森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

288 ビキニカーニバル

公開日時: 2022年1月28日(金) 19:00
文字数:3,901

 居城の割と大きめの廊下に、数多のビキニ美女がひしめき合っている!

 

Q.ここはパラダイスですか?

A.はい。ここはパラダイスです。

 

「ゆいな、でかした!」

「確かに、ゆいなさんの【特技】のおかげで強固なアーマー騎士の防御力がほぼゼロになりました! さすが芥都さまの作戦です!」

「違うわよ、プルメ。芥都の『でかした』はもっとくだらない意味よ」

 

 数十人、下手をすれば百人にも届くかという数のアーマー騎士を前に為す術もなかった俺たちだったが、ゆいなの『世話焼き鳥のお召し物』の力で形成が一気に逆転した。

 彼女たちを守っていた頑強な全身鎧は姿を消し、代わりになんとも無防備な肌色が眼前に広がり、カラフルな布地がわずかばかりの面積で辛うじてデリケートなゾーンを隠している状況となっている。

 

 ブラボー!

 まさにブラボー!

 

 素晴らしいよ。

 YOUはTruly最高だよ!

 

「な、なんだこれは!?」

「幻術か!?」

「い、いえっ、ほ、本当に裸……い、いえ、このような姿に!」

「近場の者同士で確認しましたが、本物の皮膚のようであります!」

「おのれ、なんと卑猥な!」

「いやぁ! み、見られていますっ!」

 

 敵のアーマー騎士軍団、鉄壁騎士団の女性たちが戸惑っている。

 槍こそ手放さずにいるが、その腕はクロスして自身のあらわになった胸元を覆い隠すのに忙しいようで、こちらに切っ先を向ける者はいない。

 

 

 わはぁ……むっぎゅむぎゅしてるぅ~。

 

 

 

「ごめんなさい。その槍を貸してくれるかしら? ちょっと刺したい男がいるのだけれど」

「こらこらこら、アイリーン! 敵と気安く口を利くんじゃない!」

 

 そして、その刺したい男ってのはきっと勘違いだから。

 お前はそんなことをする娘じゃない。そうだな?

 

「てい! てい! ていていのてい!」

 

 カシャンカシャンと、鎧の上をくるくると飛び回りアーマー騎士をビキニに替えていくゆいなが、廊下にひしめいていたアーマー騎士の頭上をぐるりと回ってこちらへと戻ってきた。

 

 鎧から鎧へと飛び移り、ワンタッチしてまた次へと飛び移っていく。

 まるで猫のような身軽な身のこなしだ。

 さすが犬族。運動能力が半端じゃない。

 

「よいしょっと! ただいま戻りました芥都さん! どうですか、全員余すことなくビキニ姿にしてやりまし…………何事ですか、この桃色空間は!?」

「あなた、気付いていなかったのかしら!? あなたが作り上げたものなのよ、この桃色空間は!」

「何パブですか!?」

 

 ビキニパブか?

 え~、じゃあナンバーワンの娘を指名しちゃおうっかなぁ~。でへっ。

 

「緩んだ顔しないでください! 鼻の下伸び過ぎですよ!?」

「気付くのが遅いわよ……もう、さっきからデレデレしっぱなしなんだから……」

「仕方ありませんね……アイリーンさん、彼女たちに加勢しましょう!」

「まてこら。目的を見失うな」

 

 これは、あくまで一刻も早くシャルを救出するための作戦であって、臨時オープンビキニパブは偶然の副産物だ。

 つまり役得!

 ラッキーハッピーというヤツだな、うん。

 眼福眼福。

 役得役得。

 

「……くっ。むっきむきのおっちゃんたちの『な、なんじゃこりゃー!?』な暑苦しくも恥ずかしい絵面になるかと思っていましたのに……っ!」

「それはそれで、ちょっとどうなのって感じだけれどね」

「まぁまぁ、いいではありませんか。敵の防御力を無効化できたのですし、ここにはテッドウッドさまもいないのですし」

「プルメ。あなたのその『自分さえよければあとはどーでもいい』みたいな発想直しなさいね。感じが悪いわよ」

 

 女子たちがわいわい騒いでいるが、敵さんたちはそれどころではない。

 

「どうなっているのだ、これは!?」

「えぇい! 鎧がなくとも、我らにはこの槍がある! カーマイン殿下が王都へ着かれるまでの時間を稼ぐのだ!」

「この格好でですか!?」

「あんまり動くと、あの……み、見えちゃいます……っ!」

「こぼれちゃいますっ!」

 

 いいよ!

 どーんと行ってみようよ!

 

「よぉし、正々堂々勝負だ! 何人でかかってきてもいいぞ!」

「急に生き生きしないでください! 思春期を封印するアイテムを探す旅に同行させますよ!?」

 

 絶対神の神殿を目指すレースの途中で、そんな余計な寄り道をしている暇はない!

