森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

321 試練の後の三騎士

公開日時: 2022年3月10日(木) 19:00
文字数:3,370

 鍛錬所では、サクラとシャクヤク、エビフライがワシルアン王国の騎士たちをバッタバッタとなぎ倒していた。

 ……やだ、あの三人改めて見るとめっちゃ強い。

 

「アレでドラゴンに歯が立たないんだから、ドラゴンの強さはデタラメだな」

「そのドラゴンをなぎ倒せる神武はもっとデタラメですよね」

「強さのインフレでおじゃるの」

 

 正直、今の俺らでサクラたちレベルの戦闘が出来るかどうかは疑問だ。

【神技】を使っていいならいい勝負が出来そうだが。

 

 試練の最中は、やっぱり俺たちにプラス補正がかかっていたようだ。

 

「まぁ、麻呂なら一人で全員叩きのめせるでおじゃるがの」

「あの騎士たち全員が『ちっちゃ!?』と言えば、この辺一帯に亀を落とせるものね」

「其方の頭上に落としておじゃろうか、ご老公?」

「ご老公じゃなくてご隠居よ!? ……いえ、ご隠居でもないのだけれど!」

 

 ご隠居呼びの定着を全力拒否しているアイリーン。

 なんでご隠居って呼ばれ始めたのか、もう理由は思い出せないけどな。

 

「なんでご隠居になったんだっけ?」

「私に聞かないでくれるかしら? 思い出したくもないわ」

「アイリーンさんが『どころ』を見せつけていたからですよ」

「あぁ、この『揉ん所』が理由か!」

「ここは『揉ん所』ではないのだけれど!?」

 

 いやいや、そこは立派な『揉ん所』ですよ、アイリーンさん。

 なんなら、揉んで差し上げましょうか?

 いやいや、遠慮なさらずに。

 

「あ、芥都さん、ヘソ丸、ご隠居~!」

「よぅ、エビフライ」

「ヘソ丸じゃないですよ!?」

「ご隠居と呼ばないでくれるかしら!?」

 

 エビフライはヒルマ姫と完全に同じ呼び方なんだよなぁ。

 シャクヤクとサクラはゆいなの名前を覚えたのに。

 メガネっ娘で、もと大司祭なのに……残念なんだよなぁ、エビフライ。

 

 俺たちを見つけると、ワシルアンの騎士たちがざわつき始めた。

 

「ヘソ丸様にご隠居様!?」

「ということは、あの方たちが――」

「暗黒龍を仕留めたヘソ丸様!」

「神聖魔法で皇帝を打ち破ったご隠居様!」

「そして、その英雄たちをまとめ上げたリーダーの丸腰アンアームド様!」

「ってコラ、最後のヤツ!」

 

丸腰アンアームド』は広まってないはずだろう!?

 誰も俺をそう呼んでないんだし!

 

「しかし、パラディン様が」

 

 ムッキュの影響かぁ!

 あいつ、俺のこと好きなのか嫌いなのか、マジで分からん!

 

「是非一度お手合わせを!」

「自分も!」

「自分も是非!」

 

 騎士たちがどっと群がってくる。

 いやいやいや!

 俺はともかく、ゆいなとアイリーンは神武も試練の時に使っていた武器も力も失ってるから。

 鍛錬を積んだ騎士の相手なんか厳しい……

 

「自惚れるなであります!」

 

 ドン! ……と、サクラが地面に槍の柄を叩き付ける。

 地面がめくれ上がって大きな亀裂が走る。

 

「この方たちは自分たちテンプルナイツよりも遙かにお強い方々です! 一対一で自分やシャクヤク、エビフライに勝てる者でなければ挑戦することすらおこがましいであります!」

「じゃ、芥都たちへの挑戦権をかけて、誰かあたしとサシで勝負したい人~?」

「「「「すみません、身の程知らずでした」」」」

 

 ワシルアン騎士、全員が土下座した。

 ……お前ら、どんだけ強いんだよ。

 サシでは絶対勝てないって思われてんの?

 

「理由は分からないのですけど、私たち三人とも、朝起きたら物凄く強くなっていたなのです」

「強く? 元から強かったろ、お前らは」

「それ以上になのです。もう、比べものにならないくらいになのです」

「そうそう。ちょっと軽く槍を振ってみたら驚いたもん」

「自分もであります。まるで、昨日までの自分とは別人のようでありました」

「そんなに、なのか?」

「では、少しお見せするであります」

 

 サクラが合図をして、シャクヤクとエビフライがサクラの前に移動する。

 ワシルアン王国の騎士たちが広く場所を空け、鍛錬所の中央にコンペキア三騎士が向かい合って立つ。

 

 それぞれが槍を構え、そして、呼吸を合わせて槍の切っ先をぶつける。

 

「「「はぁっ!」」」

 

 槍がぶつかった瞬間、風圧がコンクリくらいの強度と密度をもって襲いかかってきて、大地がめくれ上がり、空が異様な音を響かせながら振動した。

 ……魔神の封印でも解けたのかと思ったわ。

 

「……世界が終わるのかと思いました」

「……地獄の蓋が開いたのかと思ったわ」

 

 ゆいなもアイリーンも俺と似たような感想を持ったらしい。

 

「……ま、麻呂も、頑張ればこれくらい……」

「張り合わなくていいから」

 

 なんなの、お前のその負けず嫌い。

 それよりも、あの三人が人間離れしちゃった件について検討しないか?

