森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

283 シャクヤクを救え

公開日時: 2022年1月22日(土) 19:00
文字数:3,160

 眼前に敵兵が広がっていく。

 第二陣としてこちらに向かっていたソシアル騎士が陣形を広げ、迎え撃つ姿勢を見せる。

 あの中を掻い潜るのは難しそうだ。

 

 エビフライがまた一足先に第二陣と接触し、槍を振り回す。

 それでも、突破するには至らない。

 やはり一人では無理か。

 

 このままでは、俺たちが追いつく前に、敵の弓兵がシャクヤクにたどり着いてしまう。

 

 唯一、敵兵より先にシャクヤクのもとへたどり着けそうなのはティルダだが……

 

「芥都様。私がシャクヤクさんを救出に向かいます!」

「ダメだ!」

 

 姿を現した弓兵は全部で五人。

 ティルダが向かえば、今度はティルダが集中砲火を受ける。

 それでは被害が拡大するだけだ。

 

「アイリーン、タイタス! 当たらなくてもいい! 前方のソシアル騎士を牽制してくれ!」

 

 それで、俺がその隙に乗じて連中の間をすり抜け――

 

 と、そんなことを考えていたら、俺たちの隣を物凄い速度で馬車が駆け抜けていった。

 コンペキア王国の紋章が刻まれた、十数名が余裕で乗れる巨大な馬車が。

 

「サクラ、どこ行く気だ!?」

 

 その中にはヒルマ姫が――とは、敵の前では口外出来ない。

 サクラだって、それは分かっているはずなのだが。

 

 御者台のサクラはじっと前方を見据え、馬たちに鞭を入れる。

 まさか、そのままソシアル騎士の間を突っ切ろうってのか!?

 いくらなんでも無茶だ!

 馬車とサクラは防御力が高くても、馬は無防備。そこを狙われたら――

 

 

桜花乱舞おうからんぶ――!」

 

 

 サクラが御者台で立ち上がり、自身の槍を大上段から全力で振り下ろす。いや、地面へと突き刺す。いやいや、叩き付ける。

 その瞬間、大地がめくれ上がり、砂埃が舞い上がり、敵ソシアル騎士たちの馬が前足を持ち上げて暴れ出す。

 

 人為的に、局地的な地震と地割れを引き起こしやがった!?

 なんてとんでもない技だ……

 

 っていうか――

 

「名前の雰囲気と全然違う!」

 

 名前は物凄く絢爛華麗なイメージなのに、実状は物凄く土臭い力業!

 

「芥都様、背中は預けるであります!」

 

 敵陣を強引に突破したサクラ。

 アーマー騎士であろうと、機動力抜群の馬車に乗っていれば誰よりも速く移動できる、か。

 思い切った作戦だな。

 

「任せとけ!」

 

 だが、その作戦にも大きな欠点が一つだけある。

 あの馬車の中にヒルマ姫が乗っているということだ。

 ヒルマ姫は、その姿を見られるだけでアウトだ。

 

 あの馬車は頑丈で、多少の矢には耐えられるが、さすがにソシアル騎士の槍までは防げないだろう。

 だから、俺たちが馬車の後方をしっかりと守る。

 

「ゆいな!」

「はい! 仕事きっちり、です!」

 

 馬車が強行突破して出来た隙間を通り、ソシアル騎士たちの隊列を突破する。

 反転して、馬車を追いかけようとしていたソシアル騎士たちの前に立ちはだかる。

 

「行かせねぇよ!」

「右に同じです!」

 

 ゆいなと同時に、各々別のソシアル騎士へと斬りかかる。

 ソシアル騎士に対するレイピアの特効が発動し、敵兵を一撃で屠る。

 そしてゆいなはというと――

 

「行きますよ! 必殺――ゆいな………………えっと」

 

 今考えんのかよ!?

 

「ゆいな、強制成仏剣!」

 

 怖っ!?

 え、なに?

 生きてるのに強制的に成仏させられるの!?

 死神か、お前は!?

 

 

 ――ズガガガガッ!

 

 

 支援効果が働いたようで、派手なエフェクトが鳴り響き、ゆいなの一撃をもらったソシアル騎士が砂のように風に溶けてなくなる。

 

「「「強制成仏っ!?」」」

 

 敵兵がその様を見て身を震わせる。

 ……うん。

 なんか、偶然が重なって、そんな風に見えたよな、今。

 ただのクリティカルヒットなんだけどな。

 

「死神だぁぁあ!」

「逃げろっ!」

 

 取り乱したソシアル騎士たちがゆいなから逃げる。

 イコール、俺たちが通ってきたコンペキア王国方面へと逃げ出す。

 当然そちらにはエビフライと、アイリーンとタイタスがいるわけで。

 

「ナイス、追い込み漁なのです!」

「シャル姫救出の邪魔立てはさせません★」

「アイリーン・カッター!」

 

 それぞれが、平常心を失ったソシアル騎士たちを一撃で仕留めていた。

 いや、タイタスは冷静に二回攻撃して、確実に仕留めてたな。

 

 で、アイリーン。お前も叫ぶのかよ、必殺技名。

 あと、お前の魔法はボムだから。カッターとか全然出てないからな?

