いつまでたっても騒がしい仲間たち。
諦めを胸に空を見下ろすと、昔の記憶が思い起こされる。
まだわらわが、ただのスライムだった頃。
若く。青く。言葉を知らぬ頃。
こんな高い所を仰ぎ見ていた。
今と違って夜空だったが。
目を閉じると、暗闇の中くぐもった音がする。
今ならわかる。
花火が天に咲く音だ。
「いつまでも、傍にいれるといいのじゃがの…。」
人に恋した友を想い、少し胸が苦しくなる。
どうしようにもない、生命としての作りの違い。
「お主なら、もしかしたら…どうにかできるのかもしれんの…。」
だって友達は、元神様だから。
逆立ちしてもそうは見えないが、事実そうなのだ。
(悲しむ顔はみたくないの…。)
タチに合流できるまでの道中、笑顔を見せる事もあったが、ナナの奥には不安と寂しさが見え隠れしていた。
昨日今日みたいな、元神とは思えない、気の抜けた間抜け顔じゃなく。いつ泣きだしてもおかしくないような…。
そこに触れると、そのまま傾いて倒れてしまいそうな気がして、つつかずにただ傍にいる事に徹した。
それが正しい選択だったのかわからないが、今のナナを見ているとそれでよかった気がする。
人より遥かに長い生。きっと寄り添えるのは、わらわだけだろう…。
そんな考えを薄く巡らせながら、夢の世界へと旅に立った。
記憶も薄れる、遠い昔。
初めて人間の友達ができた遠い思い出の日に。
* * *
アタシはヒトを食ベナイ。
ダッテあいつラ、しゃべるんだモン。
わざわざタベヨーと、オモエない。
スライムはスライムを食べナイのとオナジ。
食ベレルけど、食べナイ。
ヒトだってタブンそう。
わざわざヒトをタベナイ。気分がワルィから。
ナニ言ってんだか、ワカンナクても。
ビビってる「ヒョージョー」とか、キンキンした「ヒメー」とか。
ナンカ嫌になる。
何もそんなヤツら食べなくってモ、お魚とか、木の実とかでジューブンお腹がフクラムし。
そりゃ~、お魚も木の実も死にたくないダローけど。
私だってハラペコで死にたくナイし。
ヒトと仲良くなれたら、オモシロソーなのにナーって思うのは珍しいみたいで。
スライム仲間からは、ハブられてる。
そりゃ~、ニンゲンはアタシら見つけると、攻撃するか、走って逃げるか…。
チョ~失礼だし、ヒドイと思う。
ケド、あたしラだって、襲うか逃げるか。
ケッキョク一緒じゃん?
スッゴイ似てるな~って思うんだけど、仲良くできない。
言葉の通じるナカマとも仲良くできないのに、やっぱりヒトが気になっちゃう。
トモダチがいないセイって言われるけど、ちがうモン。
大きなミズウミの中、岩カゲに隠れてヒッソリ思う。
ヒトってどんな風に寝るんだろう?
やっぱり寂しかったりスルのかナ?ニテルンだから…。
ある夕。
ナカマ達に近寄るなって言われてル。森の中でヒトを見つけた。
ヒゲ面のオジサン。
昨日の大雨で崩れた地面。
倒れた木にアシが挟まって動けナイみたイ。
「くるなっ!!!魔物め!!!」
ナニ言ってんだかワカンナイけど。ちゃんと分かる。
「マモノ」「クルナ」何度もブツケラレタ音。ムカツク。
別に襲ったりしないのに。イキナリ敵意むきだしで怒鳴らレルとカナシクなる
(そりゃ~、スライムだってヒト嫌いにナルヨ!)
ワン!ワン!
ヒゲ面の横には毛の長いイヌがいた。
主人のビビリをわかって、大きな声で何度もホエル。
「わわっ!!」
アタシの体がオオキク広がって威嚇しちゃう。
しかたがナイんだ。
スライムはびっくりすると、体をオオキクみせるサガがある。
オビエルと逆に、チッサクなって体の中がプルプル震える。
ぐるるるぅ~!!
そんなアタシの姿をミテ。
イヌはコエを低くしてニランできた!
チョーこわい!!!
でも、ヨク見ると、しっぽがマタの間にはさまってる。
良い子なんだナ~。と思った。
きっとアタシがコワイのに、主人のタメにカッコーつけてるんだ。
そっとしてあげよーと思った。
アタシ関係ないし。
きっとヒトがヒトを助けるんダ。
ここはヒトのナワバリだから。
…でも、もし。
アタシみたいに、ナカマはずれのヒトだったらどうしよう?
一人でサビシク死んじゃうのは、可哀想だなって思った。ヒゲも汚いし。
でも、イヌがいるだけアタシよりマシか。
でも、カナシーのは嫌いなので、どうにかしようと思った。
「かまないでヨ?助けてあげるダケだから…!」
恐ル恐ル。イヌとヒゲの方に近寄る。
木と足の間に手をゆっくり伸ばした。
「や…やめろ!!」
食べられルっておもってんだろーな。
ヒゲオジは顔を真っ青にしテ、おびえてた。
ヒトってだめだな~って思う。
アタシの態度みれば、食べる気なんてナイのわかりそーなのに。
だって、イヌの方はアタシの気持ちをわかって、大人しくしてるよ?
ドスン。
乗っかてた木を、横にコロガしてヒゲオジを助けてあげた。
「ナンデ?」みたいな顔して、アタシを見てくる。
逆にフシギ。まだワカンナインだ?
「…助けてくれたのか?」
他にナニがアルんだよ!
何言ってんだかわかんないけど、ヒゲオジがバカなのは分かった。
もうイイや。ここにいるのバレたのマズイし。
ヒゲオジ、バカだし。
「わっ~~!!!!????」
さっさと、にげよーとしたら、体をペロペロした。
イヌが舐めたんだ!!!
体がびっくりして跳ねて、少しオッキクなっちゃった。
だけど、イヌは怒らなくって、しっぽを振ってる。
すっごい嬉しそう。
「ジェットって言うんだ。良い子だろう?」
ヒゲオジが右足を引きずりながら寄って来る。
なんだ!ヤンのか!!
「…ありがとう。」
聞いたことのナイ言葉だった。
何言ってんだか分んないけど、でも、たぶん、きっと意味は分かった。
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