森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

313 ドラゴンの秘密

公開日時: 2022年3月1日(火) 19:00
文字数:3,960

『さっきのお返しや!』

 

 クリュティアの青いブレスが氷龍の鱗を焼き尽くす。

 剥がれた鱗の隙間からレイピアを突き入れれば、氷龍は悲鳴を上げてぐったりと横たわった。

 

 死体は消えない。

 本当に、こんなとんでもない生き物が蘇っちまったんだな。

 

「こいつらを野放しにすると、近隣諸国は焦土と化すな」

『せやね。あちらさん、人間のこと嫌いみたいやし』

 

 氷龍を仕留めたので、他の連中の助っ人へ向かう。

 暗黒龍は俺には手出しできないが、他のドラゴンが神武を持つ四人の邪魔をしないようにさっさと仕留めなければ。

 

『あ、ちょっと待ちぃ、芥都はん』

 

 駆け出そうとした俺を、クリュティアが呼び止める。

 

『実はな、ドラゴンの尻尾にはな――さて、こいつの尻尾にはあるかなぁ~……』

 

 何かを言いかけ、鼻歌を歌うように氷龍の尻尾を踏みつけ、おもむろに噛み千切る。

 ……え、クリュティアって肉食?

 

 ぼとっと、目の前に食い千切られたドラゴンの尻尾が落ちてくる。

 おぉう、グロい。

 

『その、尻尾の先の骨、引き抜いてみ?』

「引き抜くって……」

 

 ドラゴンの尻尾は太い上に硬い。

 鱗が硬いのはもちろん、筋肉がパンパンに詰まって凄まじい密度だ。こりゃなかなか切れないわけだ。

 

 そんな尻尾の中心に、やたらと薄い骨が通っている。

 もっと太くて丸いものだと思っていたが、そこにある骨は薄く、まるで刃物が突き刺さっているように見えた。

 クリュティアに言われたように、その骨を握って引き抜くと、思いのほかすんなりと骨だけが抜けた。

 カニの身を抜くような感じで、するっと。

 

「これって……」

 

 引き抜いた骨は薄く、先端が尖り、まるで一振りの剣のような形状をしていた。

 柄こそないが、握りやすい大きさだ。

 

『ドラゴンの骨はそこらの鉄より強靭で、微かに魔力を帯びとんねん。せやから、ドラゴンの硬い鱗も、うっすらと全身に張っとる魔力の層も貫通して、ドラゴンの体を斬り裂ける――人間はそれを加工した武器のことを『ドラゴンキラー』っちゅうとったわ』

 

 ドラゴンキラー!?

 ドラゴンに対し特別な効力を発揮する伝説の剣。

 まさか、ドラゴンの尻尾の骨だったのか。

 

 そういえば、ヤマタノオロチの死体からクサナギの剣が出てきたって神話もあったけど……アレもドラゴンの骨だったのかもしれないな。

 

『多少は役に立つと思うで』

「ありがとう、クリュティア。さすがドラゴン、博識だな」

『まぁ、自分らの命を脅かす凶悪な武器やさかいな』

 

 そうか。

 ドラゴンキラーってことは、この剣はクリュティアにとっても脅威なんだ。

 

『せやから、今の話はナイショ、やで?』

「あぁ、約束する」

 

 自分にとって脅威となる物を、俺たちのために教えてくれたのか。

 ありがとよ、クリュティア。

 

『ドラゴンはあと三匹おる。……まぁ、向こうのチームは期待薄やけど』

 

 と、地龍と戦うジラルドたちのチームを見て苦笑を漏らす。

 期待薄、ね。確かに。

 

『シャルはんとキースはんなら、うまいこと使いこなせるんとちゃうか、ドラゴンキラー』

「いいのか、量産して?」

『まぁ、みんな仲間やしな』

 

 おそらく、恐ろしくないとは言えないのだろう。

 出来ることなら、一本たりとて存在してほしくはないだろう。

 だが、暗黒龍を倒すためには必要だ。そう判断して教えてくれたのだ。

 

『こらぁしばらくは、怒られへんようにお利口さんにしとかなアカンなぁ』

 

 冗談めかして言って、クリュティアが空へと羽ばたく。

 

『期待薄チームは任しとき。芥都はんらぁは、ドラゴンキラーを手に入れて暗黒龍を頼むわな!』

 

 一度大きく羽ばたき、遠ざかる直前に一言だけ残していく。

 

『ウチの娘、守ったってな』

 

 言い残して、クリュティアが地龍に襲いかかる。

 向こうはクリュティアに任せておこう。

 

 じゃ、情報提供者のお願いをしっかりと聞き届けましょうかね。

 

 まずは――キースだ。

 地龍は、見ている感じ他の龍よりも弱い。

 弱いと言っても、一人で太刀打ちできる相手ではないが……

 キースとシャルはそれぞれ一対一でドラゴンと戦っている。

 翼を持つ炎龍に、キースは苦戦しているようだ。

 シャルの方は、比較的余裕がありそうに見える。あくまで比較的に、だが。

 

「じゃ、ドラゴンキラーのお手並み拝見と行きますか!」

 

 駆け出し、炎龍のブレスをかわすキースに向かって叫ぶ。

 

「キース、もう一回さっきのだ!」

「……ちっ」

 

 こちらを見て、嬉しそうに舌を鳴らす。

 嬉しい時まで舌打ちすんじゃねぇよ。

 

 キースのデカい斧に足をかけ、ジャンプの準備をする。

 

「しっかり叩き落としてこいよ」

「善処する!」

「らぁぁあ! いけぇ!」

 

 大振りなスウィングで再び放り投げられる。

 空を飛ぶ炎龍に向かって飛び、柄もグリップもない剥き出しのドラゴンキラーを構える。

 

 まずは氷龍のように翼をもいで地面へ落としてやろう――と思ったのだが。

 

「ガァアア!」

 

 炎龍がこちらに向かって大きく口を開いた。

 喉の奥からチラチラとオレンジ色の炎が見え隠れしている。

 

 やばっ! ブレスが来る!

 

 こんな空中じゃ逃げようがなくて直撃確実だ。

 俺は咄嗟にドラゴンキラーの切っ先を翼から炎龍の顔面へと向ける。

 攻撃を入れてブレスのタイミングを遅らせる。

 

「届けっ!」

 

 ブレスが来る前に一撃をと、腕を目一杯伸ばして炎龍の顔にドラゴンキラーを突き入れる。

 

 ――と。

 

「え……?」

 

 ズブ……ッ、と入った切っ先は、そのままマーガリンを切るようにするすると炎龍の顔に滑り込んでいって、あっさりとその首を跳ね飛ばしてしまった。

 

「なにこの威力!?」

 

 ついさっき、暗黒龍の目にレイピアを弾かれたばかりだから、そのギャップが酷い。

 暗黒龍と炎龍の防御力の差。

 レイピアとドラゴンキラーの攻撃力の差。

 そのどちらもがすげぇ開いているのだろう。

 相乗効果で嘘みたいな威力になっている。

 

「ぅ痛ぇっ!?」

 

 空中で呆然とし過ぎて、着地に失敗した。

 

「何してやがるんだ!? 追撃に備えて体勢を――貴様、何した!?」

 

 落ちた炎龍に警戒していたキースだったが、炎龍の顔を見て状況を理解したようで、「状況が理解できない!」ということが分かったらしい。

 ごめん。俺もちょっとよく分かってないんだわ。

 

「こいつの鱗は、何度叩いても斧が弾かれるほど頑強だったんだぞ!?」

「なんかそれ、魔力が全身に張りついてるせいらしいぞ」

「そうか、それで魔力の通っていない武器は弾かれるのか……で、それはなんだ?」

「ドラゴンキラーだ。お前の分も用意してやるから、先にシャルの手助けに向かってくれ」

「用意できるのか? ならそれを手に入れてからの方が――」

「いいから行け! そして……決してこちらを振り返るなよ?」

「……ぶ、不気味な顔で不気味な声を出すな…………ちっ、分かったよ」

 

