森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

287 ひしめくアーマー騎士

公開日時: 2022年1月27日(木) 19:00
文字数:3,696

 居城に存在するありとあらゆる扉から、わらわらわらわらとアーマー騎士が湧き出してくる。

 お前らは沢ガニか!?

 人類に反旗を翻した沢ガニたちか!?

 

「か、芥都さんっ。これはさすがに厳しいのでは!?」

 

 前方から押し寄せてくるアーマー騎士の波に、さすがにビビる。

 ゆいなもティルダもアイリーンもプルメもサクラまでもがたじろぎ、戸惑い、焦っている。

 もちろん俺も盛大にテンパっているさ!

 

 そうこうしているうちに廊下はアーマー騎士で埋め尽くされた。

 ぎっしりと、みっちりと、隙間なくアーマー騎士が廊下にひしめく。

 ガチガチと、鎧同士がぶつかる音が響く。

 

「……というか、向こうも身動き取れないんじゃないのかしら、これ?」

 

 アイリーンの指摘通り、廊下を埋め尽くしたアーマー騎士たちはその巨大な鎧が邪魔になり槍を構えることも出来ないでいる様子だ。

 

「なら、恰好の的だわ」

 

 アイリーンが魔導書を掲げて腕を伸ばす。

 だが、それを阻止するように最前列のアーマー騎士から槍が突き出される。

 

「ぅきゃあ!?」

 

 魔法を使おうと無防備になったアイリーンに槍が襲いかかる。

 すんでのところで回避したが、魔法はキャンセルされてしまった。

 

 しかし、だからといって追撃をしてくることはない。

 整列し、廊下を埋め尽くし、こちらが後退するのに合わせて一歩一歩前進してくる。

 誰かが先走って陣形を崩すこともない。

 

「そうか! こいつら、こっちにダメージを与えるつもりはさらさらないんだ」

「どういうことですか、芥都さん?」

 

 こいつらのこの陣形。それは、あるひとつの目的のためだけに形成されているものなのだ。

 

「こいつらの目的は、カーマインが逃げ出す時間を稼ぐことなんだ」

「なるほどであります。だから、向こうから仕掛けてこないのでありますね」

「戦闘になれば、少なからず自軍の兵が傷を負うものね。数が減ることもあるわ。だから、下手に手を出さず、こちらの攻撃を妨害するだけなのね。……なんて嫌な作戦なのかしら」

 

 こいつらにしてみれば、俺たちが撤退して城から逃げ出しても構わないのだ。

 俺たちを仕留めることを目的としていない。

 こいつらの勝利条件はカーマインの逃亡が成功すること。

 

 くそっ、厄介だ!

 

「時間はかかりますが、一人一人排除していくしかありません――ねっ!」

 

 話しながら、タイタスが矢を射る。

 全身鎧のわずかな隙間に鏃を潜り込ませ、アーマー騎士の中の騎士に直接ダメージを与える。

 なんて器用なヤツだ。

 

 だが、矢の一撃で倒れてくれるほど敵もヤワではない。

 

「物量で劣っているなら、運動量で勝るしか勝機はないであります! 自分も加勢するであります!」

 

 言って、サクラがアーマー騎士の群れへと体当たりをお見舞いする。

 激しい衝突音がして、押し寄せてきていたアーマー騎士が数センチ後退した。

 だが、多勢に無勢。

 サクラは体勢を立て直したアーマー騎士の群れに弾き返されてしまった。

 

「アイリーン・ボム!」

 

 その隙に、アイリーンが魔法を発動させる。

 結局『ボム』に落ち着きそうだな、必殺技の名前。

 

 魔法を喰らったアーマー騎士がよろめき、膝を突く。

 

 ようやく一人片付いたかと思ったら、そのアーマー騎士が道具袋から薬を取り出し一気に飲み干した。

 キラキラっとかすかな輝きを放ち、先ほど喰らったダメージがなかったかのようにアーマー騎士はすっくと立ち上がった。

 

 傷薬持参!?

 しかも、後ろの方のアーマー騎士から新しい薬渡してもらってるし!

 

「こんなもん、何日かかっても突破できないぞ!?」

 

 そもそも、アーマー騎士は一人いるだけでかなり時間を取られるってのに!

 

「……どこかに、水場はありませんかね?」

 

 タイタスがマジで切れる五秒前みたいな顔で呟く。

 この城ごと水没させて全員を溺れさせるつもりのようだが、この城を埋め尽くすような水が、岩だらけだったこの地域にあるとは考えにくい。

 それを探すのにも時間がかかりそうだ。

 

 とはいえ、打開策がない以上、そんな作戦も平行して準備をするべきか……

 

「ん? 待てよ……」

 

 改めて、アーマー騎士たちを見る。

 廊下を埋め尽くすようにひしめき合い、そのせいで槍を構えることすら出来ない。最前列のヤツは別だが。

 とはいえ、その最前列のアーマー騎士たちも大振りは出来そうにない。

 せいぜい、切っ先を持ち上げ、腕を伸ばして突いてくるくらいだ。

 

 連中はこちらを仕留めるつもりはさらさらない。

 攻撃は防御の一環。あくまでおまけ。

 

 だったら、うまくいくかも……

 

「芥都さん、見てください!」

 

 ゆいなの声に顔を上げる。

 

「廊下の一番奥! 一際厳ついアーマー騎士がいますよ!」

 

