森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

293 結界を越えろ

公開日時: 2022年2月5日(土) 19:00
文字数:3,904

「芥都様! ……これは?」

 

 空からティルダが降りてくる。

 荒れ狂うシャルを見て、戸惑いの表情を俺に向けるが……俺に聞かないで。

 

「実はな――」

 

 ティルダに経緯を話す。

 要するに『無い乳の乱』だな。

 

「胸の大きな……あの、それって、私程度でも大丈夫なのでしょうか?」

 

 大丈夫もなにも、ティルダの胸が大きいに分類されなきゃ、人類全部貧乳になっちまうよ。

 

「で、では……私が中に入って術者を倒してきます!」

 

 決意に燃える瞳が俺を見る。

 正直、そうしてくれると助かるのだが……危険過ぎる。

 

「しょうがないわね。私も行ってあげるわよ。……パンイチにはならないからね!」

 

 アイリーンが名乗りを上げ、俺に釘を刺す。

 なられても困るっつーの。

 

「待ってくださいみなさん!」

 

 そこへサクラたちコンペキア三人娘がやって来る。

 

「この娼館の噂は、自分たちも耳にしたことがあります。ですから、ティルダさんがやろうとしていることは想像がつくでありますが……おすすめは出来ないであります」

「それは、なぜでしょうか?」

「私と一緒でも危険だっていうの?」

「危険であります」

 

 サクラの言葉に、エビフライもシャクヤクも頷く。

 

「ごめんね。正直に言って、ティルダとご隠居は戦闘能力が低いのよ」

「お二人では、おそらく返り討ちなのです」

「術者を倒すだけでも、ですか?」

「そうね、ムリはせず、術者だけをささっと倒せば問題ないんじゃないかしら?」

「その術者は、この娼館の主――つまり、このスラム一帯の大本締め――ベノムドであります」

 

 ベノムド。

 この西側を統べるならず者のボス。

 その大悪党が、こんな強力な結界を張っている術者ってわけか。

 

「濁点が多くて、なんとなく悪そうな名前だな」

「そうでありますね。フルネームは、ベノムド・ボインスキーであります」

「芥都の親戚かしら?」

「芥都さん……」

「勝手に決めつけるな、残念な子を見るような目で見るな、風評被害も甚だしいわ」

 

 なんだそのふざけたファミリーネームは!?

 初代が「よ~し、俺は今日からボインスキーを名乗るぞ! 子々孫々まで、みんなボインスキーだ!」って思っちまったのか?

 なんて残念なご先祖なんだ、気の毒に!

 

「『ボイン』も濁点が多いから悪そうな名称よね」

「ですね!」

「麻呂もゆいなとシャクヤクに賛同でおじゃる」

「同盟を結ぶな、そこの省スペース娘たち」

 

 ボインに罪は無い!

 ボインを独占することに罪があるのだ!

 

「胸の大きさなどどうでもいいのです」

 

 と、胸が大きいらしいサクラが言い、シャクヤクとゆいなが物凄い形相で睨む。

 ……仲間割れすんじゃねぇぞ。

 

「問題は、そのベノムドがとても強い魔法使いだということです。……自分では、おそらく太刀打ちが出来ないほどの」

 

 確かに、サクラとは相性が悪いだろう。

 ソシアル騎士のエビフライにも、少し荷が重いかもしれない。

 ペガサス騎士は魔法への耐性が高いので、もしかしたらシャクヤクならいい線行くかもしれないが――シャクヤクには胸がない! いや、正確に言おう。

 シャクヤクはおっぱいが小さい!

 

 ティルダもペガサス騎士だが、そもそもティルダは戦闘能力が低い。

 アイリーンも然り。

 

「せめて、芥都様やシャル姫くらいの戦闘能力があれば安心なのですが……」

 

 最低でも転移者レベルの戦闘能力が欲しい、か。

 

「ゆいな、シャル。例のアイテムは見つからなかったのか?」

「うむ。そこらにおったならず者を締め上げて吐かせたのじゃが――」

「そのアイテムを持っている者は、もうすでに全員館の中に入ってしまったようなんです」

 

 確かな情報ありがとう。

 だが、聞き出し方よ……お姫様のやるこっちゃねぇだろ。

 

「やはり、多少危険でも私が術者を倒します!」

「それしかなさそうね。私も付き合うわ」

 

 ティルダやアイリーンが危険にさらされる。

 そんなことになれば真っ先に反対する『あいつら』が、ここにはいない。

 クリュティアがいてくれれば、すごく安心できたのに。

 

 そしてキース。

 まぁ、あいつがいても結界の中には入れなかっただろうが……

 

 

 ……いや、待てよ?

 

 

 キースがいれば……

 

 

「なぁ、アイリーン」

「なに? 私、覚悟は出来てるわよ」

「男の奴隷の中にも、連れ去られたヤツがいるって言ってたよな?」

「そうね。来たばかりの新人でいい体をした男が連れて行かれたらしいわ」

 

 おぉ、マジか!?

 いればいいなぁ、くらいの気持ちだったのが、確率がぐっと上がったぞ!

