かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第二十話 枝拾い。

公開日時: 2020年9月13日(日) 06:09
文字数:2,953

「他の旅人さんもいると、なかなか機会がないね。」

 馬車移動を始めて二日。

 日中は客車で揺られ、夜はテントで過ごす生活だ。


「う…うむ。そうじゃな。」

 私達三人だけの機会は少ないし、ズーミちゃんは服を着こんで動きが鈍い。

 剣奪取けんだっしゅすきがうかがえずにいる。


 港までは後三日…。焦りも募るけど、気になることが一つ。


「ど…どうしたもんかの~。」

 ぷるぷる震えて、雑な相槌あいずちでなにかをごまかすズーミちゃん。

 一夜離れ離れで過ごした後、馬車旅になってから、どうも様子がおかしい。


「ね。ズーミちゃん、一緒に木の枝取りに行こう。」

 空が赤く染まり、馬車が街道脇に止まる。

 これから、日が落ちる前に野営の準備。焚火たきびの燃料探しに誘ってみた。


「私も手伝おう。」

 いち早く客車から降りたタチが、腰に手を当て、背を反らしながらこちらを見る。


「大丈夫。いつも力仕事まかせちゃってるし、たまにはね。」

「そうか。では天幕張りでもしておこう。」

 

   *   *   *   *   *


 全身を服で隠したズーミちゃんと二人、少し離れた森林へと足を運ぶ。

「わらわは…お主が好きじゃよ…。」

 ポツリと小さな声でズーミちゃんがつぶやいた。

 やっぱり、何かあるようだ…。


 葉の間から夕陽が地面を赤く照らす。

 二人きりで、もくもくと乾いた木の枝を拾い集める作業。


「私…何かしちゃったかな?ズーミちゃんの嫌がる事とか…。」

 なかなか口を開いてくれないので、こちらから直球で訪ねてみる。


「ナナ…お主、イトラ様を知っておるか?」

「!?」

 なぜ、その名を私に…!


「先日、お話しする機会があっての、その別れ際に命をうけた。」

 ばくばくと心臓が激しく脈打つ。人間の体なんだと強く意識させられる。


「今、わらわが共にしているモノに、不届きものがおる…そ奴に対処せよ…と。」

「…対処。」

 光の化身イトラ。今の私がどうしているかを把握していたんだ。

 いったいいつから?

