「まてまてまて!なに人の土地に入り込んでおる!!」
小さなズーミと大きな土の化身。
なかなか可愛そうになる対比だが物怖じすることもなく物申す。
「カミ…ゴロシ…」
体と同じ大きく、くぐもった声が空気を振動させる。
「う゛っ…ちゃ…ちゃんとわらわが管理しておるよ。ダッド」
表情もみるからな困惑顔だけど、ズーミちゃんの体内にある気泡がぷるぷる震えている。
ごまかすの苦手そうだな…。
「カン…リ?」
大きな土の塊の上のほう…いわゆる頭部に穴がみっつできている。
ちょうど人でいう目と口の位置に。
土の化身、ダッドはあたりをゆっくり見渡す。
見るといっても目の位置にあるのはただの穴、彼に視覚があるのかは不明だ。
「カン…リ…。」
あの大きさだと、さぞ見通しの良いことだろう。
数々の青い店並びと、色んな「神殺し」と冠したのぼりがたくさん…。
「う…うむ。その…人間どもは、ただ賑わかしてるだけじゃ!それを台無しにしおって!」
ダッドの出現前の揺れ。
あれもだいぶ広域に被害を及ぼしたようだが、なにより今せりあがって来たその時の動きで、ダッドの周辺にあった十近くの店は全壊していた。
「キケン…ホウチデキナイ」
「ここはわらわが任された土地じゃ!互いの地に無下に踏み込まぬのが礼節じゃろう!」
「オマエ…タヨリナイ…ニダイメ」
二代目…?化身に世代なんてあるの?記憶をさぐれど覚えがない…・。
そういえば、目の前のダッドは見覚えがあるのにズーミちゃんに関しては正直覚えがない。
そもそも化身たちに直接あったのが千年ぶりとかだ。
姿かたちに変化があっても不思議じゃないので気にしてなかったけど、確か水の化身は二対の存在だったはず…。
それでもズーミが化身とわかったのは、体内に「神の与えた源」があったからだ。
たしかにアレはかつて私の力だったもの…直接触れたので間違いない。
人間の狭く短い視野で生きていると、わからない事だらけでこの世には理不尽しかない。
…今一番世界が見えているのは私の代理。
(光の化身…イトラ)
ドシャ!
うつ向き考え込む私に土地の粒がふりそそぐ。
あれ?私の胸を撫でまわしてたタチがいつのまにか消えてる。
「何してんのタチ!?」
そりゃー驚く。
だってタチがはるか上方、ダッドの頭部があった当たりに立っているから。
抜き身の水の剣となくなったダッドの頭部を見るに、タチが切ったのだ。
「撃退だが?」
崩れ落ちる土の塊と、かろやかに着地するタチ。
「今話あってたところじゃったろ!?」
めちゃくちゃあわててるズーミ。
「何が話し合いだ。お前らの話し合いとやらでこのザマだ。」
タチが顎で指した先には全壊した店、いや…。その下敷きになって亡くなった人間だ。
「人をなめるな。」
少しイラついたようにズーミに言葉を吐き捨てる。なぜか、私の胸もチクリと痛む。
「ヤハリ…キケン」
ゴゴゴ。
また揺れが始まり。地面がせりあがる。さっきと同じサイズものが今度は三つ。
「ダッドは群体、こやつらは、いわばプチ土の化身なんじゃ!一人倒した所でどうにもならん!」
(えっ?そんなことになってるの?)
私が人間やってる間に、やはり化身にも色々あったようだ。
「ミズガ…タダサヌナラ、オレガヤル」
ゴガン!
三つのダッドがそれぞれ腕を振り下ろし攻撃をはじめる。建物、お店、人間に…。見境なく攻撃が襲い掛かる。
「魔物だ!魔物が突然現れた!」
「あぁ!なんで急に!なぜこんな事が!」
「総督に連絡を!!兵士や傭兵を早くかき集めろ!」
完全に破壊を目的としたダッドの行動に、人々の混乱と恐怖がより深まる。
「無駄だ!こいつは土の化身!そこらの兵じゃ歯が立たん、ともかく離れろ!」
ダッドに切りかかりながら、タチが叫ぶ。
「化身?そんなものが本当にいたのか!?」
「おとぎ話じゃないのかよ!」
「ただのでかい魔物だろ!」
あれ?化身の存在を知らない人がいるんだ。
「おぉ…神よなぜ…土の化身がここに!」
人形劇を演じていたおじちゃんだ。
逃げるでもなく、手を合わせ天に願っている。
「神様なんているわきゃねーだろ!逃げるんだよ!」
逃がそうとひっぱられた腕を。おじちゃんは振り払った。
あれれ?
ザシュ!ドシュ!
私の困惑と裏腹に、タチはダッドに立ち向かっていた。一体。また一体。
土の化身の体を駆け上り、その首を落としている。
「スライム!こいつら何体倒せばいい!」
そう。タチが首を切り落とすと、土の塊は崩れ落ちる…さも死んだかのように。
だがまた新たに出来上がってくるのだ。切っても切っても常に三体いる状態は変わらない。
「わからん…!わからんけど、ここはダッドの領地ではない!そこまで大量には送り込めんはず…その証拠に三体以上は同時に現れておらん!」
「有限ならばそれでいい!」
迷うことなく走り出すタチ。
私はぼーっと見ていた、取り残された人々と、天に願うおじちゃんを…。
「ねぇ。逃げなって。」
どうしても気になって、人形劇のおじちゃんに話しかけてしまう。
だってこんな状態…。
大地は揺れ、建物は次々にくずれ、化身が戦ってるというのに、傍で跪き祈ってる。
「これは試練なのか、それとも罰なのか…神よ…。」
私に聞かれても…と言いたいどころだがおじちゃんは、私など見ていない。空をみている。
「逃げてってば、危ないよ。」
服の裾をひっぱってみたが、気にも留めてもらえない。
私なんか、まるで存在しないかのように。
「やはり愚かな人間が憎いのですか…。」
「私は憎んじゃいないってば!」
つい。
つい大声を出してしまった。
だって人の話聞かないんだもん。
「君は…?私はいいから、早くおにげなさい。」
「それはこっちのセリフ!逃げてよ!」
もう強引に腕をひっぱる。
できるだけここから遠くに行ってほしい。
特にこの人には。
「私は真意が知りたいのだ。御心を知る機会なのだ!」
「知れないから!神様とかどうでもいいから!人間命あっての物種だってば!」
正直、自分でも何を言っているのかわからない。
どの立場、どの立ち位置で言っているのか。
ともかく、この頑固者が目の前で死なれるのは嫌だ。
「何をグダグダしている!早く連れていけ!」
ドス!
おじちゃんの腹に拳がめり込んでいる。
颯爽と現れ、お腹にパンチ。
さすがタチ。強引の化身。
おじちゃんはぐったりと、私の腕に倒れこむ。
「えっと…ありがとう」
なぜ私がお礼を言うのかしっくりこないけど、この言葉が適切な感じがした。
人間になってからというもの、言葉や文字で考える事が多い。縛られている。
「できる事をするのは良いことだぞ。ナナ褒めてやろう。」
汗でしっとりした手で雑に私の頭をグリグリと撫で、タチはまた駆ける。
ダッドの方へと。
なぜだろう。ずっとあるモヤモヤが少し晴れた気がする。
私はおじちゃんを、ひきずりながら運ぶ。それが正しい行動だと信じて。
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