少しボーッとヒゲオジを見ていたら。
イヌがグリグリ鼻とアタマをこすり付けて来た。
なんだ?ヒンヤリしてきもちーのかな?
「頭を撫でてやってくれ。ジェットも感謝してるんだ。」
ヒゲオジが仕草で「さわれ」ってやってくる。
…いいのかな?
恐る恐る。
イヌの頭に手を伸ばして、撫でてミル。
アタシの体は動物で言うと、全身が胃袋でクチ。
相手を体内に取り込んで、ちょっとづつ溶かして食べていく。
だから頭を撫でてると、イヌの肉とかホネとか意識しちゃう。
「!?」
撫でてた手の平に、イヌの毛が浮いてる。
えっ!?アタシ食べてないよ!?
びっくりして手を跳ね除けた。
そんなアタシを見て、ヒゲオジが爆笑してる。
「はっはっは!!ちょうど生え変わりの季節だからな。よく毛が抜けるんだよ。」
なんだよ!!何言ってんだかわかんないよ!!
ナニが楽しいのかしんないけど、ずっと笑ってる。
とりあえず、アタシが食べたとは思ってないみたい。
最初はビビッて、次にムっとしたけど。
ヒゲオジがずっと笑ってるから、なんだかアタシも楽しくなって体がプルプルと震えちゃった。
「おっとそうだ。玉を確認しにいかないと…。」
いきなりナニかを思い出したみたいで、ヒゲオジが泥だらけのカバンを肩に掛けなおす。
どっかに、イコーとしてるみたい。
「おまえさんも来るかい?」
何言ってんだかわかんないけど、イジメられたりはしなさそーだな。って思った。
ヒゲとイヌを少し離れて尾行してたら。
少し開けた場所に着いた。
どうやらココが目的地らしい。
怪しい布でナニかが隠されてる。
「もっと近くに来いよ。」
ヒゲオジが布をとると、下にはおっきな玉があった。
なにかの種みたいに、スジが通ってる。
「よし。ちゃんと爆ぜそうだな。」
すっごい怪しい。
アタシは警戒して、少し離れた場所で、ヒゲオジの様子を見てる。
「これはな。花火だ。花火。わかるか?」
ヒゲオジが手を丸めて、揺らしながら下から上へと伸ばす。
そんで、そのあとパッと広げた。
「それって…まさか!!」
「おっ!わかるのか?」
アタシがダメって言われているこの辺りに居たワケ。
ぼっちだからってダケじゃなくて、この時期にヒトが騒ぐのだ。
たしか「祭り」って音のヤツで。
それがそろそろかな?って。それが楽しみで見に来てたのだ。
しかし、これが…あの空中で咲く花の種…?
「バーン?バーン?」
どうしても確かめたくて、全身をつかっい両手を広げて表現する。
「そうだそれ!花火!」
マジか!すごい!きっとそうだ!ヒゲオジがうなずいてる。
これがあの花の種なんだ!!
