森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

308 頼もしい仲間たち

公開日時: 2022年2月23日(水) 19:00
文字数:3,948

 ミラの神殿を出ると、そこに帝国の騎士団が待ち構えていた。

 やはり情報は筒抜けで、神武を持って出てきた俺たちを包囲して壊滅させるつもりだったようだ。

 だが――

 

「肩慣らしにはちょうどいいですね☆」

「わぁ、すごいです。この槍、遠く離れた場所からも攻撃できるんですね」

「はぁ~! 『ゆいなお花斬り』っ!」

「喰らいなさい! 『月に変わっておしおきYO!』」

 

 ――神武がもう、強い強い。

 

「自分たちの出番がないであります」

「四人で全部持ってっちゃうんだもんなぁ~」

「まぁまぁ。私たちはヒルマの護衛に専念すればいいなのです」

 

 そんなわけで、俺たちは馬車の前でどんどん減っていく敵の騎士をぼ~っと眺めていた。

 ゆいなの春紫苑はアーマー騎士の鎧もソシアル騎士の馬も、魔導師の魔法でさえもすっぱすぱと切り裂く恐ろしい威力で、タイタスのパルティ矢は一射で矢が八方向へ飛んでいく手動マシンガンで、ティルダのグラマラスは槍の先から斬撃を飛ばして遠近どちらの敵も一突きで貫くとんでもない威力を持っていた。

 

 ちょっとだけ、敵に同情しそうなほどの高威力だ。

 

 そして、アイリーンの『月に変わっておしおきYO!』は、広範囲殲滅魔法と呼ぶのが相応しいえげつない破壊兵器だ。

 太陽の光の中だろうと関係なく、頭上から月の光が降り注ぎ、半径10メートル程度の広い範囲内にいる敵だけを焼き尽くすという恐ろしい魔法だ。

 射程の中に入っていたティルダやゆいなは無事だったので、アイリーンが敵と認識している者にだけ効力を発揮するのだろう。

 

 ……今後アイリーンは怒らせないようにしよう。

 

 そうして、あっという間に帝国の一個小隊を壊滅させた。

 二十~三十人くらいいた気がするんだけどなぁ……

 

 

 それから、帝国領内を進むうち幾度となく帝国騎士団との戦闘が勃発した。

 ……が、神武を得た四人が強くてなぁ。

 

 これ、もう俺と肩を並べるどころか、俺が置き去りじゃね?

 

「芥都! 右前方からナヤ王国のアーマー騎士団が向かってくるわ! 大群よ!」

「左前方には帝国騎士団であります。数はおそらく一個旅団相当かと!」

「このままじゃ挟撃されちまうな!」

「ほな、ウチはナヤ王国の方行ってくるわ」

「では麻呂もじゃ」

「俺もナヤ王国の方だな」

「我もゲレイラで応戦を」

「でしたら、ワタシもそちらへ☆」

「「「「お前らは帝国騎士団の方をやってろ!」」」」

 

 こちらに来ようとしたタイタスをクリュティアたちが怖い顔で威嚇する。

 なんか、獲物を掻っ攫われ続けて、みんなちょっとフラストレーション溜まってるっぽいなぁ。

 クリュティアまでムキになってる。

 

 まぁ、実際、帝国の騎士が千人来ようが五千人来ようが、神武を持つ四人の前では雑魚同然なんだよな。

 大食いタレントが巨大オムライスを食ってる映像を見せられている感覚に近いだろうか。

 最初は「多いなぁ」と思っても気付いたらなくなってるんだよな。

 で、本人たちはけろっとしてる、みたいな?

 応援のしがいもない。

 

「あたしも暴れた~い!」

「では、シャクヤクはシャルっぺたちと共にナヤ王国騎士団の討伐へ向かうであります」

「サクラは?」

「自分は、この命に代えてもヒルマ姫をお守りする所存であります」

「そっか。サクラ、ヒルマのこと大好きだもんね」

「当然であります」

「エビフライはどうする?」

「あ、私も行くなのです。あの四人を見ていると、なんだか体がうずうずして……ふふ、大司祭失格なのです、こんな感情。でも、大暴れしてやるなのです!」

 

 大司祭ミラの記憶を持ちながらエビフライとして生きてきた彼女は、もうすっかりとエビフライという女の子になっていた。

 そのままコンペキア王国の少女として生きてもいいじゃないだろうか。

 大司祭の使命なんてもんは忘れてしまって。

 

「あ、それと、プルメさんがシスターから司祭にクラスチェンジしたので、神殿にあった『サンダー』の魔導書を渡しておいたなのです」

「ん、ちょっと待って!?」

 

 プルメがクラスチェンジ!?

 

「『ヒプノシス』はまだ使えないようですが、ひょっとするとひょっとするかもなのです」

 

 わぁ……本気で使うつもりなんだプルメ。

 どうしよう。テッドウッド、ここらで戦死した方が幸せなんじゃないかな? 進言してみるか?

