「ナナ。私達も踊ろう。」
「ヤダ!!!」
脊髄反射で言葉が発せられるほど嫌だ…!
「なぜだ?楽しいぞ?」
「…下手なの。踊りとか歌とかてんでダメで…。」
今回の人生は試していないが、どうせヘタだ。
何度転生しても、変わらぬコトの一つ…壊滅的リズム感!
一度、天使の声を持って生まれた時があった。
目指せ歌姫!と意気込んでいたものの、度を越した音痴だと判明してしまう。
その回に限らず、どの肉体をもってしても…ダメなのだ。
どうも歌に感情を乗せるとか、抑揚をつけるとかが苦手なのだ。
ちなみに歌姫を目指した回は、天使の声と悪魔の律動を合わせた「不気味の具現」として、対魔物の戦略兵器を務めていた。
最後は仲間から「吐き気を呼び起こす悪魔」として毒殺されたけど。
「大丈夫だ。私と一緒なら。」
「無理だって!私のダメ具合知らないでしょ?」
膝を抱えて丸くなる私を、タチが強引に引っ張り上げる。
「教えてくれ。ナナの事を。」
うぅ…タチのお誘いを受けたい気持ちはあるんだけど、思い出してしまう。
かつて英雄と呼ばれた戦士だった人生。たぶん二回目の人生だ。
あの時から既に、周りに言われていた。
リズムやタイミングなど無縁の、猪戦士。
既に戦い方から滲み溢れていたわけだ。
実際、生まれ持っての異常な筋力と治癒力で突っ込むだけで敵を崩壊させていた。
おへそを隠すと調子が悪くなるのと同じ。
何度転生してもダメな私の特徴だ。
「おしゃべりじゃダメ?」
「色んなナナを見てみたい。色々ナナと味わいたい。」
まっすぐ、そう言われると断る理由がなくなる。
「…もう。恥かくのは私なんだからね。」
私が嫌がる理由はソレ。でもどんなにダメでもタチが嫌わないのはわかっている。
だから、断る理由がない。
タチに抱き寄せられて、ゆっくり体を横に揺らす。
一つ。二つ。
体に緊張がはしり、手が汗ばむ。
「硬いな…。可愛いぞ。」
私の腰に添えられたタチの手と密着する腰が、ゆったり優しく補助してくれる。
「言ったもん…。苦手だって。辱めは一緒に受けてね。」
「ナナと一緒ならなんでもご褒美だ。」
上手になだらかに踊る人々の中。
ただゆったり横揺れしているだけの私達。
誰も私達など気にしてないだろうけど、とっても恥ずかしいし緊張してしまう。
しかも、この程度の動きで、タチの足を何度も踏みそうになる。
「ごめんね。」
「愛してるぞ。」
いつだってタチはタチ。
私のたどたどしい足取りなど、織り込み済みの様な足運び。
「ゆっくり。ゆっくりだ。」
優しい言葉に、安心と反抗が同時に沸く。
神としての気位だろうか?ただの子供っぽい負けん気だろうか?
「ゆっくり…。ゆっくり…。」
いつも私の胸をまさぐるタチの腕に任せて、体を揺らす。
何度も一定のリズムでタチにつられていると、まるで自分も乗れているような気になって来る。
「ゆっくり。ゆっくり。」
「ゆっくり。ゆっくり。」
2人で声を揃え、ゆっくり。ゆっくり。身を任せる。
体の違和感が消え、ちゃんと肉体が操れてないそわそわする感じを、タチが吸ってくれる。
「その調子だ。」
「なんか…いい感じかも?」
踊り始めてからずーっと、タチは私を見ている。
「どんくさい奴だな」とか思ってないのはわかっているけど、ちょっと気になる。
よく観察して、体の動きを合わせてくれてるのだろうか?
