森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

315 ロメウスとの決戦

公開日時: 2022年3月3日(木) 19:00
文字数:4,053

『我の従僕どもは我が生み出した我の分身。死ねば魂は我に戻る』

 

 俺たちが氷龍と炎龍、そして地龍を倒したから、その魂がロメウスに戻った――吸収されたということか。

 

「しまったな。先にロメウスを倒せばよかった」

「後の祭りでおじゃるの」

「それより、貴様は下がっていろ芥都」

 

 シャルとキースが俺をかばうような位置に立つ。

 

「いや、俺も戦うぞ」

「阿呆が、武器を見ろ」

「へ?」

 

 手元に目をやれば、俺のドラゴンキラーは半分から溶けてなくなっていた。

 

「ぅげっ!? なんで!?」

「瘴気の渦の中に飛び込んだせいでおじゃろうの。瘴気に当たり過ぎたのでおじゃろう」

 

 くっそぉ! 折角この戦いが終わっても愛用しようと思っていたのに!

 

「あとは麻呂たちに任せるでおじゃる」

「威力は落ちるが、攻撃が通ることは分かったからな」

 

 ドラゴンキラーを構えて、シャルとキースが駆け出す。

 

「相打ち覚悟で首を減らし――」

「あとは神武でとどめを刺せば俺たちの勝ちだ!」

 

 シャルとキースは元炎龍・氷龍だった上部の首二本を狙う。

 元地龍だった首は短くほぼ胴体に埋まっている。

 あの首なら、素早い動きは出来ないだろう。

 

 炎龍・氷龍の長い首をなんとかすれば、随分と有利になる。

 が、そうさせてくれないのだロメウスだ。

 

 

『相打ち上等は、我とて同じだ!』

 

 

 突如上部の長い二本の首が伸び、タイタスとアイリーンに襲いかかる。

 伸びるのかよ、あの首!?

 

「しもうた!?」

「チッ!」

 

 勢いよく伸びてシャルとキースを置き去りにした二本の首。

 キースとシャルはその首にドラゴンキラーを振り下ろそうとするが――

 

「シャル姫は地龍の首を!」

 

 タイタスの声に標的を変更する。

 

「きゃああ!」

「アイリーン!」

 

 元炎龍の首がアイリーンに噛みつく。

 アイリーンは咄嗟に魔導書でその牙を防いだようだが、ぎしぎしと嫌な音を上げて暗黒龍の牙が魔導書に食い込んでいく。

 

「相打ちに出来るものなら――してみるがいいでしょう!」

 

 後方へ飛び退きながらパルティ矢を連射するタイタス。

 大きな口を開けて元氷龍の首がそれを追いかける。

 何本矢を喰らおうと勢いをなくさず、大蛇のように地を這ってタイタスを追い詰める。

 

「ぐっ!」

 

 暗黒龍の牙がタイタスの腕ごとパルティ矢に食らいつく。

 

「あなたからのキッスは、求めていませんよっ!」

 

 腕に喰らいつかれながら、タイタスが渾身の力で矢を放つ。

 暗黒龍の後頭部が弾け飛び、パルティ矢が空へ上っていく。

 どろりと溶けた暗黒龍の首からタイタスの腕が現れる。

 

「……やられましたね」

 

 パルティ矢は溶かされていた。

 

「タイタス、こっちに来い。腐食を治す」

「はい。出来れば熱いキッスでお願いします☆」

「そいつは出来ない相談だな」

 

 このアホの治療はあとに回そうかと思った時、アイリーンの魔導書から夥しい魔力が迸る。

 

「きゃああ!? なんなの!?」

『ぐぶぶ……魔封の魔導書だ』

 

 見れば、暗黒龍の口の中に一冊の魔導書が。

 アイリーンの魔導書にピタリと張りついている。

 

『相反する二つの魔導書を重ねれば魔力は暴走し、暴発する――もう、逃れられぬ!』

「アイリーン、手を離せ!」

「だめっ、離れないっ!」

「アイリーンさん、痛かったらごめんなさいです!」

 

 ゆいながアイリーンに体当たりして、魔導書から引き離す。

 その直後に暗黒龍の口の中で凄まじい爆発が起こり、アイリーンとゆいなが揃って吹っ飛ばされる。

 

