森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

306 転移者とナビゲーターと

公開日時: 2022年2月21日(月) 19:00
文字数:3,764

 神が消え、聖域に静寂が戻る。

 なんか、ずっと耳鳴りがしていたような、妙な緊張感があった。

 

 さて、それはそうと……

 

「無茶をするな、バカ」

「はぅ……っ、ごめんなさいです」

 

 頭をポカリと叩けば、ゆいなは肩をすくめて上目遣いで俺を見た。

 

「えへへ、優しいお仕置きです」

「あほ。……本気で怖かったっつーの」

 

 もう金輪際御免だ、こんな気持ちは。

 

「貴様もだぞ、ティルダ」

「申し訳ございませんでした」

 

 キースに叱られ、なぜか嬉しそうなティルダ。

 

「心配、してくださったのですね」

「…………ちっ」

 

 キースに心配されて嬉しいようだが、キースはしょっちゅうティルダの心配をしてるぞ。もう、見ててウザいくらいに。

 こいつ、絶対恋人が出来たら束縛するタイプだよ。

 まぁ、もし仮に出来たらな。

 出来ないと思うけど。

 

「タイタスよ」

「はい、反省しております」

ずるのじゃ、『聖獣憤怒の亀』!」

「ってオイ、シャル!?」

 

 突然タイタスに向けて聖獣をけしかけるシャル。

 ついこの間、川辺を覆い尽くすサイズの憤怒の亀を見ているだけに心臓が「きゅっ!」ってなったわ!

 

「んふふ。この痛み、生涯忘れません☆」

 

 しかし、シャルの手のひらから飛び出したのはクルミ大の亀で、こつんっとタイタスの額にぶつかって、そっと消えた。

 これくらいの罰なら可愛いものだ。

 

「『サモンゲート』」

「待って、シャル! もしかして、めっちゃ怒ってる!?」

 

 なんか、タイタスにとどめを刺そうとしてない!?

 それ、ネフガを拷問する時に使ったヤツだよね!?

 

「あはぁ……このひもじさ……プライスレス★」

 

 頭に吸精魔草のカイワレを生やしてなぜかうっとりするタイタス。

 また悪化してやがるな、あいつは。

 シャルからのお仕置きならなんでもいいんじゃないか、あいつ?

 

「アイリーン」

「オカン……怒って、る?」

 

 クリュティアは眉をつり上げて、キツい口調でアイリーンを呼ぶ。

 珍しく怒っているようだ。

 まぁ、娘にあんな無茶されたらなぁ……

 

「歯ぁ、食いしばり」

「おい、クリュティア。なにもそこまでしなくても――」

「黙っといてんか! これはケジメや」

 

 クリュティアの声は本気だ。

 アイリーンもその本気を感じ、言われたとおりに歯を食いしばる。

 恐怖からまぶたがキツく閉じられる。

 

 身を固くするアイリーンに近付き、クリュティアは――

 

「むんずっ! も~みもみもみもみ!」

「ぅにゃぁぁあああああ!?」

 

 おっきなおっぱいを揉みしだいた。……いいなぁ。

 

「歯ぁ食いしばりやぁ!」

「関係ないじゃないのよ、歯っ!? いつまで揉んでるの!」

 

 自身の胸を揉むクリュティアの手を払いのけるアイリーン。

 手が離れた次の瞬間、その腕はアイリーンを強く抱きしめていた。

 

「……いなくなってまうかと思ぅたわ、あほぅ」

「……ん。ごめんさない」

 

 こうして、転移者とナビゲーターは仲直りをしたわけだ。

 

「というかですね」

 

 こほんと咳払いをして、ゆいなが代表してナビゲーター&アイリーンの意見を述べる。

 

「待つ身であるわたしたちは、ことあるごとにこのようなハラハラ感を抱いているわけなので、みなさんも相応に注意してくださいね」

「そうですね。無茶ばかりされますから、特にそこのお三方は☆」

「キース様も、時には私を頼ってくださいね」

 

 まぁ、心配したりさせたりってのは、お互い様ってわけか。

 一応、気に留めておこう。

 

「それはそうと、芥都さん。さっきあの神に何か言おうとしていませんでしたか?」

「あ、それは私も気になっていたわ。芥都、あの神の正体に思い当たることがあるの?」

 

 ゆいなとアイリーン、そしてみんなが俺を見ている。

 

「あぁ、まぁ……どうかな?」

 

 確証はない。

 確証はないし、あいつが神になっているなんて、そんな話馬鹿げ過ぎて、自分で自分に呆れる。

 

 死んで仏様になったわけでもないだろうに。縁起でもない。

 

「そうですか。でも、なんにせよもうすぐ会えそうですね、芥都さんをここに招待した神に」

 

 そうだな。

 この試練が終わればきっとそうなるのだろう。

 

「そのためにも、この神武を修復しなければいけませんね」

「出来るのかしら、本当に……」

「何を言っているんですか、アイリーンさん! こういう時のアイリーンさんじゃないですか。さぁ、直してください!」

「無茶言わないでくれるかしら!?」

「【神器】の修理をしてたんですよね?」

「だから、修理しようと思ったら全部勝手に直っちゃったのよ!」

 

 キースが小毬の神社で願い事をしたからな。

 

「いろいろ試行錯誤して【神器】を直す技術を確立しようと思っていたのに、出来なかったのよ」

「つまり、キースのせいだな」

「なんでそうなる!?」

 

 俺の的確な指摘にキースが難癖を付ける。

 責任逃れとは見苦しい。

 罰としてティルダ三日間禁止令でも出してやろうか。

 

