突如現れたウィンドウに二人の男が映し出される。
『ライデン殿下! 正門前にコンペキア王国の馬車が現れました!』
『コンペキア王国の馬車だと!?』
城の兵らしき男から報告を受けた、豪奢な鎧を着た凜々しい男性。
年の頃は二十代前半くらいか。
華奢だがしっかりとした肉付きのたくましい身体をしている。かなりのイケメンだ。
こいつが、ライデン殿下か。
反帝国派であり、ヒルマ姫の想い人。
「……ライデン殿下……よかった、ご無事そうで」
ライデン殿下の顔を見て、ヒルマ姫がほっとした様子で言葉を落とす。
その表情を見れば、本当に好きなんだなということがよく分かる。
『ヒルマ姫様はご無事なのであろうか?』
『今、ヴォルフ、ザクロ、ビランの三名が確認に向かっております』
「知っているヤツか?」
「はい。皆、ライデン殿下の臣下でございます」
ヒルマ姫も知っている騎士らしい。
彼らがもうすぐここへ来るのだろう。
『コンペキア王国の騎士が王都に着いたということは、やはり兄上はもう王都に入ったのであろうな』
『おそらく。ですが、まだカーマイン殿下をはじめ殿下の家臣たちの姿は捉えられておりません』
カーマインは王城には向かっていないらしい。
そればかりか、どうやらライデンからも狙われているようだ。
『王城にこれだけ分かりやすく私の旗をはためかせておるのだ。いくら浅慮な兄上といえど、我が国がどの立場で動いているか理解できたであろう。そのまま姿をくらませてくれれば……あるいは、実の兄をこの手にかけずに済むのであるが……いや、その甘さが兄上をつけあがらせたのだな。兄上は、この手で討つ』
どうやら、ワシルアン王国は帝国との関係を断ち切る選択をしたようだ。
カーマインはバッサリ切り捨てられたのだ。
援軍を頼みに城に戻ってみれば、反逆者扱いされていたというわけで、カーマインは相当焦っているだろう。
『兄上の行き先に心当たりはないか?』
『はっ。……申し上げにくいのですが、おそらくは、娼館ではないかと』
『娼館? 奴隷市場のか』
『はっ。奴隷市場を仕切るならず者たちのボスと殿下の間に繋がりがあるのは周知の事実。おそらく彼らを頼ったのではないか……』
『なんということだ……』
王弟様の後ろ盾があるから、奴隷市場なんてもんが堂々と存在できるわけだ。
……ホント、カーマインさぁ。お前さぁ……
『ナヤ王国と結託してコンペキア王国へ攻め入り、帰ってみれば自国が青の御旗に埋め尽くされていた――兄上は現在相当焦っているはずだ。討つなら今か』
『はい。ライデン殿下自ら出陣されるおつもりで?』
『私がやらねばならぬことだ』
『ですが、ヒルマ姫様が我が国にお越しなられているのであれば、殿下もお会いになりたいのでは?』
『……兄上の計画を察知できず、阻止することも援軍を向かわせることも出来なかった。コンペキア王国には申し訳なさでいっぱいだ。今さら、どのような顔でお会いしろというのか』
「そんなことありません!」
画面に向かってヒルマ姫が叫ぶ。
が、当然こちらの声は向こうへ届かない。
「殿下のお心遣いは、離れていても、いつだって……感じておりました」
ワシルアン王国がコンペキア王国襲撃に加担したという事実は消えないが、それは一人の王弟が仕出かしたことだ。
「援軍に行けなくてごめんな」くらいで十分許されることだろう。
「では、行き先は決まりましたね」
タイタスが面白がるように言う。
「我々も奴隷市場へ向かいましょう。巨乳好きなカーマインを討ち、巨乳目当てで集められた奴隷たちを解放し、巨乳好きが集まる娼館の前でヒルマ姫とライデン殿下の再会を祝いましょう」
「いちいち巨乳を絡めるな」
「んふふ。その方が芥都さん好みかと思いまして☆」
っつーか、娼館前で想い人と再会って……悪意しか感じないな。
「そうね。一秒でも早く奴隷市場を破壊しなきゃね!」
「ですね!」
シャクヤクとゆいなが拳を握って吠える。
「「巨乳好きは敵!」ですからね!」
そんなとこで団結すんな。
ウィンドウが消え、出撃準備に入る。
今回は全員参加だ。
全体マップを見れば、馬車のすぐそばまで来ている三人の騎士が見える。紺碧の旗を掲げた男たちだ。
おそらく、ステージ開始と同時にこちらに接触してくるのだろう。
「ヒルマ姫はワシルアンの騎士たちとここで待機してくれ。必要があれば、ライデン殿下と合流してもいい」
その間に、俺たちは奴隷市場を襲撃し、奴隷たちを解放する。
そして、西側最奥にある娼館へと突入だ。
「俺たちは急いで娼館に向かう」
「芥都様、卑猥です!」
「聞いてた、さっきのライデン殿下たちの話!?」
久しぶりに見たライデン殿下の顏に見惚れて話半分だったんじゃないよな、ヒルマ姫!?
娼館にカーマインがいるんだよ! それはもう高確率で!
今度こそ逃がさないように、迅速に行動を開始するの! ライデン殿下が動くと目立ち過ぎるだろうから、その前に!