「大丈夫か!?」

「はい、なんとか!」

「でも、魔導書が!」

 

 魔導書は、ロメウスの首もろとも粉微塵に吹き飛んでいた。

 こんなことになるのか、魔導書……

 

「芥都よ、ゆいなを守るでおじゃるぞ!」

「意地でもそいつの神武を守り切れ!」

 

 シャルとキースが元地龍の首をドラゴンキラーで斬りつけ叫ぶ。

 

「四匹の従僕――四本の首で神武を破壊すれば、残った一体で勝てると踏んでおったのでおじゃろうが」

「こっちにはドラゴンキラーがあった。誤算だったな、暗黒龍!」

 

 シャルとキースがドラゴンキラーを暗黒龍の首へと突き立てる。

 

「麻呂たちの勝ちでおじゃる!」

「闇に帰れ!」

『ギャァアアアア!』

 

 どろりと溶け出した元地龍の首は、ドラゴンキラー二本を溶かし、消滅した。

 

 

 ズズン……と、暗黒龍の体が地に横たわる。

 

 

「……やった、か?」

 

 首はすべて落とした。

 だが、まだクリュティアたちが相手している地龍が残っている。

 あいつを倒すと復活するのだろうか?

 

「芥都さん! なんか変な音がします!」

 

 ゆいなが耳を動かして、焦った表情で地龍を指さす。

 

「あの地龍の体内で、何か沸騰したようなぼこぼこって音が――」

 

 沸騰?

 体内で……ぼこぼこ……

 

 嫌な予感しかない。

 ろくでもない想像が次々浮かんでくる。

 

 

「クリュティア、みんな! その地龍から離れろ!」

 

 

 その忠告を待たず、地龍はひとりでに大爆発を起こした。

 くそっ!

 ロメウスの本体がやられると、アイツらは自動で爆発してその魂をロメウスに返すようになっていたのか!

 

「復活するぞ、ロメウスが!」

 

 爆発に巻き込まれたクリュティアたちのことが気になる。

 だが、目の前でむくっと立ち上がった首のない暗黒龍を放置することは出来ない。

 見る間に首が生えていく暗黒龍を野放しには出来ない。

 

 

『ぐばっははっはあ! 我は死なぬ! まだ死なぬぞ!』

 

 

 高笑いと共に、瘴気をまき散らす暗黒龍を仕留めるのが先だ!

 

「ゆいな! 俺らで仕留めるぞ!」

「はい!」

 

 ゆいなを背にかばうようにして立つ。

 暗黒龍にダメージを与えられるのは、もはやゆいなの春紫苑のみ。

 ロメウスも春紫苑の破壊に執着するだろう。

 

 だが、させねぇぞ。

 

 ゆいなと春紫苑は俺が守る。

 俺が、ゆいなを守る盾だ。

 暗黒龍のブレスを防げる盾と、暗黒龍を葬れる剣。

 俺たちがケリを付ける!

 

「薄ら意!」

 

 キースが毒を暗黒龍に浴びせかける。

 

「チッ! 効果無しか!」

 

 様々な毒を試してみるが、ロメウスは苦しむ素振りを見せない。

 やはり、全身を覆う魔力に弾かれるのだろうか。

 

「火の鳥!」

 

 シャルの聖獣がロメウスに襲いかかるが、そのどれもが弾き返される。

 ゲームの設定が生きているのか、暗黒龍ってバケモノが特殊なのか、転移者の【特技】でもダメージは与えられない。

 

「やはり、神武でなければダメなようだな」

「そうですね。やってやりましょう、芥都さん!」

 

 とはいえ、俺は春紫苑を持つことも出来ない。

 俺に出来るのは、ゆいなを守りつつ、攻撃が届くところまでゆいなを連れていくことだ。

 

「行くぞ! 絶対に俺から離れるなよ!」

「はい! 死んでも離れません!」

 

 ゆいなの手が俺の服を掴む。

 

 ゆいなを連れて、まき散らされる瘴気の中へと飛び込んでいく。

 触れる度、瘴気はゆいなを蝕んでいく。

 それを『わんぱく坊や』で回復し続ける。

 俺が『わんぱく坊や』を発動し続けることで、一秒たりともゆいなに苦痛を与えない。俺たちは止まらない。

 

