僕はというと、アイツのちょっかいが全くなくなったことに対して何の寂しさも煩わしさも感じておらず、アイツにはお灸を据えたつもりすらなかった
。ホームルーム中いつもこちらを向いていたアイツは、あれから真っ直ぐ前を向いておとなしく座っている。
ちょっかい出されるだけの関係なんて、無くても何も変わらない
そう思っていたし、事実まったく気にも留めずに過ごしていたので自分の中でのソイツの存在感なんてその程度のものだったんだ。
◇
それから一週間経った頃。
登校して席に座った僕の所へユウスケがやって来た。
「なぁ、あっくん。もういい加減、星名と仲直りしたら?」
「ん?仲直りっていうか、別に喧嘩したわけじゃないし、別に今のままでいいと思ってるんだけど...」
「いや、このままだと星名が可哀想でさ。あいつ、あっくんに怒られて口きいてもらえないのが相当ショックみたいで、毎朝あんなんなんだぜ?」
ユウスケが指を差した先の教室のベランダには、アイツがいた。
アイツは青いカバンを抱えながら、中庭にいる生徒や空を見上げている。あぁ、これが「黄昏」というものなのだろう。見た瞬間に誰もがそう感じるような雰囲気で、その背中からはこれでもかというくらい哀愁が漂っていた。
ユウスケや周りに聞いた所、僕に無視されるようになってからというもの、アイツは毎朝早くから登校していたらしい。教室に入るとそのままベランダへ向かい、座ってずっと外を眺めたままで、誰かが話し掛けても「あぁ」とか「うん」とか薄っぺらい反応しか返って来なかったと。
毎日のように僕に絡んでいたのを周りは皆見ていたから、それが原因なのかをちょっと聞いてみたら「もう口きいてくれないからさ...」と悲しそうに言われたと。
僕はそこまで早く登校するタイプではなかったが、教室に入ってもアイツがいるかどうか確認してたわけでもないし、ベランダに誰かいるかとか気にしたこともなかったし、ましてカバンごとベランダにいたのならギリギリに着席しても特別何も思わないわけで、ユウスケに聞くまではそんな状況に全く気付いていなかった。
自分のせいとか考える以前に、そういうこともあるだろうから仕方ないだろくらいにしか捉えることができずに「他に何か理由があるんじゃない?」と周りに聞いて回ったが、皆が口を揃えて「あっくんが許してあげれば元気になるよ」とのことだった。「許してあげないと可哀想だよ」とすら言われた。
朝練とかあるはずなのに、毎朝早く教室に来るってことは練習時間を削ってるのかも知れない。それか何かチームメイトと上手くいってなくて練習参加してないのかも知れない。普段クラブハウス(寮)で生活してるから行き場がないのかも知れない。
色々考えて、僕は話し掛けることを決意する。
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