「はっはっは!冗談だ!そう怯えるなナナ!」
機嫌を伺うように見上げる私に構いなく、楽しそうに笑うタチ。
(絶対嘘だ…!本気だった…!)
「無理やりされるのはいけるが、する方はそうでもない!仲がいい奴だけにだ!」
「そ…そうですか…」
「可哀想すぎると萎えるからな。愛がないと燃えん!」
「どこに愛が!?」
「溢れているだろう!この私に!」
この人の自信はいったいどこから溢れてくるのだろう?
豊かな源泉をお持ちなのは十分わかったけど…謎である。
「愛とは他者を慈しみ思いやる――」
「フン!慈愛や友愛か?そんなもの幻だ。」
つまらなそうに、私の言葉を聞き終わる前に鼻で笑った。せめて最後まで聞いてほしい。
「なっ…!あなたは勝手に押し付けてるだけじゃない!」
「それこそ愛だ!愛とは病!愛とは炎!愛とは我欲!」
「絶対違う!そんな小さなものじゃない!」
つくづく価値観の合わない人間だ。
「ふむ…。誰かに愛されたことがないのだな。愛らしい奴め。」
(この女…!私以上に人に愛されたものなんて…!こっちは神様だぞ!!)
安っちい憐みの視線が私を逆なでするが、あまり声をあらげられない。
だって怖いもんこの人。
「ズーミに立ち向かう度胸、ウブなありよう。実に私好みだ!よかったら一緒にこないか退屈させんぞ?」
「…私にも目的がありますので。」
もちもちの甘いお菓子を食べるというね!美味しいもの食べて、タチの事なんて忘れるんだ!
「そうか…残念だ。ズーミといえばあの水攻めもなかなか良かったな…。どうだ?私と一緒にいればきっとナナも受けれるぞ?」
どういう口説き文句だ。水攻めを受けれるって。
「と~っても魅力的なお誘いですけど遠慮しておきます。」
「死ぬ直前で、今度は私が助けてやるから、じっくり味わっていいのだぞ?」
眉を八の字に曲げ、寂しそうに物騒な特典をアピールしてくる…コロコロ変わる表情なことで。
この人本気で思ってるんだろうな…何事も経験!を否定するつもりはないけど…水攻めって…。
「どうだ?せめて神殺しの剣を手に入れるまで一緒にいないか?」
やだやだ絶対一緒になんか行動しない。する理由がない。
「丁寧におことわ――神殺しの剣…?」
何その字面だけで鳥肌の立つモノ…。
「売られた喧嘩を買うためにな!まずは戦力強化というわけだ!」
「うってない!うってません!」
まったくもって覚えがない。神様として一人間に喧嘩など。
「なぜナナが否定する?今しがたズーミに襲われたのを見ていただろう?奴は神の使いだ。」
「えっ…えっと…」
だめだ、説明が難しい…というか素直に「私が神様で、そんな支持飛ばしてませんもん!」
なんて言った日にはどうなるものか…この場でたたき切られそうだ。
「どうだ?興味ないか?神を恨んだ人間達が作り出した剣…!この水の化身の土地にあるはずなんだ!」
ぶるぶる!体がすくんで震えてしまう。
え?何?知らないうちにそんなモノ作られちゃってたの?
「どうした?寒いか?日も落ちてきたしな。」
確かに、見渡すと夕焼け空もどこへやら、私の恐れを煽《あお》るように夜が迫っていた。
当然のように私の腰に腕を回すタチ。
やってる行為は格好よさげだけれど、下心しか感じない。
「あの…えっと…やっぱりご一緒していいですか?」
するりと巻き付く腕から逃れつつ決心する。
(だめだ…!この人放っておくと絶対私殺されそう…!)
神殺しの剣…切られたらめちゃくちゃ痛そうだ。死んでもいいけど痛いのだけは嫌だ。
「もちろんだ!最近寂しい一人寝が続いていてな!パートナーを求めていてな!」
「え~。あぁ~…そういうのはちょっと~」
「今日はもう暗いここで野営だな。ゆっくりしていていいぞ!準備は私がヤルからな!」
まずは、明日の朝を無事で迎えられるのか…そんな心配がむねいっぱいに広がった。
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