かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第四十六話 ちゃんと並ぶ友。

公開日時: 2020年10月20日(火) 18:52
更新日時: 2020年11月12日(木) 09:06
文字数:3,537

 ユニちゃんの水上高速移動により、アルケー湖には予定通り三日で到着した。

 水上は、おんぶされて移動。陸地はおてて繋いで移動。

 

 特に問題も発生せず、紅茶をたしなんだり、おやつを楽しんだり。

 人形遊びをしているような生活。


 私は人形役だったけど。


居た~~~!!!!!!

 アルケー湖周辺。土の化身ダッドとの戦いから、店並も人通りも完全復活している、根性ある土地で、水色おさげの人影に走り寄る。


わっひゃ!?なっ…なんじゃ!?」

 勢いよく抱き着いて、感触を確かめる。

 このプニプニした肌触り、ひんやりとする心地よさ…!

 懐かしい。


ズーミちゃん…!ズーミちゃんだ!!

 私の元部下で、現親友。

 水の化身ズーミちゃん。

 土の化身ダッドとの一件以来、地元では身を隠す必要もないのだろう。

 全身を覆う、怪しげな皮服を着ることもなく、素のままでかき氷の待機列に並んでいた。


「だ…誰じゃ?握手なら午後の水祭りの部で…。」

「私だよ!モチモチでタコタコの友!エッチな下着で夜を過ごした親友!ナナだよ!」

!?…ナナ?嘘じゃろ?ナナなのか?!

 あぁ。懐かしき、安心する声。


 ギュっと握りしめた私の腕が、ズプズプとズーミちゃんの体に沈んでいくこの感覚。

 体が縮んだせいで、前よりズーミちゃんの体が大きく感じるけど、たしかに我が友だ。


「エッチな下着の件を詳しく聞きたいユニ…。」

 ここまで運んでくれた功労者が、私の後ろでなんか言ったが聞こえない。


「ナナ!ナナか!久しいな!…その体。一度死んだのか?」

 突然の不審少女出現にも、疑うことなく受け止めてくれる我が友ズーミちゃん。

 転生とか神とかの面倒な説明は、化身で友達の彼女に必要ない。

 一番最初に打ち明けたのは彼女にだ。

 

「そのことでお願いがあるの!力を貸してズーミちゃん!!風の大陸まで戻りたいの!力がダメならお金貸して!!あと、源の力返してくれたり本当助かったよ!色々気を使ってくれてありがとう!!!」

「まてまて!落ち着くのじゃ!半年ぶりの再開に、神がなんて安易に頭を地面につけておる!?」

 矢継ぎ早に言葉をぶつけ土下座した私は、ズーミちゃんに引っ張られて待機列から離れた場所に運ばれた。


「ごめんね。ズーミちゃん…!おいしそうなかき氷。あと5人で買えた所なのに…。…何味を頼むつもりだったの?」

「よい。よい。ミルク味じゃ、昨日食べておいしかったから、また食べようとおもっての…。」

 あぁ。懐かしき食べ物談義。こんな話を毎日してたのだ…もう半年も経つのか。

 …半年?ズーミちゃんと別れたのってそんなに昔だったけ?


「ユニが変わりに並んでおくユニ!ミルク味三つユニね!」

 私とズーミちゃんのやりとりを、ムフムフ眺めていたユニちゃんが「ちゃんと眼福の対価は払うユニ」と言って、かき氷の列の最後尾へと消えた。


「お主。なぜユニコーンと一緒にいるのじゃ?神にもどる予定じゃったろう?」

「えっとね。長くなるけど聞いてもらえる?」

 私は掻いつまんで、風の大陸についてからの事。

 タチとフィルル高原にたどり着き、聖地パンテオンに飛び立とうとした事。

 そこにイトラが現れて、私とタチが…襲われたことを彼女に話した。



「…おぬし、現場に居たのじゃよな?」

 黙って聞いてくれていたズーミちゃんが、ゆっくりと口を開く。

「うん…。だから今すぐ戻りたいの。タチを…助けにいかないと。」

 今から急いでもどっても、数か月はかかる旅になる…。

 それでも、私は戻りたい。タチの所に。


「それは無理じゃな…。」

「どうして!タチは絶対負けないもん!絶対に…。」

 信じない。最後にみた光景なんて。

 毎夜、夢に出る惨劇さんげきなんて。

 私は信じない。タチは絶対負けるはずない。

 

 例え首が斬り落されたって…。


 考えすぎないようにしている。

 思い過ぎないように。

 正常な判断をしたとたん、きっと私は動けなくなる。


 目的を見失ってしまい。


「風の大陸北西部、それに旧聖地パンテオンは吹き飛んでもうない。」

「…へっ?」

 ズーミちゃんが言ってることが頭に入らなかった。

 私がついこの前居た、あの場所がもう無い…? 


「たぶんおぬしが溶けた直後のことじゃな。激しく争いが行われたその地にイトラ様だけだはなく、土の化身や風の化身も現れて大暴れ…。300年前の土と火の大ゲンカ以来の大災害じゃ。」

 土の化身と火の化身の大ゲンカ…。

 その衝撃は別大陸も襲い、ズーミちゃんが水の化身を引き継いだきっかけとなった。

 

 それほどの戦いがあの後に?


