「ゲームで勝負だと?」
俺の言葉に、妖精たちはこっくんと頷く。
「芥都がこれまでに体験したこともないようなゲーム」
「きっと驚く」
「『おったまげー』って言う」
「ぷっ、『おったまげー』って」
「言ってもねぇのに勝手に笑ってんじゃねぇよ」
濡れ衣もいいとこだ。
「アレを見ろー!」
緑の妖精が俺の後ろを指さす。
振り返るとそこには、いつの間にか無数の柱と巨大なブロックが出現していた。
「うぉっ!?」
「「「「おったまげー」」」」
「言わねぇつってんだろ!」
何を期待した目で見てくれてんだ。
言・い・ま・せ・ん!
とかなんとかやっているうちに、目の前に広がる世界が壁に覆われていく。
あっという間に、何もなかった空間が迷宮のように変貌した。
目の前には通路、左右には壁。まるで、3DダンジョンRPGのようだ
「この道の向こうにナビゲーターがいるー!」
「このダンジョンをクリア出来たらナビゲーターをプレゼントー!」
「ただし一筋縄ではこのダンジョンを攻略できないー!」
「制限時間もあるからぼやぼやしていられないー!」
「制限時間なんかあるのか?」
「「「「ゲームは一日一時間ー!」」」」
「そういう制限時間かよ!?」
ゲームの外の制約じゃねぇか。
ゲーム内の制限じゃないんだな?
念のため、ぐるりと辺りを見渡して、制限時間らしき表示がないかを確かめる。
……とりあえず、制限時間はなさそうだ。
「このダンジョンを抜ければいいのか」
壁に手を触れてみるが、冷たさも何も感じない。
目に見えているのに何も存在していないような、不思議な感覚だ。
「なぁ、ここが【神々の遊技台】ってところなのか?」
「ここは違う」
「ここはまだ神々の国の手前」
「芥都を招待した神が作った空間」
「【神々の遊技台】に行くにはまだまだ準備が足りない」
つまり、その準備をするための空間ってわけか。
ん、ちょっと待て。「芥都を招待した神」って言ったか、今?
俺は神様に招待されたのか?
まぁ、こんな有り得ないような空間に放り込まれて、ドット絵の妖精と会話してるんだ、少なからず普通のゲーム大会への招待状ではないよな。
……というか、こんな超常現象の真っただ中にいて、なんで俺はこんなに落ち着いてるんだろうな。
この16ビットの世界観に慣れ親しんでいるせいかな。
緊張どころか、新しいゲームを買ってきた時みたいにわくわくしている。
「じゃ、このゲームをクリアしてその神様ってのに認められたら、俺も行けるわけだな【神々の遊技台】へ」
「「「「そゆことー!」」」」
よっしゃ!
だったらサクッと攻略してやるぜ。
ダンジョンへ踏み込むと、すぐ目の前の通路を大きなブロックが塞いでいた。
そのブロックは天井まで届き通路をぴっちりと埋めるような立方体で、隙間なく通路を塞いでいる。
不思議なことに、ブロックの一面しか見えていないのに、このブロックが立方体であるとなぜか確信している。
そして、こいつを押して動かせばいいってことも。
よし、やってみるか。
「ふっ……んぬぅぅぅうううああああああ! …………ダメだ」
両手で押してみるも、ブロックはピクリとも動かない。
思いっきり蹴ってみるが、到底壊せそうにない。
ツルハシみたいなアイテムがないかと辺りを探してみるが、何も見つからない。
隠し部屋や、隠しスイッチの類もない。
「どうすりゃいいんだよ!?」
八方塞がりで、妖精たちを問い詰める。
昔のゲームにはよくあったのだ、いきなりゲームが始まって何をしていいのかすら分からない類のものが。説明書をしっかり読み込まなければ始められないゲームは多々あった。
しかし、ここには説明書がない。
なので、こいつらに聞くしかない。
「人間の力では無理ー!」
「到底動かせないー!」
「見りゃ分かんだろー!」
「ぷぷぷー!」
……解決しなかった。
とりあえず、最後にしゃべった茶色の妖精の頭を掴んでぐりぐりしておく。
「ふぉぉおお! キャラへの暴力反対ー!」
「最初から詰んでるとか、クソゲーにもほどがあんだろうが!」
「手立てはある」
「手段はある」
「方法はある」
「解決策はある」
俺の手から逃れた茶色の妖精を含めて、四妖精が一列に並んで両手を上げる。
