かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第十話 媚びろ!ってなんだ!

公開日時: 2020年9月5日(土) 04:06
文字数:3,249

 いつ終わるともしれない戦闘が続く。[無い無い]の私にできる事なんて当然ない。

 ただただ戦いを見守るばかり。


「タチ!!」

「なんだ!」

「なんかおっきくなってる!!」

 至近距離で攻防を繰り広げているタチにはわからなかったのかも。

 けど確かに、ダッドが大きくなってる。

 

ギュムギュム!

 唐突に3体の土の化身がくっつき、滅茶苦茶大きな一つの塊となった。


「まだ、芸を隠していたとは…悪くないぞ!」

 傍から見るとだいぶ窮地きゅうちに見えるけど、タチ的には嬉しそうだ。

 どういう心の流れをしてるのだろう?


「ナナ!」

「なに!」

「もっと応援してくれ!」

 やっぱり追い詰められているんだ…。

 額に流れる汗は増え、動きの切れがなくなっているのが私でもわかる。


「そんなものでよければ!がんば――」

 声援なんかにすがるほど…余力がないんだね…!

 でも想いは力!!

 せめて全力で応援しようとする声に割って入られた。


「違う!なんかこう…もっと媚びた可愛いヤツをくれ!!!」

 …あれ?タチさん、どうしてそうなるの?

 健気にも、人々のために戦うあなたの勇士を称え声を出そうとしたんだよ?


「えっと…なんでー!?」

 ちゃんと彼女の耳に届くよう大きな声で伝える。

 バカヤローと叫ぶかの二択は少し迷った。


「元気が出るからだ!早く媚びろ!!!」


(ぐぬぬぬ…!)

 なんか私怒られてますか?

 変わらず、引かず、悪びれず。

 彼女という存在を学べていない私が悪いみたいだ。


「思いは力だぞ!!早く媚びろ!!!」

「良いコト風に言わないでよ!」

 正しい姿勢を示すかのように、神様を急かすタチ。


 えぇい。「恥ずかしい」とか「なんで?」とか迷っている場合か!

 実際に戦ってくれている、彼女の助けになるというなら従うのみ!

 別に損するわけじゃない!


「タ…タチすてきぃ~!かっこいぃー!」

 だめだ!テレが隠しきれない。結果よけいに恥ずかしい感じになる…!


「ふざけているのか!!!」

 ここ一番の怒号が敵ではなく私に降り注ぐ。


 なぜ…!!

 その思い、殴り合ってる相手にぶつけてよ…!


「媚びた可愛い応援ってどうやればいいのさ!」

 昔の事はだいぶ忘れているけど、13回の人生でたぶん一度もしたことはない。


「愛と欲情を込めてだな――」


ドゴン!

 寝返ってやろうか…。

 そんな思いが脳裏に浮かんだその時、高い所で鈍い音がした。


「タチ!!」

 ダッドの振った大きな腕をかわし損ねたのだ。

 先ほどまでと大きさも距離感も違う相手にたまる疲労…。

 

 いつかこうなるのは必然だった。

 

 タチは相手の体を駆け上り、攻防を繰り広げていた。

 撃ち落とされる形で攻撃を食らった彼女が、宙に舞い落ちてくる。


(あの高さじゃ死んじゃう!)

 意識がないのかぐったりしたまま落下してる。

 ともかく駆け寄る私。


(受け止めに行く意味なんてあるのかな…!?これ…!?)

 足が動く、全力で。私は死んだって次がある。せめてクッション代わりにでもなれれば。 

 

「間に合って…!」

 どうにか、ギリギリ受け止めッ――。


ドプン。

 目の前に青い玉が広がる。


 もっちゃりした水音にタチが包まれた。

 全力で走っていた私もその水玉につっこむ。


 見たことのある粘度の高い水の玉。

 タチが水攻めを楽しんでだヤツだ。


「無謀じゃな。間に合ったとしても、二人ぶつかって共倒れするだけじゃろ。」

「ズーミ!」

 ぱちゃりと水から顔を出した目の前。

 そこには両腕を組んだ水の化身が立っていた。


「ナンノ…ツモリダ…」

 空がしゃべっているみたいに、高い高いとこからくぐもった声がする。


「こちらのセリフじゃ。わらわが引き継いだ地で勝手をしおって!」 

 私は水に受け止められ沈んだタチを、息ができるように抱えて持ち上げる。

 一方ズーミは、ダッドを睨みつけて向かい合った。


「人と化身なら化身につく…と言いたい所じゃが。」


「勝手に我が地を荒らすアホウと、おいしいもちもちを作るおじさんならば別!!」

 

