森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

307 神聖魔法と三種の神武

公開日時: 2022年2月22日(火) 19:00
文字数:3,970

 神が消え、神が残していった光の玉から四妖精が出現した。

 つまり、こいつらが神聖魔法と三種の神武を修復するというわけか。

 

「なぁ、アリ、オリ、ハヘ゛リ、イマソリ」

「「「「……すーん」」」」

「いや、返事しろよ。こっち見ろよ!」

「失礼ながら、ナゾリなもので」

「ナゾリなもので」

「ナソ゛リなもので」

「ナゾソリなもので」

「謎でもなんでもねぇだろうが!」

「まぁまぁ、芥都さん。そういう設定なんですから、付き合ってあげましょうよ」

 

 ゆいなは可愛い生き物にはことさら甘い顔をする。

 しょうがない。

 

「じゃあ、ナゾリ」

「「「「…………あ、なに?」」」」

「自分たちでもしっくりきてねぇんじゃねぇか!?」

 

 じゃあもういいだろうが、普段通りで!

 

「こちとら、神の使いの妖精、むやみに名乗れないのだー!」

「いやもう、神の使いの妖精って身分明かしちゃってんじゃん!」

「略して、神の使いの妖」

「なんで略した!? しかも中途半端に!」

「バイブスアゲて、神の使いだYO!」

「バイブスってなんだ!?」

「YO! YO! アイムDJイマソリ、チェケラッ!」

「名乗っちゃたよ!? DJイマソリ!」

「「「「うぐぅ、バレてはしょうがない!」」」」

「バレてたけどね! なんならステージ1からずっと!」

「芥都さん、大人気ないですよ」

 

 なんでか俺が怒られた!?

 ゆいな、その贔屓は人の心を荒ませるぞ!? よくないぞ、そーゆーの!

 

「で、この武器は直るのか?」

「延長保証してる?」

「してねぇよ!? そもそも保険に入ってないし!」

「じゃあ全額保証だけど平気?」

「お前んとこの親玉が壊したんだよ! そいつに請求しとけ!」

「データ初期化されるけど平気?」

「スマホ壊れた時に言われがちなヤツ!?」

「ちなみに今スマホどこの使ってる? 乗り換える気ある? ルーターとセットだと割引がきいて、月額すっごく安くなるプランとかあるけれど?」

「家電量販店で頼んでもないのによく言われるヤツ!?」

「「「「絵画に興味ある?」」」」

「絵画商法のヤツやめい!」

「「「「ちなみにだけど、神様って信じる?」」」」

「しゅーきょーほーじーん! って、今の今まで神様とがっつり絡んどいて『いないと思う』とか言い出したら、俺相当ヤバいヤツだから!」

「芥都は相変わらずこの妖精らが好きでおじゃるの」

「仲良しさんでいいと思いますよ、私は」

「いいから話を進めてくれるかしら?」

「だそうですよ芥都さん。非難轟々です」

 

 だから、なんで俺だよ!?

 よく見てた、シャル、ティルダ、アイリーン、ゆいな!?

 脱線しまくってたのは四妖精の方だよね!?

 あ~ぁ、可愛いは正義かよ、そーかよ、ちきしょー!

 

「じゃあ、この四つの武器を直してくれるか?」

「「「「まかせてー!」」」」

 

 両手を上げて、無邪気に破壊された武器へと駆け寄る四妖精。

 それぞれが一つずつの武器の前に立つ。

 

「神は言った」

「試練は意味があった」

「神は言った」

「もう満足」

 

 壊れた武器に手をかざし、四妖精が順番に言葉を発していく。

 

「神は言った」

「試練はもう十分」

「神は言った」

「次はもっと楽しいことをする」

 

 この試練をさっさとクリアして、今度は自分と遊べと神は言っていた。

 試練が終われば、いよいよ神とご対面か。

 

 そのためにも、この試練をさっさとクリアしないとな。

 

