船を待つ間の日々を、私たち三人は満喫していた。
さすが大陸一の港町、色んなお店が立ち並んでいる。
洋服屋、宝石屋、武器屋、防具屋、魔材店…
どこに行っても潮の匂いが漂うのもピチョンならではだ。
窓の外には大きな漁船と、海人達が網から魚を下ろしているのが見える。
「お魚料理よりお肉とか豆料理の方が好きだったんだけど…ここ数日で順位が変わりそう!」
「じゃろう?水物は鮮度が命じゃよ。」
今日は、船着き場近くの小さなお店でお昼を頂いている。
ズーミちゃんを隠しやすいよう、いつも通り端っこのテーブルで。
「今までの中で、ここが一番好みの味付けだな。」
ワインで蒸された大きなムルル貝を頬張りタチがうなずく。
「タチは味濃いの好きだもんね。」
白身魚のソテーを切り分け、トマトソースと共に口に運ぶ。
美味しい!
選択肢がある場合、好んで魚料理を選ぶことはなかったけど、今度からは迷うことになるだろう。
ピチョンに着いてからというもの、どんどんお魚が好きになる。
「タチ。わらわのと、一つ交換じゃ。」
いつもズーミちゃんは生魚のお刺身を選ぶ。
素材のままが一番だそうな。
赤身のお刺身二切れと、貝殻一つが交換こされる。
「ナナもどうだ?うまいぞ。」
「ありがとう。でも、今回は遠慮しておく。貝物ちょっと苦手なんだよね…。」
ピチョンについてからは、毎食それぞれ違うものを頼み一口ずつ交換していた。
三人いると色々味わいたい欲を、懐と胃袋に無理をさせず叶えられるのだ。
「なぜじゃ。栄養も豊富でしかも美味しいじゃろう?」
めちゃくちゃ猫舌なズーミちゃんは必死にフーフーとムルル貝を吹いている。
「むかーし、貝を食べた時にね。ジャリ!ってした嫌な思い出があって…。」
前々回の人生。猛獣使いをやっていた時。
山奥で遭難しかけ、助けられた山小屋で出された夕飯の貝スープが原因である。
その一家ではそれが普通なのだろうが、たっぷり入った貝はみんなジャリジャリで砂味がした。
しかし親切に助けてもらった手前、残すわけにもいかず、涙を堪えて完食したのだ…。
次の朝逃げるように山を下る途中、崖から落ちて死んでしまった。
「これは大丈夫だ、食べてみろ。」
「う~ん…。」
もう何年もたっているし、タチとズーミちゃんもとっても美味しいそうに口にしている。
その姿を見ていると、私も食べてみたい気持ちが大きくなる。
今の私なら美味しく頂けるかも?
「タチ。ナナ様にあーんするのじゃ。これを味わわんのはもったいない。」
もぐもぐと口を動かし、目尻を下げて満足げなズーミちゃん。
いいな~。スッゴクおいしそう。
「ナナ様…?」
ピクッ。
ズーミちゃんと私が固まる。
だいぶ自然になって来たのだが、たまに表れてしまう、神と化身との微妙な関係性。
「タチ!やっぱり私も食べたいあーんして!あーん!」
大きく広げた自分の口を指さし、卑しくせわしくおねだりをする。
ズーミちゃんが「やっちゃったのじゃ!」と全身プルプルしているのを誤魔化すために…!
「…。」
いぶかしげな表情を見せながらも、ムルル貝を食べさせてくれるタチ。
柔らかい歯ごたえと、独特な弾力。
久しぶりの感触が口で広がる。味付けは薄いほうが私好みだけど、なるほど、確かに美味しい。
「ん~~!!おいしい!ジャリジャリしない!」
普通に、素直に感動である。貝おいしいではないか!
「お前たち…いつからそういう関係になった?」
既に、もう何度かこの手のやらかしを繰り返していた。
なにせ未だに剣一つ奪えない、私とズーミちゃんである。
基本どこか抜けているのかもしれない。
「タチにもあーんしたげる!私のお魚も美味しいよ!」
「わらわのも、あーんじゃ!あーんじゃと倍は美味しくかんじるのじゃ!」
二人して料理をフォークに刺し、タチの口元へと慌てて運ぶ。
「いつ抱いたのだ?」
「…え?」
タチは、私の差し出した白身魚のソテーをパクリと口にしよく噛み飲み込んだ。
「隠していたつもりかもしれんが、ここ数日主従関係が滲み溢れているぞ…。」
もぐり。今度はズーミちゃんの差し出したお刺身を食べるタチ。
ただご飯を食べているだけなのに、驚きの威圧感。
「抱いたのだろう?ナナ。」
私とズーミちゃんは目を合わせる。
色欲勘違いを起こしてくれている…!さすがタチ。
困るけど助かる。だって抱いてないし!
二人で小さくうなずき、共に口を開く。
「そ…そんなわけない――」「そ…そうなんじゃよ――」
…あれ?
「ちょ、ちょっとまってズーミちゃん!そっち路線で押すつもりなの!?」
「じゃって!いっそその方が辻褄も合わせやすいし、今後も楽じゃろうし…!」
「私とズーミちゃんはお友達!お友達でいたいって言ったじゃん!」
「そうじゃけど!やっぱり主従関係はあるものじゃし…どうしても意識するときはあるんじゃよ~!」
「無理させちゃってるとは思うけど!肉体関係があるみたいな――」
ドン!
タチがテーブルを叩いた。ずっしりと重く。
「なぜ私を混ぜない!!」
…ですよね。この道を進むとそういう話になりますよね、タチさんの場合。
「ナナがズーミを抱き!ナナを私が抱く!よって私が一番上!なぜそうしない!三人の中だろう!!」
「いや、抱いてないから!」
「ならば、私が両方抱いて私が一番上だ!」
「お主がナナより上になることなどあらんよ!ナナ様じゃぞ!!」
「変なとこでムキにならないでよズーミちゃん!タチが一番上でいいから!でも抱くのは無し!」
「やっぱり二人でしているな!いつの間にそんな中になった!隠れてこそこそしている時か!」
それはその…タチの剣を奪うために作戦会議というか…。
正直光の化身イトラが絡んできてからは、優先順位がさがっちゃったけど。
美味しいごはんを仲良く食べまわるの下ぐらいの位置に。
「タチだって気付いたらいなくなって、単独行動よくしてるでしょ!」
「私は自由だからな!だが除け者は寂しい!私も混ぜろ!!」
「わかった!まざるのじゃ!!わらわはそれでよい!」
完全に混乱しているズーミちゃんがタチの勢いに飲まれてしまった。
「だめだよズーミちゃん!タチの手口なんだから!乗ったらたぶらかされちゃうよ!」
「ズーミとして、私とはできないのか!!ナナはスライムじゃなきゃ愛せないのか!!」
「だからしてないって!」
「じゃあ今夜はこれを着て一緒に寝ろ!とりあえずそれでいい!」
勢いよく伸ばしたタチの手には、ひらひらしたピンクの半透明の布が握られていた。
「…なにこれ?」
「えっちな下着だ!」
なるほど、そういわれると一応、下着の形をしている…のかな?
「い…いつの間にこんなモノを?」
「夜な夜な街に繰り出してだ!」
ピチョンに着いてから、毎夜コッソリどこに出かけているのかと思ったら…。
如何わしいお店に通い詰めてたわけじゃないのか…。
いや、どっちにしても如何わしいお店だけれど。
「だめです。みとめません。」
「ならズーミとの関係もゆるさんぞ!」
「だ・か・ら・~~!!」
交わらない会話。恥じらわないタチ。
そんなえっちなモノお食事中に見せびらかさないでよ。
目のやり場に困る。
ガシ。
私の腕をズーミちゃんが突然つかんだ。
プルプル震えながら。
「…着ろ。その方が楽じゃ。裸じゃって川で見られたじゃろう。」
「ズーミちゃん!?」
「だってこのままじゃ!わらわポロっとしゃべっちゃいそうじゃもん!!わらわ達の関係を!!」
「やはりかっ!!!」
隠し通すごとに耐えかねたな!ズーミちゃん!
そんな事で場が収まるなら…。って価値観なんだろうけど、素が裸のズーミちゃんとは違うんだよ!?
スケスケだよ!?ちっちゃいよ?!
「少し冷静になってよズーミちゃん!他人事だと思っていい加減なコト――」
「安心しろ。ズーミの分も、私の分も当然用意してある。サイズもきちんと合わせてあるぞ。」
両の手にヒラヒラとか紐を握りしめ、引き締まった顔をするタチ。
不意にいなくなる前、妙に体を撫でまわされたが、もしかしてそれを作りにいってたの?
「わ…わらわ元々裸なんじゃが?」
その通り。
お出かけ時は全身皮装備だけど、部屋でくつろいだり、寝る時は素っ裸である。
「だめだ。着ろ。一人は皆のため、皆は一人のためだ。」
ズイッ。
ズーミちゃんに真っ白の紐を押し付けるタチ。
「…友として、これ以上わらわ達の事を問い詰めんでくれるか…?」
「!?待ってよズーミちゃん!!早まらないで!!」
ぷるぷると震えながら。差し出された白い紐 (下着)を手に取るズーミちゃん。
「三人の変わらぬ友情の証だ。」
残った二つのうち、赤いヒラヒラで、なぜか切れ目のある布 (下着)を胸元で握りしめるタチ。
二人はゆっくり私を見て、ピンク色で半透明な欠片 (下着)を差し出した。
ほんと。今回の人生はなんでこんな事になっているのだろう…。
我が友達の熱いまなざし。
何一つ隠せていない下着 (概念)を握りしめるしか私には選択肢がなかった。
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