かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第六十話 青い思い出。

公開日時: 2021年5月27日(木) 07:47
更新日時: 2021年5月27日(木) 07:48
文字数:2,256

 いつまでたっても騒がしい仲間たち。

 諦めを胸に空を見下ろすと、昔の記憶が思い起こされる。


 まだわらわが、ただのスライムだった頃。

 若く。青く。言葉を知らぬ頃。


 こんな高い所を仰ぎ見ていた。

 今と違って夜空だったが。


 目を閉じると、暗闇の中くぐもった音がする。

 今ならわかる。

 花火が天に咲く音だ。


「いつまでも、傍にいれるといいのじゃがの…。」

 人に恋した友を想い、少し胸が苦しくなる。

 どうしようにもない、生命としての作りの違い。


「お主なら、もしかしたら…どうにかできるのかもしれんの…。」

 だって友達は、元神様だから。

 逆立ちしてもそうは見えないが、事実そうなのだ。


 

(悲しむ顔はみたくないの…。)

 タチに合流できるまでの道中、笑顔を見せる事もあったが、ナナの奥には不安と寂しさが見え隠れしていた。

 昨日今日みたいな、元神とは思えない、気の抜けた間抜け顔じゃなく。いつ泣きだしてもおかしくないような…。


 そこに触れると、そのまま傾いて倒れてしまいそうな気がして、つつかずにただ傍にいる事に徹した。

 それが正しい選択だったのかわからないが、今のナナを見ているとそれでよかった気がする。


 人より遥かに長い生。きっと寄り添えるのは、わらわだけだろう…。

 そんな考えを薄く巡らせながら、夢の世界へと旅に立った。

 

 記憶も薄れる、遠い昔。

 初めて人間の友達ができた遠い思い出の日に。


     *      *      *



 アタシはヒトを食ベナイ。


 ダッテあいつラ、しゃべるんだモン。

 わざわざタベヨーと、オモエない。


 スライムはスライムを食べナイのとオナジ。

 食ベレルけど、食べナイ。


 ヒトだってタブンそう。

 わざわざヒトをタベナイ。気分がワルィから。


 ナニ言ってんだか、ワカンナクても。

 ビビってる「ヒョージョー」とか、キンキンした「ヒメー」とか。


 ナンカ嫌になる。



 何もそんなヤツら食べなくってモ、お魚とか、木の実とかでジューブンお腹がフクラムし。


 そりゃ~、お魚も木の実も死にたくないダローけど。

 私だってハラペコで死にたくナイし。


 ヒトと仲良くなれたら、オモシロソーなのにナーって思うのは珍しいみたいで。

 スライム仲間からは、ハブられてる。


 そりゃ~、ニンゲンはアタシら見つけると、攻撃するか、走って逃げるか…。

 

 チョ~失礼だし、ヒドイと思う。


 ケド、あたしラだって、襲うか逃げるか。


 ケッキョク一緒じゃん?

 スッゴイ似てるな~って思うんだけど、仲良くできない。


 言葉の通じるナカマとも仲良くできないのに、やっぱりヒトが気になっちゃう。

 トモダチがいないセイって言われるけど、ちがうモン。


 大きなミズウミの中、岩カゲに隠れてヒッソリ思う。


 ヒトってどんな風に寝るんだろう?

 やっぱり寂しかったりスルのかナ?ニテルンだから…。


 ある夕。

 ナカマ達に近寄るなって言われてル。森の中でヒトを見つけた。

 

 ヒゲづらのオジサン。

 昨日の大雨で崩れた地面。

 倒れた木にアシが挟まって動けナイみたイ。


「くるなっ!!!魔物め!!!」

 ナニ言ってんだかワカンナイけど。ちゃんと分かる。

 「マモノ」「クルナ」何度もブツケラレタ音。ムカツク。


 別に襲ったりしないのに。イキナリ敵意むきだしで怒鳴らレルとカナシクなる


(そりゃ~、スライムだってヒト嫌いにナルヨ!)

 

ワン!ワン!

 

 ヒゲづらの横には毛の長いイヌがいた。

 主人のビビリをわかって、大きな声で何度もホエル。


「わわっ!!」

 アタシの体がオオキク広がって威嚇しちゃう。

 しかたがナイんだ。


 スライムはびっくりすると、体をオオキクみせるサガがある。

 

 オビエルと逆に、チッサクなって体の中がプルプル震える。


ぐるるるぅ~!!

 そんなアタシの姿をミテ。

 イヌはコエを低くしてニランできた!


 チョーこわい!!!


 でも、ヨク見ると、しっぽがマタの間にはさまってる。

 

 良い子なんだナ~。と思った。

 きっとアタシがコワイのに、主人のタメにカッコーつけてるんだ。


 そっとしてあげよーと思った。

 アタシ関係ないし。


 きっとヒトがヒトを助けるんダ。

 ここはヒトのナワバリだから。


 …でも、もし。

 アタシみたいに、ナカマはずれのヒトだったらどうしよう?

 

 一人でサビシク死んじゃうのは、可哀想だなって思った。ヒゲも汚いし。

 でも、イヌがいるだけアタシよりマシか。


 でも、カナシーのは嫌いなので、どうにかしようと思った。


「かまないでヨ?助けてあげるダケだから…!」

 恐ル恐ル。イヌとヒゲの方に近寄る。

 木と足の間に手をゆっくり伸ばした。


「や…やめろ!!」

 食べられルっておもってんだろーな。

 ヒゲオジは顔を真っ青にしテ、おびえてた。


 ヒトってだめだな~って思う。

 アタシの態度みれば、食べる気なんてナイのわかりそーなのに。


 だって、イヌの方はアタシの気持ちをわかって、大人しくしてるよ?


ドスン。

 乗っかてた木を、横にコロガしてヒゲオジを助けてあげた。

 「ナンデ?」みたいな顔して、アタシを見てくる。


 逆にフシギ。まだワカンナインだ?

 

「…助けてくれたのか?」

 他にナニがアルんだよ!

 何言ってんだかわかんないけど、ヒゲオジがバカなのは分かった。

 

 もうイイや。ここにいるのバレたのマズイし。

 ヒゲオジ、バカだし。


「わっ~~!!!!????」

 さっさと、にげよーとしたら、体をペロペロした。

 イヌが舐めたんだ!!!

 

 体がびっくりして跳ねて、少しオッキクなっちゃった。

 だけど、イヌは怒らなくって、しっぽを振ってる。

 すっごい嬉しそう。


「ジェットって言うんだ。良い子だろう?」

 ヒゲオジが右足を引きずりながら寄って来る。

 なんだ!ヤンのか!!


「…ありがとう。」

 聞いたことのナイ言葉だった。

 何言ってんだか分んないけど、でも、たぶん、きっと意味は分かった。



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