かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第四十一話 すまん。やりすぎた。

公開日時: 2020年10月4日(日) 11:48
文字数:4,302

「私が神なの!!」

 私の一言で、つばぜり合っていた二人が、弾けるように距離をとる。


「えっ!?」

 一際は大きなリアクションをとったのはタチだった。

 黒衣の男の方はジロリと私に視線を向けるだけ。


「…えっ?」

 もう一度、目を丸々と広げたタチが私を見つめる。


「ご…ごめん。ちゃんと言わなきゃって思ってたんだけど…その…!」

「…え?」

 タチが混乱している…!珍しい一面を見られてちょっと可愛――だめだ!

 今はそういう時じゃない!


「タチの優しさに甘えてた…といいますか、うすうす気づいてるのかな?とか思ったり、してたりしたり…」

「い…いや。言いにくい事や、隠し事があるのはもちろんわかっていたが…。」 

 顔から緊張が抜け、開いた口がふさがってないタチさん。


「ごめんなさい!!嫌われたくなくて隠してました!!」

 瓦礫の上、土下座するしかない私。本当に申し訳ない。


「実は好きな男がいる…夜のプレイに不満がある…本命はズーミとデキていた、だと思ってたのだが…」

「ないよ!?そんなわけ!?」

 色恋…というか、性の方向でしか思考をもたないのだろうか?

 なんかもっと深~いところで、読み解かれていると思っていたんだけど…。


「しかし…!水の力を使っているし、コソコソ二人で密談していたしだな…私より先にスライムとネンゴロ――」

「ありません!!ズーミちゃんは親友!神殺しを奪おうとして作戦会議してたの!痛いのイヤだから!」

 親友というか眷属《けんぞく》にあたるんだけど。

 今の私にその実感はないし、彼女も同じ気持ちだろう。


 ただの親友ってやつだ。


「ちょっと悔しい気持ちをバネにして、嫉妬心を胸に燃え上がっていた夜もあるのだぞ!?」

「知りません!勝手な思い込み!」

「私の湧き上がる嫉妬心はなんだったのいうのだ!?たぶん初めてだぞ!!」

「勘違いだってば!っていうかタチだって「全部知ってるぞ。」みたいな雰囲気だしてたのに何それ!!私が神様なの!」


 やっと言えた。ずっと隠してきた事実を。

 それでもタチはタチのまま、私と話をしてくれることに感謝しちゃう。


「あ…あれ?こういう雰囲気なんですか?」

 息を切らせて、駆け付けてくれたストレが、想像したであろう場の空気との落差に戸惑う。


 あなたが正しいけど。


「どうだっていいんだよ!!」

 もう一人、正しい空気のままを保っていた男が声を荒げた。

「奴が神だろうが、あんたが神だろうが、俺は思い知らされてんだよ、何を与えられても、クズはクズだって。」

 男が苛立たし気に剣を一振りすると、どうにか形を成していた小屋は、完全に瓦礫がれきの山となった。


「なぜ、それほどの魂の叫びを発せているのに、誰かのいいなりでいる?」

「役割を果たす以外に、オレに何がある…。」 

 黒衣の男は、明確にタチを狙って攻撃をしかける。

 今までは私が目的で、タチもストレも障害でしかない扱いだったのに。

 

「変えようのないほど、お前はお前だ心配するな。」

「煽ってるんだよなぁ!?恵まれて産まれ直しても変わらなかったオレを!」

「いったい誰の基準で苦しんでいる?魂のおもむくままにさせてやれ。」

 会話…というより、口論をしながら剣がぶつかり合う。

 私にはもちろん、ストレにも入り込む隙がない。


 戦闘力が違い過ぎて。


「魂なんてあるわきゃねーだろ!」

 ドン!男の縦ぶりで、瓦礫が吹き飛び、大地が割れた。


「それほど、苦しんでおいて魂を疑うのか?」

「苦しみだ?快楽だ?…ただの神経の信号だ。くだらねぇ。おくれた奴らがッ…ムカツクぜ!!」

 攻めているのは黒衣の男なのに、剣を振れば振るほど、苦しんでいるのは男の方に見える。


「やはりお前はいい。私の好物だ。正直、今はそれどころじゃないがな。」

 男の動きが荒くなるのにつれて、生じた隙をタチは容赦なくついた。

 水の剣が一太刀。男の腹を掠める。


ブシュ!


