見覚えのあるタイトルロゴと、馴染みのある妖精のキャラと、ちょっと懐かしくもあるピコピコ音のBGM。
これは、最初の空間で見た光景そのままだった。
「「「「おひさしぶりー!」」」」
「ついさっきじゃねぇかよ、最後に会ったの」
お前らと別れてからまだ小一時間しか経ってねぇわ。
「泣いた?」
「泣く?」
「泣いていいよ?」
「泣けや、ハゲ」
「こら、イマソリ」
失言が多い茶色い木槌を持った妖精イマソリの頭を鷲掴みにしてぐりぐり撫でまわす。
「はゎわぁ、目がまわりかけるー!」
「回ってねぇのかよ!?」
ややこしいな!?
「あ、毒。……むきゅー……」
「ぅわぁぁあああ、忘れてたぁ!? ごめーん、イマソリー!?」
ぱたりと倒れたイマソリを取り囲むように、他の三妖精が集まってくる。
「へいきー!」
「復活の呪文を入力すれば元通りー!」
「これ、入力ー!」
ハヘ゛リが一枚の紙を差し出してくる。
それに合わせて、目の前にウィンドウが出現した。上段には無数の*印が並び、下段にはひらがなで五十音が表示されている。五十音の下には『すすむ』『もどる』『けす』『おわり』と書かれている。
あぁ、これ、『トモコン』時代の古いRPGの復活の呪文の画面だわ。
バックアップデータが実装されていなかった時代は、これを必死にメモしてたんだよなぁ。一文字でも間違えばおしまいだから。
うわぁ……50文字もある。メンドクセェ……
けどまぁ、やらなきゃいけないんだろな。
イマソリをこのままにしておくわけにもいかないし。
この四人の妖精とは今日会ったばかりで、たいして親交も深めていないのだが、なんだかもうすっかり愛着が湧いてしまっている。
アクリルキーホルダーとか売ってたら、きっと全員分買い揃えているくらいには。
「よし、やるか」
俺は入力間違いをしないよう、どっしりと腰を下ろして入力画面に向かい合った。
ヘソから延びるコントローラーをしっかり握る。
……なんで俺のヘソにつながってるコントローラーを使って目の前のウィンドウを操作できるのか、謎過ぎてすげぇ微妙な気分だ。
「え~っと……」
手渡されたメモを確認しつつ、慎重に入力していく。
『はをた ねね たすぶ るよ
つきの んぷ にみん とぷ
ちたに だぷ まみば おぷ
ゆいざ つぷ のはれ もぷ
うしん たう ぬたて うつ』
――って、こら!
「縦読み仕掛けてんじゃねぇよ!?」
『初チューを期待したのに残念だったね、ぷぷぷぅ』
『谷間の盗み見はたぶんバレてると思うよ、ぷぷぷっ』
――って、やかましいわ!
……バレてねぇよ。……たぶん。
……つか、見るだろ、アレは。
「祝、ふっかつー!」
「「「おめでとー!」」」
俺がなんとも言えないもやもやを感じている間に、イマソリが復活し、無駄にクルクル回っている。
周りで残りの三妖精が万歳を繰り返している。
あーうんうん。『フレコン』でありがちな演出だな。
「それで、お前らが出てきたってことは、まさかここもまだルードシアじゃないのか?」
「そうでもないー!」
「見当違いー!」
「ちゃんちゃらおかしいー!」
「考えたら分かるやろー!」
「もう一回毒を食らうか、イマソリ?」
イマソリがぷるぷると首を振り、両手で大きくバッテンを作る。
大人である俺は、寛大な心でもって許してやる。
というかまぁ、たぶんイマソリは四番目だからオチ担当なのだろう。
なら、イマソリの失言はこいつら全員の連帯責任だ。
……次何かやらかしたら連帯責任な?
「ここはルードシア」
「ここは【神々の遊技台】」
「ここは始まりの町のそばの森の中」
「ココア」
言うことないなら無理してしゃべんな!? な? 変な期待とかしてないから、妙な使命感を抱くな! な?
