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僕はテニス部に所属している。
中学時代もテニス部だった僕は、高校でもテニス部に入ることを決めており、春休み前から高校の部活に一足早く参加させてもらっていた。
中学時代からの先輩が居たのだが、それは1つ上のニイクラ先輩だった。中学の時も仲が良くて、部活の後にいつも教室まで迎えに来て一緒に帰ってくれて色んな話を聞いてもらってた。
今日もニイクラ先輩に話を聞いてもらお。マジでアイツのことは許せん...
そうして部活が終わり、僕は新居倉先輩と帰り道を歩きながら今日の出来事を話していた。その道中、ハプニングが起こる。
ここは県内有数の進学校であると言われる所以は、その生徒数にある。幼稚部から大学までを擁し、広大な敷地には各特待生を受け入れるための練習場や寮、各種ホールや食堂など、テーマパーク並みの敷地であると言っても過言ではない。
そんな敷地だから、テニスコートからバス停までは歩いて20分程かかるわけで、その途中にはサッカー場やクラブハウスがあった。
ハプニングとは、つまりアイツとの遭遇である。
ニイクラ先輩と歩いていると後ろからサッカーボールが転がってきて、僕らの前で止まった。後ろを振り向くと向こうの方に数人いたのだが、もう日が暮れているのでハッキリとは分からない。
サッカー部の人たちが蹴ったボールだろう。こっちに歩いてきてるみたいだし、このまま置いとくか...
その場を離れて歩いていると、またサッカーボールが後ろから転がってきた。後ろにいた人たちとの距離は縮まっていたが、誰なのか認識できるほどの距離ではない。
何でこの距離までボールを蹴飛ばしてんだろ...下手くそ?
その疑問はまもなく晴れた。
三度目にボールが転がってきた時、サッカー部の人たちが至近距離まで迫ってきていた。ボールは「転がってきた」というより「足にぶつかるように蹴られた」という表現が正しい。
3人のサッカー部員の中にソイツがいた。
「何だよ、お前かよ」
大丈夫、サラサライケメンの大野くんは居ない。僕は自然と自分の言葉遣いが悪くなっていた。余程据えかねていたのだろう。
ソイツは「コイツ、うちのクラスの学級委員なんだ!」と他の部員に軽く紹介した後「じゃあな、女子!襲われんなよ!」と言って先に歩いて行った。
「ニイクラ先ぱ~い!!アイツです、アイツ!!さっき話した今日の憎たらしい奴!!何ですか、アレ!信じらんない!!」
「あっくん、気に入られてるねぇ~。なんか楽しそうでいいじゃないか。初日が無事に終わったみたいで安心したよ」
ニイクラ先輩はいつもこうやって僕をなだめながら話を聴いてくれる。背が高くてかっこよくて大人。先輩っていうよりお兄ちゃんって感じがする。
「でもなぁ、今の人が『襲われんなよ』って言ってたけど、あっくんはかわいいからホント気を付けろよ?」
ニイクラ先輩は中学の頃からいつも僕を子供扱いし、かわいいかわいいとからかってくる。
「ないない、襲われることもないし、ましてかわいくもないし、こう見えて力強いんで撃退しますよ!」
「う~ん、まぁ力強いっていうのは解ってるんだけど、力強くても何されるか分からないんだから、夜道とかちゃんと用心すること!」「はぁーーい」
先輩は自転車通学、僕の家は学校からバスだと5分、徒歩だと25分。バスだと途中乗降の不便さや近すぎてもったいなく感じるし、自転車はヘルメット着用が嫌だったので僕は大体徒歩で通っていた。
その日、ソイツとのやり取りがあったからか僕の話は止まらず、結果的に先輩は僕を家まで送るところまで来てしまった。方角的には全然違うのに、ずっと話を聞いてくれていた。
「結局、こんなとこまで来てもらってすいません...」
「いいのいいの、俺チャリだからすぐ戻れるし。それに襲われずに済んで良かったしな」
「また明日な」
頭をなでた後、ニイクラ先輩はそう言って自転車に乗って行った。
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