かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第五話 えっ?今なんて?

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:50
更新日時: 2020年9月1日(火) 14:57
文字数:1,543

「はっはっは!冗談だ!そう怯えるなナナ!」

 機嫌を伺うように見上げる私に構いなく、楽しそうに笑うタチ。


(絶対嘘だ…!本気だった…!)


「無理やりされるのはいけるが、する方はそうでもない!仲がいい奴だけにだ!」

「そ…そうですか…」

「可哀想すぎると萎えるからな。愛がないと燃えん!」

「どこに愛が!?」

「溢れているだろう!この私に!」


 この人の自信はいったいどこから溢れてくるのだろう?

 豊かな源泉をお持ちなのは十分わかったけど…謎である。


「愛とは他者を慈しみ思いやる――」

「フン!慈愛や友愛か?そんなもの幻だ。」

 つまらなそうに、私の言葉を聞き終わる前に鼻で笑った。せめて最後まで聞いてほしい。


「なっ…!あなたは勝手に押し付けてるだけじゃない!」

「それこそ愛だ!愛とは病!愛とは炎!愛とは我欲!」

「絶対違う!そんな小さなものじゃない!」

 つくづく価値観の合わない人間だ。


「ふむ…。誰かに愛されたことがないのだな。愛らしい奴め。」

(この女…!私以上に人に愛されたものなんて…!こっちは神様だぞ!!)

 安っちいあわれみの視線が私を逆なでするが、あまり声をあらげられない。

 だって怖いもんこの人。


「ズーミに立ち向かう度胸、ウブなありよう。実に私好みだ!よかったら一緒にこないか退屈させんぞ?」

「…私にも目的がありますので。」

 もちもちの甘いお菓子を食べるというね!美味しいもの食べて、タチの事なんて忘れるんだ!


「そうか…残念だ。ズーミといえばあの水攻めもなかなか良かったな…。どうだ?私と一緒にいればきっとナナも受けれるぞ?」

 どういう口説き文句だ。水攻めを受けれるって。



「と~っても魅力的なお誘いですけど遠慮しておきます。」

「死ぬ直前で、今度は私が助けてやるから、じっくり味わっていいのだぞ?」

 眉を八の字に曲げ、寂しそうに物騒な特典をアピールしてくる…コロコロ変わる表情なことで。

 この人本気で思ってるんだろうな…何事も経験!を否定するつもりはないけど…水攻めって…。


「どうだ?せめて神殺しの剣を手に入れるまで一緒にいないか?」

 やだやだ絶対一緒になんか行動しない。する理由がない。


「丁寧におことわ――神殺しの剣…?」

 何その字面だけで鳥肌の立つモノ…。


「売られた喧嘩を買うためにな!まずは戦力強化というわけだ!」

「うってない!うってません!」

 まったくもって覚えがない。神様として一人間に喧嘩など。


「なぜナナが否定する?今しがたズーミに襲われたのを見ていただろう?奴は神の使いだ。」

「えっ…えっと…」

 だめだ、説明が難しい…というか素直に「私が神様で、そんな支持飛ばしてませんもん!」

 なんて言った日にはどうなるものか…この場でたたき切られそうだ。


「どうだ?興味ないか?神を恨んだ人間達が作り出した剣…!この水の化身の土地にあるはずなんだ!」


 ぶるぶる!体がすくんで震えてしまう。

 え?何?知らないうちにそんなモノ作られちゃってたの?


「どうした?寒いか?日も落ちてきたしな。」

 確かに、見渡すと夕焼け空もどこへやら、私の恐れを煽《あお》るように夜が迫っていた。

 当然のように私の腰に腕を回すタチ。


 やってる行為は格好よさげだけれど、下心しか感じない。


「あの…えっと…やっぱりご一緒していいですか?」

 するりと巻き付く腕から逃れつつ決心する。

(だめだ…!この人放っておくと絶対私殺されそう…!)


 神殺しの剣…切られたらめちゃくちゃ痛そうだ。死んでもいいけど痛いのだけは嫌だ。


「もちろんだ!最近寂しい一人寝が続いていてな!パートナーを求めていてな!」

「え~。あぁ~…そういうのはちょっと~」

「今日はもう暗いここで野営だな。ゆっくりしていていいぞ!準備は私がヤルからな!」


 まずは、明日の朝を無事で迎えられるのか…そんな心配がむねいっぱいに広がった。


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