「ルードシアでもお前たちは出てこられるのか」
準備期間だけのお助けキャラだと思っていた。
あ、もしかして。
「お前らが出てくるのが、俺の【神技】なのか?」
「ちがうー」
「そうじゃないー」
「そういうことやないでー」
「ちゃいまんがなー」
後半、関西弁だな。
「まんがな」って言う関西人、見たことないけど。
「我々は、神に遣わされし者」
「神の力によるお助け」
「神の御慈悲やで」
「そうどすえ」
京都弁!
くっそ、イマソリにばっかり気を取られて情報がすんなり入ってきてくれない。
「つまり、俺をこのルードシアへ導いた神が、俺を助けてくれてるってわけか?」
「そう」
「神は所望」
「芥都が『おもしろく』なることを」
「それで我々様を遣わせた」
神様とスペシャルゲストである俺は呼び捨てで、自分たちに様をつけるか、このちびっこども……
「だから秘密ね」
「芥都へのお助けは特別ね」
「口外するとお助け打ち切りね」
「ナビゲーターにも内緒ね」
「「「「ちっぱいを見て即採用したあのナビゲーターにもねー!」」」」
「そこが理由で採用したわけじゃねぇよ!」
とんだ誤解だ!
甚だしく遺憾だ!
つか、俺の行動全部見てたのかよ!?
だったら素直に全部お見通ししとけよ! なんでちょいちょい主観が歪められてんだよ!?
ゆいなを選んだのは心意気とあの瞳を信用したから!
ティルダの谷間の盗み見はバレてない! ……たぶん。
「神様がお助けしてくれるってんなら、【神器】の最も有効な使い方を教えてくれよ」
神様が選んだ武器なのだから、有効活用の仕方も知っていそうだと思ったのだが、四妖精は揃って首を振る。
「それは芥都が決めること」
「神は誘導しない」
「神には神の目的がある」
「芥都もその方が面白いはず」
「まぁ、たしかにな」
決められたレールの上を進む作業ゲーはつまらないものだ。
自分で選んで、自分で切り拓く。それで失敗しても、たぶん納得できる。
ただ、最初っから手放しで「自由にやれ」ってのもクソゲーの条件だ。
スタート時にはある程度の縛りを設けて、「あとはご自由に」って方が親切なのかもしれない。
俺を招待した神様ってのは、俺の考えをよく分かっているらしい。
まんまとハマりそうだ、このゲーム。
「で、今回は何をすればいいんだ?」
「今回は、我々様と競争」
「我々様と対決」
「我々様直々に相手になる」
「我々御中ー!」
企業になっちゃったな。
「俺と対戦しようってのか? おもしれぇじゃねぇか」
俺は、どんなちびっこ相手でも一切譲歩しない、大人げないプロゲーマーとして有名だったんだ。
……泣かしちゃる。
「「「「戦いの舞台は、こちらー!」」」」
四妖精の言葉と共に現れたのは、なんとも懐かしいゲーム画面だった。
『氷山クライマー』
氷のブロックを破壊しながら、上へ上へと登っていく『トモコン』初期の大ヒット作だ。
二人同時プレイが可能で、協力してクリアを目指す――というのは建前で、いかに相手を置き去りにして画面をスクロールさせるかを競い合う『殺し合い』ゲームだ。
画面がスクロールすれば、足場は強制的になくなり、足場を失ったプレーヤーは一機消滅する。
これを友達とやると十中八九大喧嘩に発展する。
ちなみに俺は上手過ぎて、クラスの誰も一緒にやってくれなくなった。
……一人でやるには物足りないゲームなんだよな、これ。
「「「「頂上まで登って、大きなワシに掴まればクリアー」」」」
「ルールは一緒か」
なら、こいつは俺の勝ちだな。
負けて泣け、ちびっこども!
「「「「じゃ、我々様はハンデとして四階層からスタートするね」」」」
「ちょっ、待て待て待て待て!」
四階層って、一階層でも上がられたら俺の足場なくなるじゃねぇか!?