「うそ…。タチ…タチはどうなったの!!」

 何百年に一度の大変動、その中心に私達は居たことになる。

 ただの人などひとたまりもない状態だろう。

 

 まして…直前に首を落とされたタチは…。

 それでもそれでもタチなら…。


「安心しろ生きとるよ。しぶとい奴じゃな。イトラ様と殴り合って生き延びたらしい。」

「…ほんと!!!?」

「神を抱いた。と吹く女はその後、風の大陸各地で発生した土の化身…ダッドを倒しながら、町々で色々言いふらしてるようじゃ…。」

 ずっと合わせてくれていた目線を、少しズラすズーミちゃん。

 なにか言いにくそうに、口を紡ぐ。


「何?なんてタチは言ってるの?どんな話をみんなに聞かせ回ってるの?」

「うむ…そのな…。」

 もじもじと口に出そうかためらうズーミちゃん。


「教えて…。タチが生きてるってわかっただけで、私に怖いものはないから。」

 そうなのだ。タチが生きてる。

 その事実だけで、踊りだしたいほど私は世界が肯定できる。


 私の心を察したズーミちゃんは、口を開く。


「ナナという女が如何に可愛いか…。どれほど愛しているか…。その…夜はどんな声を上げるかと…そのな…。」

「…酒のつまみ話にされてる!?」

 タチのよく言っていた、酒場で一番盛り上がる話題というやつだ。

 ようは猥談《わいだん》。


 まさか、自らがおいしいお話にされるとは…。


「わらわの所に流れてきたのは最近じゃ。相変わらず、とち狂っとるな~。と思っとったが…。なるほど、おぬしに伝えるための行動かもしれんの。」

「…そうか。」

 次の私が地上のどこで生まれるかなんて、タチにはわからない。

 だから私に見つかる様に…。生きてるぞって伝えるために、主張してくれてるんだ。

 

 …エッチな話で!


「その…だいぶアマアマな日々を過ごしておったようじゃの…。どうして結ばれたのか、ウワサ通りではなかろうが…おめでとうじゃ。」

 もじもじと、体内の気泡を恥じらわせながら祝福の言葉をくれる優しいズーミちゃん。


「うん。どんな馴れ初めが出回ってるか、想像すると悶え死にそうだけど…、ありがとう!」

 船の上や馬旅で散々きいた、タチのしょうもない話を振り返ると、それはもうスケベで、具体描写の多いお話がでまわってるのだろう…。


 私の知らぬ各地で…。

 こっぱずかしい。



「安心しろ。お主の事を可愛い、可愛いと自慢する話ばかりじゃ…誰も負の印象は持たんじゃろ。」

「嫌われるのを心配してるわけじゃないけど…。褒め言葉が広まるにしても、素直に喜ぶのは難易度が高いと思う…!」

 恋の話と濡れ場の話、いつの時代、どんな場所だって興味を引くし、広まりやすい…。

 タチが散々言ってた事だ。だからこそとわかってはいる。タチらしい存在証明。


 だけど、彼女の事。いつも私に言ってくれたような歯の浮く言葉を、恥ずかしげもなくばら撒いているのだろう。

 死ぬほど恥ずかしい。ちょっと嬉しくもあるけど…。


「じゃけど…首絞め失神プレイは危ないと思うのじゃ。大きなお世話かもしれんがの…。」

 見覚えのない情事が付け加えられているようだが、たぶんタチのせいではないだろう。


 雑で、荒くて、感染力がある、「尾びれ背びれ」それこそウワサ話の性質だ。

 もろ刃の剣として、受け入れるしかない。

 

 わが友が信じ切って、危ない性癖を心配してくれてるのは気まずいけど。

 

 まぁ。後々、経験してみれば事実になるし。

 なにはともあれタチに会いたい。


「ぐぬぬ…!」

 かき氷を三つ持ったユニちゃんが背後で佇んでいた。

 可愛らしい見ためで「あの女絶対殺すユニ…!」と憤死しそうなのは、首絞めプレイを想像したからだろう。

 歯を噛み締めすぎて、バキバキ恐ろしい音がしてる…。


「しかし…この広まりようで、お主の耳に入っとらんとは。この2か月間どこに居たんじゃ?だいぶ人里から離れておったろ。」

 ユニちゃんが運んでくれたミルクかき氷を、ズーミちゃんは待ちどおしそうにシャクシャク崩す。


「2か月…?3日前にユニちゃんのそばで生まれて、川を乗り継いでここまで来たんだけど…。」

「大陸と聖地が吹き飛んだのは2か月前のことじゃよ??」

 

 パクリ。


 ミルクかき氷をひとくち口にする。

 

 甘い。

 

 いや~、良かった。なによりタチが無事っぽいことが確認できて。


「2か月!?!?」

 甘さが脳に回り、思考した私は再び困惑するしかなかった。



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