襲いかかってきたソシアル騎士を四騎ノーダメージで掃討する。
支援効果、すげぇ!
「うまくいきましたね!」
「想像以上だ」
「すごいですね、わたしたち!」
「あぁ! さすがゆいなだ」
「さすが芥都さんです!」
予想以上の成果にテンションが上がってハイタッチを交わす。
「芥都さん、ゆいなさん!」
サクラが少し遅れて俺たちのそばまでやって来る。
移動距離が俺たちよりも1低いのでどうしても距離が空いてしまうんだが。
「素晴らしい戦いでありました!」
俺たちの戦いを離れた位置から見ていたようで、称賛をくれる。
「芥都さんの攻撃は常人よりも威力が高く見えたでありますが?」
「レイピアには騎士に対して特効があるからな」
特効というのは、ある特定のジョブに対して有効な威力を発揮するものを言う。
ペガサス騎士など、空を飛ぶ者に高い威力を発揮する弓。
騎士に対し高い威力を発揮するレイピア。
アーマー騎士に対し高い威力を発揮するアーマーキラー。
ドラゴンに対し高い威力を発揮するドラゴンキラーなどがある。
俺の装備しているレイピアは、ソシアル騎士やアーマー騎士に対して特効を持っていることになる。
具体的には、特効が付いた武器で攻撃すると攻撃力が三倍になる。
俺の今の攻撃力が9だから、特効付きの武器で攻撃する時は27になる。
防御力が12あるアーマー騎士相手でも15のダメージを与えられることになる。
これは、アイリーンの魔法よりも高い威力だ。
じゃんじゃん活用していくべきだろう。
「どうやら、自分は間に合いそうもないでありますね」
もし、ソシアル騎士の攻撃を食らって俺が瀕死になってしまっていたら、サクラにはカフサスの前に立ってもらい、敵ターンでカフサスのHPを多少削ってもらおうかと思っていたのだが、俺がノーダメージなのでその必要はなくなった。
次のターン、こちらのターンで俺がカフサスと一騎打ちをすれば必ず勝てる。
カフサスの攻撃力は14なので防御力6の俺には8のダメージしか与えられない。
クリティカルヒットさえ出なければ問題はない。
おまけにゆいながそばにいてくれれば支援効果で回避率が上がる。
絶対に勝てる!
あとは山賊が三人だが、アイリーンがノードンを、シャクヤクが一人、タイタスとティルダで一人片付ければいい。
誰かが残ったとしても、ロスはない。
次のターンで俺がカフサスを倒す。ティルダたちが山賊を攻撃する。
ここで倒しきれなくても、俺が玉座を制圧するのはその次のターンだ。
そのターンで先に山賊を掃討してから玉座を制圧すれば無駄はない。
よし、これでばっちりだ。
そう思った時、突然ウィンドウが目の前に開いた。
そこには、お付きのソシアル騎士を一掃されて盛大に焦っているカフサスが映し出されていた。
『は、話が違う! コンペキアにはこんな強い兵はいないという話だったではないか!』
そこへ、謎のシルエットが現れる。
ただし、それは四妖精の誰でもなかった。
『泣き言とは情けないね』
愉快そうな声音で、ころころと喉を鳴らすように笑うシルエット。
それは、どこか幼さを感じさせる姿をしていた。……子供、か?
『ゲームは、いつでも命がけなんだよ?』
『な、なんだ、お前は!? 誰に向かって口を利いているのか分かっているのか!? ワシはナヤ王国重装騎士団――』
カフサスが唾を飛ばしながら喚き散らしている最中に、突如として落雷が降り注いだ。
目が眩むような閃光が走り、遅れて爆音が轟く。
思わず瞑ってしまった目を開けた時、そこにカフサスは存在しなかった。
……え?
ボス、なんだよな?
