病院に向かう最中は、ほとんど僕らは話さなかった。
話すこともなかったし、お互い彼方に会うことで頭がいっぱいだった。
病院で手続きを済ませ、彼方がいる病室に入ると
「久しぶり、お姉ちゃん、お兄ちゃん」
「お兄ちゃん?!」
「お姉ちゃんに入ってなかったもんね
これから、八雲くんのことをお兄ちゃんって呼ぶことに決めたの」
なにか、暁さんの目に鋭いものが光った気がした。
「それはいつから?」
「お兄ちゃんが退院する一日前に決めたの」
「なんでお兄ちゃんって呼ぶことになったの?」
完璧に省かれてます。
話に加われないのは寂しいけど、この話題だと仕方ないかな
とにかく寂しいけど
「お兄ちゃんが、自分の家族のことを教えてくれたから」
「蓮、どこまで教えたの?」
あ、僕か
今まで省かれてたから気がつくのに時間がかかった。
「全部だよ
光に教えたのとおなじ」
「ふ~ん
それで家族と認めんだ」
なんか暁さんが不服そうな顔をしていた
彼方に教えちゃまずい内容ではないと思うんだけどなぁ
「そう言うこと
まあ、単純に八雲くんって呼ぶのめんどくさいし」
「確かに呼びにくい名前だね」
「というわけで、私としては、お兄ちゃんは家族の一員なんだけど、お姉ちゃん的にはどう?」
それ結構気になることだなぁ
居候って家族に入るのか
「わ、私?
私的には、充分家族の一員だと思ってるよ」
「そうだよね
それじゃあ、お兄ちゃんを暁家の一員として迎えます」
素直に喜んでいいのかなぁ
迷惑ばかりかけちゃいそうなんだけど
「あれ、お兄ちゃん嬉しくないの?」
「いや、嬉しいよ
久しぶりに家族ができたんだから」
「だったらもっと喜んでいいんだよ」
「はーい」
というわけで、暁家の一員として認められました。
本当に、喜んでいいのか分からないけど。
家族ってことは、迷惑かけて困らせちゃう気がしてならない
まあ、自分の家族にしてきたことがそんなイメージだったせいかな
僕が病気だとわかって、入院して、その費用を稼ごうとして、亡くなったんだから
でも、今度は暁家であって、八雲家ではない
だから、前の家族とは違うんだけど
それから、病院で彼方を交えての3人でワイワイ話した。
やっぱり、僕と暁さんだけだと起こらない話の盛り上がり方があるから、とても楽しかった。
僕らはあんまり人のことをからかったりはしないけど、彼方は普通にからかってくる。
そこが1番違うとこかな。
僕もあんなふうにジョークが言えたらいいんだけ
まだ昼下がりにもなってない時に来たはずなのに、空は真っ暗になっていた。
楽しくなると時間を忘れてしまう
しっかりしないとな
「そろそろ帰る?」
「そうだね
んじゃ、またね彼方」
「お兄ちゃんはちょっと残って」
「それじゃあ、私は先に出てるから」
「すぐ行くね」
また、何故か不服そうな顔をした暁さんは、病室から姿を消した。
「ねね、お兄ちゃんはさ、家族ってあんま好きじゃないの?」
「嫌いじゃないさ」
「それじゃ、やっぱり迷惑かけると思ってるの?
暁家に」
「そりゃあねぇ
居候させてもらってるんだし、色んなとこで負担かけてるから」
「全く、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから
家族ってのは、迷惑をかけ合うものなんだから」
「そうだけど...」
「人のことになると元気になるけど、自分のことを考えるとネガティブなんだから
もうちょっと自分のこともポジティブになりなよ
私達だってお兄ちゃんに沢山迷惑かけるんだからいいの」
「それとこれとは」
「いいんだよ
自分の方がかける迷惑が多いとか、重いとかそんなことでしょ
私なんか、最後の願いをお兄ちゃんに託してるんだから
その方が何倍も重いよ」
「確かに、ね」
「だから、もっと喜んでよ
暁家の一員になったことを」
「わかった」
「あと、私がここにいる間は、ここに戻ってきちゃダメだからね」
「善処します」
「ここに運び込まれたとにほんとに焦ったんだから
それじゃ、お姉ちゃんも待ってるだろうし」
「うん、ありがと」
そう言って、僕も彼方の病室を出た。
自分よりも4歳も下の子に色々と教えてもらった。
なんというか、表面的にはただの明るい少女なんだけど、すごい色々考えてるんだなぁ
僕みたいになんにもできない人間とは違うなぁ
でも、そういう人にこそ人に幸せが与えられるんだと思う
「頑張らなきゃな」
僕の生きる目的
彼方が与えてくれた僕の希望
絶対に叶えてみせる
その意気込みと同じくらい勢いよく暁さんのところに向けて駆け出した。
病室の外にいた暁さんを見つけた。
「おかえり、蓮くん」
「ただいま」
「彼方と何話してたの?」
「もう入院しないようにしてって言われた」
「そ
なんで彼方に先に教えたの?」
「家族のこと?」
「当たり前じゃん」
なんでキレ気味なんだろう
「彼方が僕の家族のことに気がついたからかな
何隠してるでしょって聞いてきたから」
「ふ~ん」
本当になんでキレてるんだか
こういうのをわかるような人になんなきゃいけないのかな
さっぱりわからないけど
「そんじゃ帰ろっか
これからは自由に来れるからね」
「学校の帰りとかにも寄れるし
もっと彼方と話したいしなぁ」
「きっと彼女もそう思ってるよ
君も、暁家の1人なんだから」
「そう、だね」
「彼方からお兄ちゃんって呼ばれるのはどうなの?