 

「芥都さんはどうする気なんですか?」

 

 各々が出撃準備を整える中、やる気満々なゆいなが俺に尋ねる。

 俺は――

 

「サクラと馬車に残るよ」

 

 戦力が分散されて守りが手薄になるのは困る。

 もしかしたら、それこそが敵の狙いかもしれないしな。

 

「では、拙者も残るザンス」

「いや、お前は行ってこいよ」

「アーマー騎士相手に盗賊のスキルは役に立たないんザンス!」

「いいんだよ、お前は。支援効果のためにムッキュのそばにいてくれれば」

「拙者ムッキュのバーターザンスか!?」

 

 そんなもんだろう。

 ムッキュはパラディンだからな。アーマー騎士相手でも引けを取らない。

 でもお前はダメだジラルド。

 ならせめて、自分を活かせる場所で活躍をしろ。

 ちなみに、馬車に残られても戦力的に不安なので頭数に入れられないし。

 

「あーもう! 分かったザンス! ムッキュ、行くザンスよ!」

「はいデス! ジラルド様はボクが守るデス!」

 

 よかったな、バーター。

 しっかり守ってもらえ。

 

「では、蹴散らしてきます!」

 

 意気揚々と、神武持ち四人が帝国騎士団に向かっていく。

 タイタスが牽制の矢を放ち、アイリーンが遠方から広範囲殲滅魔法を放つ。

 取りこぼした騎士をティルダとゆいなが的確に仕留めていく。

 レベルの差があり過ぎて、危なげもない。

 というか、神聖魔法……『魔封』に対抗できるとか別にして強力過ぎるだろう。

 

 

 一方のクリュティアwith転移者チームも開戦直後から派手な攻撃を繰り出している。

 クリュティアが空から青いブレスを浴びせかけ、シャルの聖獣が四方八方から襲いかかかり、キース、シャクヤク、エビフライが危なげなくアーマー騎士の守りを削り取っていく。

 頭上に巨大な魔方陣が出現しゲレイラの燃え盛る岩つぶてが降り注ぎ、アーマー騎士の防御力を貫通するプルメのサンダーが襲いかかる。

 白馬を駆るムッキュも銀の槍を振り回し善戦している。

 ジラルドは馬から落ちないようにしがみついている。うん、お前はそれでいい。

 

「みな、頼もしいでありますね」

「そうだな」

 

 馬車の前に立ち、サクラと会話する。

 左右に分かれ、敵の軍勢を相手に善戦する仲間たち。

 

「芥都様は参戦されなくてよかったのでありますか?」

「まぁ、ヒルマ姫を守らなきゃいけないし、それに――」

 

 懐かしいヤツを思い出したからかもしれないのだが……

 

「手柄の独り占めは、誰も幸せにしないからな」

「独り占め……で、ありますか?」

 

 実にくだらない話だ。

 くだらなくて、恥ずかしくて、未熟だった自分が痛々しい、そんな話だ。

 

「ガキのころ、仲間で集まってゲームをしてたんだよ」

「幼少のころから神々のゲームを?」

「あぁ、いや。もっと安全な――でも、本気でぶつかっていけるようなゲームだった」

 

 あの当時、俺たちは本気だった。

 たかがゲーム、たかが遊びと大人は言ったが、俺たちは人生のすべてを懸けるつもりでゲームと向き合っていた。

 

 だからこそ、クリアするという目標に向かってひたすら突き進めた。

 

「当時、俺が一番うまくてさ、まぁ今でも絶対負けないけど、でも順番でプレイしてたんだ」

 

 あれは高難易度シューティングだった。

 アーケードでは、大人が数千円注ぎ込んで攻略を目指していたほど、難易度が鬼設定のゲームだった。

 

「仲間の誰もが、同じところで詰まるんだ。何度やっても負けて、先に進めなかったんだよ」

 

 そのシューティングには何ヶ所か難関と呼ばれる場所があった。

 小学校の同級生たちはみんな、そこで詰まっていた。

 

「だから俺がやってやったんだ。俺はそこをクリア出来るから」

 

 最初は盛り上がった。

 誰もクリア出来ない難所をクリアした俺のテクニックに。

 賞賛と感嘆に、俺は快感を覚えていた。

 

 それから、仲間が難所で詰まると俺はコントローラーを取り上げ『代わりに』その難所を突破してやった。

 クリアまでの間に何度も出てくる難所。

 先に進めば進むほど、その難易度は上がっていく。

 

 最初の難関を突破できないこいつらには絶対ムリだ。そう思ったし、実際そうだった。

 だから、俺が代わってやった。

 

 

 結果、俺は仲間を失った。

 

 

 ウザがられたのだろう。

 今なら分かる。

 自分のテクニックを、腕前を見せつけ、俺は悦に浸っていたのだ。

 

 

 そして言われたのだ。

 

 

『手柄の独占は誰も幸せにしないよ』と。

 

 

「幼馴染に言われてな、すげぇ苦しかったよ。花を持たせるなんて、そんなこと知ってる年齢じゃなかったしな。実力がある者が絶対だって信じていた時期だったからな」

 

 当時の仲間たちは、なにもクリアをしたかったのではなかったんだ。

『自分で』クリアしたかったのだ。

 ラスボスを倒す直前まで進めて、球を一発撃ち込めばクリア――そんなお膳立てなんかされても、面白いはずがない。

 誰もが、難関を自分の力で越えたかったんだ。

 そして、越えた後の達成感に酔いしれたかったんだ。

 

 俺は、ソレの邪魔をしていたに過ぎない。

 

 

「あいつらが役に立ちたいって思ってくれるなら、存分に役に立ってもらうさ。で、終わったら精一杯賞賛を贈る」

 

 俺は手柄を独占したいわけじゃない。

 手柄の独占は、裏を返せば仲間たちへの批判にもなりかねないからな。

 

「お前らにはムリだろ?」ってな。

 

 気を付けてきたつもりだったが、今の今まで忘れていたのだから、俺の負けず嫌いは相当なものだな。

 自分で呆れてしまう。

 

 やっぱ、手柄は山分けしないとな。

 

 

「俺たちは一人で戦ってるんじゃないからな」

 

 

 なぁに、焦らなくても俺の出番は必ずやってくる。

 その時まで、仲間を信じて力を温存しておけばいい。そう思わせてくれたのだ。

 

 

 この【神々の遊技台】で出会った仲間たちが、な。

 

 

 

 

 

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