「サクラたちは、自分の判断で動いてくれ」
ヒルマ姫が心配なら残ってもいいし、奴隷解放に向かいたければそれでもいい。
ライデン殿下は、おそらく信用できる。ウィンドウで覗かれているなんて知る由もないだろうから、偽情報を流してこちらを罠に嵌めるなんてこと出来るはずもない。
先ほど見た映像は、ライデン殿下の素直な思いが語られていたのだろう。
あの人になら、ヒルマ姫を任せておけるだろう。
「自分は、芥都様と共に行くであります」
「あたしも! 巨乳好きのワンダーランドを、めっためたに壊滅さしてやるわ」
「では、私はシャクヤクが羽目を外し過ぎないように監視する係なのです」
コンペキア三人娘も、俺たちと共に来るらしい。
「ゆいな」
「はい! 芥都さんの監視は任せておいてください!」
誰も監視なんか頼んでねぇし、それを俺に言うなよ。
「みなさん!」
俺たちが出陣準備を終えようという時、ヒルマ姫がその場にいる者たちへ声をかけた。
「ワシルアン王国が統率されれば、コンペキア王国にとって頼もしい味方になってくれるはずです。祖国のため、そして世界の平和のために、不穏因子であるカーマイン殿下……いえ、カーマインを捕らえ、必要があれば討ってください」
ヒルマ姫がはっきりと「討て」と命じる。
「よっぽど、義理の兄になってほしくないんですね」
「わ、私は、平和のために申し上げているのですよ、ヘソ丸!?」
私情も、少しは混ざっているのだろう。
指摘されてヒルマ姫は顔を赤く染める。
「こほんっ。ともあれ、カーマインは野放しには出来ません。みなさん、御武運をお祈りします」
ヒルマ姫の言葉に、俺たちは気合いを入れ直す。
このステージで、確実にカーマインを仕留める。
ヒルマ姫を残して、俺たちは全員馬車の外へと出る。
準備を終え、ステージを開始する。
「我らは、ワシルアン王弟殿下、ライデン様の配下の者である!」
「コンペキア王国よりの使者とお見受けする」
「話を聞かせていただけないだろうか!」
開始とともに、ライデン殿下の配下三人が俺たちに接触してきた。
ヴォルフとザクロとビラン。
騎乗の弓兵――ホースメンが二人に、ソシアル騎士が一人だ。
「自分は、コンペキア王国テンプルナイツ、サクラであります」
「おぉ、サクラ殿!」
「ご無沙汰であります、ヴォルフ殿」
ライデン殿下の臣下たちは、サクラたちとも顔見知りのようだ。
話が早くて助かる。
「ヒルマ姫様は馬車の中です。姫様の護衛をお願いしたい」
「貴殿らはどちらへ向かわれるおつもりか?」
「奴隷市場の奥、娼館の元締めの館を襲撃するつもりであります。おそらく、そこにカーマインが逃げ込んだはずでありますから」
「殿下……いや、カーマインが、ですか。分かりました。ライデン様にその旨お伝えし、我々も後ほど合流いたします」
「姫様の身は、我らが命に代えてもお守りします。どうか、ご安心を」
騎士たちの間で話が終わり、俺たちは奴隷市場へ向かって進軍を開始する。
「皆、相当腕の立つ者たちです。心配には及びません」
サクラが俺の隣へ来てそんなことを言う。
なら、こっちは思う存分暴れられるな。
「赤い服の貴殿よ!」
先ほどの三騎士の一人、ソシアル騎士のビランが俺を追いかけてくる。
そういえば、名乗ってなかったな。
「芥都だ」
「芥都殿か。私はビランと申す。……それで、一つお知らせしたい情報があるのだが……」
と、そこまで言って、俺の隣にいるゆいな、シャクヤク、プルメをちらりと見る。
女子の前では話しにくい内容なのか?
「悪い、少し行ってくる」
ゆいなたちに断りを告げて、ビランと共に少し離れた位置へと移動する。
俺の行動を見てほっと息を吐いたビランが、馬から降りて俺のそばへと近付いてくる。
馬の体を壁にして、女子たちには見えないようにして。
「実は、娼館の元締めが住まう館には特殊な魔法がかけられおり、館の主に認められた者とある特定の人物しか中には入れないようになっているのです」
幾度か、奴隷市場を仕切るならず者たちを排除しようと館へ襲撃を仕掛けたが、その結界のせいでことごとく失敗に終わったらしい。
それは厄介だな。
「館の主が作った、結界を通るためのアイテムがあるはずです。それを手に入れない限りは中に入ることは出来ません」
「なるほど。助言感謝する。……だが、なんでこんな警戒したんだ?」
今の話なら、別にゆいなたちから離れなくても――
「アイテムがなくても通れる、ある特定の人物に関してなのですが……」
ここで、ビランはさらに身を寄せてきて、声を潜める。
「薄着の巨乳美女であれば、アイテムがなくとも結界を超えられるのです」
「なんじゃそりゃ!?」
「あの館には王国中の巨乳好きが集結しております。連れ込む女たちの分までアイテムを作ってはいられないようで、そのような条件にしたようです」
しょーもない!
が、理に適っている。
王国中の巨乳好きが集まるということは、そのような接待も行われているのだろう。
それでまんまと乗せられたのが王弟カーマインか……
「分かった、覚えとく」
こりゃ、ゆいなたちの前では言えないわな。
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