森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

挿話

【挿話】四妖精が夢のあと

公開日時: 2020年10月15日(木) 18:39
文字数:4,825

「芥都、ちゃんとやったかなー?」

「芥都、問題解決したかなー?」

「芥都、喜んでるかなー?」

「芥都、感謝して敬って平伏してお布施とかたくさんしてそれでも収まらずに奉る石像とか作り始めちゃってるかなー?」

「「「たぶん、始めちゃってるー!」」」

 

 そんな声が、聞こえた気がした。

 というか、確実に聞こえた。

 

 目を開けると、俺の枕元に四妖精が立っていた。

 俺の頭をぐるりと取り囲むように。

 

「「「「芥都ー、石像、まだー?」」」」

「いや、作ってねぇから!?」

 

 がばっと体を起こして辺りを見渡すと、そこは何もない真っ白な空間だった。

 

 ここは、いつもの空間?

 でもなんで?

 

「ねぇねぇ、芥都」

「なぁなぁ、芥都」

「よぅよぅ、芥都」

「うぃせぃ、芥都」

「「「「芥都ー!」」」」

 

 あぁ、やかましい!

 寝起きにこのテンションはつらいものがある!

 

「えっと……今回は、なんだ?」

「「「「遊びに来たー!」」」」

「……は?」

 

 こいつら、そんな自由にこっちの世界に干渉していい存在なのか?

 それとも、『遊びに』って言葉は比喩であって、本当はきつめの試練とかを課しに来たのか?

 いろいろ助けられてるし、その反動みたいなのがあるかもって覚悟はしていたけれど、ついに来たか……っ!

 

「「「「暇だったから遊びに来たー!」」」」

「試練とか関係なかった!?」

「「「「なんなら、ちょっと寂しかったー!」」」」

「あぁ、くそ、可愛いなぁ、ちきしょう!」

 

 寂しかったんなら仕方ない。

 こっちだって、遊んでやるくらいはやぶさかではないのだ。

 いくらでも相手してやろうじゃねぇか。

 

「それじゃ、何をして遊ぶ? やっぱゲームか」

「ゲームー!」

「ただし罰ゲーム付きー!」

「負けた方はー!」

「向こう十年、語尾が『~でやんす』ー!」

「結構な拷問じゃねぇか!?」

 

 そんな変な語尾で生きていくのは絶対嫌でやんす!

 

「って!? 心の中の声に軽く影響及ぼしてんじぇねぇよ! まだ負けてもいないのに!」

「恐ろしい罰ゲーム!」

「傍から見てると」

「抱腹絶倒ー!」

「ぷぷぷー! 『でやんす』って!」

「絶対ぇ負けねぇからな!? お前ら、負けたら絶対使えよ、『でやんす』!」

「「「「イヤでやんす~!」」」」

「くっそ! こいつらなら楽しんで使いそうだな!?」

 

 まぁ、いい。

 ゲームでこいつらに負けるなんてこと、万に一つもありはしない。

 どんなゲームであろうと、俺は完全攻略してきたのだから!

 

「それで、今回は何のゲームをプレイするんだ?」

「レトロゲームの代名詞ー!」

「芥都の世代の子供なら誰もが通ったあのゲームー!」

「あのゲームの強者はみんなの憧れー!」

「そのゲームの名はー!」

「「「「ジャンケンさんフィーバーJPジャックポット~!」」」」

「懐かしっ!?」

 

『ジャンケンさん』は、俺が小学生のころ、近所の駄菓子屋に置いてあったアーケードゲームで、主にデパートのゲームコーナーなどで展開していた子供向けのゲームだ。

 メダルを購入し、投入すると「じゃーん、けーん」という声が聞こえ、筐体中心部のランプが「グー」「チョキ」「パー」の形でランダムに点滅する。

 そして、こちらがグーチョキパーいずれかのボタンを押すと勝負開始。

 勝てば「やったー!」という声とともにルーレットが回転し、点灯した場所に書かれた枚数分のメダルが払い戻される。

 負ければ「ズコー!」という声が聞こえてゲームオーバーだ。

 

「……くっ、まさかこのゲームを用意してくるとは……」

 

 何を隠そう、この『ジャンケンさんフィーバーJP』は、俺が今現在までで完全攻略できていない数少ないゲームの中の一つなのだ。

 それもそのはず。

「これ、絶対勝てないように設定されてんじゃないの!?」というレベルの超々高難易度!

 どんなにデータを収集したところで見出せない規則性。

 試しに五千円つぎ込んで全部グーで勝負したら12勝488敗だった。

 だったらと、引き続き五千円をつぎ込んで全チョキで勝負したら8勝492敗で惨敗……

 要するに、攻略するのは果てしなく不可能に近いゲームなのだ。

 

 

 ……マズい。

 このゲームでは、確実に勝てるという保証がない。

 そして、こいつらはきっと、言ったことは確実に実行してくる。

 

 

 俺の語尾、向こう十年『~でやんす』になっちゃうかも!?

 

「さぁ、芥都!」

「いざ、尋常に」

「ちょっと、異常に」

「勝負だー!」

「『ちょっと、異常に』が余計だな!?」

 

 その四位一体のボケ、やめなさい。

 つっこむのしんどいから。

 

「ルールは簡単!」

「本当に簡単!」

「簡単過ぎて説明するのが嫌になるくらい!」

「だから説明しない!」

「いや、説明して!? ちょっと不安だから!」

 

 なんとか説明させたルールは、持ちメダル十枚のうち、より多く『ジャンケンさん』に勝利した者が勝者となる。

 

「「「「我々様は、一人三枚ずつー!」」」」

「じゃあ十二枚じゃねぇかよ!?」

「「「「あれーそーだっけ~、掛け算、間違えちゃった、てへへ~」」」」

「絶対わざとだと分かってるのに、可愛いからちょっと許しちゃう自分が憎い!」

 

 まぁいい。

 チビッ子が相手なんだ、二枚くらいはハンデとしてくれてやる。

 

「それじゃ、俺から行くぞ」

 

 真っ白な空間に出現した『ジャンケンさんフィーバーJP』の前にしゃがむ。

 ……くぅっ、子供用だから全体的に低い! 中腰、しんど!

 いいや、膝立ちで。ちょっと汚れるけど。

 

「まず、一枚目――」

 

 俺のいた小学校では「『ジャンケンさん』は電源を入れた直後は絶対勝てる」というまことしやかな噂が流れていた。その裏技を使ってメダルを荒稼ぎしている中学生がいるという都市伝説も出回った。

 

 ここに出現して一発目の勝負!

 手堅く勝たせてもらうぜ!

 

 

『ジャーン、ケーン』

「よし、グーだ!」

『ズコー!』

「負けんのかよ!?」

 

 やっぱ噂はしょせん噂だよなぁ!

 

 あと、メダルを入れる前に『グーグーパーチョキグーパーチョキ』って押してから勝負すると勝てるって噂もあったっけ。

 一応やってみる。

 

「グーグーパーチョキグーパーチョキ……よし、勝負だ!」

『ジャーン、ケーン』

「パー!」

『ズコー!』

「町の噂、惨敗!」

 

 子供心を平気で踏みにじるよな、現実ってさ!

 

「芥都、それは仕方ない」

「現実ってそーゆーもの」

「子供の夢は儚く散るもの」

「『子供』偏に『夢』と書いて『はかない』って言うし」

「人偏だよ、『儚い』は!?」

 

 子供偏ってなんだ!?

 どんなごっちゃごちゃな漢字だ、それは!?

 

「くっそ! こっから巻き返してやる!」

 

 もう小細工はやめだ!

 俺のゲーマーとしての勘で、残りの八戦、全勝してやる!

 

 意気込んでコインを投入する。

 と――

 

『ねぇ、もうやめようよ。こんなことで優劣付けるなんて馬鹿げてるよ! みんなそれぞれ違っていい。みんなそれぞれ得意不得意がある。だからこそ、人って素敵なんじゃない。みんな同じ。みんな平等。みんなが一等賞だよ!』

「なにこのゆとり仕様!?」

 

 ジャンケンゲームなんだから勝敗決めさせろよ!

 

『……は? モンクあんの? 平等の素晴らしさが理解できないわけ? この愚民、家畜以下、呼吸する産業廃棄物が! 散れっ! ぺっ!』

「めっちゃ罵詈雑言浴びせかけられた!? さっきのゆとり発想どこ行った?!」

 

 このヤロウ……絶対負かしてやる!

 

「勝負しやがれ、ジャンケンさん!」

『はぁ……しょうがない。ハンデとして、両手を使わずに戦ってあげましょう』

「いや、片手で勝負してくれるかな!?」

『三秒でケリを付けてやりましょう』

「こっちの匙加減なんだわ、勝負の時間!」

『…………お前のかーちゃんデベソ』

「安直な悪口やめろ!? 言うことなくなったからって!」

『さっさとかかってきなさい、このテトラポットが!』

「それ悪口なのかすっげぇー微妙だけど!? えぇい、勝負だ!」

『じゃーん、けーん』

「チョキ!」

『ズコー!』

「やっぱダメかぁー!」

『……ぷっくく』

 

 ぬぅわぁあ! 腹立つ!

 こうなりゃ、ゲーマーの感性に任せて連続勝負だ!」

 

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

「インチキなんじゃねーの、これ!?」

「「「「それ負けた子供がみんな言うヤツー!」」」」

 

 うがー!

 全敗したー!

 

 つか、こんなもん、絶対勝てないように出来てんだよ!