「そんなえげつないハンデなんか許容できるか!?」
「「「「じゃあ、ハンデはやめて、身分差によるVIP待遇ということにするー」」」」
「なお一層ムカつくわ!」
「「「「それじゃあ、よーいスタート!」」」」
「ちきしょー!」
四妖精は本当に四階層へ「ぽ~ん」と移動してゲームを開始しやがった。
時間がない。さっさと上に上がらなければ!
ヘソから延びるコントローラーを握りしめ、壊せるブロックを睨み上げる。
天井を崩して上の階へ登っていくのだ。
「ジャンプ! ジャンプ! ジャンプ!」
『A』ボタンを押すと、自分の体が勝手に跳び上がり、頭をぶつけるギリギリで頭上のブロックが砕ける。
やはり、俺の周りには見えないバリアがあって、それが接触するとブロックが壊れるようだ。
この見えないバリアは『当たり判定』なんだろうな。
こういうゲームなら助かるが、シューティングだと、この『当たり判定』に敵の弾が当たってもアウトとなる。見えないだけに注意が必要になるだろう。
「っしゃ! 一階層クリア!」
とかなんとか考えているうちに、俺は二階層へと登った。
その瞬間、画面が勝手にスクロールする。
……危ねぇ。四妖精も同じタイミングで上の階層へ進んだらしい。
こりゃ、うかうかしてられねぇな。
ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ!
壊す、壊す、壊す!
上の階へ移動!
同時にスクロール!
ギリギリな戦いが続く。
急がないと、連中が八階層をクリアするとボーナスステージに突入し、一気に画面がスクロールするのだ。
そこまでに、なんとしてでも追いつかなければ!
四階層までくると、四妖精が破壊した穴がそのまま残っている。それを通ればブロックを破壊する手間が省ける。
どんどん追い上げ、八階層を突破すると当時に画面がスクロールした。
間一髪間に合った!
ボーナスステージは足場が極端に少なくなる。
これで四妖精の姿が目視できるはずだ。
と、頭上を見上げると――
「わーいわーい!」
「高得点のナスビ取り放題ー!」
「ボーナスー!」
「ナースビー!」
ボーナスステージでナスビを乱獲してやがった。
いや、オリジナルだと、そこまでナスビ出てこないから。
あと、ナスビをボーナスみたいな言い方すんな。
ナスビと戯れる四妖精をスルーして、さっさと上の階層へ進む。
画面がスクロールして、四妖精が一斉に画面から消える。
一掃。
「「「「うきゃ~! やられてもぅた~!」」」」
……あいつら、真面目に勝負する気あんのか?
その後は難なく階層を上がっていき、山頂で大きなワシを捕まえる。
クリアだ。
クリアなんだけど…………なんだろ、この置いてけぼり感。
真面目に相手してくれるかな? でなきゃそばで応援してくれるかな?
完全に一人プレイだったからな、今回?
賑やかな四妖精との触れ合い不足を寂しく感じていると、ワシに掴まって大空を舞う俺の前に四妖精が現れた。各々が雲に乗って、整列して。
「「「「こんぐらっちゅれーしょーん!」」」」
「次は真面目に勝負しろよ」
「「「「お助けはここまで、健闘を祈るー!」」」」
健闘?
何の話だと考えた一瞬のうちに、目の前の景色ががらりと変わる。
ゲームの画面が森の木々に変わり、四妖精が姿を消し、俺が掴まっていたワシが消え去り、内臓が浮くような嫌な浮遊感を覚える。
「え……落ち……っ!?」
体が重力に引っ張られ始めると同時に、下の方からけたたましい咆哮が聞こえた。
「ガァァァァアアアアア!」
眼下には巨大なティラノサウルス。
そのさらに下にはゆいなとティルダが見えた。
……えっ、こっから再開!?
登場レトロゲーム元ネタ解説
氷山クライマー:『アイスクライマー』
言わずと知れた往年の名作
私も、『アイスクライマー』と『スパイvsスパイ』では、よく友人と口論を・・・
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