。その時にゼクスのG.Wはパイルバンカーで装甲を貫き打ち込んだ。
止めを終えたかのようにゼクスのG.Wはゆっくりと離れていった。先程まで盛んに動いていた筈の敵機は静かに崩れ顎を落とした。どうやら一機目を仕留めたようだった。
本当は人を殺したくはない。だが宣戦布告をされたのだ。これから起きる事は後の世に語り継がれ二度と起こすべきはない。大義はやがて腐敗するとなぜ解らないのか。
ゼクスも二機の操縦者もそう感じていた。人の世の過ちは今を以って正さなければならない。それこそが腐敗しない真の大義だとゼクス達は思っていたのだった。
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