 

「男の奴隷を使う場面ってのは、力仕事以外だと何があると思う?」

「え? そうねぇ……」

「肉の壁、でおじゃるかの?」

 

 さらっと残酷な答えが出てくるシャルは、やっぱ修羅場の経験数が違うのだろうな。

 

「それから、出所のはっきりしているヤツなら別の使い方も出来る」

「と、言いますと?」

 

 ゆいなが小首を傾げる。

 なに、すごく単純な使い方だ。

 

「ここに攻めてくるとしたら、可能性があるのはコンペキア王国と、それと一緒に行動している俺たちくらいだ。そして、この結界には一個だけ弱点がある」

「薄着の巨乳であれば通り抜けられるということですね☆」

 

 タイタスは気が付いたようだ。

 

「カーマインは俺たちの強さを知っている。こちらに巨乳美女が複数いることも知っているだろう。そうなれば――」

「人質、ですか!?」

 

 そうだ。

 

「俺たちが強行突破しようとした時に、俺たちの仲間を人質にすれば、俺たちを止められると思ったんじゃないか?」

「じゃあ、連れ去られた男の奴隷って――」

 

 俺たちの仲間の誰か、かもしれない。

 

「誰か一人かもしれない。三人一緒に捕まっていたなら全員かもしれない」

「そやつらが、もし結界の中にいるのでおじゃれば――」

「あぁ、なんとか術士を表に引きずり出すくらいはやってくれるかもしれん」

 

 曲がりなりにも三人とも転移者だ。

 ……まぁ、ジラルドとテッドウッドには期待できないが。

 

「ムッキュとザンス忍者さんコンビだったらどうにもなりませんね」

「まぁ、それでも……まんまと人質になったままってことはなくなるだろう」

 

 少なくとも【特技】が使えると分かればな。

 

「って、わけで、シャル。味方全員に『遠念話』を使ってくれ」

「なるほどの。芥都が麻呂にしたのと同じことをやればよいのじゃな!」

 

 シャルが目を閉じ『遠念話』を使う。

 俺たち全員の頭の中に『【神技】は使えないが【特技】は使えるでおじゃる!』という声が響く。

 

 

 そして――

 

 

「うぎゃぁあああ!」

 

 突如地面が開き、中からどろっどろのゲルまみれの兵士たちが複数転がり出てきた。

 どうやら、地面の下に地下への階段が隠されていたようだ。

 

「言うのが遅ぇよ、チビ姫」

「ふん。可能性をすべて試さなんだ、其方の怠慢でおじゃる」

 

 毒に濡れた兵士の首根っこを捕まえて、キースが姿を現す。

 

「キース様!」

「ティルダ、無事か?」

「はい! キース様もご無事そうで何よりです」

 

 ティルダがほっとした表情を見せる。

 

「結界の中にいるかと思ったんだが」

「俺たちを入れるのは危険だと判断したようだぞ」

 

 どうやらキースたちは、俺たちが館に突入した場合、高い木の柱にくくりつけられる予定だったのだそうだ。

 貼りつけにして館の前に高々と掲げ、降参しなければ殺すという脅しに使うと説明されたようだ。

 

「それで、オッサン二人が大泣きしてな……ほれ、ようやく出てきたぞ」

「……くすん、生きて地上に出られたザンス」

「もう、二度と自由の身にはなれぬのかと思った……」

 

 お前らもいたんかい!?

 なら、キースと一緒に「【特技】さえ使えればこっちのもんだ!」って派手に出てこいよ!

 泣いてんじゃねぇよ、いい年したオッサンが!

 

「テッドウッドさま!」

「おぉ、プルメ! 無事であったか!」

 

 テッドウッドの胸に飛び込み、プルメが――物凄い勢いでテッドウッドの匂いを嗅ぐ。嗅ぎまくる。

 ちょっと、誰かあの倫理観に疎い血筋の娘引き剥がしてきて!

 

「巨乳の匂いはしませんね」

「なんのことだ?」

「命拾い、しましたね」

「……なんのことだ?」

 

 兵士が全員男でよかったな。

 微かにでも女の匂いが付いていたら……お前、ならず者じゃないヤツに始末されてたかもしれないぞ。

 

「ムッキュは? ムッキュはどこザンス?」

「ムッキュはまだ見つかってないんだ」

「そんな!? ……無事ザンスよね?」

「当たり前だ」

 

 ムッキュもすぐに見つかる。

 もちろん元気な姿でだ。

 

 ……でなきゃ、俺は怒るぜ、神様よ。

 

「よし、大体の話は分かった」

 

 俺がジラルドと話している間に、キースが情報の共有を済ませたようだ。

 結界に守られた悪趣味な色使いの館を見上げて指の骨を鳴らす。

 

「俺が女の姿になればここを通れるんだな?」

 

 敵が誰であれ、【特技】が使えると分かったキースは怯む素振りを見せない。

 

「自分たちもお供するであります」

「サクラほどじゃないですが、私もそこそこ胸はあるのです。たぶん、通れるなのです」

「キース様。私もご一緒します」

「私も行くわ」

 

 こうして、キース、サクラ、エビフライ、ティルダ、アイリーンの五人が屋敷に突入することになった。

 

「関係ない敵は無視でいい。とにかく結界をなんとかしてくれ。そうしたら――」

「「「がるるるるぅ!」」」

「――弾かれて鬼と化している省スペース三人娘がすべてを破壊し尽くしてくれる」

「……いや、怖ぇよ、その三人」

 

 キースですら怯ませる三娘の気迫。

 もう、この館は更地になることが確定したようなものだ。

 

「じゃあ、女の姿になるから、イヌ、服を頼むぞ」

「はい」

 

 キースが『月下美人』を発動させ、銀髪ポニーテール美女に変身する。

 ぶかぶかになった服をゆいなが『世話焼き鳥のお召し物』で変貌させる。

 

 

 ――ビキニに。

 

 

「なんじゃこりゃ!?」

「はっ!? カーマインの城でのクセが!?」

 

 直近で使いまくったのがそこだもんなぁ。

 でも、ゆいな。

 

 

 

 グッジョブだぜ☆

 

 

 

 

 

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