ウィンドウは、誰もいなくなった王宮の入り口を映し続けている。
カフサスも、幼い少年のようなシルエットも、そこにはいない。
ただ、無邪気な声だけが聞こえてくる。
『誰に向かって口利いてんだは、こっちのセリフだよ』
ころころとノドを鳴らすように笑うその声には、はっきりと苛立ちが感じ取れた。
『お前なんかじゃ全然役に立たない。芥都を追い詰めるどころか、余裕で攻略されてんじゃん』
名を呼ばれ、ある仮説が脳裏に浮かぶ。
『あ~ぁ。やっぱり、正規のルールじゃ芥都は本気すら出さないかぁ』
その仮説が正しいのではないかという思いが強くなっていく。
『もうワンランクレベルを上げても、いいよね?』
姿の見えない声が問いかけてくる。
俺に、尋ねている。
聞いてくるってことは、そこにいるんだよな。
じゃあ、こっちの問いも聞こえるよな。
「お前が、神様か?」
その問いへの返答はなかった。
ただ、可笑しそうにくすくす笑う子供の声だけが耳の中へと紛れ込んできた。
『ターン制度もやめにしよう。ステータスも、数値にするのは無粋だね。でも縛りがないのもつまらないからさ、【神技】は禁止ね』
何も答えない声は、一方的な決定事項を告げてくる。
『だから、早く助けに行ってあげた方がいいかもね――』
くすくすと笑って、声が風に消える。
助けに――?
「きゃあ!」
悲鳴を聞いて我に返る。
今の声は。
「プルメ!」
こちらのターンを終了していないというのに、山賊たちが勝手に動き始めていた。
「マズい! ゆいな、サクラ! 加勢に行くぞ!」
「はい!」
「自分も急ぎます! どうかお先に行ってください!」
東の塔と西の塔の間は300メートルほど離れている。
全力で走ればすぐに助けに迎える。
移動距離っていう縛りさえなくなれば、いくらでも走れるんだ。
だが、そうすると、きっと攻撃力や防御力といった縛りもなくなっているのだろう。
ヤツら本来の攻撃力が戻り、俺たち本来の防御力に戻っている。
100メートルほど近付いただけではっきりと感じた。
山賊どもの体の巨大さを。
あんな膨れ上がった筋肉から繰り出される攻撃の威力とはどれほどのものなのか……
少なくとも、直撃を喰らって「ダメージ3か、まだまだ余裕だぜ!」なんて言ってはいられないだろう。
「タイタス、援護だ!」
「了解です☆」
タイタスが弓を放ち、ティルダが上空から槍を突き立てる。
プルメを襲っていた山賊が野太い悲鳴を上げて地面へ倒れ込む。
しばらくすると、山賊の姿が掻き消えた。
ステータスがなくなろうとも、これは試練なのだ。
あいつらは試練のために用意された敵キャラなのだ。
……だとしたら、サクラたちは?
あいつらも、試練のために用意された『キャラクター』なのか?
「芥都さん、ノードンがこちらに向かってきます!」
ゆいなの声で我に返る。
少し考え込んでしまったらしい。
ノードンがこちらへ突っ込んできていることに気が付かなかった。
「テメェら、よくも貴族への道を邪魔してくれたな!」
カフサスを消したのは俺ではないのだが、ノードンは俺に明確な殺意を向けている。
「なぶり殺しにしてやるっ!」
剣と斧では剣の方が強い。相性がいいから回避率が上がって――
「ぐぅっ!」
回避しようとしたが、ノードンの斧が左肩を掠めた。
さっきまでは、斧で切られようが血など出なかったのに、今は掠っただけで燃えるように熱く、血が迸る。
……もしかしたら、ここで殺されたら俺もカフサスや山賊たちのように跡形もなく消えてしまうのか?
存在自体がなかったことにされちまうのか?
背筋に寒いものが走る。
ノードンがニヤリとあくどい笑みを浮かべながら斧を振り上げる。
その斧が振り下ろされ――
「芥都さん!」
ゆいなの声が聞こえ、俺の体が勝手にその場を飛び退く。
綺麗に敷き詰められたレンガを捲れ上がらせてノードンの斧が地面を砕く。
危なかった。
ゆいなの声が聞こえてなけりゃ、俺は今死んでいた。
「大丈夫ですか」
「あぁ。支援効果のおかげでな」
支援効果ってのは、こういうことをいうのかもしれない。
ゆいながそばにいて、負けるわけにはいかない。
突然何もかもが変わっちまって若干混乱したが、要するに『数字がなくなった』だけだ。
やるべきことは変わらない。
大切な者を守り、敵を倒す。
「よし、気を取り直して、勝負だ!」
体勢を立て直し、ノードンへと斬りかかった。
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