いつ終わるともしれない戦闘が続く。[無い無い]の私にできる事なんて当然ない。
ただただ戦いを見守るばかり。
「タチ!!」
「なんだ!」
「なんかおっきくなってる!!」
至近距離で攻防を繰り広げているタチにはわからなかったのかも。
けど確かに、ダッドが大きくなってる。
ギュムギュム!
唐突に3体の土の化身がくっつき、滅茶苦茶大きな一つの塊となった。
「まだ、芸を隠していたとは…悪くないぞ!」
傍から見るとだいぶ窮地に見えるけど、タチ的には嬉しそうだ。
どういう心の流れをしてるのだろう?
「ナナ!」
「なに!」
「もっと応援してくれ!」
やっぱり追い詰められているんだ…。
額に流れる汗は増え、動きの切れがなくなっているのが私でもわかる。
「そんなものでよければ!がんば――」
声援なんかにすがるほど…余力がないんだね…!
でも想いは力!!
せめて全力で応援しようとする声に割って入られた。
「違う!なんかこう…もっと媚びた可愛いヤツをくれ!!!」
…あれ?タチさん、どうしてそうなるの?
健気にも、人々のために戦うあなたの勇士を称え声を出そうとしたんだよ?
「えっと…なんでー!?」
ちゃんと彼女の耳に届くよう大きな声で伝える。
バカヤローと叫ぶかの二択は少し迷った。
「元気が出るからだ!早く媚びろ!!!」
(ぐぬぬぬ…!)
なんか私怒られてますか?
変わらず、引かず、悪びれず。
彼女という存在を学べていない私が悪いみたいだ。
「思いは力だぞ!!早く媚びろ!!!」
「良いコト風に言わないでよ!」
正しい姿勢を示すかのように、神様を急かすタチ。
えぇい。「恥ずかしい」とか「なんで?」とか迷っている場合か!
実際に戦ってくれている、彼女の助けになるというなら従うのみ!
別に損するわけじゃない!
「タ…タチすてきぃ~!かっこいぃー!」
だめだ!テレが隠しきれない。結果よけいに恥ずかしい感じになる…!
「ふざけているのか!!!」
ここ一番の怒号が敵ではなく私に降り注ぐ。
なぜ…!!
その思い、殴り合ってる相手にぶつけてよ…!
「媚びた可愛い応援ってどうやればいいのさ!」
昔の事はだいぶ忘れているけど、13回の人生でたぶん一度もしたことはない。
「愛と欲情を込めてだな――」
ドゴン!
寝返ってやろうか…。
そんな思いが脳裏に浮かんだその時、高い所で鈍い音がした。
「タチ!!」
ダッドの振った大きな腕をかわし損ねたのだ。
先ほどまでと大きさも距離感も違う相手にたまる疲労…。
いつかこうなるのは必然だった。
タチは相手の体を駆け上り、攻防を繰り広げていた。
撃ち落とされる形で攻撃を食らった彼女が、宙に舞い落ちてくる。
(あの高さじゃ死んじゃう!)
意識がないのかぐったりしたまま落下してる。
ともかく駆け寄る私。
(受け止めに行く意味なんてあるのかな…!?これ…!?)
足が動く、全力で。私は死んだって次がある。せめてクッション代わりにでもなれれば。
「間に合って…!」
どうにか、ギリギリ受け止めッ――。
ドプン。
目の前に青い玉が広がる。
もっちゃりした水音にタチが包まれた。
全力で走っていた私もその水玉につっこむ。
見たことのある粘度の高い水の玉。
タチが水攻めを楽しんでだヤツだ。
「無謀じゃな。間に合ったとしても、二人ぶつかって共倒れするだけじゃろ。」
「ズーミ!」
ぱちゃりと水から顔を出した目の前。
そこには両腕を組んだ水の化身が立っていた。
「ナンノ…ツモリダ…」
空がしゃべっているみたいに、高い高いとこからくぐもった声がする。
「こちらのセリフじゃ。わらわが引き継いだ地で勝手をしおって!」
私は水に受け止められ沈んだタチを、息ができるように抱えて持ち上げる。
一方ズーミは、ダッドを睨みつけて向かい合った。
「人と化身なら化身につく…と言いたい所じゃが。」
「勝手に我が地を荒らすアホウと、おいしいもちもちを作るおじさんならば別!!」
ゲホゴホと咳き込むタチ。
良かった生きてるし、意識もある。
タチの容体を確認し、私は声を張り上げたズーミちゃんを見た。
その小さな体から迷いは消え、強い意志がみなぎっている。
「素敵なおじさんにつくのがどおりじゃ!」
「そうだ!そうだ!」
タチの事が心配で、話をちゃんと聞いてなかったけど、なんとなくノリで同意しておく。
もちもちって単語は聞こえたし。
「タチ、まだ戦えるか?」
「まかせろ」
さっきまで意識が飛んでいたのに、闘志は萎えていない所か、目のギラ付きが激しくなっている。さすがタチ。
言葉通り常人じゃない。
「本当に大丈夫…?」
むにむにむに。
水玉の中、意識の無いタチが沈まぬように抱きかかえた、親切な私…私の胸に。
顔をグリグリと押し付けビッと親指を立てるタチ。
さすがタチ、言葉通り常識人じゃない。
「全快した。まかせろ。」
「移動はわらわが担おう!」
ズーミが腕を上げると、水の玉が伸び私とタチを、ダッドの方へと流れ運ぶ。
なんと楽ちん。
「ナナ!おぬし、わらわの源の場所を正確に見抜き、つかみおったな!」
「えっ…うん…!」
私が神様だって…もしかしてバレた?