 激しく大地が揺れ動く。

 地龍の力を使って俺たちの足を止めようというのだろうが、こんなものじゃ止まらない。

 

「シャル!」

「うむ!」

 

 合図を送り、ゆいなと共に大地を蹴る。

 鎌首をもたげるロメウスの顔には到底届かないジャンプだが、宙に浮いた俺たちの体を水の龍が包み、火の鳥が掴み羽ばたく。

 

「とどめを刺して参れ!」

 

 シャルの激励と共に、太いイカヅチが俺たちを押し出し加速させる。

 

『小癪なっ!』

 

 すべての力を出し切るかのように浴びせかけられる暗黒のブレス。

 そのすべてを無効化する。

 ゆいなを抱きしめ、精神力の続く限り『わんぱく坊や』を発動し続ける。

 ロメウスの口に近付くにつれ徐々にブレスの濃度が上がり、そして、ロメウスの頭上に出る。

 

「いけぇ、ゆいな!」

 

 水の龍を蹴り、ゆいなが空中へ躍り出る。

 ひらりと舞うように身を翻し――

 

「これで、終わりです!」

 

 ロメウスの眉間に光の剣『春紫苑』を突き立てた。

 

 

『ごっ……ぉおおおあああっ!』

 

 

 絶叫し、長い首を激しく振り乱すロメウス。

 

「きゃうっ!?」

 

 振り落とされたゆいなを空中で抱き留め、共に落下する。

 聖獣たちから放り出された俺も、着地のことは考えてなかった。

 どうするかな、この後……

 

「ほらよっ」

 

 と思っていたら、キースが受け止めてくれた。

 ゆいなを抱き留めた俺ごと、両腕でがっちりとキャッチして。

 

「お前、力強いんだな」

「だから、貴様も少しは鍛えろと言っているんだ」

 

 いや、落下してきた大人二人を平然と受け止めるとか、ちょっとやそっと鍛えただけじゃムリだと思うんだが。

 

「見ろ、ヤツが溶けていくぞ」

 

 地面に足を着け振り返ると、ロメウスの首が春紫苑を巻き込んで溶けていくところだった。

 これで、終わった。

 

 

『ふははは! バカめ!』

 

 

 溶け続ける暗黒龍の体の中から、小さなドラゴンが飛び出してきた。

 十分の一のサイズになりながらも、その姿は暗黒龍そのものだった。

 

 

『保険をかけておいて正解だったようだな。皇帝の肉体に我の卵を仕込んでおいたのよ』

 

 それを喰らったから、成龍ではないにせよ暗黒龍として復活できたのか。

 

『我は死なぬ! 力のほとんどを失ったが、貴様らを始末するくらいは容易いぞ! だが貴様らにはもう神武はない! 我の勝ちだ!』

 

 

 通常の武器ではヤツにダメージを与えられない。

 どうする? どうすれば……

 

「ほい、芥都はん」

 

 ふらりと、クリュティアが現れ一振りの剣を差し出してくる。

 

「クリュティア、お前傷だらけじゃねぇか!?」

「あはは、ちょっと頑張り過ぎたわ。けど、みんなのことは守り切ったで」

 

 プルメたちを守るために無茶をしてくれたらしい。

 無茶し過ぎだ。

 

「せやから、悪いんやけど、とどめは頼むな。ウチ、もうしばらくドラゴンにはなれそうもあらへんし」

 

 そう言って託されたのは、……ドラゴンキラー?

 

「あっ、地龍のか!?」

 

 クリュティアたちが相手をし、ロメウス復活のために自爆したあの地龍の尻尾から取れたドラゴンキラーだ。

 

「あんだけ弱った暗黒龍やったら、これで十分や。ぶちかましたり!」

 

 ドラゴンキラーを受け取り駆け出す。

 

『ま、待て! 我に協力すれば世界の半分を――』

「興味ねぇよ!」

 

 悪あがきをする暗黒龍を袈裟斬りにする。

 

 

『おのれ……人間め……』

 

 

 ロメウスの目が白く濁り、全身が溶け出す。

 

 

 今度こそ、本当に暗黒龍を討伐した。

 

 

 

 

 

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