「なんだぁ、テメェらぁ!?」
「ここをどこだと思って――」
「テーショク流奥義・期汎無量っ!」
エビフライの槍術に、ならず者たちが「うわぁああ!」と吹き飛ばされる。
相変わらず華麗な必殺技だ。……名前に言いたいことは多々あるが。
「桜んぼ・キッス!」
サクラがならず者を建物の壁に叩き付け、壁ごと粉砕する。
……だから、名前と威力のギャップよ。
「シャクヤクすんごい突きぃいい!」
ダサい名前の技でやられるならず者の悲哀よ。
まぁ、威力はすごいんだけども。
「アイリーン・ボム~ペール海の潮騒を添えて~」
どこの海か知らんが、添えるな、そんなもん。
「ゆいな・触れたら終わり剣!」
引き続き物騒だな、お前の技名は。
「……で、なんでおじゃるか、この愉快な催し物は?」
王都に入るなり、奴隷市場があるという西側へなだれ込み、そこにいたいかにも悪党面している連中に次々襲いかかる俺たち一行。
どっちが悪党なのか、一瞬自信がなくなるが、まぁ、大義はこちらにあるだろう、うん。
それはいいとして、張り切った味方チームが惜しみなく必殺技を連発するもんだから、なんだか愉快な催し物の様相を呈している。
「テンプルナイツはともかく、アイリーンとゆいなは勝手に技名を叫んでいるだけで、威力は普通の攻撃と一緒だ」
「いつも楽しそうでおじゃるの、芥都の知り合いたちは」
「お前もその一人だっつーの」
「麻呂の技には、伝統と気品のある名がすでに付いておじゃるからの。あのような愉快なことにはならんでおじゃる」
まぁ、少なくとも潮騒は添えないだろうな。
「届け愛の矢! つるぺったん☆はぁはぁ☆アロー!」
「お宅の相方が、犯罪臭ぷんぷんな技名叫んでるけど?」
「アレは麻呂の管轄外でおじゃる。仕様じゃ」
仕様だからって不具合を放置する企業は早晩廃れるんだぞ。誠意がないからな。
「シャルはどんな武器を持ってたんだ?」
「魔導書じゃの。ギザリアとかいう魔法でおじゃった」
ギザリアは『フレイムエムブレム』にも存在した攻撃魔法だ。
敵のHPを奪い、自分のHPを回復させる使い勝手のいい魔法だった。
「奪われたのか? もったいないな」
「なに、どうということはおじゃらぬ――」
うっすらを笑みを浮かべ、空中に指先で印を結ぶ。
「『聖獣雷の虎』!」
雷を纏った白虎が現れ、辺り一帯をまばゆい光で埋め尽くす。
あちらこちらから悲鳴が聞こえ、若干の焦げ臭さと静寂を残して、白虎は虚空にその姿を消した。
「――麻呂には、もう他人の力は必要おじゃらぬからの」
「さいで」
【特技】が使えれば、シャルは無敵だ。
キースやテッドウッドも、【特技】が使えると知れば、自力で脱出も可能だろう。
どこにいるのかさえ分かれば『念話』で教えてやれるんだけどなぁ。
「バ、バケモノだぁ!」
「退け! 退けぇぇええ!」
ならず者たちが這うようにして荒廃した街の奥へと逃げ出していく。
この先はスラムか?
「芥都さん! あの奥に見えるドギツイピンクの屋根が娼館の元締めの館らしいです!」
スラムの中に、悪趣味な色合いの屋根が見える。
随分とデカい建物だ。四階建てくらいはあるだろうか。
「この辺に乱立している娼館とは違う、特別な人専用の娼館だそうです」
ワシルアン王国のソシアル騎士ビランが教えてくれた、ならず者のボスに認められた者だけが入れるっていう娼館が、アレか。
チラリと、俺の隣を併走するゆいなとシャルを見る。
すとーん。
すとーん。
……入れないだろうな。
かといって、アイリーンとティルダだけじゃ不安だし……エビフライとサクラならどうだ?
いや、「薄着の」という条件が付いていた。鎧を着ているエビフライやサクラはムリだ。
いや、『世話焼き鳥のお召し物』を使えば……
「ゆいな」
「はい」
「ティルダやサクラをビキニ姿にしてくれないか?」
「そーゆー街に来た途端、思春期を刺激されないでください!」
違うのにぃ!
俺が個人的趣味で見たいんじゃないのにぃ!
分かってないんだからなぁ、もぅ!
俺は走りながら、あの娼館に入る方法を説明した。
説明が終わると、お胸が控えめな二人から殺気が迸った。
「……なんてしょーもない結界を」
「麻呂が物理でぶち壊してくれるのじゃ」
まぁまぁ。
落ち着けって。
人の趣味嗜好って、そうそう変えられないものだしさ。な?