「たぶんなんやけどな……これ、使えるんとちゃう?」

 

 クリュティアが指さしているのは、バチバチとスパークを放つ光の玉。

 神が出現させ、ゆいなたちの命を奪うかのように見せたハッタリの魔法だ。

 

「この光の玉、たぶん、ものごっつい魔力の塊やで」

「では、この中に壊れた神武を放り込めば直るかもしれぬのぅ。やってみるでおじゃる」

 

 シャルが崩れた神武のもとへと駆けていき、動きを止め、こちらを振り返った。

 

「誰か、やってたもぅ」

 

 だよな。

 これに触れようとして動きを封じられた直後だもんな。触りたくないよな、気分的に。

 

「では、自分たちが」

 

 神との一連では話に参加できなかったサクラとシャクヤクが神武のもとへ向かう。

 

「あ、たぶんムリなのです」

 

 エビフライが言うとおり、神武は破壊されてもなお、柱に固定されていた。

 サクラやシャクヤクがいくら引っ張ってもびくともしなかった。

 

「じゃあ、この光の玉の方を神武に近付けるデス!」

 

 これまた、神との一連で話に参加できなかったムッキュが光の玉を押そうと手を伸ばす。

 

 

 ――バリィィイイ!

 

 

「うきゃー!」

 

 ムッキュが触れた瞬間、激しいスパークが起こり、室内を明滅させた。

 

「……こ、怖いデス。この光の玉は脅威デス。触れるとDEATHデス……」

 

 わぁ、懐かしいなそれ。

 試しに手を伸ばしてみたが、俺にも触れなかった。

 八方塞がりじゃねぇか。

 

「神武無しで戦えってことですかね?」

 

 神の意図が掴みきれず、ゆいなが不満そうな顔で光の玉に手を伸ばす。

 またしてもスパークに弾かれて拒絶される――と、思ったのだが。

 

「……え?」

 

 ゆいなが手を近付けたら、光の玉の中から小さな手が伸びてきて、ゆいなの手をがしっと掴んだ。

 握手。

 シェイクハンドだ。

 

「怖っ!? なんですか、これ!? うにゃぁああ! 離れないです!」

 

 腕をぶんぶん振るが、ゆいなの手を掴む手はがっちりと握られて離れそうにない。

 握手をして……何かを待っている?

 

 そういえば、あの光の玉はゆいなが通過したヤツか………………ふむ。

 

「アイリーン。ちょっとその光の玉に触れてみてくれ」

「えっ!? ……実を言うと、今になって『さっきは無茶したなぁ~』って心臓がバクバク言っているのだけれど?」

「あとで揉んでやるから、ちょっと試してみてくれ」

「……分かったわよ」

「ひゃっほ~い!」

「揉ませる方じゃないわよ、今の『分かったわよ』は!? 光の玉に触れることを了承しただけだからね!」

「芥都さん! わたしが身動き取れない時に思春期発症させないでください! もう、あとでお仕置きです!」

 

 ぷぅぷぅ文句を言うゆいなの隣で、アイリーンが光の玉に手を伸ばす。

 すると、予想通り光の玉から手が伸びてきてアイリーンの手を掴んだ。

 

「捕まったわ!?」

「大丈夫、想定内だ」

「こっちは想定外なのだけれど!? これ、どうすればいいのかしら!?」

「ちょっと待ってろ。ティルダ、タイタス」

「はい」

「そういうことなんですね。さすが芥都さん、謎解きのプロですね」

 

 プロじゃねぇや。

 ただ、もしかしたらって思っただけだよ。

 ゆいなだけが弾かれなかったのは、『その光の玉』に認められたからなんじゃないかってな。

 

 そうして、ティルダとタイタスが光の玉に手を差し伸べると、ほぼ同時に光の玉から腕が伸びてきて二人の手を掴む。

 四人が、四つの光の玉と手を繋いでいる。

 

 さぁ、これからどうなる?

 

「芥都さん、あの、これは……この後どうすれば?」

「待っても何も起こらない時は……一斉にその手を引いてみろ!」

 

 

 鳴かぬなら、いろいろ試そう、ホトトギス。

 

 

『フレコン』RPGの基本だぜ。

 

「では、みなさんいいですか? いきますよ……せぇ~の!」

 

 ゆいなの掛け声で四人が一斉に腕を引く。

 すると、光の玉から生えていた手が「ズズ……ッ」と引っ張られ、「ぽ~ん!」っと中から四人の幼い子供が飛び出してきた。

 

 いや、子供じゃない。アレは――

 

「呼ばれて!」

「飛び出て!」

「ジャジャジャ!」

「ジョン!」

「『ジャン』だな!? 一文字違いで人名になっちまったぞ!」

 

 ――すっかりお馴染み、四妖精だ。

 

「お久しぶりですね、みなさん」

「ひさしぶり~!」

「でも今は~」

「正体不明のナゾリ故に~」

「ここは敢えての、はじめまして~!」

「そうなのですか? では、私も正体は秘密にしておきますね」

「「「「ごめんね、気を遣わせて!」」」」

 

 いや、お前ら正体隠す気ないだろ?

 ティルダも真に受けなくていいぞ。適当に聞き流しとけ、こいつらの言うことは。

 

 

 ただ不思議なもんで、こいつらが出てきた瞬間から――

 

 

 あ、これでもう大丈夫だ。

 

 

 ――って、思っちゃったんだよなぁ。

 

 

 

 

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート