森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

294 娼館、陥落

公開日時: 2022年2月7日(月) 19:00
文字数:3,823

 眼前に居並ぶビキニ美女が五人。

 

「生まれてきてよかったぁ!」

「じゃあ、五人で総攻撃をお願いします」

 

 待て、ゆいな!

 目標は俺じゃないし、この状況を生み出したのはお前だ!

 

 ベノムドの結界を通り抜けられるのは『薄着の』巨乳美女だけだ。

 なので、全員にビキニを着てもらった。それだけだ。

 それ以上でも、それ以下でもな――ぅわっほ~い!

 

「ゆいな、どいて。とどめを刺すわ」

 

 まぁ、待てアイリーン。

 今はそんなことをしている場合じゃないのだ。

 

「結界を越えたら、上でも下でもいい、ビキニを脱ぐんだ」

「芥都よ。今まで楽しかったでおじゃるぞ」

「とどめを刺そうとするなシャル! ちゃんと理由があるから!」

 

『世話焼き鳥のお召し物』は、何か一つでも衣類を脱げば元の服装に戻るのだ。

 つまり、結界の中でビキニを脱げば、フル装備の状態に戻れるというわけだ!

 

「大丈夫! 恥ずかしいのは最初だけだ!」

「芥都さんの目はしっかり塞いでおくので、心配せず行ってきてください!」

 

 ゆいながとんでもないことを言う!

 鬼か、お前は!?

 

「ちっ! 行くぞ!」

 

 キースの声を合図に、ビキニな巨乳美女が五人、結界を越える。

 そして、すぐさま俺の視界から光が失われる。

 ……くっ。世はなんとも無情なり。

 

「あ、キース子ちゃんはダメですよ!」

「はぁ!?」

 

 慌てた様子でゆいなの手が俺の目から離れていく。

 そこには、結界を越えてフル装備になっている彼女たちの姿があった。

 ……くぅ、惜しい。

 

 が、キースだけがビキニ姿のままだ。

 

「それ脱いじゃうと、ぶかぶかの服になって、本当にポロリしちゃいますよ」

「なっ!? じゃあ、こんなバカみたいな格好で戦えってのか!?」

「丸出しとビキニのどっちがいいかはお任せしますが」

「ちぃっ! 分かったよ!」

 

 歯を食いしばって、キースが吠える。

 ぶかぶか衣装でもいいのに! ポロリがあってもいいじゃない! だって人間だもの!

 

 

「すぐに片付けてくる!」

「あ、キース! カーマインがいるかもしれないから気を付けろよ!」

「カーマイン……たしかこの国の王の弟だったか? で、そいつは強いのか?」

「強いかどうかは分からんが――無類の巨乳好きだ!」

「くだらねぇ!」

「いや、めっちゃ美人で色気むんむんな幼馴染の求愛を『乳がないから』って理由で見向きもしなかったんだよ! だからきっと、ビキニで巨乳をぶるんぶるんさせてると確実に寄ってくるぞ!」

「誰がぶるんぶるんなんぞさせるか!」

 

 と、ぶるんぶるんさせて吠えるキース。

 ゎっほ~い♪

 

「お顔が正直ですね、芥都さん☆」

 

 いやぁ、もう、俺、キースとマブダチになれそう。

 タイタス、お前とは御免だけどな!

 

「ちっ! 行くぞ!」

 

 キースが駆け出し、その隣をティルダが同じ速度で飛翔する。

 心なしか、ティルダも嬉しそうに見える。

 

「やっぱ、転移者とナビゲーターってのは一心同体なんだよな」

「そうですね。ティルダさん、嬉しそうです」

 

 早く、ムッキュとクリュティアを助け出してやらないとな。

 

 

 そんなことを思って数十秒。

 

 

 館の窓という窓から毒液が噴き出した。

 ……キースのヤツ、どんだけ張り切ってんだよ。

 

「あっ、結界が消えますよ!」

 

 ゆいなが言うように、館を覆っていた結界が光を失っていく。

 早っ!?

 もう仕留めたのか、ベノムド!?

 

「よし、突撃するのじゃ、ゆいな、シャクヤク!」

「ですね! この溜まりに溜まったフラストレーション――」

「大暴れして晴らしてやろうじゃない!」

 

 なだらか三人娘が瞳をギラつかせて館へと突入していく。

 

「ジラルドとテッドウッドは、どこかに捕まっているであろう奴隷の女性たちの解放を頼む」

「そういう後方支援、大好きザンス!」

「うむ、最前線より命の危険が少ないであるからな!」

「ソウデスネ……オ供イタシマスワ、てっどうっどサマ……」

 

 いや、テッドウッド。

 今回ばかりはお前の命、後方支援の方が危険にさらされちゃうかもっ!

 絶対巨乳に目を奪われるなよ! 絶対だぞ!

