アルケー湖をでて三日たった。
港行きの乗合馬車が出ている街まで、徒歩七日。
ズミナナ組の「奪っちゃおう作戦」はずっと迷走中だ。
タチの腰、水の剣と交差する形で装備された例の剣。
移動中はさすがに難しいが、寝ている時なら…と手を出したが、さすが戦士。
気配に敏感で、すぐに目覚め「どうした?寂しいのか?」と抱きしめられる。
ズーミちゃんが遠くからこっそり手を伸ばす作戦でもダメだった。
「ナナお主の出番じゃ!」
二日目の夜。つまり昨日。ズーミちゃんの予定どうり、囮作戦が発令された。
「タ…タチ。鳴き声が怖いから傍で寝てもいい?」
オイン港へと続く街道端での野営。
開けた道が続いていると言っても、夜はどこからともなく野生動物の鳴き声がする。
「いいのか!?」
私の申し出に驚くタチ。頬に赤みがさしているのが夜でもわかる。
決死の覚悟で開かれた腕枕に身投げした…。
次の瞬間朝だった。
「ふぁえ!?」
「良く寝れたか?可愛い寝顔だったぞ。」
いつの間に!?
タチとのすったもんだをしている間にズーミちゃんが…という作戦なのに。
「寝かせ上手だろう?今夜も一緒に寝ような。」
頭を優しく撫でられる。もはや事後のようだ。
この女、いったい今まで何人に心地よい朝を…。
「おふぁようじゃ~…。」
私はタチの右腕枕で目覚めた。
左の腕枕ではスライムが朝を迎えていた。
「なんで!?」
移動の準備をする際にこっそり問い詰めた。
「す…すまぬ…。「お前もどうだ?」と言われて…一度誘いに乗り油断させて、と思ったのじゃが…」
「思ったけど?」
「…寝とった。」
ぐぬぬぬ…。不甲斐ない。私も気付いたら朝だったので同類だけど。
体の調子も凄く良いし、とってもスヤスヤできたみたいだ…。
あの女手慣れている。
「両腕がふさがっていなければ…可愛がってやれたのだがな…!」
タチは残念そうに、寝袋を畳んでいた。
こんな二日間だ。
「どうしよう…。」
オイン港まではまだあるが…。
時間はあれど、策が浮かばない。
「小さいが、綺麗な川じゃないか。」
三日目の昼、街道を少し離れた森の中に足を運んだ。
体を洗いたい二人と、水分補給が必要なズーミちゃんの意向である。
「奥に水だまりがある。あそこなら体を洗いやすいじゃろう。」
ズーミちゃんが目で訴えかけてくる。チャンスが来たと。
「よしナナ!洗いっこするぞ!」
鼻息荒くタチがベルトを外す。そんな急がないでも…。
「うぅ…。」
お気に入りのアンズゥの花の香りがする石鹸を鞄から取り出す。
背に腹は…と言ったものの肌をさらすのには少し抵抗が。
普段からおへそは出してるけどさ。
「まかせろ!隅々まで、きもち…綺麗にしてやるからな!」
特にこのケダモノの前では貞操の危機が…。
躊躇いの視線を同盟者に向ける。
水色でキラキラの仲間は「まかせたぞ」と頷くだけだった。
(体を洗いたいのは事実だし…頑張れ私…!)
普段から薄着なのは、肌で風を感じるのが大好きなのと、ヘソを隠すと体調が悪くなるからだ。
とはいえ、裸は別物。
川横の大きな岩に身を隠してスカートと、インナーを脱ぐ。
ナイトムーゴの皮製の上下インナーは、なめらかで肌触りがよく、温かさにも寒さにも強い。
私が身に着けている服の中で一番高価な物だ。
「ナナーまだかー!」
岩向こうからタチの声を聞こえる。
エサとして余りグズグズしているわけにはいかない。
冒険者のお供、キヌ布と石鹸を手にして川に入る。
(もっと大きな布地のにすれば良かったな…。)
体を洗うようなので面積が小さい。かろうじで前が隠せる程度だ。
「早く来い!ナナ!」
腰まで届かないぐらいの水位、全裸で両腕を広げてお迎えがまっている。
…嬉しくない。
「自分で洗うからね!」
タチの脱ぎ散らかした服と装備から注意をそらすため、私も水溜まりの方にチャプチャプと入っていく。
後は頼んだよズーミちゃん。
「これから一緒の長旅だぞ。仲良くしよう!」
「まって!待ってってば!」
裸なのに平気で抱き着いてくる。
引き締まった体と大きな胸がギュムギュム当たる。
「こんな布いらん!私の手の方が丁寧に優しく隅々まで撫でまわせるぞ!」
「体を洗いにきたの!!」
ばちゃばちゃと水飛沫があがる昼下がり…。
「うぐはぁ!!」
石鹸でヌルヌルの手で私を撫でまわし始めたタチが突然叫ぶ。
助かった…じゃない、何事だ?
タチがわき腹を押さえている。その傍にちっこくて二頭身の生き物がいた。
「…ユニコーン?」
白くて幼い子供姿に薄桃色のふんわりとした髪。なにより、額にはとんがった角。
たぶんそうだ、初めて見る。清純と潔癖の象徴。
できれば服を着ているときに会いたかったけど。
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