 

「試練の影響か?」

「……でしょうね」

「一晩であぁなるなんて、普通ではあり得ないわ」

「というか、この世界の住民が転移者をも凌駕する力を持つなど、あり得ぬでおじゃる」

 

 確かに。

 今のサクラたちなら、そんじょそこらの転移者にも負けないだろう。

 

「どうして試練を受けた転移者の私じゃなくて、参加したサクラたちが力を得ているのかしら?」

「神武を奪ってしまったからやもしれぬのぅ。本来でおじゃれば、麻呂らはこの国の事情には関与せぬはずでおじゃったしの」

「なるほど。本当なら、あの三人あたりが神武を授かる予定だったのかもしれませんね」

「それを横取りしたから、神が申し訳ないってパワーアップさせたのか?」

 

 そんなことあり得るのか?

 けど、そう考えると辻褄は合うが……

 

「もしかしたら、わたしたちもあれくらいパワーアップしてるかもしれませんよ?」

「そ、そうね! その可能性は否定できないわよね」

 

 いや、ないと思うけど?

 

「それじゃあ、私たちもアレをやってみましょうか? ゆいな、シャル、私と向かい合うようにして立ってくれるかしら?」

「はい、こうですね」

「うむ。それで、同時に攻撃をするのでおじゃるな」

 

 サクラたちのマネをして向かい合って立つゆいなたち。

 シャルが「せ~の!」と合図をして、三人一斉に腕を伸ばす。

 アイリーンが突き出した両手――は、空振りして、ゆいなとシャルの手がアイリーンの乳を左右それぞれ叩く。

 

「試練前よりちょっと育ったでおじゃる!」

「わたしもそんな気がしてたましたよっ!」

「にゃぁあ!? ど、どこを叩いているのかしら!?」

「「『揉ん所』です」でおじゃる!」

「『揉ん所』じゃないと何度言わせるのかしら!?」

「「「『揉ん所』、すげぇ揺れてたぁぁああ!?」」」

「やかましいわよ、騎士たち!?」

 

 ワシルアン王国騎士団の間で、アイリーンの人気が急上昇した。

 

「ちょっとご隠居、あたしにもひと揉みさせてくれるかな?」

「もげるわ!」

 

 全力の素振りをして近付いてくるシャクヤクから逃げ出すアイリーン。

 もげるのは困るな。

 

「それで、芥都様たちはこちらへ何をしに? 自分たちの訓練にお付き合いいただけるでありますか?」

 

 うん、今の俺らとお前らとじゃ、訓練にならねぇよ。

 一方的な蹂躙になりかねん。

 

「準備が出来次第旅立とうと思ってな」

「もう、行かれるのですか?」

「あぁ。お前らのそばは居心地がいいからな」

「そう言っていただけると、嬉しいであります」

 

 出会ったころから、サクラはずっと俺たちに笑顔を向けてくれていた。

 真面目で、気が利いて、こいつの心配りに何度助けられたことか。

 

「お前と出会えてよかったよ、サクラ」

「……っ!」

 

 素直に思ったことを口にすると、サクラが唇を引き結んだ。

 

「……ただでさえ、寂しいと感じているのに……そのようなことを言われてしまうと、自分……泣いてしまうであります」

 

 うっすらと涙が浮かぶ瞳を細めて「えへへ」と笑うサクラ。

 本当に、お前に出会えてよかった。

 

「自分も、芥都様たちと出会えてよかったであります。自分に呪いをかけたあの呪い師に感謝したいと思ってしまうほどに」

 

 涙を誤魔化すように冗談めかして言って、そしてはっと顔を上げる。

 

「そうでありました。芥都様に一つお伝えしなければいけないことがあったであります。呪い師が去り際に言っていたことなのでありますが――」

 

 ポンッと手を打ち、こちらを向いたサクラは、真剣な顔で俺に呪い師の言葉を伝えた。

 

 

『君たちの願いが叶った後、それを手伝った者に伝えてほしいんだけどさ――』

 

 

 そんな前置きをして、呪い師はこう言ったらしい。

 

 

 

「『もうすぐ約束を守れそうだよ』――と」

 

 

 

 その言葉を聞いて、俺は今朝見た夢を思い出した。

 はっきりと。

 

 そして、予感がした。

 

 もうすぐ会えるんだな。

 

 

 カズキ、お前に。

 

 

 

 

 

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