 

 ということで、怖いものは見たくない俺はキースたちを追いかけることにした。

 

 館に近付けば、独特のにおいが鼻についた。キースの毒のにおいだ。

 くっせぇ……

 

 その臭い液に埋もれて身動きが取れないでいるならず者たちが複数。

 ……あ、消えた。

 一人が消えると、倒れていたならず者たちが次々消えていく。

 毒によってHPが尽きたのだろう。

 

「ひぃいいい! 巨乳に殺されるぅぅうう!」

 

 情けない声を出して、一人のでっぷり太ったオッサンが館から転がり出てくる。

 全身毒濡れで、顔面には青たんがいくつも出来ている。

 キース、武器がなくても強いなぁ、やっぱ。

 

 おそらくベノムドであろうそのオッサンは、俺の方を目掛けて駆けてくる。

 しょうがない。とどめは俺が刺すかと、レイピアを構えたら、目の前に三人の美女が並び立った。

 

 俺とベノムドとの間に並んだ美女三人。いや、なだらか三人。

 ゆいなに、シャルに、シャクヤクだ。

 

 こちらに背を向けているので顔は見えないんだけど……背中から漏れ出てるオーラが怖ぇよ。

 そんなオーラに気が付かないのか、ベノムドはあろうことかゆいなたちに助けを求めた。

 

「た、助けてくれ! 巨乳の恐ろしい女に殺される!」

「本望でおじゃろう?」

「そうですよ。巨乳美女、好きなんですよね?」

「あの世で自慢すればいいんじゃん?」

「す、好きじゃない! 好きだったけど、もう好きじゃない! これからは、真逆のっ、真っ平らなぺったんこな胸の――そう! そなたらのようなド貧乳を愛することにする!」

「「「やかましいわぁ!」」」

 

 なだらか三人娘の怒号が重なり、拳が同じタイミングでバカなオッサンに突き刺さる。

 美しいフォームのアッパーを食らって宙を舞った肥満体のオッサンの体は、光の粒となってきらきらと空中にかき消えていった。

 

 ……美しくねぇなぁ、きらきらしてても。

 

「なんで生きてるのに結界が切れたんでしょう?」

「精神力が枯渇したのでおじゃろう」

「それか、恐怖で術が解けたとか?」

「「「まっ、もーどーでもいーけど」」」

 

 うん。

 俺も、今後は発言に気を付けよう。

 

 とりあえず、しばらくあの三人には近寄らないようにしよう。

 なんか、どんな言葉をかけても怒りを買いそうだ。

 しばらくはそっとしておこう。

 

 

「芥都様! カーマインが逃げたであります!」

 

 館の四階から、サクラの声が降ってくる。

 やはりカーマインはここにいたようだ。

 

 逃げたと言っても、一体どこから出てくるのか――

 

「そこを退けぇぇええい!」

 

 オールバックにした髪を振り乱して、カーマインが馬に跨がって館から飛び出してきた。

 館の中に馬を繋いでおく場所でもあったのか!?

 

「どんな状況でも、私は必ず逃げおおせてみせるっ!」

 

 館に突入されても逃げ出せるように準備していたというわけか。

 どこまでヘタレで小賢しいんだ、こいつは!?

 

「シャクヤク、エビフライ、追えるか!?」

「待って! 館に突入すると思って、馬置いてきちゃった!」

「私もなのです! ペガサスは結界を越えられないと思って」

 

 今ここに馬に乗っている者はいない。

 このままじゃ、またカーマインを取り逃がしてしまう!

 

 焦り、カーマインを睨むと、前方に白くたくましい馬に跨がった騎士が現れた。

 ソシアル騎士とは違う、もっと高貴な、威風堂々とした佇まい――あれは、パラディンか!?

 

「道を空けろぉぉおおお!」

 

 立ちはだかるパラディンに向かって、馬で突っ込んでいくカーマイン。

 白馬の騎士は微動だにせず、向かってくるカーマインを見据えている。

 そして――

 

「退けぇえい!」

「…………」

 

 すれ違い様、銀色の槍を一閃させカーマインを落馬させる。

 

「どぅっ!?」

 

 背中から落ちたカーマインがもがき苦しんでいる。

 カーマインが乗っていた馬は、酷く興奮したまま、カーマインを置いて街の外へと逃げていった。

 

「観念しろ、カーマイン!」

「……ぐっ!」

 

 カーマインに追いつき、タイタスがその体を縛り上げる。

 若干卑猥な結び方で。……って、こら。

 

 思いがけず生け捕りにすることが出来た。

 この後、ライデン殿下がこちらに来るだろうから引き渡すことが出来る。

 ほら、やっぱ初めて会う王族に「あなたの兄貴殺しました」とは言いにくかったし。

 

 あ、そうか。

 このパラディン――

 

 こうして駆けつけて味方してくれるパラディンなんて、ライデン殿下以外にいないだろう。

 ここは敬意を持って礼を述べておこう。

 ヒルマ姫の連れとして、印象を悪くするわけにもいかないしな。

 

「この度は、ご助力感謝いたします。おかげでカーマインを捕まえることが出来ました」

「そんなそんな。お礼なんていらないデス!」

「いえ、そういうわけには参りません。一同を代表して感謝を……『デス』?」

 

 なんだか、聞き覚えのある声にゆっくりと顔を上げると――

 

「無事でよかったデス! 丸腰あんあーむど!」

「ムッキュ!?」

 

 なんで!?

 全っ然パラディンってイメージないんだけど!?

 え、なんで!?

 

 つか、お前の体小さ過ぎて馬にちゃんと乗れてなくない!?

 

「ここの王様の弟さんに拾われて、乗馬と騎士の戦い方を教えてもらったデス」

 

 教えるのうまいんだねぇ!?

 俺だったら体格を理由に諦めちゃうかなぁ、教えるの!

 

「三日ほど練習したら、パラディンになれたデス」

「お前は天才か!?」

 

 エビフライでさえまだソシアル騎士だってのに。

 

 

 衝撃的な再会ではあったものの、これでクリュティアを除く全員が集まった。

 

 あとはクリュティアだけだ。

 待ってろよ。帝国だろうがどこだろうが乗り込んで、絶対助けてやるからな!

 

 

 しばらくの後、ヒルマ姫と供にやって来たライデン殿下と、俺たちは初対面を果たした。

 

 

 

 

 

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