「ただ、見とれているだけだ。」
「もしかして、相手の心を知る能力も契約してたりしない?」
体を自然に揺らしながら、会話ができるのが嬉しい。
「ナナは目に色が出る。」
「…そうなんだ。」
始めて言われたけど、タチにはきっとわかるのだろう。
流れを感じる。ゆったり。ゆったり。
密着するタチと温かさを分け合い、柔らかさを確かめる。
二人の境は消えて、一緒に動けている。
「楽しいな。」
「…うん。」
ただの横揺れだけど楽しいし、踊れてる気がする。
心地よい動きに、私だけを見つめる瞳。
あぁ、ダメだ。また胸が締め付けられ始める。
タチのせいだ。苦しいのか嬉しいのかわからないこの感覚。
「やはり一度私に抱かれろ。そのほうが良い。」
「性欲魔人…。」
良い雰囲気だったのに。…まだ良い雰囲気だけど。
「嫌か?ナナ。」
「…今日はここまで!」
ちゃんと答えずはぐらかしてしまう私。
体を離すと空気の涼やかさを感じ、自分の体がだいぶ温かくなっていたのがわかる。
「だめだ。まだそばにいろ。」
「今日はここまでなの。」
再び抱き寄せられると、体が安心する。
離れて失われた熱と、寂しさが埋め合わされて。
だめだ…。どんどん弱くなる。
「ナナ。一緒にいれば大丈夫だ。」
「…ごめんね。」
踊ることで同調した私の体は、もう抵抗できない。
どうにか言葉で足掻いたつもりが、甘えた声色では何一つ隠せていなかった。
「騙せると思うのか?可愛い奴め。」
甘くしめやかなタチの言葉。
胸のズキズキがもう一度大きく広がる。私の体を超えて。
頭半分高い、タチの顔を見上げる。
隙間がないほど密着した体。顔だけが身長差のせいで、離れている。
寂しい。くっついていたい。
「素直で、良い子だ。」
タチが首を傾け、私は目を閉じ、体の全てが重なる。
柔らかく薄い唇。脱力した私の体強く強く抱きしめられた。
今まで、気を使って優しく手加減してくれてたんだね。
心もギュウ、ギュウ。体もギュウ。ギュウ。
苦しいはずなのに、気持ちが良い。
もっと近くに居たい。ずっとそばに居たい。
「んっ…ふっ…。」
溶け切った私の体は、タチに強く甘く食べられていく。
踊った時より隅々まで。されるがままに身を任せ、入り込んでくる舌を受け入れる。
熱く。熱く。柔らかく。艶めかしく。
物理的な侵入に、私の体は少し反応する。
ちょっとのびっくり、ちょっとの警戒、大きな喜び。
うっすらと瞼を開き、確認する。
やっぱりタチだ。
大丈夫だ。と優しく細まった視線で答えてもらった。
再び瞼が落ちて、暗闇の中彼女だけを感じる。
お口から入り込んだタチに失礼のないよう、全て受け入れる。
だらしなくてもいい。ちゃんとくっついていたい。
踊りの時と同じ。ゆっくりうごめくタチの舌に、私はただ合わせるだけ。
小さな水音を重ね。お互いを確かめ合う。
ズキズキの痛みは繋がりやすい場所を求め、私もタチもたくさんキスを重ねる。
肩からぶら下がっていただけの私の両腕は、崩れて離れないようタチの腰にすがり付く。
それに合わせてもう一度、締めなおすように強く、タチが私を抱きしめた。
「ふぁっ…」
中身が溢れそうだ。
バクバク暴れまわる心臓。体だけじゃなく、全てを重ね合わさないと痛みが治まらない。
もっと、もっとタチの方へと向かわないと…。
絞るように抱きしめられても、全然だめだ。甘く切なく素敵でも、この痛みに耐えられない。
「タチ…タチ…。」
今感じてる、この苦しみをわかってほしくて、必死に彼女にすがり付く。
私もタチが好きだよと、ちゃんと伝えたくて。自分からも必至に唇を重ねる。
「愛している。」
しょせんは私。どんなに全力で伝えようとしても、タチの言葉一つ。タチの動き一つで。
敵わないと思い知らされる。
それが、私は…。
どっぷりと情に浸かり、抜け出したいとも思わない。
ずっとずーっとキスしていたい。
何度も何度も唇を重ね、舌を絡める。
好き。大好き。
突然、私を抱きしめていたタチの腕の片方が、ゆっくりと背中を伝い私のうなじを撫でた。
「ひゃぅ!?」
ゾクゾクした感覚に驚き、顔を離してしまう。やだ寂しくなる。
「ナナ。息をしろ。死んでしまうぞ。」
ちょっと必死になり過ぎてたようだ、唇が離れたとたん、体が勝手に荒く呼吸をする。
でも、それどころじゃない、離れてしまうと息ができてもズキズキと寂しさで死んでしまう。
「ナナ。ナナ。深呼吸だ。」
キスを再開しようとする私を避けるタチ。
なんでよ。いつも欲しい欲しい言ってたのに…!どうして離れるの?
「ふー…ふー…」
ぼーっとタチを眺める。どうしよう。好きが止まらない。
タチがこれ以上離れないよう、ギュッと抱きしめる。
「良い子だ。良い子だぞ。だが死なれたら困る。」
息をするだけで褒めてもらえる。不思議だけど当然だ。
キスを我慢してまで、呼吸してるんだから。
「…チューしたい。」
ちゃんと酸素も吸ったし、離れるのは終わり。
じゃないと怒る。私をこんなにしておいて…。
「キスだけじゃだめだ。」
タチが私をお姫様抱っこした。違う抱っこじゃない。キスがしたい。
「タチ。寂しい。」
早く重なりたい、タチを見ているだけで苦しさと切なさで心が握りつぶされる。
「わかってる。抱いてやるからな。」
そっか。今より。もっと近くになれるのかな?
もっともっとタチに心が重なるのかな?
ちゃんと私の気持ち受け取ってもらえるのかな?
「愛している。ナナ。」
「…うん。」
その夜私はタチと体を重ねた。甘く。愛しく。
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