かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第四十五話 水面になりたい。

公開日時: 2020年10月16日(金) 23:36
文字数:3,753

「ん~~?なんか知ってる気がするユニね~??」

 角の生えたお姉さんが、私のおでこにグリグリと鼻をあて匂いを嗅ぐ。


「ど、どちら様でしょうか?」

「この角みてわからないユニか~?ユニコーン、ユニ!」

 ユニコーン…?確かにユニユニ言ってるし、額に立派な角も生えてるけど…。

 私が一度見たユニコーンは、もっとちんまりとした可愛らしい生き物だった。


「ユニはね~。毎日願ってたユニよ!川で出会ったとっても清らかで、美しい乙女…。あの子みたいな乙女がユニも欲しいって!」

 川で出会った…もしかして?私のしってるあの三頭身ぐらいのあの子?


「ずっと見守り、支えたくなるような乙女…あの穢れが皮をかぶったような女さえいなければ、ユニだって…!」

「あの時私にしがみついてた、あのユニちゃん?」

 私の唯一知るユニコーンと、外見は一致しないけど、話を聞く限り同一なような…?

 穢れって、たぶんタチのことだよね?「処女を湖に投げ込めば会えたのか!」って言った外道の。


「あぁ~!ユニの狙ってた乙女ユニか!?やっぱり神様のご褒美ユニ!!でもでも見た目が違うユニね?」

「色々と事情が…それに見た目で言えばあなただって、全然ちがうよ?」

 どうやら本当に、風の大陸へと向かう道中で出会ったユニコーンらしい。

 始めて会った時は三頭身ぐらいで、今の私より小さな体をしていた。

 シルエットは、こんなほっそりとした縦長じゃなくて真ん丸の。


「ユニは、月に数日大きくなるユニよ。常識ユニ。」

 …そうなんだ。どこの世界での常識かしらないけど――。

 

 まった!あの時のユニちゃんなんだとすると…。


「ここは水の大陸!!」

 口元を両手で覆い、一つ大事な情報を手に入れたことに喜び驚く。

 前いた地点からだいぶ離れてしまった。


「もちろんユニ?…んー?それにしても不思議ユニ??清らかなのに淫らな香りが消ぇ…」

 上半身をかがめて、私の胸元に鼻を付けクンクン匂いをかぐユニちゃん。

 まるで犬みたいだ。


「えっと…それは、まー。…まー色々とそれは…。」

 タチに会いたい。今すぐあってくっつきたい。現在地はわかった。一歩近づけたと思うと、余計に気持ちがはやる。


 でも彼女の事を思い出すと、どうしても甘い思い出より、強烈な場面が前に出て、不安と恐怖が湧き出てしまう。

 最後に見たあの光景が…。


「あの女ユニか?」

 タチへの想いが伝播でんぱしたのか、胸に顔を埋めていたユニちゃんが、真顔でこちらを見上げる。

 

「あの、淫らが服着て歩いてるみたいな黒髪の…!」

 ユニちゃんとあった時は全裸だったけどね。言いたいことはわかるけど。


「やっぱり刺し殺しておくべきだったユニね…。」

「そんな物騒な…でも希望が見えたよありがとう!それとアルケー湖の方角教えてもらえないかな?」

 図々しいお願いだけど、なりふり構っていられない。

 まずはわが友、水の化身ズーミちゃんの所に向かい、助けを得なければ。


「いいユニよ!あとお洋服あげるユニ!裸じゃ可哀想ユニ!ユニは可愛いのたくさん持ってるユニ!」

「本当?ありがとう!やった!」

 居ないタチには敵意満載だけど、私には優しいユニちゃん。

 彼女の真っ白な手をとり、感謝する。

 順調順調。このまま一刻も早くタチの元へ…。


「でも私サイズの服なんて持ってるの?」

「あるユニ!少女大好きだからユニね!ちびっ子お洋服大好きユニ!」

 可愛らしい見た目と、種族の問題で聞き捨てられるが、怖い発言な気がする。

 今の私にとって大変都合がよろしいので、とやかく言ったりしないけど。


「…やっぱりアルケー湖の方角は教えないユニ!ユニの着せ替え人形として、生涯可愛らしく過ごすユニ!」

「…え?」

 あれ?物騒な発言をスルーしたせいだろうか?より問題ある発言が続いた気がする。

 因果応報、自業自得その手の文字が脳に浮かんだ。


「どっか行っちゃ嫌ユニ!ユニと二人じゃ寂しいなら、もう一人可愛い~乙女を捕まえるユニ!それで、二人はウフフな生活をするユニ!一生!ずっと!」

「いや、ちょっと待ってもらって――」

 あれれ?なんかこの強引な感じ、ユニちゃんの憎む、真反対の存在なはずな誰かさんと似ているぞ?