うれしい?」
「まあ、嬉しいよ僕は一人っ子だったからね」
「一人っ子って楽しくないの?」
「楽しくないことは無いよ
だいたい何でもさせてくれるし
ただ、責任重大」
「なるほどね~
私とか、彼方が産まれてから、親が彼方ばっか見ててつまんないんだよね
まあ、仕方ないことなんだけどね」
「確かに、そうなっちゃうのかも
しかもあんな状態だし…」
「そうなんだよね
まあ、それでも、あの家で何不自由なく暮らせてるからいいけどね
その点は蓮の方が大変そう」
「大変だったよ~
まあ、家帰ってから話そっか
この話もしなくちゃね」
「まだなんかあるの?
私たちに言ってないこと」
「これは隠してた訳じゃないんだよ
言おうとは思ってたんだよ
まあ、時が満ちたら話そうかな的な」
「時が満ちたねぇ
ただ、信用出来なかったとしか聞こえないけど
まあ、教えてくれるならいいよ」
「とりあえず帰ってから話すから」
「はいはい」
そうして、暮れた日の中、僕らは半ばかけるように帰っていった。
何も喋らないが、気まずさはない
こういう時に彼方の存在のありがたみがわかる
くだらない話でも、笑える話が言える人はいいなぁ
そんなに遠くは無いので、あんまり話さなくとも何とかなった。
今は、家の中でくつろいでいる。
家に着いてからも、特に会話はしていない。
今は、暁さんの料理が完成するのを待っている。
「蓮の伝えてないことってなんなの?」
料理しながら暁さんが聞いてきた。
「過去の話だよ
親が居なくなるまでどんな感じだったのか」
「きっと、連の親はいい人だったんだろうね」
「いい人だったよ
今思えば、色々と不自由なこともあったけど、楽しめたしね」
「結構そういうことあるよね
今思えば、色々と違ってたみたいなこと」
「うん
でも、かなりいい幼少期を過ごせたと思ってるよ
ただ、期待が大きすぎてた気はするけどね」
「期待?」
「うん
医者とか、そういったすごい人にさせたかったみたいだね
家族の誇りにさせたかったんだろうなぁ」
「でも、いいことじゃないの?
期待されることって」
「まあ、悪いことではないだろうね
だからこそ、僕が病気と知った時に、すごい落胆してたよ」
「なるほどね
期待を裏切っちゃった感じなんだ」
「裏切る気はなかったんだけどね
結果的に親の期待もなくなって、楽にはなっけど、親を悲しませちゃった」
「それは、私からは何も言えないなぁ
一人っ子じゃないし、そこまでの病気にもなってないし」
「まあ、だから、僕は普通に生きたかったな」
「まあ、蓮は蓮だからこそいい所があるんだし
今のままでいいと思うよ」
僕はちょっと泣いてしまった。
自分が病気だと知ってから、僕のことを肯定してくれる人なんていなかった。
ましてや、この病気を知っている人には
なんにもできず、ただ薬とかを使いまくって死ぬだけだと思っていた
だから、その言葉にすごい救われた気がして泣いてしまった。
「あれ、そんななくほどの言葉言った覚えないんだけど
まあ、とりあえずお風呂にでも入ってきなよ」
「う、うん」
風呂に浸かって少し心も落ち着いてきた。
でも、やっぱり誰かに肯定されるってのは大事なんだな
当たり前にいつもされることのはずだけど、そうじゃない時もある
誰からも肯定されないと辛かった
だから、今度は僕が暁さんを肯定する
彼女の全てを肯定してあげようと心に誓った
それから、いつものように食事を済ませ、各々の部屋に戻った。
布団に入ると、今日のことが思い出される。
色んなことがあったけど、いい日だった
こんな日が続けばいいのにな
そんな願いと共に、僕の意識は落ちた。
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