かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第十六話 水洗い。

公開日時: 2020年9月10日(木) 01:05
文字数:1,860

 アルケー湖をでて三日たった。

 港行きの乗合馬車が出ている街まで、徒歩七日。

 ズミナナ組の「奪っちゃおう作戦」はずっと迷走中だ。


 タチの腰、水の剣と交差する形で装備された例の剣。

 移動中はさすがに難しいが、寝ている時なら…と手を出したが、さすが戦士。


 気配に敏感で、すぐに目覚め「どうした?寂しいのか?」と抱きしめられる。

 ズーミちゃんが遠くからこっそり手を伸ばす作戦でもダメだった。


「ナナお主の出番じゃ!」

 二日目の夜。つまり昨日。ズーミちゃんの予定どうり、囮作戦が発令された。


「タ…タチ。鳴き声が怖いから傍で寝てもいい?」

 オイン港へと続く街道端での野営。

 開けた道が続いていると言っても、夜はどこからともなく野生動物の鳴き声がする。

「いいのか!?」

 私の申し出に驚くタチ。頬に赤みがさしているのが夜でもわかる。

 決死の覚悟で開かれた腕枕に身投げした…。


 次の瞬間朝だった。


「ふぁえ!?」

「良く寝れたか?可愛い寝顔だったぞ。」

 いつの間に!?

 タチとのすったもんだをしている間にズーミちゃんが…という作戦なのに。


「寝かせ上手だろう?今夜も一緒に寝ような。」

 頭を優しく撫でられる。もはや事後のようだ。

 この女、いったい今まで何人に心地よい朝を…。


「おふぁようじゃ~…。」

 私はタチの右腕枕で目覚めた。

 左の腕枕ではスライムが朝を迎えていた。


「なんで!?」

 移動の準備をする際にこっそり問い詰めた。

「す…すまぬ…。「お前もどうだ?」と言われて…一度誘いに乗り油断させて、と思ったのじゃが…」

「思ったけど?」

「…寝とった。」

 ぐぬぬぬ…。不甲斐ない。私も気付いたら朝だったので同類だけど。

 体の調子も凄く良いし、とってもスヤスヤできたみたいだ…。

 あの女手慣れている。

 

「両腕がふさがっていなければ…可愛がってやれたのだがな…!」

 タチは残念そうに、寝袋を畳んでいた。

 

 こんな二日間だ。



「どうしよう…。」

 オイン港まではまだあるが…。

 時間はあれど、策が浮かばない。 


「小さいが、綺麗な川じゃないか。」

 三日目の昼、街道を少し離れた森の中に足を運んだ。

 体を洗いたい二人と、水分補給が必要なズーミちゃんの意向である。


「奥に水だまりがある。あそこなら体を洗いやすいじゃろう。」

 ズーミちゃんが目で訴えかけてくる。チャンスが来たと。


「よしナナ!洗いっこするぞ!」

 鼻息荒くタチがベルトを外す。そんな急がないでも…。

「うぅ…。」

 お気に入りのアンズゥの花の香りがする石鹸を鞄から取り出す。

 背に腹は…と言ったものの肌をさらすのには少し抵抗が。

 普段からおへそは出してるけどさ。


「まかせろ!隅々まで、きもち…綺麗にしてやるからな!」

 特にこのケダモノの前では貞操の危機が…。

 躊躇ためらいの視線を同盟者に向ける。


 水色でキラキラの仲間は「まかせたぞ」と頷くだけだった。



(体を洗いたいのは事実だし…頑張れ私…!)

 普段から薄着なのは、肌で風を感じるのが大好きなのと、ヘソを隠すと体調が悪くなるからだ。

 とはいえ、裸は別物。


 川横の大きな岩に身を隠してスカートと、インナーを脱ぐ。

 ナイトムーゴの皮製の上下インナーは、なめらかで肌触りがよく、温かさにも寒さにも強い。

 私が身に着けている服の中で一番高価な物だ。


「ナナーまだかー!」

 岩向こうからタチの声を聞こえる。

 エサとして余りグズグズしているわけにはいかない。

 冒険者のお供、キヌ布と石鹸を手にして川に入る。


(もっと大きな布地のにすれば良かったな…。)

 体を洗うようなので面積が小さい。かろうじで前が隠せる程度だ。


「早く来い!ナナ!」

 腰まで届かないぐらいの水位、全裸で両腕を広げてお迎えがまっている。

 …嬉しくない。



「自分で洗うからね!」

 タチの脱ぎ散らかした服と装備から注意をそらすため、私も水溜まりの方にチャプチャプと入っていく。

 後は頼んだよズーミちゃん。  


「これから一緒の長旅だぞ。仲良くしよう!」

「まって!待ってってば!」

 裸なのに平気で抱き着いてくる。

 引き締まった体と大きな胸がギュムギュム当たる。


「こんな布いらん!私の手の方が丁寧に優しく隅々まで撫でまわせるぞ!」

「体を洗いにきたの!!」

 ばちゃばちゃと水飛沫があがる昼下がり…。


「うぐはぁ!!」

 石鹸でヌルヌルの手で私を撫でまわし始めたタチが突然叫ぶ。

 助かった…じゃない、何事だ?


 タチがわき腹を押さえている。その傍にちっこくて二頭身の生き物がいた。


「…ユニコーン?」

 白くて幼い子供姿に薄桃色のふんわりとした髪。なにより、額にはとんがった角。

 たぶんそうだ、初めて見る。清純と潔癖の象徴。


 できれば服を着ているときに会いたかったけど。

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