 私の大好きな、おてんばさんと。

 一刻も安否を確認したい想い人と…。


「ユニはずっと見守ってるだけでい良いユニ!!木陰からそっと…でもでも!たまに二人の浴びた水をゴクゴクしたいユニ…!」

 勝手にしゃべって、勝手に高ぶっていくこの感じ…。似ているあの人に。


 始めて出会った時、タチはユニちゃんの事をなんて読んでただろうか…。

 そう「厄介やっかい処女狂い」だ。


「ごめんなさい!あの!お洋服いらないから、アルケー湖の場所を…」

「…にがさないユニよ?」

 この際素っ裸でも走り出そう。そう思った私に向かい、無垢で、美しく、可愛らしい笑顔で、ユニちゃんが微笑む。

 私の掴まれた両腕から、確固たる意志を感じさせながら。


「お願い、私…タチに会いたいの!あの黒髪の人よ…あんなお別れじゃ絶対やなの!」

 まともな言葉も交わさず、覚悟もないまま、突然の出来事で…。


 最後に目にした血塗られた光景を、私は認めていない。

 タチは…タチならば。必ず生きてるはずだ。


 そうじゃなきゃダメなんだ。

 

「こんなに乙女を求めるユニが…。理想の乙女を目の前にして、憎き恋敵の元へお見送りすると思うユニか…?」

「…違うの…違うんだよ。」

「ずっと、ず~っと清らかなまま、美しく生涯をユニの前で過ごすユニ!幸せで美しく…。必要なものは、全部ユニが貢《みつ》ぐから安心するユニ!」

「無理なの!私はタチにベタぼれだもん!なんでもしてくれるなら、今すぐタチに会わせて!」

 タチの二文字を口にするたび、こぼれそうになる涙をグッと堪える。

 だって今は、優しく拭ってくれる彼女の前じゃないんだから。



「ぬぬぬ~。乙女には笑顔でいて欲しいユニ…。そんな顔いやユニよ…。」

「お願い!!タチに会えたら、なんでもするから。」

 うつ向き考え込むユニちゃんに懇願《こんがん》する。

 持ち合わせは何もないが、想いと願いは本心だ。

 

 差し出せるものは全てさしだしても、タチに会いたい。

 

「…わかったユニよ。あの女と会うまで、ユニの着せ替え人形になってくれるなら良いユニ。」

「そんな事でいいの?」

「だから悲しい顔しないで欲しいユニ。それと、あの女と会ったら乙女を賭けて決闘するユニからね?」

「いいよ!全然いい!…でもタチはもの凄く強いよ?」

 根は優しいのだろう。乙女に対して限定だけど。


 願いが通った喜びで、軽く返事を重ねたが、実際二人が対決することを想像すると、ユニちゃんに申し訳なくなる。

 酷い目にあわされそうだ。


「乙女を前にしたユニは最強ユニ!乙女を見守るためなら、どんな汚い手段でもとる覚悟があるユニ…!」

「そ…そっか。できれば二人とも仲良くしてくれると嬉しいけど…。」

「それはないユニ。」

 ユニちゃんのキラキラ光る瞳から、輝きが一瞬消えたような気もするが、見なかったことにしよう。

 ともかく一歩でも先に進まないと。


 早く行動をおこしたくて、体がソワソワする。


「じゃ~。まずはお洋服ユニね!」

 ユニちゃんの角が、ピカーっと光り輝いた。

 真っ白な光の中から、綺麗に折りたたまれた、お洋服が一式現れる。


「凄い!!」

「でしょ?でしょ?ユニの角は神聖な物を分解して、保存できるユニ!生命は無理なのが残念ユニだけど…。」

 もし、できたらしたんだろうな。…乙女を。

 寂し気に洋服を見つめるユニちゃん。中身ではなく服だけを集めた彼女の背中には、味わい深いものが漂っている。


「神聖な物…これ、ただの子供服だよね?もしかして、凄い効果があったりするの?」

「は?何を言ってるユニ?小さい服は、神の着る衣の次…いやそれに肩を並べるぐらい神聖な服ユニよ!めちゃくちゃ尊いユニ!」

 うん。再びわかった。これがユニコーン。

 乙女にただならぬ執着心を持つ生き物。


 非常に厄介だ。

 

「…そっか。なら私にぴったりだね。それとごめん。できればおへその出る服お願いしてもいいかな?」

 私がその、子供服と肩を並べてる神だよ!の説明は面倒だし、おしゃべりが長くなりそうなので伏せておく。

 必要な事。へそをださないと調子が悪くなる事だけは、ちゃんと言っておこう。


「あ゛ぁ゛~いいユニね!!ならこっちにするユニ!」

(…けっこうキタナイ声だすんだね。)

 ユニちゃんは手にしたお洋服を輝く角にしまうと、違うお洋服を引っ張り出してくれた。

 大変便利な能力だ。


 過ちの香りが漂うのは気になるけど。



 陸に上がり、じっくり見られながら着替えを終える。

「うん。ぴったり。ありがとうユニちゃん。それじゃあ、アルケー湖に出発しよう!」

「行くユニ!どこまでも見守るユニよ!まかせるユニ!」

 見守るというか、至近距離でじっくり観察してたけどね。

 それがお返しになるなら安いものだ。



 まずは、アルケー湖。ユニちゃんが言うには、ユニちゃんの背に乗って川をいくつか下れば、三日で着くそうだ。


 着いたらズーミちゃんに会って事情を説明し、力を貸してもらおう。

 力が無理でも、風の大陸まで戻る資金をせびらないと。


(タチ…必ず無事でいてくれてるよね。タチは最強だもん…。)

 ニコニコ笑顔で、おんぶの形のまま私を待つユニちゃんに、私は逃げることなく立ち向かうのであった。

 

 立ち止まってしまわぬよう、焼き付いた光景から、目を背けて。

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