 もしかしたら、ダッドとの騒動で見つかったのかもしれない。


「当然。タチの事じゃと思ったよ。あやつは確かに不届きものじゃし、神殺しを目論んでおる…だが違った。」

 神殺しを目的に、神殺しの剣を持つ女。

 普通そっちが対象だと考える。普通は。


「…」

「…」

 少しの間、気まずい空気が流れる。

 赤い木々の中、どちらから口を開くべきなのか…。


「ナナ、お主いったい何をした?そもそも何者なんじゃ?イトラ様から直接命を授かるなんて…。初めての事じゃ。」

 光の化身様から、ただ一個の人間に対しての対処命令。

 混乱するのも無理はない。


 言うべきだ。隠しているのは自分の都合だけだもん…。


「…今まで隠しててごめんなさい。…私は…私は神なの。」


カラカラ。

 突然の告白。ズーミちゃんが抱えていた枝を腕からこぼす。

 乾いていた筈の枝は、しっとりと湿り気を帯びていた。


「なるほど、行き過ぎた狂信者というわけか。自らを神と名乗るなどと…!」

「ちがう、本当に――」


「わらわを馬鹿にするな!お会いした事がなくとも、神と人の見わけぐらいつく!!」

 ずっと隠してた自分が悪いとはいえ、やっはり一筋縄ではいかなかった。


「見損なったぞナナ!根の優しい食いしん坊だと思っていたんじゃがな!」

 まだ見ぬ憧れの存在への侮辱。

 ズーミちゃんの思い違いだけど、彼女を責めることはできない。


「ごめん…わかりやすくいくね!」

 ズーミちゃんの服の前を強引に開け、ズブリと腕を中に突っ込む。


「ひゃう!?」

「わかるでしょ?ただの思い込み人間に触れられるものじゃないって…!」

 ビクビクと体を波打たせるズーミちゃん。

 その体内にある源を軽く撫でる。


「にゃっ…にゃぜ…!?」

「だって元々私の力だもん!これが何よりの証明だよ!」

 なでり、なでり、ズーミちゃんの体の中で、輝く塊を撫でまわす。


「わかっひゃ…わかっひゃからぁ…!手を…!」

「人間には無理だよね?こんなことできないよね?」

「んひゃっ…!」

 最後にもう一撫でして、ズーミちゃんの体から腕を抜く。


「ハァ…ハァ…」

「…」

 息を整えるズーミちゃん。

 これ以上の説明の手立てが思いつかない私。

 またしても、気まずい沈黙の時が流れた。


「しかし…ナナが神様…そんな話が…まてまて!そう急くな!」

 もう一度教え込もうと、手をにぎにぎしながら、近寄った私を慌てて止めるズーミちゃん。


 少し、タチに影響を受けたかもしれない…。

 とりあえず強引にやっちゃえ的な感覚が。


「聞け!例え、どうあったとしても、お主に酷い事するつもりなどなかったよ。」

 ごめんなさい。むしろ私がひどいコトしてて。

「どうして?」

 イトラの命令は絶対なはず。

 地水火風より上位存在でもあるし、単純に力も強い。


「…いい奴じゃから。」

 本当にごめんなさい。体の中を撫でまわしたりして。


「ダッドの件で学んだのじゃ、自分の感覚をもうちょっとは信じると…」

「…ありがとう。なんか嬉しい。」

「しかし、本当にお主は神様なのか?どうして人間に…?」

 当然の疑問だ。それの答えは今でも明確にわかる。


「えっと…人生を楽しんでみたくて!」

「…」

 まじかコイツと、ズーミちゃんの顔に描いてある。

 私が神だとバレてなければ、きっと口に出されていた。


「信じてもらうのは難しいとおもうけど、私が地上に降りた場所、パンテオンに行けば戻れるから…。」

 聖地パンテオン。私が人に転生し、初めて受肉した場所。


「それじゃ。聖地に向かわせぬよう対処しろと言われたんじゃ…旧聖地に。」

「それが命令?」

「遅延、足止め、で手段はなんでもよいと…。」

 ズーミちゃんが少し口ごもる。


「殺せって?」

「明確に言われんかったが…。」

「殺しても、生まれ変わるだけだからね。下手したら聖地の近くで生まれるかもだし。」

 パタパタ手を振って、冗談めかす。事実だけど。


「ナナが…神様。」

 まだ、信じ切れていないのだろう。

 考え込むように深くうつ向き、思い出すように天を仰ぐ。じっくりと。


「すいませんじゃったのでしたじゃーーー!!」

 盛大に土下座し、地面に何度も頭をこすりつけるズーミちゃん。


「ど、どうしたの急に!?」

「じゃって!じゃって!今までいろいろと失礼な口や行動を…!しかもタチに剣を…!」

 確かに言ってたね。ただの食いしん坊とか、そんなに食うとブタになるぞとか。

 べちんべちんと平謝りで、頭とツインテールを地面にぶつける。


「私が悪いんだよ!隠し事して、黙ってて!こっちこそごめんね。」

 負けじと私も両ひざをついてズーミちゃんに謝る。


「やめてくだされ!だめですのじゃ!!」

「ズーミちゃんがやめなきゃ私もやめられないよ!」

 向かい合って土下座をする。

 二人のおでこは泥だらけ。

 ある意味仲良しだ。


「思い返せば、ただの卑しい食いしん坊。変態の愛玩動物、ただのおとり、などと思っておって…!」

「ちょっとそれは言われた言葉よりだいぶきつくない!?」

 ガバリと顔を上げズーミちゃんを見る。土下座勝負は私の負けだ。

 だって「ただの食いしん坊」が「卑しい」付けられちゃったらね。


 確かに、前から少し漏れてた。作戦のエサとか平気で言ってたし。


「とりあえず。この話は一旦ここで終わり。もう戻らないと、怪しまれちゃう。」

「わ…わかりましたのですじゃ…!」

「今まで通りに話そうよ。なんか語尾もおかしくなってるし。」

「はいなのですじゃ!」

 

 二人、急いで散らかした枝を拾いなおし、馬車の所に戻る。

 泥だらけの顔の言い訳を考えながら。



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