「なるほど、クリュティアにのぅ」
ドラゴンキラーの入手した経緯を説明すると、シャルは感心したように頷き、少しだけ不機嫌そうに眉を歪めた。
「それで、麻呂たちには製造方法は内緒なのでおじゃるな?」
やっぱり知りたい、かな?
「ま、クリュティアの脅威になる武器でおじゃるからの……必要な時が来たらクリュティアに聞いてみるでおじゃる」
それはつまり、必要に迫られない限りは詮索しないということか。
さすがシャルだ、懐が深い。
「俺も製法はいい。だが、こいつはもらうぞ」
「おう。大切に使えよ。修理はたぶん出来ないからな」
原材料――というか、それは完全に骨なのだ。
見た目と触った感じは不思議な金属のようなんだけどな。
「して、どちらに加勢へ向かうでおじゃるか?」
俺たち以外のチームは苦戦を強いられていた。
地龍を相手にしているクリュティアは、戦力にならないジラルドたちを守ることに重きを置いているようで、決定打に欠けている。
意外とプルメのサンダーが活躍しているが、とどめを刺すには至っていない。
そして暗黒龍ロメウスは――
『魔封――』
「またなの!? もう! 『月に代わっておしおきYO!』」
「ブレスが来ます! 退避してください」
『ガァァアアアアア!』
「ぅにゃぁああ!」
「『オッサン、ちっともはぁはぁしないアロー★』!」
『ふんっ!』
連携を取らせてもらえず、苦戦していた。
ロメウスは戦闘に慣れているように思う。
パルティ矢が放たれると、矢の側面から尻尾を薙いで叩き落としているし、『月に代わっておしおきYO!』対策に『魔封』を連発している。
接近しないと攻撃できないゆいなに注意を払いつつ、遠距離攻撃が可能なティルダの牽制もしている。
使える武器も、瘴気のブレス以外に、尻尾、牙、爪、そして氷と炎の魔法、局地的に地震並みの振動を発生させる魔法を使ってくる。
ゆいなたちは、瘴気のブレスと多彩な攻撃パターンに翻弄されている。
『こっちは大丈夫やさかい、暗黒龍の方始末してんか!? あの地震が、こっちまで影響受けてかなわんわ』
クリュティア自身は地震の影響など受けないのだろうが、テッドウッドやムッキュの馬が地震に足を掬われ動きを封じられるようだ。
「じゃ、さっさと暗黒龍を倒すか」
「うむ! 麻呂はまだまだ試し斬りがしたいしの」
「俺が斬り刻んでやる」
「暗黒龍には効かない可能性があることだけは忘れるなよ」
勢い勇んで斬りつけて、一切ダメージを与えられないとか、反撃を喰らって戦線離脱とか、マジで笑えないからな。
「タイタスよ、矢で牽制でおじゃる!」
「ティルダ、タイタスに合わせて反対サイドから攻撃だ!」
「仰せのままに☆」
「承知いたしました!」
相棒の声に、ナビゲーターが即座に反応する。
ロメウスの左右に分かれて、同時に遠距離攻撃を放つティルダとタイタス。
矢を尻尾で払えば『グラマラス』の飛ぶ斬撃をかわせまい!
「ゆいな、走れ! アイリーンは援護を頼む!」
「はい! 芥都さんに合流します!」
「任せておいて!」
神武による総攻撃。
さすがのロメウスもこれは堪らないだろう。
きっとその場から飛び退いて回避する。
そこへ、キースとシャルがドラゴンキラーで斬りかかる。
俺はいわば囮だな。追い込み漁の追い込む方だ。
『ぐぶぶ……浅はかなり』
回避をすると思っていたロメウスだったが、その場から微動だにしない。
なら、それでもいい!
そこを動かないなら俺のドラゴンキラーとゆいなの『春紫苑』で斬りつけるまでだ!
『ガァアアア!』
『ガァアアア!』
『ガァアアア!』
三つの咆哮が重なり、熱風と寒風が同時に吹きつけてきた。
ロメウスの両肩に、赤い龍の首と青い龍の首が生えていた。
首が増えた!?
お前はグジラじゃなくてクイーンギャドラだったのか!?
新たに生えたドラゴンはそれぞれ炎と氷のブレスを吐き出し、パルティ矢とグラマラスの斬撃を弾き飛ばした。
で、咆哮は三つだったってことは――
「芥都さん、瘴気のブレスが来ます!」
「だよな、やっぱ!」
瘴気のブレスは、まっすぐ向かっている俺たちに向けて吐き出されていた。
俺には効かないブレスだが、バカ正直に喰らってやる必要はない。
「ゆいな、回避だ!」
「はい……ぅひゃあ!?」
ブレスの範囲から飛び退こうとしたら、地面がぐらぐらと揺れ動いた。
見れば、ロメウスの三本の首の付け根に、地龍の顔が浮かんでいた。
四種類のドラゴンの特性のいいとこ取りかよ!?