クリアする手段があると言う。
「神様からの交換条件」
「飲めば都、断れば終了」
「ナビゲーターをプレゼントするのと交換」
「条件は、神様の指定した武器を持って行くこと」
【神々の遊技台】へ行くには、【ご自身の最も得意とする武器】と【ナビゲーター】を自分で用意しなければいけないと、あの招待状には書かれていた。
その【ナビゲーター】を用意する代わりに【武器】を指定させろというのが交換条件らしい。
しかし、そもそも俺が得意とする武器なんてものはないのだ。
自慢じゃないが、俺は殴り合いのケンカすらしたことがない。運動は得意だったが、格闘技なんかやったこともない。武器も、RPGに登場するヤツをいくつか知っているだけで、扱ったことなんか当然ない。
【武器】を指定されるのは、もしかしたら物凄い枷になるかもしれない。
けれど、考えようによっては【ナビゲーター】と【武器】という、【神々の遊技台】へ必要な物を神様ってのが全部用意してくれたってことだ。
渡りに船と、考えることもできる。
「いいだろう、その交換条件とやらを飲んでやる」
どんな武器を指定されるのかは分からない。だが、むしろ決められた方があれこれ悩まず、その武器の習得に全力を尽くせるというものだ。
どんな武器か知らないが、使いこなしてみせるぜ!
「さぁ、武器を寄越せ!」
「それでは」
「神の武器」
「【神器】を」
「芥都に授ける」
「「「「我々様がー!」」」」
「だから自分らを敬うな!」
「「「「我々様ともあろう御方がー!」」」」
「敬い過ぎんな!」
四人の妖精にツッコんでいるうちに、俺の全身が真っ白な光に飲み込まれた。
あまりの眩しさにまぶたを閉じる。
体の中に何かが流れ込んでくる気配がする。
全身が熱くなり、その熱が体の中心、腹の付近へ集まってくる。
ここまで散々おかしな現象を目の当たりにしてきたのに、今になって初めて「あぁ、これは本当に神様って存在が引き起こしている超常現象なんだな」と確信した。
自分の体が作り変えられていくような、そんな不思議な感覚に微かな恐怖と、それ以上の期待感、わくわく感が募っていく。
なぁ、神様。
いきなりこんなこと言うと「何言ってんだ」って思うかもしれないけどさ。
俺、今、あんたにすごく感謝してる。
俺をこの場所へ連れてきてくれたこと。
【神々の遊技台】への招待状をくれたこと。
そして、俺に【神器】を与えてくれたこと。
神様、ありがとう。
俺、とことんゲームを楽しんでみるよ。
そんな、祈りとも呼べない神様に対する感謝を思い浮かべているうちにまばゆい光は薄らいでいった。
まぶたを開けると、四人の妖精が俺を見ていた。
「【神器】の授与、完了ー!」
「無事に受け渡せたー!」
「これで攻略できるー!」
「向かうところ敵なしー!」
そう言われて両手を見る。
何も持っていない。
腰に剣でも刺さっているのかと思ったが、それもない。
懐に手を入れて見るも、何もない。
あれ~?
と、全身まさぐっていると、腹に違和感が。
「……ん?」
なんとなく、よろしくない方の予感がする。
服の裾から手を入れると、そこに固い感触があった。
引っ張り出してみると、『A』『B』『C』『D』『L』『R』『START』『SELECT』からなる八個のボタンと十字キーが付いた、とても見慣れた『フレコン』のコントローラーが出てきた。
…………武器?
なんでこんなもんが……と、引っ張ると、つっかえるような感触。
それと同時に、皮膚が引っ張られるような感触。
……いやいや。まさかな。
嫌ぁ~な予感を必死に押さえつけ、服の裾をまくり上げると……
そのコントローラーは、俺のヘソから生えていた。
「ヘソの緒か!?」
ヘソからぷら~んと垂れるコントローラーを握りしめて、俺は天に向かって叫ぶ。
神様――
「お前、バカじゃねーの!?」
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日比谷芥都
19歳 男 思春期
レトロゲームを愛する、やりこみ型プロゲーマー
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