 前回のお返しとばかりに、繰り出したタチの反撃で、男のわき腹から血が噴き出す。


「決めた。まずはてめぇーをぶっ殺す。」

 血走った目がタチを睨みつけた。


「それだ、私の魅力に引き寄せられて、激怒する。そこにお前がいるじゃないか。お前の魂が。」

「ちげーな!果たすべき役割の邪魔を消すってだけだ。一度しかころせねーのが残念だがな!」

 吹き出る血もお構いなしで、乱暴に剣を振る男。

 一撃、一撃の隙をつき、刃を体に切り込ませるタチ。


「何度も味わいたいと感じているのだろう!この瞬間を!!」

「そんな攻撃で、倒れる体じゃねーんだよ!!」

 幾度もタチの剣撃を受けながらも、衰えない男の猛攻。

 斬られた傷は、次の一刀を受ける前に塞がってしまっている。


「あんたも無力を思い知れ!焦りも、憎しみも、何一つ自分のモノなどこの世にないんだってな!!」

「くだらん!私の喜びは私だけのものだ!!」


キィィン。

 

 突然。

 タチの腰で神殺しが震えだした。


「そうだろう!神殺し!貴様らの憎しみも!お前だけの尊きモノだ!!」

「物とおしゃべりまでして、煽るんじゃねーよ!!」

 抜き出された神殺しの刀身は、この場の誰よりも黒かった。


 交錯した二人の黒い斬撃は、一つは空を切り、一つは男を両断した。

 上下二つに。


 ボタリと斬り落ちた、男の上半身にタチが話しかける。


「…すまん。やりすぎた。」



「…どういう脳みそしてたら…そんな言葉がでるんだよ?」

「殺すつもりはなかったのだが…盛り上がり過ぎた。」 

 タチは膝をつき、男の上半身をかかえる。


「胸…でけぇな。…色々と思い出しちまうぜ…。」

「自慢の体だ。せめて一度抱きたかった…。わからせてやれたのに…。」

 口からゴポゴポ血を溢れだし喋る、上半身だけの男。

 まっぷたつに切り分けた、相手を抱きたいという女。


 会話の内容と、見た目の状態に差がありすぎる。


「くっつけたら、治ったりしないのか?」

「…」

 死にかけの人に言うには、余りにも無神経な言葉に男が目を反らす。


「ナナ!下半身持ってきてくれ!」

「えぇっ…!?」

 見守るだけだった私達に、急に矢が飛んできた。

 ストレは見た目のグロテスクさで、背を向けて、涙目でオエオエしている。


「人の命がかかっているのだぞ!」

「うぅ…。」

 でましたよ。タチの断りずらい理不尽!

 切った張本人が何をまっとうそうに…。

 でも、とりあえず、やれることをやろうの精神で、ボッテリ崩れ落ちてる下半身をタチのほうに引きずろうとする。


「ダメだ!抱えてもってこい!中身がこぼれ落ちる!」

「えぇ!!…気持ち悪いよ…。」

 言いつつも、太もものあたりを抱えて、切り口を上にしタチのもとへ運ぶ。

 もちろん顔はそむけて。


「うぅうぐッ――!!!」

 そんな私の勇気ある行動を見て(見れてない)。ストレちゃんはただひたすらに自らをおさえていた。(抑えられていない)

 可哀想に…助けに駆けつけてくれたのに、見せ場の一つもなく、ただただゲロゲロしている。

 

 でも戦士ならこんな場面いくらでも…ないか。

 真っ二つになった人間を繋げ直そうとする場面なんて。

 