「芥都さん、ブレスがっ!」
激しい揺れに立っていられず、瘴気のブレスをかわしきれない。
「ゆいな、来い!」
「はい!」
膝立ちでゆいなを呼べば、這うようにしてゆいなが俺の胸に飛び込んでくる。
ゆいなの体を抱き留め、ブレスに背を向けてそれを堪えきる。
「あぅっ!」
「大丈夫だ、すぐ治す」
いくら抱きしめようと、瘴気は隙間から回り込んでゆいなを蝕む。
すぐさま『わんぱく坊や』を発動しゆいなの腐食を除去する。
こりゃ、攻めづらいわ……
『ぐぶぶぶ……腐り落ちるがいい、下等な人間どもよ』
四つの首が一斉に息を吸い、ロメウスの首だけがパンパンに膨らんでいく。
……あ、なんかヤバい感じ。
「ゆいな。俺の腕の中からなるべく体を出すなよ!」
「はい! ひしっ!」
ゆいながひしっと俺の胸にしがみつく。
何があろうが、ゆいなだけは俺が守って――
「ゆいなだけでのぅて、麻呂たちも守るでおじゃる!」
首根っこを掴まれ、強制的に起立させられた。
いやでも、おそらくとんでもない広範囲のブレスだから俺の体に全員をかばうのはムリだと――
「キースよ」
「まかせと――けっ!」
「うぉっ!?」
抱え上げられ、強制的に放り投げられる。
暗黒龍の顔にめがけて。
え、なに?
口の中に放り込んでコルク的な役割させるつもり!?
喰われちゃわない!?
「大丈夫よ、芥都!」
空を飛ぶ俺に、アイリーンが勝算ありげな顔で言う。
「芥都なら、なんとかなるわ!」
勝算なしかよ、こんちくしょう!?
丸投げもいいところだな!
『無駄なことだ――骨まで腐り果てろ!』
ロメウスから濃度の濃い瘴気が吐き出される。
さっき経験があるから分かるけど、ブレスには勢いがある。
いくら口元に俺がいようが、ブレスに押されて吹き飛ばされ、結局ブレスは辺り一帯に放出される。
コルクのように噴射口で防ぐなんてことは出来ない。
「出ずるのじゃ、水の龍、火の鳥、そして雷の虎!」
水の龍が俺の全身を包み、その上から火の鳥が俺を掴んで羽ばたく。
なるほど! 火の鳥の推進力でブレスを押し返そうってのか!
水の龍は俺が火の鳥の炎でやけどしないためのバリアか。
じゃあ、雷の虎は?
「ごふっ!?」
どんっと、凄まじい衝撃が全身に走り、俺の体は吐き出される夥しい瘴気のブレスを押し返しながらロメウスの口の中へと飛び込んだ。
想像するに、押し返されそうな俺を、雷の虎がすんごい雷で打ち返したんだろうな。
必殺技同士がぶつかってバチバチ押し合うってのは、ゲームや漫画で盛り上がる熱い要素だけどよ――
そのど真ん中に俺がいるのは納得できねぇな!?
死ぬわ!
死なないかもしれないけど、死ぬほど怖いわ!
で、結局火の鳥と雷の虎の相乗効果でブレスを押し返し、俺が暗黒龍の口の中へダイブしたわけだけれども。……俺、このまま喰われない?
暗黒龍の口の中へ飛び込み、ブレスが体内へ逆流していくのを確認したが、俺の体は口、舌の上、喉の奥へと進んで、食道へと差し掛かっている。
うん、喰われるな、俺。
『芥都よ、ドラゴンキラーでおじゃる!』
シャルから『念話』が飛んでくる。
おぉ、そうか!
体内から首をぶった切れば外に出られるな!
ドラゴンキラーをロメウスの内壁に突き立て横凪に振り抜く。
炎龍や地龍の時とは違い、すごい反発力を感じる。
やっぱ、暗黒龍は伊達じゃないか――だがっ!
「このまま喰われて堪るかぁ!」
気合いと根性!
創作物が生み出されて以来、何度となく困難を乗り越える原動力となったその二つをたぎらせてドラゴンキラーを握る。
全身全霊でドラゴンキラーを振るう。
そして。
「どんな、もんじゃぁああい!」
分厚い暗黒龍の体を切り裂き、外界へと脱出を果たす。
『ギャァアァアアアアア!』
首を斬り裂かれたロメウスが悲鳴を上げる。
喉の下数メートルの位置に真一文字の傷が開いている。
「ティルダ! 傷口を狙え!」
「かしこまりました、キース様!」
ロメウスの首から外へ飛び出した俺の体はロメウスから離れていく。
追撃は出来ない。
そこで、空を飛べるティルダが大きく開いた傷口へ追撃を加える。
「終わってくださいっ!」
ティルダの願いを込めた渾身の一撃がロメウスの首を穿つ。
神武はやはりドラゴンキラー以上の威力を持っている。
ロメウスの首に大穴が空き、長い首がもげ落ちる。
その直前、ロメウスの牙がティルダを襲う。
「ティルダ、回避しろ!」
「きゃあ!?」
咄嗟に空へ逃げるティルダ。
だが、執念のロメウスはティルダの持つグラマラスに噛みついた。
ロメウスの首が見る間にどろっと溶けていく。
「ティルダ、神武を離せ! 巻き込まれるぞ!」
ティルダが離脱すると同時に、引きずり込むようにグラマラスが溶けたロメウスの首の中へと吸い込まれていった。
嫌なにおいを放ち、ロメウスの首は溶けてなくなった。
グラマラスを道連れに。
「すみません、私のせいで神武が……」
「いや、ティルダが無事ならそれでいい」
神武はなくなったが、ロメウスは死ん……
『厄介な神武はあと三つか――ぐぶぶぶ』
見れば、新たに生えた炎龍、氷龍、地龍の首が、いつの間にかすべて暗黒龍の顔になっていた。
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