森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

285 居城前の混戦

公開日時: 2022年1月25日(火) 19:00
文字数:3,467

 落石で峡谷を塞ぎ、挟撃を回避した俺たち。

 目の前にはアーマー騎士を中心とした部隊が待ち構えている。

 その中でも異彩を放つのは、やはり上級職のパラディン。

 

「ま、逆に言えば、パラディンにさえ気を付ければ問題ないってことだ」

 

 アーマー騎士が六人。

 ソシアル騎士が四騎。

 パラディンが一騎。

 

 ターン制ではなくなったので、俺たちが近付けば一斉に動き出すだろう。

 アーマー騎士に強いアイリーンに期待したいところだが、混戦になればアイリーンの身が危ない。

 ステータスが廃止されたアイリーンは、防御力がない上に鈍臭い。

 

「アイリーンは鈍臭い」

「急に何かしら!? ケンカなら買うわよ!?」

「まぁまぁ、アイリーンさん。芥都さんは混戦になったら、アイリーンさんが危険だと懸念してるんですよ」

 

 ゆいなが俺の意図を汲み取ってくれる。

 さすがだな、相棒。

 

「アーマー騎士にはアイリーンさんの魔法が効果的ですけど、アイリーンさんは防御力がない上に鈍臭いので絶対死ぬなぁって思ってるだけですよ」

「確かにその通りかもしれないけれど、そこまではっきり言われる筋合いはないわ!」

「みなさんの総意ですよ」

「決めつけないでくれるかしら!? プルメも似たり寄ったりよ!」

「ひどっ!? ひどいですよ、アイリーンさま! 道連れなんて!」

 

 プルメのヒールも役に立つが、混戦の中に連れて行くのは躊躇われる。

 プルメも戦闘タイプではないし、防御力も低い。

 なにせ――

 

「プルメはほぼ全裸だからな」

「違いますよ、芥都さま!? ちゃんと着ています! 少々透けてこそいますが、きちんと着衣です!」

 

 ほぼ透けている衣の下が全裸なら、それはもうほとんど全裸と同じ、ほぼだ!

 

「というわけで、俺が突撃してくる」

「もちろん、わたしも行きますからね」

「自分も、お供するであります、芥都様!」

 

 アーマー騎士と相性がいいのは魔法を使うアイリーンと、特効を持つレイピアを装備している俺だ。

 なので、俺が行くのがベストだと思ったのだが、ゆいなとサクラが同行を申し出てきた。

 

「わたしがいれば支援効果が発動しますから、行かない理由がないです」

「自分はこの鉄壁の防御で壁役を務められるであります」

「なら、私がソシアル騎士を攪乱するのです。アーマー騎士の相手は荷が重いですが、同じソシアル騎士なら私は誰にも後れは取らないなのです!」

 

 そして、エビフライも頼もしいことを言う。

 

「じゃあさじゃあさ、あたしが空から敵を――」

「シャクヤクは馬車の警護であります!」

「今回はもう、おとなしくしてるなのですよ」

「はぅう……幼馴染たちがあたしに厳しい……っ!」

 

 いやいや、いまだに友達でいてくれるんだから、結構甘いと思うぞ。

 

「ティルダとタイタスは戦況を見て行動をしてくれ。なるべく馬車を守ってくれていると安心できるが――」

 

 馬車の中にはヒルマ姫がいるからな。

 敵軍の前で口外はしないけれども。

 

「タイタスは行きたいよな?」

「そうですね。あの居城の壁や扉が邪魔ですので撤去したいところです★」

 

 シャルが連れて行かれた居城の中。

 さっさとそこへ突入したいのだろう。

 

 俺だって、ゆいなが同じように攫われていたら、後方待機なんか絶対聞き入れない。

 どんなに危険だろうが、単騎突入の方を選ぶ。

 

「じゃあ、あのパラディンはお前に任せる」

「よろしいんですか? メインディッシュをいただいてしまって?」

「あぁ。人違いとはいえ、誰に手を出したのか思い知らせてやれ」

「んふふ★ 仰せのままに★」

 

 顔は笑みを形作っているが、タイタスは激しく怒り狂っている。

 その怒りを鎮めるのはシャルの笑顔か黒幕の首くらいしかないだろう。

 

「んじゃ、突撃だ!」

 

 睨み合っている時間が惜しい。

 お前らの顔なんか見ていても、楽しくもなんともないからな。

 

「ヒヒィィイイィン!」

 

 俺らが駆け出すと同時に、敵兵も前進を開始したのだが、直後に敵ソシアル騎士の馬が悲鳴を上げた。

 タイタスの矢が首に突き立っている。

 よくもまぁ、この距離で当てたもんだ。

 牽制のつもりだったのか、狙ってやったのかは分からんが、いつものように飄々と涼しい顔をしているので真意が読み取れない。

 

「弓の腕前がすごいそこの殿方! 右側、残り一騎も頼むのです! 私は左側二騎を仕留めてくるなのです!」

「任されましょう☆」

 