 

「シャクヤクの救出だ、急ぐぞ!」

 

 ソシアル騎士を討ち取っても安心は出来ない。

 俺たちは全速力でシャクヤクの墜落場所へ向かった。

 

 

 

 

「この程度でありますか?」

 

 そこには、五人の弓兵に射かけられる矢を、すべて跳ね返しているサクラの姿があった。

 ……俺ら、急がなくてもよかったっぽい。

 

 シャクヤクはと見てみると、馬車の影でプルメにヒールをかけてもらっていた。

 そういえばプルメがいないなぁと思っていたが、サクラが途中で拾っていったんだな。

 

「サクラさ~ん! サクラさんの槍で~す!」

 

 サクラが地面に突き立てた槍を抱えて、ティルダが上空からサクラに近付く。

 

「「「「ペガサス騎士だぁ~!」」」」

 

 嬉しそうに、一斉に弓を空へ向ける弓兵たち。

 だから、弓兵に近付くと危ないってのに!

 

「させないであります!」

 

 弓を空へ向ける弓兵に向かって、サクラが手近にあった岩を掴んで放り投げる。

 

「秘技、雪月花っ!」

「どうっ!」

「どっふ!」

「ごぶっっふぁるぁあ!」

「だから、名前と実状のギャップよ!」

 

 ただの投石に『雪月花』なんて大層な名前を付けるな!

 

「エビフライ、ゆいな、仕留めるぞ!」

「はい!」

「ご隠居さんも手伝ってなのです」

「あなたまでご隠居って呼ばないでくれるかしら、エビフライ!?」

 

 なんかもう、エビフライに比べたらご隠居の方がマシに思えてくるから不思議だ。

 エビフライは本名なんだけどな。

 

「仕留めました!」

「こちらも完了なのです!」

「アイリーン・エクスキュージョン!」

 

 接近した弓兵は抵抗らしい抵抗すら出来ずに次々に倒れていった。

 もちろん俺もしっかりと仕留めた。

 タイタスは無理しなくていいのに、ちゃんと一人仕留めている。弓同士は攻撃範囲が被るから反撃を喰らうだろうに。

 

 あとアイリーンは……まぁ、もう触れないでおこう。

 きっと意味は関係なく、語感のカッコいいものを口にしているだけだろう。

 

 五人の弓兵も始末し、前方にはどんと構える居城があるのみ。

 城の前にはアーマー騎士が隊列を組んでおり、その後方にソシアル騎士が四騎。

 アーマー騎士は全部で六人。

 

 そして、アーマー騎士とソシアル騎士に守られるようにして、中央に一際きらびやかな騎士がいる。

 美しい白馬に跨がっているのはカーマイン。

 ソシアル騎士の上位職、パラディンだ。

 

「あいつは一筋縄ではいかないぞ」

 

 上位職とは、ソシアル騎士などの下位職がレベルを上げて、アイテムを使用することで転職できるワンランク上の職業のことで、どの上位職も下位職とは比べものにならないほど強化されている。

 パラディンは、ソシアル騎士とはすべてにおいて格が違う。

 

「大丈夫よ、芥都」

 

 馬車の影からひょっこりと顔を出し、頼もしい笑みとともに胸を張るシャクヤク。

 

「たとえ相手がパラディンであろうと、あたしの槍が蹴散らしてみせるわ!」

 

 怪我の手当ては終わったようで、傷跡はもちろん、血の跡すら見受けられない。

 顔には満面の笑みだ。

 プルメがいてくれてよかったな。感謝しとけよ。

 

「前方をアーマー騎士で固めたって無駄よ。あたしが頭上をぴょ~んと飛び越えて背後から奇襲しちゃうんだから!」

 

 のそりと、サクラが立ち上がる。

 

「さぁ、援軍が来る前にちゃちゃっと片付けちゃおうよ!」

 

 渾身のウィンクを飛ばした直後、シャクヤクの脳天に重い拳骨が落ちた。

 

「命令違反! これで二度目でありますよ、シャクヤク!」

「ぃぃいいいいったぁぁあああい!」

「本来なら、軍法会議ものであります!」

「ごめんなさぁぁあああい! もうしないから、怒らないでぇぇええ!」

 

 両目から滝のように涙を流してシャクヤクが泣き出す。

 うん……まぁ、仕方ないよな。今回は。うん。

 

 

 

 

 

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