「うぅっ――…血の匂いが…。」

 直視してないとは言え香りが凄い。なんかブシュブシュ空気の潰れる音もするし…。

 足元は瓦礫だらけ、転びでもしたら内臓が飛び散ってしまう…。気を付けないと…。


「…おい。やめろ。いいから、遺言とかを聞けよ。」

 極めてまっとうな意見が、極めて異常な姿の男から吐き出される。

 ゴポゴポ、胸下の輪切りと、口から血を吐きながら。


「だめだ。隠してもわかるぞ。お前、くっつくだろう?」

「…チッ。」

「…そうなの?」

 ため息ひとつ、あと内臓のナニカを上半身からボテリと落としながら、面倒くさい表情の男。


「たぶんな。…だから首を落とせ。たぶんそれで死ねる。」

「だめだ。くっつけろナナ。」

「うん。」

 男の言葉はおいといて、とりあえず断面を重ねてみる。

 内臓一つ落っこちたままだけど。


「まてよ!何がしたいんだお前ら!」

「抱きたい。」

  明確な答えがない私と違い、タチは完結だった。


「下半身だけくれてやる…勝手にヤればいいだろ!」

「えっ…そんな所見たくない…。」

「だったら目を閉じてろよ!!つーかなんで立ち会う前提なんだボケ!」


 思った以上に元気な上半身さんが、私にどなりつける。

 正直、そもそも、タチが他の人と「仲良く」している所なんて見たくない。

 でも、まぁ。タチだから仕方がない気もする。


 でもでも、さすがに、下半身だけと仲良くしてるとこは…想像したくもない。


「面白そうだが、私の興味があるのはお前自身だ。…おおかた自殺を試みて、自分の再生力は知っているのだろう?」

「…死に切る根性はなかったけどな。」

「魂を信じぬお前がか。笑えるな。」

 戦闘中と変わらず、会話を続ける二人。

 私には理解できない感覚だ。


 とりあえず、言われた通り上半身につながる様に、下半身を持つ。


「あの…いつまで?」

「…五分もすれば、つながる。」

 五分…かかえてなきゃいけないのか…。

 重ねた切れ目部分からピチピチ音がするのが怖い。


「意味がわからない。あんた達を殺すのが俺の役割だぞ?」

「お前は、まだ私を殺したいのか?その意志があるのか?そう言われたからといって。」

 男とタチが視線を交えていた。

 私はただの支え役。ちょっぴり寂しい。

 あと、私も吐きそう。


「…わからない。」

「私は神を殺そうと思っていたが今日やめた。ナナが神らしいのでな。そんなものだ。」

 タチが私の方に顔を向ける。


「…そんなに簡単にいいの?」

「いけない理由がどこにある?私の気持ちは変わらない。ナナがなにで、どうあろうとも。」

 変わらず支え役のままだけど、だいぶん嬉しい。

 でも神を殺すため、長い旅をしてきただろうにいいのだろうか?

 …良くないと困るけど。


「力も才も金も女も…手にして生まれてこれなんだ…。オレはどうしたらまともになれる?」 

「一度私にかしずき、犬となれ。まともになる必要などない。」

 傲慢で、上からで、偉そうな、いつものタチ。


バタリ。

 向こうの方でストレが倒れた音がした。

 ごめんね。いっつも放っておいて。背中の一つでもさすってあげたかったんだけど…。


「…いいかもな。少し時間をくれないか?謝らなきゃならないヤツがいるんだ。」

「思い人か?」

「ずっと傍にいてくれたのに、ほっぽり出したどんくさい奴が…。」

「好きにしろ。」

 黒衣の男は。泣いていた。

 たぶん、今までしたきた色々な事をおもいだして。


「沢山…殺しちまったな…オレはどうやったって…。」

「今はゆっくり休め。何をどうでも私に抱かれてからにしろ。」

 タチは優しく男の頭を撫でた。ゆっくりゆっくり。

 その姿をみても、私に嫉妬の心や、寂しさは生まれない。

 

 不思議だけど、当然だと感じる。なにせタチだから。



 許されていいわけがない…。

 繰り返しつぶやく光の化身が送り込んだ刺客は、普通に悩み後悔するただの人間だった。


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