 ゆいなの指さす先に視線を向けると、そこにはより一層頑強そうなごつい全身鎧を身に纏ったアーマー騎士がいた。

 いや、あいつはアーマー騎士じゃない。

 

「あいつは、アーマー騎士の上位職、ジェネラルだ」

 

 ソシアル騎士がパラディンに転職するように、アーマー騎士がレベルを上げて転職するのがあのジェネラルという上級職だ。

 ただでさえ高いアーマー騎士の防御力がさらに跳ね上がる。まさに鉄壁。動く城壁だ。

 

 これだけの数のアーマー騎士を倒した後、まだジェネラルが残っているとか……手持ちの武器が全部壊れてしまいそうだ。

 

 だが、そのジェネラルもぎっしりと並んだアーマー騎士に阻まれて武器を構えられないでいる。

 これだけ密集されると、連中が騎士だってことを忘れてしまいそうだ。

『鉄壁騎士団』の名の通り、鉄で出来た壁に見えちまう。

 

 だから、こいつらを人間に戻してやろうじゃねぇか。

 

「ゆいな、無理はしなくていいんだがな――」

 

 前方から迫ってくるアーマー騎士を睨みつけながら、ゆいなにとんでもない作戦を話して聞かせる。

 かなり無謀で、相当な危険を伴う作戦だ。

 だが、ゆいなはこの上もなく嬉しそうに破顔して、尻尾をぱたぱた振り回した。

 

「いいですね、その作戦!」

「だが、かなり危険だ」

「大丈夫です! 無理はしませんし、危なくなったら芥都さんやみなさんがきっと助けてくれますから」

 

 作戦がうまくいけば、俺やタイタスでも連中に大ダメージを与えることが出来るようになる。

 

「それに、急に『そう』なったら、きっと敵は戸惑います。その隙に全員の身ぐるみを剥いでやりますよ!」

 

 敵兵に聞こえないよう小声で言って、可愛らしいウィンクを寄越してくる。

 

「では、危険のレベルを測るため、ワタシがちょっと行ってきます」

 

 俺たちの話を聞いていたタイタスがふらふらと無防備にアーマー騎士の前へと歩いていく。

 

 飛んで火に入る――ではないのだろうが、さすがに無防備な状態で近付いてきた敵に対しては攻撃をしてくるらしい。

 最前列のアーマー騎士が槍を突き出す。

 だが、腰が入っていない突きは速度も乗っておらず、威力もなさそうに見えた。

 タイタスはひらりとその突きをかわすと、またふらふらと俺たちの前へと戻ってきた。

 

「――と、これくらいの攻撃のようです」

「タイタスさん、無茶しますね……」

「シャル姫の救出が最優先ですので。芥都さんの面白い作戦への協力は惜しみません☆」

 

 にっこりと笑った後、ゾクッとするような冷笑を浮かべる。

 

「……万が一の時は、命に代えてもゆいなさんを守ると約束します。ですので、どうか、その作戦を決行してください」

 

 ゆいなに危険があることを知った上でそれを望む。

 その見返りに、何があろうと守ると約束するタイタス。

 シャル。お前、愛されてるな。

 今回のことは、きちんとシャルに報告してやろう。

 

「では、行ってきます!」

 

 ゆいなが駆け出し、作戦を伝え聞いた一同がゆいなの動向を見守りながら武器を構える。

 ゆいなには傷ひとつ付けさせない、何があろうと俺がさせない!

 

「はぁああ! 『世話焼き鳥のお召し物・大仮想パーティー』です!」

 

 身軽なゆいなが、アーマー騎士の体を駆け上り、鎧を踏みつけながら次々にその頭上を走り抜けていく。

 その際、軽く兜に手のひらをぽんと叩きつけて。

 

「えっ!?」

「なっ!?」

「きゃっ!?」

 

 ゆいなが通り過ぎた後には、肌色が広がっていく。

 鈍い銀色をしていた鉄の鎧は次々と消失していき、なんとも「わぁ~おっ☆」な際どいビキニ姿の者たちがそこに現れる。

 

『世話焼き鳥のお召し物』で、敵アーマー騎士の鎧を水着に替えてやったのだ。

 素っ裸でもよかったのだが、おっさんの裸なんかうら若い乙女たちには見せられないからと「ビキニ姿にでもしてやれ」と言ってやったのだ。

 

 巨大な全身鎧を着るために体を鍛えまくったムッキムキのオッサンたちがビキニ姿になれば、戸惑いで攻撃の手も止まるだろうと考えたのだが……

 

「やだっ、何よ、これ!?」

「いや~ん! もうお嫁に行けない~!」

 

 なんと、頑強な鎧の下から現れたのは、見目麗しい乙女たちだった。

 全員美女! しかも、もれなくナイスバディ!

 あっちでゆさゆさ、こっちでぷるぷる、ビキニなおっぱいがたわわに実っていた!

 

 

「なんてパラダイスっ!」

「カーマインってオッサンの悪趣味がよく表れているわね」

 

 そうか!

 カーマインはおっぱい星人!

 自分の配下に巨乳美女ばかりを集めていたって不思議ではない!

 

 

 この時ばかりは、ほんのちょこっとだけカーマイン殿下に感謝してしまった俺なのだった。

 

 ……ほんのちょこ~っとだけな。

 

 

 

 

 

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