 

「芥都は戦い方を知らない」

「芥都は戦い方を間違っている」

「芥都は初手から謝った」

「芥都に正しい戦い方を教えてあげる」

 

 四妖精が『ジャンケンさん』の前に並ぶ。

 ……正しい戦い方?

 そんなものがあるのか?

 俺が知らない、攻略法が!?

 

「「「「まず、『ジャンケンさん』に賄賂を渡します」」」」

『毎度、すいませんねぇ。あ~、今日はなんか『グー』を出したい気分だなぁ~』

「正攻法で戦えぃ!?」

 

 汚職にまみれた『ジャンケンさん』を飛び蹴りで倒す。

 筐体、交換させんぞ、コラ?

 

『じょ、冗談です、すみません、ちゃんとやります』

 

 鉄拳制裁が効いたのか、賄賂はなかったことになった。

 

「ならば正々堂々と」

「ちゅーちゅーとれいんと」

「うぉううぉうとぅないとと」

「勝負だー!」

「間二つおかしかったよな!? 四位一体のボケやめろって言ったよな!?」

 

 そうして、四妖精が一回ずつ順番に、くるくると配置を変えながら『ジャンケンさん』と勝負をしていく。

 

『ジャーン、ケーン、ポン!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

『ズコー!』

 

「「「「負けたー!」」」」

「全戦全敗!?」

「「「「インチキなんじゃねーの、これ!?」」」」

「いや、だからそれ負けた子供がみんな言うヤツ!」

 

 結局、なんだったんだよ、今回の勝負は……

 

「あ~、楽しかった」

「いっぱい遊んだ」

「我々様いたく満足」

「これで穏やかに過ごせる」

 

 四妖精がキラキラ輝いて、その姿がうっすらと透けていく。

 

「芥都、ありがと」

「芥都、楽しかった」

「芥都、また会おうね」

「芥都、歯磨けよ」

「加トちゃんか」

「「「「加トちゃん?」」」」

「いい、いい。食いつかなくていいから、そんなとこ」

 

 四妖精に合わせるように、真っ白な世界もうっすらとその姿を消していく。

 あぁ、これで今回の勝負は終わったんだな。

 結局引き分けだったけど、妙な罰ゲームを回避できたからよしとするか。

 

「最後に一言、芥都に説明しとくね」

「今回、我々様は神様に内緒でやって来た」

「バレたら大目玉、お尻ぺんぺん」

「だから絶対バレちゃダメ」

 

 何やってんだよ、お前ら……

 

「でも不安だから」

「芥都の記憶」

「ちょこっとだけ」

「いじくり倒すね」

「なにさらっと怖いこと言ってんの!?」

「「「「大丈夫大丈夫。怖くない怖くない」」」」

「めっちゃ怖いんですけど!?」

「今日のここでの記憶の上に」

「過去の思い出したくない記憶をコピペするだけ」

「具体的にいうと、中学生の頃の黒歴史」

「女子にモテようと眼帯をはめて学校に行って職員室で引くほど叱られた――」

「やめてくれー!」

 

 通販で買ったクソ高い本革の眼帯を没収されるわ、「病気の人を馬鹿にしてるのか!?」って吐くほど叱られるわ、クラスに戻ったらひそひそされるわ、思い出したくない記憶トップ10に居座る黒歴史を掘り返さないでくれー!

 

「「「「では、その時の様子をご覧ください」」」」

「そんなTVのVTR紹介のフリみたいなヤツいらないから!」

 

 マジでその時の映像が流れそうだったので飛び起きた。

 

 

 ……飛び、起きた?

 

 

 改めて周りを見渡してみると、そこは森の中だった。

 向かいにはゆいなとシャルがくっついて眠っていて、俺の隣にはタイタスがものすごい近くで寝ていた。

 

 

 ……タイタスを蹴って向こうへ転がす。

 

 

「…………夢、か」

 

 夢オチ……か。

 はぁ……しんどい夢だった。

 そうだよな。

 あいつらは、俺以外の誰にも秘密の存在なんだ、そうやすやすと姿を現すわけないんだよ。

 

 はは……

 無駄に疲れた……

 

 なんにしても。

 

「この次は、もっとお気楽な夢にしてほしいでやんす」

 

 

 ――っ!?

 

 夢落ちだよな、これ!?

 罰ゲーム、始まってないよな!?

 

 

 

 その日は朝からくたびれて、散々な一日になったのだった。

 

 

 

 

登場レトロゲーム元ネタ解説


『ジャンケンさんフィーバーJPジャックポット』:ジャンケンマンフィーバーJP


「じゃーんけーん、ぽん! ずこー!」の音声が懐かしい、お子様向けアーケードゲーム。

母親が買い物する間「これで遊んでおきなさい」と渡された100円を

あっという間に飲み込んでしまう恐ろしいゲームでした。

大人になった今なら、ヤツに勝てるのか!? 否か!?



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