 ゲホゴホと咳き込むタチ。

 良かった生きてるし、意識もある。

 タチの容体を確認し、私は声を張り上げたズーミちゃんを見た。

 その小さな体から迷いは消え、強い意志がみなぎっている。


「素敵なおじさんにつくのがどおりじゃ!」

「そうだ!そうだ!」

 タチの事が心配で、話をちゃんと聞いてなかったけど、なんとなくノリで同意しておく。

 もちもちって単語は聞こえたし。


「タチ、まだ戦えるか?」

「まかせろ」

 さっきまで意識が飛んでいたのに、闘志は萎えていない所か、目のギラ付きが激しくなっている。さすがタチ。

 言葉通り常人じゃない。


「本当に大丈夫…?」


むにむにむに。

 水玉の中、意識の無いタチが沈まぬように抱きかかえた、親切な私…私の胸に。

 顔をグリグリと押し付けビッと親指を立てるタチ。


 さすがタチ、言葉通り常識人じゃない。


「全快した。まかせろ。」

「移動はわらわがになおう!」

 ズーミが腕を上げると、水の玉が伸び私とタチを、ダッドの方へと流れ運ぶ。

 なんと楽ちん。


「ナナ!おぬし、わらわの源の場所を正確に見抜き、つかみおったな!」

「えっ…うん…!」

 私が神様だって…もしかしてバレた?


「ダッドの一部分といえど、ある程度の密度をもてば源の力も塊がある!だからこそのパワーアップ!」

「…そうか!」

 確かに、3体に分かれていたときは感じなかったけど、今はかすかに懐かしさを感じる。

 化身達に神が分け与えた[源の力]…!


「作があるんだな?」

 流れる水に乗り、剣を構えるタチ。

 右腕が紫色に腫れている…さっき攻撃を受けた部分だろうか?心配だ。


「ダッドの源の位置はどこじゃ!?おぬしなら、わかるのじゃろう!」

「ちょっとまってね!」 

 ダッドの攻撃をかわすため、ウネウネと蛇行する水流。

 私はバランスをとりつつ目を凝らす。

 

 焦るな…焦るな…えっと、えっと…。


「かわいいぞナナ!今すぐ抱いて可愛がってやりたいほどだ!!」

 縦ぶりの攻撃を避けるため、私とタチを二手に分かれさせた水流。

 その向こうの方でなんか叫んでる。



「小娘の邪魔をするな色ぼけ!!」

 後ろの方でも何か叫んでる。

 どっちも耳に届きまくってるけど。


「正しい応援の仕方をだな――」

「緊張感をもてんのかおぬしは!!」

 

 どっちも気が散るんだけど!…ん?

 太陽光が水流に反射した輝きかな…?今キラリと――


「見つけた!左の肩!でっぱてる所のあたり!」

「良い子だ!」

 分かれていた水流が再び繋がり、タチと合流しざまに頭を撫でられた。

 まるで通り魔。でもちょっとだけ嬉しい。


「運ぶぞ落ちるなよ!」

 ズーミの声で水流が加速し、ダッドの左肩へと向かって弧を描く。


「続け!私が露払う!!」

「うん!」

 空中で襲い来るダッドの攻撃を斬撃と水撃が撃ち落とし、先に飛んだタチが肩の出っ張りに斬りかかる。

 連続した斬りで、細切れになる土の体。


(…見えた!)

 続いて跳ねた私が、崩れ落ちる土の中にキラリと輝くソレに飛び掛かる。


「ガ…!?」

 表情の読めない土の化身の顔に、驚愕きょうがくが浮かんだ。 


「ごめんね!!」


ギュウゥウウ!

 ズーミちゃんを握りしめた時と違い、全力で。


(ごめん!ホントごめんね!)


「ゴッガ…!ガ…!」

 ダッドが苦しそうにひとしきり暴れ、やがて固まる。


「ガァアアァアア!!!」


パァン!

 大きな破裂音と共に高さ十メートルはあったであろう土の塊が一斉に崩れた。


「やった…!」

 空中に放り出され、土と一緒に落下する私。


「よくやったぞナナ。握った拳が可愛らしいな!」

 ズーミの操る水流に乗り、タチが私をキャッチする。

 もちろん胸は触ってる。


 完全に変態で、犯罪だけどでもまぁいい。

 今はこのピンチを打開できた喜びと安堵で胸がいっぱいだ。


 …私の応援が下手だったばかりに負けたのかも?とか、ちょっと思っていたから。

 まぁ。まぁ。今ぐらいは、胸ぐらいは。


「後で褒美に抱いてやるからな!たっぷり味わうんだぞ?」

 タチが王子様のごとく、私のおでこにキスをした。


「誰にとってのご褒美よ!?」

「双方にとってだ!!」

「おい!いちゃつくのは良いが暴れるな!振り落してしまう!」

 今朝と同じ三人でのわちゃわちゃがまた始まった。

 崩れてしまった店並や、タチのダメージは心配だけど、とりあえず一安心ということで。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート