「へっ、やるじゃねえか、ジロー」
「これくらい造作もない……」
「近接戦もイケるアーチャーってのはなかなか反則だぜ」
「戦いに反則もなにもないだろう……」
「まあ、それはそうだな」
「さて……」
「待て、ジロー、ここは下がれ」
「何故だ?」
「残りはこいつに片付けさせるんだよ」
「……」
「な、なんだよ?」
「お前に指図されるのは、やはり気に食わんな……」
「だ、だから、言っているだろうが、俺の言葉はあの御方の言葉だ!」
「ふん……」
ジローがどこか不満そうに下がる。それよりも不満そうな顔でエリーが前に進み出て、ジャックに声をかける。
「……ちょっと禿げ頭さん?」
「は、禿げ頭だあ⁉」
「……お禿げ頭さん」
「おを付ければ良いってもんじゃねえよ!」
「まあ、そのへんはどうでもよろしい……」
「よろしくねえよ!」
「さきほど、なんと言いんした?」
「あ?」
「残りは片付けさせるとかなんとか……」
「あ、ああ、そう言ったっけな……」
「……気に入らねえでありんすね」
「あん?」
「やれるものならやってみなんし!」
エリーが声を荒げる。ジャックが笑みを浮かべながら呟く。
「ふん、なかなか気が強そうだな……だが、こいつを見てもその態度が保てるかな?」
「なにを……⁉」
「う~ん……」
やや大柄で太った男が前に出てきて、エリーが悲鳴を上げる。
「きゃ、きゃああああっ⁉」
「うん?」
「なんだ、どうかしたか?」
太った男が首を傾げ、ジャックがさらに悪い笑みを浮かべる。
「そ、それ……」
エリーが太った男の股間を指差す。指を差した先には、一応服を着ているとはいえ、膨らんだというか、長くなったものがあったからである。ジャックが口を開く。
「ああ、あまり気にしなさんな」
「き、気になりんすえ‼」
「そんなところを見つめるだなんて、魔族の女って言うのは……アレなのか?」
「べ、別に見つめているわけではありんせん! 嫌でも目に入るのでありんす!」
「まあ、そんな下手な言い訳はしなくても良いって……」
「い、言い訳ではありんせん!」
「おい、さっさと片付けちまいな」
「……飯は出るのか?」
「てめえはそればっかだな……あいつらを片付けたらなんでも食わせてやるよ」
「なんでも……うん、なんだかやる気が出てきたぞ……」
太った男がエリーの方にゆっくりと迫る。エリーが思わずたじろぐ。
「くっ……」
「大人しくやられてくれ~」
「! だ、誰が⁉ 出て来なさい! 『ポイズンスネーク』!」
エリーが本を開き、ポイズンスネークを呼び出す。ジャックが声を上げる。
「モンスターを使役する魔族か! 気をつけろ! 厄介だぞ!」
「関係ないんだな~!」
「なっ⁉」
太った男が股間のものを振りかざし、ポイズンスネークを殴りつける。鋭く強烈な一撃を食らったポイズンスネークは地面にうずくまって動かなくなる。ジャックが笑う。
「へへっ、相変わらず器用に扱うもんだ……」
「なっ……武器?」
「ああ、こいつは『棍棒のゴロー』だ!」
「なにもそんなところに仕込まなくても! って、ゴロー⁉ そこはサブローじゃないでありんすか⁉」
「いやあ~」
ゴローと呼ばれた太った男が自らの後頭部をポリポリと掻く。エリーが声を上げる。
「別に褒めてないでありんす!」
「そ、そうなのか……」
「ゴロー! 落ち込んでいる暇があるなら、さっさとやっちまえ!」
「ああ!」
「!」
「それ~!」
「ごはっ⁉」
ゴローが股間の棍棒を横に薙ぐ。頬を思い切り張られた形になったエリーが倒れ込む。
「ふん……後は裏切り者のこいつか……」
「新参者に言われたくないんだけど……」
ジャックがイオに視線を向ける。イオが睨みつける。
「お~怖っ……なあ、イオよ。戻ってこねえか?」
「は?」
「あの御方には俺から上手く言っておく……この国を盗る為にはお前の力も……」
「断る!」
「! ひ、人の話は最後まで聞けよ……」
「断る‼」
「! ちっ……手駒は多い方が良いんだが……まあいい、ゴロー、やっちまえ!」
「ああ、分かった~」
「やられるか!」
イオが体勢を低くして、斜め下からゴローに突っ込む。ジャックが驚く。
「む⁉」
「それが上下左右の方向にしか振れないというのは分かっている! 斜めからの動きには対応出来ないだろう……ぶはっ⁉」
イオが吹き飛ばされる。股間から取り出した棍棒を持ったゴローの姿があった。
「そういう相手には、単純に棍棒を持って振り回せば良いんだな~」
「ば、馬鹿な……それ、取り外せるのか⁉」
「うん。さすがにここには仕込まないんだな~」
「し、知らなかった……三本足の種族かと思った……」
イオが体勢を立て直しながら呟く。ジャックが呆れる。
「馬鹿かてめえは……ゴロー、とどめを刺してやれ」
「おお~!」
ゴローがイオとの距離を素早く詰め、棍棒を振り下ろす。動きが鈍くなっていたところを突かれたイオは思わず目をつむる。
「くっ……⁉」
イオが目を開くと、棍棒を右手の人差し指と中指で防ぐキョウの姿があった。
「……人の入浴中になにをやっている……」
「むう……⁉」
「やっと出て来やがったな! キョウ!」
キョウの姿を見て、ジャックが叫ぶ。
「………」
「ど、どうした?」
「……えっと、誰だっけ?」
「なっ⁉ ジャックだ! こないだ会ったばっかりだろうが!」
「ああ、『野蛮のジャック』か……」
「だれが野蛮だ! い、いや、案外悪くねえか……?」
ジャックは顎を手でさする。キョウが尋ねる。
「それよりもなんだ、この珍妙な集団は?」
「誰よりも珍妙なてめえに言われたくねえよ!」
「それもそう……だな!」
「うおっ⁉」
キョウが棍棒ごとゴローを投げ飛ばす。
「お前らまとめてぶっ飛ばしてやるよ……!」
「それはこちらの台詞だ……!」
「む……?」
「はあっ!」
「⁉」
いきなり現れた大柄な男の攻撃を食らい、キョウが吹っ飛ばされる。ジャックが驚く。
「や、山の王⁉ ど、どうされたのです⁉」
「ようやっとだが力が戻ってきた……よって山から降りてきた。戯れだがな」
「は、はあ……」
「ジャック、お前の言っていたほぼ全裸の男……大したものではないではないか」
「ふ、不意を突いたくらいで良い気になるなよ……」
「! ほう、今の一撃を食らってなお立ち上がるとは……」
「こ、こやつは倒すべき男、キョウです! この国を盗る上で邪魔になります!」
「ふむ……キョウか……さらに力を回復させてから、ケリをつける。一旦山に戻るぞ」
「ええっ⁉ は、はい……」
大柄な男はジャックたちを連れて山に戻っていく。キョウは舌打ちしながら呟く。
「ちっ……この借りは必ず返すぜ……」
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