森羅盤上‐レトロゲーマーは忠犬美少女と神々の遊技台を駆け抜ける‐

宮地拓海
宮地拓海

280 罠の規模は

公開日時: 2022年1月19日(水) 19:00
文字数:3,790

 このレスカンディ地方は、王弟であるカーマインが治める土地らしく、隣国と接する関所のような存在であるらしい。

 つまり、いろいろコチョコチョすれば賄賂や袖の下がわんさか貰えてしまう場所なのだ。

 

 辺境の砦と聞けば、母国を守る頼もしい盾役のような格好良さを覚えるが、その実、他国と通じたり、特定の者に便宜を図ることで私腹を肥やしたりし放題の腐敗した土地となっている。

 ――と、エビフライが教えてくれた。

 

 エビフライは騎士でありながら、他国の情勢に詳しい文武両道な美少女なのだそうだ。

 確かに、メガネがよく似合う知的女子である。

 

「谷の先に、カーマイン殿下の居城があり、その手前に二つの砦があるのです。おそらく、伏兵はこの二つの砦に待機しているのです」

 

 両側を切り立った崖に挟まれたレスカンディの谷は、どうあがこうがその砦とカーマインの居城を避けて通ることは出来ない。

 強制一方通行。

 まさに、挟み撃ちにはもってこいの立地というわけだ。

 

「やっかいなのは、この砦はどちらも岩陰に隠れるように建設されているところなのです」

 

 二つの砦は、巨大な岩の陰に身を隠すように建設されており、俺たちからはその全貌がはっきりとは見えない。

 むろん、向こうからは谷を通る者がはっきりと見えるし、バッチリ狙い撃ちできるように作られているのだろうが。

 コンペキア王国側からやって来る者を相手にする場合、非常に有利な立地となっており、こちらの立場から言えば攻め崩すのが非常に難しい砦となっている。

 

「各個撃破は難しそうね」

 

 ウィンドウを開いて表示させているマップを見て、アイリーンが唸る。

 ステージ2までとは違い、今回から敵の情報は見られなくなっている。

 強さを数値化していたステージ2までとは異なり、敵の強さはその肉体と技術に影響するものとなっている。簡単にパラメーター化することは出来ないのだろう。

 筋トレを一年続けた結果、攻撃力がどれだけ上がったとか、そんなもん数値化は出来ないからな。

 

 ただ、空撮しているように、カーマインの居城の前にずらりと並んで陣形を組んでいる騎士たちの姿は確認できる。

 だが、城や砦の中までは確認できない。

 増援部隊の規模は分からなかった。

 

 百や二百もいれば、この人数では太刀打ちできないだろうな。

 

「おそらく、この砦に潜んでいる伏兵はそれぞれ十人程度なのです」

 

 エビフライが、ある種の確信を持って断言する。

 

「この土地は植物が育たないため、食料は王宮から物資を輸送して賄っているのです。砦は大きいですが、そのほとんどが食料庫で、またその食料庫ですら何十人もの兵を何日も養えるほどの食料を蓄えられないのです。物資が届くのが週に一度だとすれば、あの規模の砦だとせいぜい十人が限界なのです」

 

 なるほど。

 説得力がある。

 

「それでも、二十人の兵に後ろから攻撃されるのよね?」

「では、こちらも戦力を分散させて、そのさらに後ろをとってみてはどうでしょうか?」

 

 物凄くいいことを思いついたと言わんばかりにゆいなが発言するが。

 

「ただでさえ少ない戦力を分散するのは得策ではないのです」

 

 あっさりとエビフライに却下されていた。

 ま、そりゃそうだ。

 二十人の後ろを二~三人でとったからといって、それがなんになるのか。

 数がいるから効果があるんだよ、挟撃ってのは。

 

「挟み撃ちされるということが分かっていれば油断もないでしょう。このまま突撃しましょう★」

 

 タイタスがマップの上に人差し指を滑らせる。

 

「先ほどのカーマイン氏の発言――『ヒルマ姫はワシルアン領内に入ったのか? ……そうか、でゅふっでゅふっもっふっ。これで、帝国へのいい土産ができる』――から予測されるのは」

「ちょっと待て。その前に……そんな気持ち悪い笑い方だったっけ?」

「似たようなものです★」

 

 あぁ、カーマインにすっげぇ腹を立ててるんだなってことはよく分かったよ。

 俺はタイタスに話の先を促す。

 

「シャル姫を攫った者たちはまだカーマイン氏の居城へはたどり着いていない――つまり、このレスカンディの谷にいるものと思われます」

 

 そうか。

 コンペキア王国から陸路を来れば、このレスカンディの谷は必ず通る。

 この谷を通れば、必ずカーマインの居城を通過することになるのだ。

 

 つまり、カーマインがまだ誘拐されたのがヒルマ姫ではなくシャルだと気付いていないということは、シャルはまだこの谷の途中にいることになる。

 コンペキア王国ご自慢の馬車の性能がよくて、随分と追いついていたようだ。

 

「マップを見る限り、シャルっぺらしき姿は見えないでありますね」

 

 サクラが目を皿のようにしてマップを見つめるが、シャルや、シャルが乗っていそうな馬車の影は見つけられなかった。

 ……というか、お前らみんなヒルマ姫に合わせて『シャルっぺ』って呼ぶのかよ。

『シャル姫』って呼べよ、あいつも姫なんだから。

 

「どこかに身を隠しているのか、もしくはこのステージに関係ないと見なされて姿が映し出されていないのか」

 

『フレイムエムブレム』でも、場内にいるはずの給仕や非戦闘員は表示されなかった。

 まぁ、ゲームなので関係ない人物が表示されないのは当然なのだが。

 その感じで、ここでも表示されない可能性はある。

 

「姿は見えなくても、この谷にいる可能性が高い。そして、シャルがカーマインのもとへ着いてしまえば、カーマインに何をされるか分かったもんじゃない」

「もしシャル姫に指一本でも触れたら……」

 

 タイタスが、薄ら寒い笑みを浮かべ、広げた両手を顔の前へと持ち上げ、十指をそれぞれ別々にうねうねうにうにと気味悪く蠢かせる。

 

「絶対他人には触られないようなところを余すことなく触り尽くし、蹂躙し尽くして差し上げますよ……」

「怖い怖い怖い! 報復の方向性が変態的過ぎて逆にめっちゃ怖い!」

 

 何をする気だ、お前は!?

 いや、言わなくていいけど! 聞きたくもないし!

 

「と、とにかく、全速前進だ。後ろからの敵は、可能なら振り切って、ダメなら迎撃。ただし、絶対に無茶はするな。最悪の場合は撤退も視野に入れておくように」

「「はい!」」

 

 サクラとプルメが返事をくれる。

 他のメンバーも一応納得の意思を見せてくれる……が、「撤退はない」って雰囲気だな、これは。

 

「敵の兵を寝返らせることが出来れば、数の不利を幾分緩和できそうなのですけれどね」


 タイタスがそんな意見を寄越す。

 敵を寝返らせる。

『フレイムエムブレム』では、様々な理由により、仕方なく敵側についている味方キャラクターが存在する。

 そういったキャラは、特定のキャラが話しかけることで仲間になってくれるのだが、この試練でもそのシステムが生きているかもしれない。

 

「そうですね。砦にいる兵の中には、ワシルアン王やライデン殿下を慕っている者もいるでしょう。そのような者たちに訴えかければこちらへ味方してくれる可能性はありますわ」

「そうは言ってもですね……」

 

 ゆいなが難しい顔をする。

 

「ヒルマ姫たちなら、なんとなく寝返ってくれそうな人が分かるかもしれませんが、わたしたちにとってはみんな敵兵にしか見えませんし、見極めはかなり困難じゃないですか?」

 

 ヒルマ姫やサクラたち、ワシルアン王国と多少でも交流があった者なら、なんとなくでも「あ、あの人はライデン殿下派だな」とかいうのが分かるかもしれないが、俺たち部外者にとっては全員が『ワシルアン兵』だ。

 その見極めは極めて難しい。

 

「参考になるかどうかは分からんが」

 

 そう前置きをして、本家『フレイムエムブレム』における仲間になるキャラクターのお約束を教えておく。

 

「名前が表示されるキャラクターで、美形は味方になる可能性が高い」

 

 雑魚キャラは『ワシルアン兵』という感じで名前がない。

 この試練でも、ステージ1やステージ2に『山賊』って表示される連中がいた。

 あぁいうのは雑魚キャラで、味方にはならない。

 

 ただし、名前があっても味方にならない敵は多い。

 ステージ2のボスにも、ノードンやカフサスという名前が付いていた。

 だが、連中はどう見ても悪人顔だった。

 悪人顔は仲間にはならない。

 

 ごく稀に、美形なのに仲間にならない悲運キャラがいたりするんだが……そういうのは滅多にない。

『フレイムエムブレム』では、『美形は味方』と覚えておいてまず間違いないのだ。

 

「――ってわけだ」

「なんというか……美形は助けて醜悪は倒せって、差別的なものを感じるわ」

「あくまで本家ゲームでの話だからな?」

 

 この試練にその鉄則が反映されているかは不明だ。

 だが、現在仲間に加わったサクラ、シャクヤク、エビフライの三人はみんな美少女だ。

 あながち、あの鉄則は生きているのかもしれない。

 

「まぁ、一応頭の片隅に置いておくわ」

 

 アイリーンがひらひらと手を振り、ゆいなが腕を組んで「むむむ……」と唸る。

 

「その法則を信じるなら……わたし、テッドウッドさんを攻撃しそうです」

「どうしてですか!? テッドウッドさまはイケメンです! イケオジなんです! も~ぅ!」

 

 趣味が合わないゆいなをプルメがぽかぽか叩く。

 まぁ、イケメンかどうかは、個人の受け取り方にもよるからなぁ。

 見極めは非常に難しそうだ。

 

「とりあえず、イケメンには片っ端から声をかけていけばいいのね! 任せて! あたし、そーゆーの得意だから!」

 

 頼もしく拳を握るシャクヤクだが……そうじゃない。

 そうじゃないし、お前はたぶん、またサクラに拳骨を落とされると思うぞ。気を付けろよ、シャクヤク。

 

 

 

 

 

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