当初の目的である電撃戦は失敗したが確かな手応えはあった。本当は戦くはないし殺したくもない。だがやはり野放しに出来る程の信頼関係はなかった。
ただ言えるのはどの勢力も正義などないという事だ。どんなに正義を振りかざしても人殺しに言える義理はない。世界で一番の嫌われ者は間違いなく戦争屋だろう。
いくら傭兵から正規兵に鞍替(くらが)えしたとしても戦争屋の大罪に変わりはない。人の行く先がこのままでいい筈がない。それはゼクス達にも理解出来ていた。
嫌気が憤懣(ふんまん)する時代にしてはいけない。ならば今に出来る事はなにか。無線を通じ少しでも訴え掛ける事ではないか。だからこそにゼクスは訴え掛けた。
降参すれば命は助けると。だがそこには一つの矛盾があった。それは降参せずに挑み続ける輩には死が訪れる事の前触れだった。逃げれば死神に追われるのだろう。
だが実際に追い詰められているのはゼクス達だった。さっきまでの勢いを説得に使っているのだから当然といえば当然だろう。命の現場に敵も味方も関係ない。
ただ己の正義を掲げ挑む者に祝福の手を。そうでない者には死神を。裏表が激しく矛盾していて極端だが戦争屋はこれの理で動いていた。決して止まる事のない命の連鎖だ。
レーダーに眼をやる事ばかりが仕事になっていた。どんどん敵機が近付いてくる。機影は確かに三体とも合流していた。このまま行けば初めての三対三になる。
この時の戦いはきっと各々が対応することになるとゼクスは思っていた。決して相容れないからこその闘いでありそこには幾つもの矛盾があった。
どちらかが死ぬまで戦う事への重圧を理解したゼクスはむしろこれこそが人の本質なのかも知れないと思い始めていた。人は変われない。故に戦うのだと。
人が生き続ければ安泰だが時代錯誤はし辛い筈だ。なぜならばこの世界の根底に人殺しを肯定する輩はいない。ならばどうするか。正義を楯に戦うしかない。
だが正義は双方にありそう簡単に始まる筈がない。むしろお互いに正義の楯を持っていれば宣戦布告もなかっただろう。ただ大義を元手に行動すれば不審さは増すだろう。
解釈がお互いに違っているのだから行動規範も違う。皮肉にも辿り着いた先がG.Wである事は言うまでもない。地球連邦国と巨大企業は宇宙覇権の事で頭が一杯だ。
そんな輩達がまるでどんどん近付いてきているようだった。どんなに投げ掛けても届かないのが宇宙の法則なのかも知れない。もう既に酸欠状態でも可笑しくなかった。
息詰まる空気の中でゼクスはもがき苦しんでいた。だれも見てくれないし聴いてもくれない。逆の立場として考えても失う程に怖い物はない筈だ。なのにどうしてだ。
分かり合えないにやはりなんて不釣り合いだと心の底から信じたかった。だが無情にも散った同胞への仇討ちを一番に掲げてくる。正当防衛ではまかり切れない命の重さを痛感した。
このまま引き下がれば敵前逃亡とみなされてしまう。こちらにも愛する家族がいる。死ぬ事は恩返しにはならない。罪を罪で洗い流す事でしか正義を貫き通せないなんて最低以下だ。
苦悶の表情に嫌な汗が出る。どんなに未来予測をして阻止しても憎しみが後を追いかけてくる。それはまるで死神に似ていた。どうすれば人は人に救われるのだろうか。
本当はこんな阻止の仕方なんて間違っていると思う。宣戦布告しなければいけないような空気をわざと作り決着を促すなんて愚者のやる事だ。そこに命の尊厳はもう既にない。
命の重さを痛感し始めたゼクスはそれでも説得を止めなかった、こんな自分の声なんて聴かれる筈もないと思っても。人は過ちに気付いた時に変わらなければならない筈だ。
こんな自分でも変われるんだと皆に伝えたい、矛盾だらけの世界で否応なく戦わされるなんて御免だから。ゼクスは己自身の答えで戦いたかった。他人に惑わされたくなかった。
故にゼクスは諦めない。ただ遂に対面の時がきてしまった。最後の最後まで諦めずに問い掛けた。無防備に晒されたゼクス達のG.Wがただ単に立っていた。
無線を通じて分かり合えたらよかったが真ん中の敵機から放たれたたった一発の銃弾が張り詰めた戦場である事を暗示させた。悪夢の一発はゼクスのG.W目掛けた。
慌てて左手の楯で防御して敵機の銃弾を飛び散らせた。この瞬間に戦いのゴングが鳴った事は確かだ。なんとも戦場とは分かり合えない程に憎しみにまみれているとゼクス達は思い知らされた。
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