「昨日の雨で、湿気てないかを確認しにきたんだがな。途中地面が滑って、木が倒れて来たというわけさ。」
「…?」
ごめん。何言ってんだかわかんない。ヒゲオジ。
「だが良かった…。キミのおかげで、こうして無事でいられたわけだ。ありがとうな。」
「…。」
相変わらず何言ってんだかわかんないけど。
最後の言葉が好きだ。
たぶん。助けたお礼に、秘密の花の種の場所を教えてくれたんだと思う。
なんて良いヒゲオジだろう。
一季節に一度。この時期にだけ咲く花。
空中で花開き、輝いて散る珍しい花。
その開花に合わせてヒトは騒ぐ。
「祭り」だ。
きっと祝ってるんだと思う。神や世界にありがとうって。
アタシはそれが好きだ。
みんな楽しそうに笑って集まるのが。
これがもし、同じスライムがやっていても、きっと嫉妬で楽しめない。
けど、ヒトがやってたら別。
だってアタシには絶対手が届かないから。
その音を、その匂いを、心の底から、楽しく覗ける。
「…こっち。」
こんな重大な秘密を教えてもらっては、アタシだってお返ししないといけない。
アタシの秘密の場所も教えてあげよう。
「なんだ?何かあるのか?」
そんなに遠くないからさ。
ヒゲオジの服をひっぱり、再び森の奥へと進む。
普通に歩いてはたどり着けない、アタシの秘密の場所。
「おぉ…!なんて綺麗な…。」
草木の色が明るい緑で染まるその場所には、どこよりも透き通った水の小さな池が一つ。
まるで池が空を見たいと望んだかのように、木々が丸く避け天を覗かせる。
「ここから花火を見ていたのか?」
何言ってんだか分んないけど、コクリとうなずく。
ヒゲオジの手が花の形をしていたから。
この透き通る池の中。
そこから見る花火は格別なのだ。
水中で響く、くぐもった音。拡散する光。
浅く、美しいここでしか味わえない光景。
ヒゲオジめ。カンドーして言葉を失っているな?
あと一つ。とっておきのモノも見せてあげよう。
「おい。どこにいくんだ?」
ヒゲオジを残して、池に飛び込むアタシ。
岩と岩の間に隠していた例のブツを素早く持ち出す。
「なんだ…?これは…?」
どうだ。すごいでしょ!
「…串???」
アタシの宝のひとつ!なんかの棒!!
ヒトが祭りをする時に食べている美味しそうな食べ物…!
その全てがこの棒に刺さっているのだ!
きっと神を祝う集まりでのみ使われる、貴重な棒に違いない!
「…串。」
ヒゲオジはマジマジと宝を見つめて確認している。
実は最初、森の中にポイポイ捨てられているコレを見つけた時「ヒトって最低だな!」って思ったりした。
怒りを覚えてお片付けをしていたら気付いたのだ。
よく見ると、綺麗に整った形。とんがった先っぽ。微妙に造形が違ったりする。
これはそうとうな手間なのでは?
気付けばこの不思議な棒に魅了されてしまっていた。
毎年毎年集めていたら、色んな形、色んな色、色んな長さのこの棒に。
いったいどんな素敵な食べ物が刺さっていたのか想像するのが趣味になってしまったのだ。
神や世界に感謝して人々が作った棒…!
「ほらみて!これはこの前の棒!!二手にわかれてるの!!」
誰にも見せたことのない、秘蔵のコレクションをヒゲオジに見せびらかす。
「はっはっはっ!!!!!」
ヒゲオジが笑う。腹を抱えて。
ん?なんだ?バカにされたのか??
「この森には片付けの妖精がいるとウワサされていたが…まさかキミだったとは!」
ヒゲオジの微妙な反応を見て、少し戸惑う。
攻撃的でも、見下しでもない、なんだろう?
…もしかしてこれ、勝手に拾っちゃだめだったのかな?
なんかのおまじないとかで、森に置いとかなきゃいけなかったとか…?
「お前は良い奴だよ。自分の幸せを持っている愛すべき奴だ。」
なんでかアタシの頭をヒゲオジが撫でる。
ダイジョーブ?食べようと思えば食べれるからね?そのまま。
でもとりあえず、怒ってはいないようで一安心だ。
調子にのって見せびらかせすぎたかもしれない。
「まさしく類は友を呼ぶだな。俺は石をジェットは骨を集めるのが趣味なんだ。今度は俺のコレクションを持ってくるよ。」
何言ってんだか分んないけど、ヒゲオジは嬉しそうだった。
たぶん貴重なものだから、もっと見せて欲しいのだろう。
しかたがないからアタシの棒を、一本一本みせてあげた。
見せてもらった「空中に咲く花の種」は、もうだいぶ膨らんでいた。
祭りはきっと近いのだろう。
そう思うとワクワクする。
今年はどんな綺麗な花が咲くのか。
どんな棒が拾えるのか。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!