「ダッドの一部分といえど、ある程度の密度をもてば源の力も塊がある!だからこそのパワーアップ!」
「…そうか!」
確かに、3体に分かれていたときは感じなかったけど、今はかすかに懐かしさを感じる。
化身達に神が分け与えた[源の力]…!
「作があるんだな?」
流れる水に乗り、剣を構えるタチ。
右腕が紫色に腫れている…さっき攻撃を受けた部分だろうか?心配だ。
「ダッドの源の位置はどこじゃ!?おぬしなら、わかるのじゃろう!」
「ちょっとまってね!」
ダッドの攻撃を躱すため、ウネウネと蛇行する水流。
私はバランスをとりつつ目を凝らす。
焦るな…焦るな…えっと、えっと…。
「かわいいぞナナ!今すぐ抱いて可愛がってやりたいほどだ!!」
縦ぶりの攻撃を避けるため、私とタチを二手に分かれさせた水流。
その向こうの方でなんか叫んでる。
「小娘の邪魔をするな色ぼけ!!」
後ろの方でも何か叫んでる。
どっちも耳に届きまくってるけど。
「正しい応援の仕方をだな――」
「緊張感をもてんのかおぬしは!!」
どっちも気が散るんだけど!…ん?
太陽光が水流に反射した輝きかな…?今キラリと――
「見つけた!左の肩!でっぱてる所のあたり!」
「良い子だ!」
分かれていた水流が再び繋がり、タチと合流しざまに頭を撫でられた。
まるで通り魔。でもちょっとだけ嬉しい。
「運ぶぞ落ちるなよ!」
ズーミの声で水流が加速し、ダッドの左肩へと向かって弧を描く。
「続け!私が露払う!!」
「うん!」
空中で襲い来るダッドの攻撃を斬撃と水撃が撃ち落とし、先に飛んだタチが肩の出っ張りに斬りかかる。
連続した斬りで、細切れになる土の体。
(…見えた!)
続いて跳ねた私が、崩れ落ちる土の中にキラリと輝くソレに飛び掛かる。
「ガ…!?」
表情の読めない土の化身の顔に、驚愕が浮かんだ。
「ごめんね!!」
ギュウゥウウ!
ズーミちゃんを握りしめた時と違い、全力で。
(ごめん!ホントごめんね!)
「ゴッガ…!ガ…!」
ダッドが苦しそうにひとしきり暴れ、やがて固まる。
「ガァアアァアア!!!」
パァン!
大きな破裂音と共に高さ十メートルはあったであろう土の塊が一斉に崩れた。
「やった…!」
空中に放り出され、土と一緒に落下する私。
「よくやったぞナナ。握った拳が可愛らしいな!」
ズーミの操る水流に乗り、タチが私をキャッチする。
もちろん胸は触ってる。
完全に変態で、犯罪だけどでもまぁいい。
今はこのピンチを打開できた喜びと安堵で胸がいっぱいだ。
…私の応援が下手だったばかりに負けたのかも?とか、ちょっと思っていたから。
まぁ。まぁ。今ぐらいは、胸ぐらいは。
「後で褒美に抱いてやるからな!たっぷり味わうんだぞ?」
タチが王子様のごとく、私のおでこにキスをした。
「誰にとってのご褒美よ!?」
「双方にとってだ!!」
「おい!いちゃつくのは良いが暴れるな!振り落してしまう!」
今朝と同じ三人でのわちゃわちゃがまた始まった。
崩れてしまった店並や、タチのダメージは心配だけど、とりあえず一安心ということで。
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