「神からの厳令」

「武器を直し」

「芥都たちのサポートをし」

「試練をクリアせよ」

 

 四妖精の体が輝きを放つ。

 壊れた武器がぐにゃりと歪み、四妖精の体内へと吸い込まれていく。

 

「神武は」

「我々様が」

「責任を持って」

「修復する」

 

 まばゆい光が溢れ、四妖精が放つ光が一つに重なる。

 目もくらむような閃光の中、四妖精の楽しげな声が響く。

 

 

 

「「「「ささやかな遊び心を追加してー!」」」」

「すっごく不安!? 余計なことしないで普通に直して!」

 

 

 

 だが、俺の叫びに返事はなく、白い光が部屋を埋め尽くし――やがて消える。

 

 光が消えると、聖域内は静寂に包まれた。

 恐る恐るまぶたを開けると、そこに四妖精の姿はなく、四つの光の玉がふわふわと浮かんでいた。

 

「この光の玉から、強力な魔力を感じるなのです」

 

 聖域に浮かぶ四つの光の玉。

 そこから魔力を感じるとエビフライ――大司祭ミラが言う。

 なら、そこにあるのだろう。アイツらが修復してくれた神武が。

 

「これを受け取れるのは……」

 

 エビフライが俺たちを見渡す。

 おそらく、持ち主はもう選ばれている。

 

「ゆいな、ティルダ、タイタス、そしてアイリーン」

 

 俺たちが弾かれたスパークする光の玉に触れることが出来たこの四人。

 

「選ばれたのはお前たちだ。受け取ってやれ、暗黒魔法と暗黒龍を打ち破れる神武を」

 

 名を呼ばれ目を丸くしていた四人は、俺の言葉に笑みを浮かべる。

 強い意志の籠もる笑みを。

 

「はい!」

「僭越ながら、拝受致します」

「頂戴しましょう、神よりのギフトを☆」

 

 ナビゲーター三人とは異なり、アイリーンは自身の手を握り見つめていた。

 

「私が、暗黒魔法を破る神聖魔法を使うのね……」

 

 ニッと歯を見せ誰より先に歩き出す。

 

「使いこなしてみせるわ、神聖魔法『ムーンライト』! そして、暗黒魔法『魔封』を帝国の野望ごと打ち破ってやるわ!」

 

 決意と共に、浮かぶ光の玉へと手を伸ばす。

 バスケットボール大の光の玉にアイリーンの手が飲み込まれていく。

 

 

「そなたに授けよう――」

 

 

 聖域に声が響く。

 これはアリか。

 あいつらが語りかけてくれるのだろう、神武を授かる者たちに。

 

 

「受け取るがいい。神聖魔法『月に変わっておしおきYO!』」

「名前変わってないかしら!?」

 

 あちゃー……しっかり追加されちゃってるよ、ささやかな遊び心。

 

「……継承、したのだけれど。間違いなく神聖魔法『月に変わっておしおきYO!』だわ、この魔法……」

 

 淡く輝く魔導書を手に渋い顔をするアイリーン。

 継承された喜びよりも、残念な名称変更のがっかり感が強いようだ。

 

「で、ですが、威力は同じなのです、……たぶん」

 

 エビフライが焦ってフォローをする。

 魔力的には、元の魔導書と遜色ない、むしろ魔力が強くなっているらしい。

 修復は完璧なわけだ。

 ただ、ささやかな遊び心が追加されただけで。

 

「……なんだか、神武を受け取るのが怖くなったんですが?」

「そう言わずに受け取ってこい。威力は確からしいから」

「では……」

 

 尻尾をうにうにさせて、しょっぱい顔でゆいなが光の玉へ向かっていく。

 タイタスとティルダもそれに続く。

 ゆいなが一番に光の玉に触れ、次いでタイタス、遠慮でもしたのかティルダが最後に光の玉に触れた。

 そして、同じように妖精たちの声がそれぞれ響いてくる。

 