 

「芥都さん。嬉しいお気持ちは重々お察ししますが……【特技】の解除方法がバレると厄介なことになりますよ。ここは、強行突破を選択しましょう」

 

 一秒でも早くシャルを助けに行きたいタイタスが、割とマジなトーンで釘を刺してくる。

 まぁ、ここに永住するわけにもいかないし、タイタスの言うとおり『世話焼き鳥のお召し物』の解除方法がバレてしまえば、こいつらは全員あの全身鎧に戻ってしまう。

 だから、彼女たちには『一枚たりとも脱がれるわけにはいかない』のだ。

 

 偶然でも意図してでも、誰か一人がビキニを脱げば『世話役鳥のお召し物』は解除され、あの強固な全身鎧に戻ってしまう。

 それが知れれば、他の者たちもそれに続くだろう。

 

 だからこそ、『彼女たち自身にビキニを守ってもらう』べきだ。

 それこそ、絶対脱げないように。

 

「よぉし、タイタス! 誰でもいい。好みの『おんにゃのこ』のビキニを狙っちゃいなよ! YOU、やっちゃいなよ!」

「了解いたしました。肩紐、ブラホック、パンツのサイド……さぁ~て、どこを狙ってやりましょうかねぇ……んふふふ★」

「さぁ、『ぽろり』と『いや~ん』をしたいヤツから前に出ろ~!」

「ここからは、オ・ト・ナ・の時間です★」

 

 俺とタイタスが『作戦のために』ゲスい笑みを浮かべると、俺たちと向かい合っていたすべての女性が顔を真っ青にして、自身の体を強く抱きしめ、全身に鳥肌を浮かべた。

 

 

「「「「ぃ……いやぁぁぁあああああ!」」」」

 

 

 悲鳴。

 阿鼻叫喚。

 地獄絵図。

 

 城の中のあっちこっちの扉からわらわらと現れたアーマー騎士たちは、ビキニ騎士へと変貌し、涙と羞恥で顔を真っ赤に染めて泣きながら出てきた扉の中へと駆け込んでいった。

 

「……最低ね」

「作戦だっつーのに!」

 

 アイリーンからの極寒の視線を受け弁明をしておく。

 あの嫌らしい笑みはあくまで演技だ、演出だ、エンターテイメントだ!

 イヤラシイ気持ちなんか、ほんのこれっぽっちしかなかったっつーの!

 

「んふふ。随分とすっきりしましたね☆」

 

 廊下を埋め尽くしていたアーマー騎士はいなくなり、ただ一人、真っ赤な髪をしたビキニ姿の美女だけが残った。

 

 彼女は、先ほど画面に映し出されていたカーマインの幼馴染で、若干ヤンデレの気がある女性、テレジアだった。

 そうか、彼女があのジェネラルだったのか。

 

「き、ききっ、貴様りゃ! わたっ、わたしゅに、にゃにをしたのにゃ!?」

 

 緊張と羞恥からカミカミだ。

 顔が髪に負けないくらいに真っ赤に染まり、おまけにビキニだから胸の谷間が見放題で…………あれ? 谷間は? あっれぇ? ビキニなのに谷間が見当たらない!? 両腕で胸元をぎゅっとかき抱いているのにもかかわらず谷間がどこにもない!

 そーいえば、この人はド貧乳さんだったんだ!?

 

「……くっ、見、見るにゃぁぁあ、どーせ小しゃいもん! 見ゅなぁぁ!」

 

 悔しさと羞恥で顔を朱に染め涙を両目一杯に溜めている。

 その姿――プライスレス。

 

「あれ、仲間にならないかな!?」

「絶対ならないですよ!?」

「私も、あんなことをされた相手の仲間には死んでもならないわね」

「私は……割と嫌じゃないですよ……きゃっ、もう、何言わせるんですか、エッチ!」

 

 相変わらず、プルメの脳内は全体的に薄桃色のフィルターがかかっているようだ。

 どうかこの先、この娘がまっとうなレディになる可能性が残っていますように。

 

 ……と、時間がないんだったな。

 

「悪いが、通らせてもらうぞ」

 

 槍すら構えられないテレジアに告げる。

 お前に恨みはない。

 出来ることなら命までは取らずに済ませたい。

 

「ふ、ふじゃけるにゃ! な、なんぴゅちょっ、にゃんぴと! なんぷちょ! ……えぇい! 誰もここはとおしゃないにょん!」

 

 どうやら「何人たりとも」が言えなかったらしい。

 やだ、あの年上レディ、可愛い。

 

「芥都様。ここは自分が――」

 

 サクラが前に出るがそれを止める。

 これは、カミカミ可愛い年上レディに対する同情ではない。

 

「余計な時間はかけられない。……扉の向こうに行ったアーマー騎士たちが戻ってくる可能性もある。一秒でも早くここを突破する方法を選択したい」

「……了解したであります」

 

 というわけで。

 

「ティルダ。大至急シャクヤクたちを呼んできてくれ」

「かしこまりました」

「ま、まちゅのだ! ひとりたりとて、逃がすとおみょうか!?」

「タイタス。テレジアを縛り上げてくれ。得意だろ?」

「はい☆ 二秒で縛り上げられます★」

「なるべく卑猥じゃない縛り方を希望するわ」

 

 アイリーンの要望が聞き入れられ、テレジアは両手足をきつく縛られ、動きを封じられた。

 これで、ビキニが脱げることもないだろう。

 

「プルメとアイリーンは、扉を観察しておいてくれ」

 

 もし、アーマー騎士がドアから出てくるようなら、廊下を埋め尽くされないように対処しなければならない。

 俺とアイリーンでアーマー騎士を各個撃破し、プルメに回復を頼む。

 そして――

 

「ゆいなは少し休んでろ。精神力、使い過ぎただろ」

「あはは……お見通しでしたか」

 

 あれだけ【特技】を連発すれば精神力が摩耗する。

 俺は『慈しむ膝枕』が使えないからな。休ませてやることしか出来ない。

 今回の功労者は、間違いなくゆいなだ。

 

 

 だが、俺の心配をよそに、アーマー騎士が再び現れることはなく、俺たちはヒルマ姫たちと合流し、カーマインの居城を抜けた。

 城の中を通り抜ける形で延びる関所を兼ねた通路を通り、ワシルアン王国へと踏み込む。

 

 

 待ってろシャル。

 今すぐ助けに行ってやるからな!

 

 

 

 

 

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