「どちらにせよ、深い深い水の底に埋もれておるんじゃ。気軽に持ってかれたりはせんよ。」
という事で、水の化身いわく、一応気軽に誰でも拾いに行けちゃうわけじゃないらしい。
「お前なら水の中も自由自在に動けるだろう?」
ズーミの服をいじくって材質なのか、加工方法なのかを探っていたタチが、頭巾の中に視線をうつし目を細める。
「おどしても無駄じゃよ。わらわだってこっそり移動させようとしたことがあった。」
「だめだったの?」
「近寄れてもな、触れることができんかったんじゃ。人々の神への恨みが練りこまれておっての。」
私への恨み…。やっぱりいい気はしないな。
「やはり、自分でどうにかするしかないか。」
「あ~!それわらわが買ったのに~!」
タチがズーミの手に持ったもちもちお菓子を、ひょいっと奪い取り一口ほおばる。
「もちもちとしてうまいな。」
やっぱり美味しいんだ…!ずるい!タチだけ!
「ナナも食べ見ろ。」
差し出された魅惑の食べ物、今の私の生きる目的…!
ひと串六つのテラリと光るもち玉は残り半分、一口で三つも食べたの…!?他人のもちもちを!?
なんとも罰当たりな所業である。
私なら一玉づつ味わって食べるのに…・美味しそうなもちもち…食べたい!でもこれズーミちゃんのだし…。
きゅるる。
恥ずかしい音が私のお腹当たりからした。
今朝ご飯は頂いて、腹持ちもしている。お腹が減って出た音ではない。
甘いもの対する求愛の鳴き声だ。お腹さんの。
「よいよい。やるよ。哀れな人の子よ。」
「うぅ…ありがとう。」
私神だけど。情けなくてごめんね水の化身。
すっごい見下した顔も、もちもちに隠れて今は見えない。
「おいしい!!あまい!!もちもちしてる!!」
半透明な皮の部分と別に中に2種類…いや3種類の甘い果肉のようなものが包み込まれている。
もちもちの弾力、触感。甘い甘い3種類の中身…!
あぁ美味しい!生きてて良かった!
「追加が欲しければ自腹での。あっちの群青色のでかい旗が[もちもち殺し]の店じゃ。」
私のがっつき様をみて、ズーミが店の場所を教えてくれた。
まだ頬張ったほっぺの内側が甘い。
こんなに喜びをくれたのだ、商品名には目をつぶろう。
「買ってくる!」
ズーミの手を両手で握り感謝の気持ちを返す。もちもち殺し…まだちゃんと味わえた気がしない。
あと二串は食べないと。
タチとズーミをその場に置いて、速足でお店へと向かう私。
「…それで?」
「ここではやらんよ。わらわの民に傷がつく」
二人の短いやりとりは私の耳に届かなかった。
* * *
人込みかき分け目的地へと向かう途中。何かを囲むような人垣があった。
「うぉおお!我が亡き妻!我が亡き子供!なぜ奪った!なぜだ!」
どうやら人形劇のようだ、雑多な声を貫き演者の大きな声が聞こえる。
「毎日あなたに祈りをささげいた!どうしてなのだ!生かすべきは彼女たちだった!…」
劇の途中のほんの一部、それでも誰についての物語か理解できた。
私が楽しむことのできない視座の物語。
「…」
お店にたどり着き、もちもち待ちの列にならぶ。
劇を囲む人垣はここからでも見えるが、幸い演者の声は聞こえてこない。
はずだった。
「そして、あなたは落ちていった…唯一のモノ、けっして触れえぬ存在だったのに…」
なんでか、ここまで声が届く。人形劇のある場所をもう一度見た。
私の頭に響く落ち着いた声と、人垣の盛り上がりは一致していない。
「もうこの世に奇跡は起きない、私たち全て、尊きこの刹那は存在するはずかない…あなたがいないのだから」
なぜみんな私の話をするの?私は一度だって望んでいない。ただそこにあっただけなのに。
「だから無限に増えたのだ。世界と可能性が…。でなければありえないのだから…」
この声…私ににている。私が最初に生んだ分身…光の…。
「おい。嬢ちゃん!」
ふっと我に返る。ぼーっとしていた頭に、果実の煮込まれた甘い香りとおじちゃんの野太い声が響く。
「あ…はい。」
「いくつ食べるんだい?」
「えっと…みっつ」
「あいよ!」
とりあえず、とりあえず一人一つ。私とタチとズーミの分で。三つ。とりあえず。まずそれで。
* * *
「どうしたナナ?腹でも下したか?」
合流するなりデリカシーたっぷりの一言。
でも、行きと帰りで露骨にテンションが違うから仕方がない。
「顔色がわるいの、わらわみたいじゃ。」
初めて聞いた。スライムジョークだ。
「大丈夫か?抱いてやろうか?」
何度も聞いた。性欲魔人だ。
心配してくれているんだか、からかってるんだか。
二人仲良く私を取り囲んでるけど、昨日殺し合いをしていた記憶は残ってないのだろうか?
傍から見るとただの仲良しさんだ。
「ちょいちょい私をつまみ食いしようとするのやめて欲しいんですけど…!ちょっと考え事しちゃっただけ大丈夫。」
文句を言いながら二人に一本ずつ、もちもち殺しを手渡す。
あれ?どの串にも玉が五個しか刺さってない。無意識に一個づつ食べたのか私?
最初に出会ったズーミのもちもち殺しは、確かひと串六つだったはず…。
「おぉ!まともの奴じゃのお主。タチのそばにいれているからアレな奴かとおもっとった。」
「アレってなにさ!」
ただのヒモジイ哀れな人間じゃないんだぞ。そんなに驚かなくてもいいじゃない。
みんなの串から一個づつ盗んだ疑いはあるけれども。
「奢られた分は体で返すからな。」
ニコニコ笑顔でもちもちを頬張るタチ。
「コレがアレじゃよ。」
「一緒にしないでください。」
少し元気が減ってたけど、三人並んで食べるもちもち殺しが私を癒してくれる。
まだ昼日中、ほかにも美味しそうな出店は沢山ある、色々食べ歩いて楽しむのだ。
ゴゴゴゴゴ
もちもちを食べ終え、胃袋殺し(魚の塩焼き)を一口かじったタミングで地面が揺れた。
それも結構激しく。
「なんだ!?地震か!」
「店をささえろ!くずれるぞ!」
「火消せ!火!!」
止まらない地響きに、あたふたと駆け巡る人々。次々と怒声に罵声や悲鳴をまき散らす。
私も激しい揺れでバランスを崩しかけるが、タチが支えてくれた。もちろん腰に手を回し胸を触るかたちで。
無意識でコレなんだろうか…咄嗟の行動でよくもまぁ。
「助けられた」という文句のつけにくい状態がまたいやらしい。
ニッコリ。
私に向かって立ててる親指とその笑顔は「大丈夫だ安心しろ。」なのか、卑猥な意味…なのか。
「やはり触り心地がいいな。」
答え合わせは本人がしてくれた。タチの悪気はどこへお散歩してるんだろう。
そんなくだらない思いを抱いていると、急にボコリと地面がせりあがった。7メートルほど。
「お主…なぜここに!」
ズーミちゃんが頭巾をはだけ、もりあがった土の塊に話しかける。
あんなに激しかった揺れは既におさまっていた。
「土の…化身!」
ズーミちゃんの驚きの声、揺れが止まても絡みついた腕、全力でタチの手をつねる私。
とっても面倒なことがまた始まりそうである。
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