「なら、このそばにいる偉そうでエロそうなオッサンを捕まえて、そのアイテムを強奪すればいいんですね」
「うむ! 偉そうでエロそうなオッサンを探すでおじゃる」
「そして乗り込んで――」
「そのふざけた結界を作った痴れ者を血祭りにあげてやるのでおじゃる」
ゆいなとシャルが鬼のような表情で散開した。
俺、ぽつーん。
……うん。結界の方はあの二人に任せよう。
「芥都! 奴隷を見つけたわ」
アイリーンがある建物の前で俺を呼ぶ。
駆け寄ってみると、表情が冴えない。
「どうした?」
「中にいたのは男ばかりだったのよ」
「つまり、女性は別のところへ連れ去られたのか」
「そのようね。奴隷たちが言うには、街の異変を感じ取って一箇所に集めて隠そうとしているみたい」
最悪の場合、この場所を放棄してもいいという考えか。
そして、場所を変えるなり、俺たちがいなくなってほとぼりが冷めるのを待って商売を再開するわけか。
『商品』さえあれば、何度でもやり直せると……ふざけやがって。
「もしかしたら、あのセンスの悪い大きな館へ連れ去れたのかもしれないわね」
巨大な高級娼館を見上げて眉をひそめるアイリーン。
あの中に匿われてしまえば、容易には手出しが出来ない。
「なぁ、アイリーン」
「なに?」
「その連れ去られた奴隷の女性たち、みんな巨乳だったか?」
「こんな時に思春期を発症しないでくれるかしら!?」
違うのになぁ!
奴隷の分まで結界を抜けるアイテムは作れないって言ってたから、付近一帯の奴隷がみんな集められたなら、あの館じゃないどこかに隠れ家があるかもしれないなって、そういう推論の確証が欲しかっただけなんだけどなぁ!
だって、奴隷がみんな巨乳なわけないじゃん!?
だからさぁ、巨乳だけ選抜してってわけじゃないなら、どこかにいると思ってさぁ!
真面目に考えた結果の質問だったのになぁ!
「日頃の行いが悪いのよ、芥都は」
……ちっ、謝罪がないどころか、責任転嫁されちまったぜ。
「ちなみに、アイリーンはパンイチになると結界を超えられるぞ」
「そうまでして超えようとは思わないけれど!?」
「中に入って術者を始末してきてくれよ」
「パンイチで!?」
「注目度ナンバーワンだな!」
「欲しくないわ、そんな称号!」
でも、アイテムが見つからなかったら、そういう戦法も選択肢に入るだろうな。
「男の奴隷も何人か連れて行かれたらしいわ。何をさせるつもりか分からないけれど」
移動のための荷物運びでもさせるつもりだろうか?
「とにかく、一度近くを探してみるか」
「そうね。もしかしたらこの近くに連れ去られた奴隷たちが隠されているかもしれ――」
そんな会話の最中、硬質でデカい音が響き渡った。
「なんだ!?」
「芥都、悪趣味館の方向に煙が上がっているわ!」
見れば、それはそれは大きな火の鳥が大空を舞っていた。
……シャル、力業に出たな。
しばらくして火の鳥は消え、次いでとても巨大な『憤怒の亀』が上空に出現する。
「……ねぇ。『ぺったんこには入れない』とか言われたのかしら?」
「『や~い、悔しかったら入ってみろ、ぺったんこ~』とか言われてると、あれくらいのサイズになりそうだな」
ビル解体に用いられる鉄球くらいはありそうな巨大な『憤怒の亀』が落下する。だが、結界に阻まれて地面へは落ちてこない。
結界の上に衝突して、その衝撃で近隣の建物数棟を倒壊させながらも、結局結界は破壊できなかった。
「急いで合流しないと、この国を覆い尽くすほどの巨大な亀が出てきそうね」
アイリーンの言ったことが冗談に聞こえないから怖い。
シャルたちのもとへと急ごう!
「膨らみかけ☆尊い☆アロー!」
「……芥都。あなたのお友達が犯罪に手を染めているわよ?」
「あいつのことは無視しとけ。あと、友達じゃないから」
「おや、お二人さん。ワタシもお供しますよ☆」
「「いえ、結構です」」
「んふ★ ナイス拒絶、ありがとうございます☆」
ちぃっ、変態は無敵か!
入り組んだ路地を抜け、ド派手な館を目指す。
サクラたちがならず者を片付けていてくれたのか、敵と戦闘になることはほとんどなかった。
「答えなさい……テッドウッドさまは、どの娼館にいるの? 答エナイサイ――」
「し、しし、しりませーん!」
おかしい。
攻撃能力を持たない、回復専門のシスターが、自分より二回りくらいデカいムッキムキのならず者をボッコボコにしてるように見える。
まぁ、幼気な十四歳の少女の拳から血が滴っているわ。お料理中に指でも切っちゃったのかしら? …………プルメ。お願い、男の子の理想を粉砕し過ぎないで。
「あ、芥都さま。裏切り者のテッドウッドさまは見つかりましたか?」
「まだ裏切ったとは決まってないから、拳の血を拭いてくれ」
プルメとも合流し、俺たちは結界が張られた娼館の本館へと辿りついた。
「シャルさん! 疲れたらいくらでもわたしの膝枕で回復しますから、じゃんじゃん撃っちゃってください!」
「うむ! 火の鳥! 火の鳥! 水の龍! 虎虎虎!」
……なんか、館の前でゆいなに膝枕されながらシャルが聖獣を乱発してた。
格式高い聖獣を粗雑に使っちゃいけないんじゃなかったっけ?
しかし、それだけの攻撃を食らっても結界はほころび一つ見せていない。
こいつは、結構厄介なことになりそうだ。
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