 エビフライがタルタルの腹を蹴り速度を上げる。

 ……うん。やっぱり名前覚えてないのか、エビフライも。

 頭よさそうなイメージあったんだが、国民性なのかなぁ、三人以上名前覚えられないの。

 

「タイタス、無理はするなよ!」

「それはどうでしょう?」

 

 にっこりと笑いながら、タイタスが弓を構える。

 目前にアーマー騎士が迫ってきているのだが、お構いなしに立ち止まりソシアル騎士に狙いを定める。

 立ち止まったタイタスに向け、アーマー騎士が槍を振り上げる。

 

 だが。

 

「アイリーン・どっかん!」

「ぐぉうっ!」

 

 アイリーンがアーマー騎士へ魔法を放つ。

 タイタスのすぐ隣で爆発が起こり、タイタスの髪が爆風に揺れる。

 それら一切を気に留めない様子で、タイタスが鋭い矢を放つ。

 

「ヒヒィイイン!」

 

 放たれた矢は、敵ソシアル騎士の馬の目に突き刺さる。

 馬が暴れソシアル騎士が振り落とされる。

 その直後、暴れ狂った馬が落馬した騎士の頭を踏みつけて、主共々風に溶けるように消えていった。

 

 ……こんな倒し方もありなのか。

 

 タイタスを見れば、居城を睨みつけたまま、ぽつりと言葉を零す。

 

「無理はしますよ」

 

 そして、涼しげな笑みを浮かべてこちらへウィンクを寄越してくる。

 

「無理をしてでも守るべき方が、この先で待っておられるもので」

 

 そうかい。

 じゃあ、せいぜい無茶をやり通してくれよ。

 

「っていうか、『アイリーン・どっかん』って」

「し、仕方ないでしょう!? 急いでいたから、お、思いつかなかったのよ……」

 

 切羽詰まりながらも、タイタスを助けてくれたんだな。

 このメンバーなら誰かがきっと助けてくれると、それを信じ抜いたタイタスも大した度胸だ。

 

「芥都さん、わたしたちも負けてられませんよ!」

「おう! こっからは、俺の見せ場のオンパレードだ!」

 

 タイタスとエビフライが両サイドから迫っていたソシアル騎士を無効化してくれたおかげで、目の前のアーマー騎士に集中できる。

 レイピアを構え、ゆいなと速度を合わせて敵の一団へ突っ込んでいく。

 

「アイリーンが体力を削ったヤツを確実に仕留めろ!」

「はい! 元気いっぱいなアーマー騎士は芥都さんにお任せします!」

 

 短い作戦会議が終わると同時にレイピアを振るう。

 隣でゆいなが舞うようにダガーを振るったのが分かった。

 

 

 スガガガガッ!

 

 

 と、派手な効果音が響き、アーマー騎士が二人同時に地に落ちる。

 その直後に、アイリーンの魔法がアーマー騎士にヒットする。

 

「自分も、同業者には負けていられないであります!」

 

 魔法で体力を削られたアーマー騎士へ、サクラの鋭い一撃が決まる。

 

 残ったアーマー騎士が揃って槍を突き出してくるが、それらはサクラが鎧で受け止める。

 

「ぬるいであります!」

 

 サクラが槍を振り回し、三人のアーマー騎士を弾き飛ばす。

 

 バランスを崩してふらつくアーマー騎士に、俺とゆいながとどめを刺し、残りの一人にはアイリーンが魔法を喰らわせていた。

 

 ステータスがなくなっても割と戦えている。

 これは嬉しい発見だ。

 

 俺たちは、戦える。

 

「な……なんなのだ、ヤツらは……っ!」

 

 エビフライが最後のソシアル騎士を討伐した直後、居城前に一人残されたカーマインが真っ青な顔で歯噛みする。

 本当なら、前後をワシルアンの騎士たちに囲まれて、手も足も出せずに惨めにやられていく、そうなるはずだと思っていたのだろう。

 悔しそうに朽ちていく俺たちを、特等席で見てやろうとでも思っていたのだろう。

 

 それが、まるで真逆の結果にたどり着いた。

 こちらは八人、全員無事。

 対して敵はカーマインただ一人を残すのみとなった。

 

「くぅ! こんなところでやられるわけにはゆかぬ! せっかくコンペキアの姫を手中に収めたのだ! これからあんな卑猥なことやこんなむふふなことをやり尽くさねばならぬのだ!」

 

 ……このおっさんは、何を大声で叫んでいるのだろうか。

 

「私の命に比べれば、こんな辺境の城など、なんの価値もない!」

 

 そんな捨て台詞を吐き捨て、カーマインは馬の腹を蹴り、居城の中へと入っていってしまった。

 

 

 て……敵前逃亡!?

 

 

「どこまでクズなんだ、あいつは……」

 

 かくして、レスカンディの谷に張られた罠を打ち破った俺たち。

 だが、休んでいる暇はない。

 すぐに居城に乗り込んでシャルを救出しなければ。

 

 俺たちは逃げ出したカーマインを追いかけて、カーマインの居城へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

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