 ゆいなが継承する神の剣ファルシオン。

 タイタスが継承する神の弓パルティア。

 ティルダが継承する神の槍グラディウスが姿を現す。

 

 

「そなたに授けよう。受け取るがいい。神の剣『春紫苑』」

「漢字表記!? それ日本に咲く菊科の花の名前だよね!?」

「そなたに授けよう。受け取るがいい。神の弓『パルティ矢』」

「なんかダジャレっぽくなってない!?」

「そなたに授けよう。受け取るがいい。神の槍『グラマラス』」

「ホントだ、柄の部分が妙にボンキュッボン!?」

 

 

 ことごとく、ささやかな遊び心が追加されていた。

 

「……芥都よ」

「俺のせいじゃねぇよ!?」

 

 そんな目で俺を見るな、シャル。

 確かに俺が突っ込んだけども! ボケたのは俺じゃないから!

 

 大賢者が遺したとされる神の武器を手に入れた四人は、どことなくしょっぱい表情で各々の武器を眺めていた。

 威力は問題ない。

 だからこそ……残念だなぁ、ささやかな遊び心!

 

 

「だが、これで帝国に乗り込めるな」

「せやね。皇帝の使うけったいな魔法も、アイリーンがいれば怖ないし、暗黒龍ゆぅても、しょせんはハーフドラゴンや。ウチがちょちょ~いとひねったるわ」

「待ってください、クリュティアさん!? 折角神武を手に入れたんですから、わたしたちに任せてくださいよ、暗黒龍!」

「いや、でもゆいなはんは、ほら……オモロイ担当やん?」

「そんな担当を担った覚えはないですよ!?」

 

 と、オモシロ武器を振り回してゆいなが抗議する。

 よく見ると、柄が花の形になっていてとってもキュートだ。帯剣していると、腰に花が咲いているように見えるだろう。

 鍔が葉っぱの形なんだな。よく出来ているじゃないか、うん。

 

「アイリーンさん、ティルダさん、タイタスさん! 帝国と暗黒龍はわたしたち四人が先頭に立って退治しましょうね!」

「そうね。ここでの活躍は譲れないわ」

「私も、微力ながらお手伝いしますね」

「活躍すれば芥都さんにご褒美がもらえるかもしれませんから、ね、芥都さん☆」

 

 なんで俺だ。

 先走って無茶はするなよ。

 

 神武を手に気勢を上げる四人。

 いつもなら、後方に控えている面々が盛り上がっている。

 

 ……もしかして。

 

「ふむ、麻呂もそう思ぅておじゃったところじゃ」

「ウチもやで」

 

 俺の顔を見て、シャルとクリュティアが向こうの四人に気付かれないように声を潜めて言う。

 そして、キースも。

 

「おそらく、戦闘力で劣るあの四人を試す試練だったのだろうな、今回のこれは」

「麻呂たちが捕らわれ、あの者たちは初期から芥都とともに戦火をくぐり抜けてきたのでおじゃろ?」

「もしかしたら、芥都はんの足手まといにならへんかどうか、それを見極めとったんかも知れへんね。……自分の神さんなんやろ、この試練の仕掛け人?」

 

 キースやシャル、クリュティアは俺と肩を並べる強者だ。

 だが、あの四人は違う。

 ……タイタスは案外俺より強いかもしれんが。水のない場所では戦力は半減するとは言え。

 

 とにかく、その四人が俺と肩を並べられる存在なのか。

 それを見極めるための試練だったとしたら、このタイミングで神が手を引いたのも頷ける。

 俺が指示を出してその通りに動くだけになっていたターン制を廃止した理由もな。

 

 ……まわりくどいっつーの。

 

 ともかく、神武を得てさらに強力になったあの四人に、盛大に期待するとしよう。

 

 

 

 

 

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