「それじゃあ、帰りますか?」
「いや、その前にやることがある」
神武の卵をエビフライに渡したゆいなに、俺は残った仕事を伝えておく。
「試練攻略の報酬をもらっていこう」
「ぺったん人形ですか!?」
「ちげぇよ。バッテリーだ」
「あ。……あぁ~、そうでしたそうでした。それを取りに来たんでしたっけね」
俺たちは最初の試練で『神コン』を完成させた。
だが、『神コン』にはバッテリーが付いておらず動かすことが出来なかった。
それで今回、そのバッテリーを得るために試練に挑んだのだ。
「でもバッテリーって、どこにあるんでしょう? 前回は終わった後にそれっぽい部屋に案内してくれましたが……」
今は水先案内人の四妖精も、仕掛けてきた神もいない。
バッテリーは自分たちで探すしかないのだろう。
「困りましたね……どんな形かも分かりませんのに……」
「いや、たぶん大丈夫だ」
ここまでの流れでおおよその予測は付いている。
神のアイテムを動かせるほどのバッテリー――おそらく動力は魔力ということになるのだろうが――そんなもんはそうそう転がっているものじゃない。
この世界、【神々の遊技台】の中でもそういくつもないだろう。
で、ここで思い出してほしいのだが、壊れた神武を復活させるための魔力は神のアイテムレベルの物と引き換えに手に入れられると神が言っていた。
【神器】と引き換えにしろなんてことを言っていた。結局、アレは試されていただけなのだが……でも、壊れた神武の復活には四妖精の魔力を使用した。
それだけの魔力が必要だったのだ。
逆に考えると、神のアイテム相当の魔力で神武は作られていたわけだ。
で、その神武の素、原材料はなんだったか?
そう、ドラゴンの卵だ。
あの卵からドラゴンが生まれるかどうかは分からんが、ドラゴンの魔力を糧に生み出されることは間違いないだろう。
ドラゴンキラーもドラゴンの尾の骨だった。
つまり、神武=ドラゴンの魔力によって生み出された物。
そして、神武を復活させることが出来たのが神の使いの魔力。
ドラゴンキラーを生み出す魔力=神の使いの魔力。
だとするなら、神のアイテムを起動させるためのバッテリー(=魔力)は、ドラゴンの魔力で代替できるのではないか?
そして、ドラゴンの魔力が凝縮され結晶化された物が、この国には存在している。
それを巡って争いが起こるくらい強力なもので、純粋な結晶でなくとも大いなる力を得られるらしい。
では、純粋な結晶――それも、全龍族が恐れた暗黒龍の魔力で生み出された結晶ならどれだけの魔力があるのか……
「ロメウスの体の中に龍石がないか、調べてみよう」
「龍石……えっ、龍石がバッテリーなんですか!?」
「おそらくな」
「で、でも、龍石って……もらっちゃっていいんですか、ね?」
龍石一つでナヤが寝返り、帝国が侵攻して、他の同盟国も「寄越せ寄越せ」と圧をかけてくる『とんでもないアイテム』、それが龍石だ。
だが、おそらくヒルマ姫なら――
「どうぞ、お持ちください」
「いいんですか? だって、貴重、ですよね?」
「確かに、暗黒龍――それも、数百年前に世界を滅ぼしかけた純血のロメウスの魔力がこもった龍石は、きっと強大な力を与えてくれるでしょう」
「だったら……」
「でも、だからこそ、それは皆様がお持ちくださった方がよいと考えます。……私たちの手には、少々大き過ぎます」
暗黒龍の龍石の存在が知れれば、龍石を巡る争いが起こるだろう。
今度こそ、コンペキア王国は戦火に飲み込まれるかもしれない。
それは、ヒルマ姫が望むものではない。
平和を脅かしかねない強力な力は、最初から持たない方が平和なのだ。
ま、俺も、悪用される未来しか見えないしな。
「じゃあ、龍石を探しましょう!」
「お手伝いします。暗黒龍は、大きかったですし」
体内を探すと言っても、このサイズだ。一筋縄ではいかないだろう。
「龍の魔力は首の付け根、喉元に集まると言われているのです」
エビフライが自分の喉元を指さしながら教えてくれる。
鎖骨と鎖骨の間のくぼんでいる付近だ。
そこに魔力が集まり、結晶化――龍石になるのか。なるほど。
「芥都様たちはお疲れでしょう。ここは、自分たちが見てくるであります」
「そうね。みんなはちょっと休んでてよ」
「では、私も皆様のお役に立ちたいと思います」
と、腕まくりをするヒルマ姫。
「ぅえええ!? いやいや、ヒルマ姫はダメですよ!? 暗黒龍の亡骸とか、絶対汚れますよ!?」
「うふふ。いいのよ、ドレスなんて。祖国と世界を救ってくれた皆様のためになれることの方が尊いのです」
「でも……」
「心配し過ぎですよ。私にやらせてください。ね、ヘソ丸」