 理由は説明せず、キースをシャルのもとへと向かわせる。

 クリュティアが知られたくない情報だ。信用云々関係なく、可能な限り広めない方がいい。

 

 クリュティアがしたように、尻尾の先を切断し、尻尾の骨を抜き取る。

 持ち手に布を巻き付けて、二本目のドラゴンキラーの完成だ。

 

 皮肉なもんだな。

 ドラゴンとの戦場が、ドラゴンに有効な武器を量産できる場所なんだもんな。

 普通の人間には倒すことが難しいドラゴンを倒せればドラゴンを倒しやすくなるドラゴンキラーが手に入る……ひよこが先かたまごが先かみたいな堂々巡りになりそうだ。

 

 ただし、一度ドラゴンキラーを手に入れてしまえば、乱獲が出来てしまう。

 うん、やっぱりこの秘密は秘匿しておく方がいいな。

 俺、割とドラゴンに友達多いし。

 マットドラゴンの飛び込み開脚前転とか、龍喰いのパックンとか。

 おぉう、まともなドラゴンの知り合いが少ない!?

 

「ま、クリュティアのためってだけでも、墓まで持っていく価値があるよ」

 

 ドラゴンキラーを二本抱え、シャルが相手をしている地龍のもとへと向かう。

 

「出ずるのじゃ、『聖獣憤怒の亀』!」

 

 何か、すごくイライラすることがあったのだろう。

 めっちゃデカい亀が上空から落下していった。

 

「ガァアアア!」

 

 地龍は羽根がない上に動きが鈍い。

 憤怒の亀の直撃を避けられずに苦しそうな声を上げている。

 

 おぉ、一撃で仕留められないと、憤怒の亀は体の上に乗ってグリグリしてくるのか……怖っ。

 巨大なドラゴンの上に巨大な亀が乗っている。

 

『グジラvsギャメラ』みたいだな、なんか。

 

「……っと、地龍が身動きできない今がチャンスか」

 

 シャルやキースと合流する前に、憤怒の亀に押さえ込まれている地龍の側へと駆け寄る。

 びったんびったん暴れている尻尾。

 憤怒の亀を叩き落とそうとしているようだが――その尻尾、いただきます!

 

「ぁぎゃぁああああ!」

 

 尻尾を切り離すと地龍は壮絶な悲鳴を上げた。

 やっぱ、ドラゴンキラーで斬られると痛いんだろうな。

 

「なんじゃ!? 急に暴れ出したでおじゃる」

「亀が噛んだのか?」

「ウチの亀はそんな粗暴なことはせぬのじゃ!」

 

 暴れる地龍にシャルたちの意識が向いている隙に尻尾から骨を抜き取る。

 ほい、三本目!

 

 もう一本ドラゴンキラーを回収できるんだが……誰に使わせる?

 テッドウッド? ジラルド? ムッキュ? プルメ…………ないな。

 

「三本で十分だ」

 

 三本のドラゴンキラーを抱え、シャルたちに合流する。

 

「待たせたな。ドラゴンキラーだ、受け取れ」

 

「なんでおじゃるか、これは?」と目を丸くするシャル。

 キースはその威力を知っているので、俺からひったくってさっさと地龍めがけて駆け出していった。

 

「む!? 何やら先を越されとぅない予感でおじゃる! 芥都よ、麻呂にも貸すでおじゃる」

「ほい。ほどほどにな」

「任せるでおじゃる!」

 

 ドラゴンキラーを受け取り様に駆け出すシャル。

 ぐんぐん速度を上げてキースに追いつき、二人同時に地龍へドラゴンキラーを叩き付けた。

 

 すぱーん! と三枚におろされた地龍を見てシャルが声を上げる。

 

「何事でおじゃるか、これは!?」

 

 

 うん。

 ドラゴンキラーって、威力あり過ぎてビビるよね。

 

 

 

 

 

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