「まだ名前覚えてないんですか!? じゃあ好きなだけ汚れてくればいいんですよ、ふん!」
結局、名前覚えてもらえなかったな、ゆいな。
まぁ、コンペキアっ子の限界だと思って諦めろ。
「ゆいなよ、せめてヒルっぺたちの服を代えてやっておじゃれ」
「服を……あ、『世話焼き鳥のお召し物』ですね」
ゆいなの能力で服を替えてしまえば、いくら汚れようとあとで消してしまえばいい。
そうすれば今来ているドレスも汚れない。
なるほど、考えたな、シャル。
「では、みなさんを汚れてもいいもっさい格好にしますから、並んでください」
「嬉しそうね、ゆいな」
「もっさい仲間が出来るのが嬉しいんでおじゃろうの」
「案外、根に持つタイプやんね、ゆいなはんって」
他の女子からの呆れた視線もなんのその、ゆいながヒルマ姫たちの服を変化させる。
ゴム長に味も素っ気もない長袖シャツ。
手には便所掃除に似合いそうなピンクのゴム手袋。
頭には田舎くさい麦わら帽子が乗っかる。
首にはなんの意味があるのか分からないが、ピンクのタオルが巻かれしっかりと結ばれていた。
ザ・農作業。
なんとなくレンコン掘りにでも行きそうな雰囲気だ。
だが、これだけは断言できる。
本物のレンコン農家さんは、きっともっとお洒落だ。ここまでもっさくはならないだろう。
これじゃ、演出が過剰な三流テレビ番組だよ……
「わぁ。私、このような衣装を着るのは初めてです! ありがとうございます、ヘソ丸」
まぁ、ヒルマ姫には好評なようだが。
「姫様だから、あぁいう服着る機会がなかったんだろうな」
「珍しいさかいに、楽しいんやろうね」
「じゃあ、シャルさんもお揃いの服を着てみますか?」
「麻呂は遠慮しておくでおじゃる」
「遠慮しなくてもいいじゃないの。きっと似合うと思うわよ」
「恥ずかしげもなくパンイチで寝ておる女子の『似合う』ほど信用できぬものもおじゃらぬ」
「なっ!? 私、センスいいからね!?」
と、アイリーンが素っ頓狂なことを言う。
大丈夫だ、アイリーン。お前は、センス、ない!
「ないでありますね」
「ねぇ、エビフライ。本当に喉元に出来るの?」
「そのはずなのですが……」
暗黒龍の首回りに集まり捜索していた四人が首を傾げる。
龍石は見つからないようだ。
もしかして、俺の予想が外れてたか?
状況から見てそんな可能性が高いなって思っただけだしな。
「悪い、もしかしたら俺の予想が間違って――」
「龍石ではないのですが、何か変な物を見つけましたよ」
俺が意見を引っ込めようとした時、ヒルマ姫が暗黒龍の首の中から手のひらサイズの異物を拾い上げた。
そいつは血液に汚れることなく、輝く結界に守られているようにうっすら輝いていた。
ただ、断じて龍石ではない。
まず丸くないし、石っぽくもない。
クリュティアが持っていた龍石とは、似ても似つかない物だった。
だが、俺はそれに見覚えがあった。
手のひらに修まるサイズで、四角形。
白っぽいグレーで、先端には金のメッキがむき出しの端子が付いている。
そして何より、その表面には『スーパーフレンドコンピューター』のロゴが!
「それだぁ!」
フレコンには無線コントローラーなんて物はなかった。
だが、俺はあのバッテリー、いや充電池に見覚えがある。
あれは『トモコン』と『フレコン』の間に発売された、携帯用ゲーム機『プレーボーイ』用の充電池だ。
単三電池を四本入れて外で遊べる携帯用ゲームとして発売された『プレーボーイ』だったが、電池の消費が激しく、小学生のお小遣いは電池代としてどんどん消費されていった。
親に泣きつくも、「ゲームのし過ぎだ!」と怒られる始末。
そんな悲劇を量産し、子供の『プレーボーイ』離れが起きかけていた。
まぁ、名前もちょっとどうかと思うしな。
そんな危機を打破したのが、この『プレーボーイ』用充電池だ。
電池を買わなくても、家で充電しておけば外で遊べる!
それは画期的な商品だった。
この充電池の登場で『プレーボーイ』の人気は爆発したと言ってもいい。
なるほど。
『神コン』のバッテリーには持ってこいのアイテムだ。
「ゆいな、『神コン』を貸してくれ」
「はい、ちょっと待ってください!」
ゆいなから神コンを受け取り、背面のパネルを開ける。
そこにはぽっかりと四角い穴があいており、金色の端子がバッテリーの端子と同じ数だけ出っ張っている。
「ヒルマ姫、そのバッテリーを」
「は、はい。どうぞ」
バッテリーを受け取り『神コン』に装着すると――
ピロン♪
と、起動音が鳴った。
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