かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第六十二話 花火。

公開日時: 2021年6月29日(火) 22:12
文字数:3,226

 次の日の夜。

 なんと祭りが始まった。


 いつも通りに賑やかで楽しそう。

 アタシはヒトからもスライムからも離れた秘密の場所で、祭りの音と空を楽しんでいた。


 ヒトが疲れて静かになったら、新たな棒を探しに行こう。

 

 いつも思う。アタシがヒトだったら毎日全てに感謝して、毎日祭りにするんだけどな。

 だってその方が絶対楽しい。賑やかで。騒がしくて。寂しくなくて。


 美味しいモノだっていつでも食べれて、棒だって手に入る。

 踊って、しゃべって、笑って…。

 なんでそうしないのだろう?スライムのアタシには理解できない。


「スライムちゃん。」

ビク!!

 突然のしゃがれた声に体が跳ねて広がった。

 振り向くとそこにヒゲオジがいた。あとイヌも。


 …なんで??


「約束しただろう?俺のコレクションをみせるって。」

 何言ってんだか分んないけど、肩に掛けたカバンをパンパン叩いてる。


 ヒゲオジがアタシの横に来て、カバンの中からナニかを取り出した。


「ほらこれ。丸いだろ?」

「…」

 なにこれ?石じゃん。


 ヒゲオジは嬉しそうに丸い石を次々引っ張り出して、均等に並べる。


「さすがに全部はもってこれなかったんだけどな。家には、こ~んなでっかくて真ん丸の石もあるんだぞ?」

「…」

 たぶん、きっと。

 アタシが宝を見せたから、そのお返しに持ってきてくれたんだろう。


 悪いけどこんなただの丸い石、あっちこっちに落ちてる。

 でも、ヒトには珍しいのかもしれない。


「ほらみろコレ。星形の跡がついてるんだ。」

「わん!!」 

 でもま。ヒゲオジはスッゴク自慢げで、なんでかイヌまで盛り上がってて。

 どうしてかアタシまでウキウキしてきたので、これでいい気がする。


 何言ってんだか分んないけど、ヒゲオジが並べる石をアタシとイヌは楽しく眺めていた。


「おっと、忘れる所だった。キミにプレゼントがあったんだ。」

 ヒゲオジが服の内側から紙袋を取り出した。

 ヒトって不便だよね。自分の体にしまえないんだもん。


「少し冷めてしまったけど…キミには丁度いいかな?」

「!?」


 それは…!それはまさか…!

 

 棒だった。

 二股に分かれた棒。

 それも実付きの!!


「!!」「!!」

 アタシは体の中をポコポコさせながら釘付けになる。

 湯下たってるじゃん!!棒!!!


「これはキミの。こっちは俺とジェットの分だ。」

 ヒゲオジが一本、アタシの方へと棒を差し出す。

 

 まさかヒゲオジ・・・!アタシにくれるっていうの!?


「ほら。遠慮せずお食べ。右に刺さってるのがイモで。左が肉だ。」

「ヒゲオジスキ!!」

 差し出された棒に、震える手を伸ばす。

 

「キミには熱いかもしれないから、気をつけてな。」

 何言ってんだかわかんないけど。

 この素敵で優しい生き物はなんだ?汚いヒゲなのに。


 言葉も通じないスライムのアタシに、どうしてこんな優しくしてくれるのか。


「キミが食べないと、ジェットも食べられないよ?」

へっへっへ。

 イヌがよだれを垂らして、お座りしている。

 まってよイヌ。アタシにだってココロの準備ってもんがあるんだよ。


パクリ。

 口に含んだ瞬間。

 体内に美味しさが花開いた。

 

 花火ってやつかな?


「おいしい!!!」

 自然に目が閉じ、全身が震える。

 なんと神聖で、愛おしい食べ物だろう!

 これがヒトの作った食べ物!

 おいしい!


「はっはっは!言葉が通じなくてもわかるよ。おいしいだろう?俺の知り合いが作ってるんだぞ?今が稼ぎ時だ。」

 何言ってんだか分んないけど。大好きだよヒゲオジ!あとでそのヒゲ洗ってあげるよ!

 

 夢中になって頬張り食べる。


バグバグモグモグ。

 今回の祭りはなんて最高なんだろう。


 綺麗に平らげた後に残るは、アタシが作りだした棒!


 こんなことってあっていいのだろうか?


「気持ちい喰いっぷりだ。」

 ヒゲオジとイヌも一緒に食べた。

 こんな美味しいご飯は始めてだ。

 自分で棒まで作り出してしまった。


「…。」

「この串かい?こんなゴ――。…良かったら貰ってくれるか?」

 ヒゲオジの手にする棒をみていたら、アタシにくれた。

 ヒゲオジ本当にいい奴だ。


ヒュルルルル。

 そんな幸せな時。

 風を切る音が空を駆けた。


パァーン。

 輝く花だ。あの花が咲き始めたんだ。

 ヒトが祝い、楽しむ花。


「!!」

 アタシは慌てて池に飛び込む。

 あの花は続けて花開く。

 

 やっぱり見るなら水中からじゃなくちゃ。


「ヒゲオジ!!イヌ!おいでよ!!」

 何言ってんだか分んないだろうけど、バチャバチャ水面を叩いて、池へと招く。


「なんだ?来いってか??」

 戸惑いながら、身を乗り出すヒゲオジ。

 

 早く早く。五輪ぐらいしか咲かないんだから。


「しかしな…綺麗な池をよごしてしまうぞ?」

「そんなのいいから!一緒に見ようよ!アタシがあとで綺麗にするって!!」

 何言ってんだかわかった気がした。

 気にするなってヒゲオジ。

 

「わかった。わかった。…あとで怒るなよ?」

 アタシの急かしように押されてか、ヒゲオジとイヌが向き合って頷く。


バシャン!

 小さな池に大きな波紋が波うつ。


 アタシとヒゲオジとイヌ。

 言葉の通じない生き物が、仲良く水中に肩を並べる。

 水の生き物はアタシだけなのに。


ヒュルルルル。

 2つ目の空気を裂く音。


チャポン。

 アタシが浅く潜ると、ヒゲオジとイヌも続いた。


バァーン。

 見上げると色とりどりの輝く光。

 水に反射して、まとまりなく散らかり広がる。


 くぐもった音と振動が、水づたいで全身に響く。



 いままで。独り占めしてきた光景。

 いままで。分かち合えなかった景色。


 汚いヒゲのヒトと毛が抜けるイヌ。それにぼっちのスライム。

 こんな瞬間が訪れるなんて、なんて不思議で素敵なのだろう。


ザパァァン!

「なんと…!水中からはこう見えるわけか!!」

 息継ぎも忘れて、ヒゲオジが興奮気味に声をだす。


「美しい!これは酒が飲みたくなるな!!」

「わう~ん!」

「でしょでしょ!!」

 嬉しい。

 何言ってんだか分んないけど。同じ気持ちなことは分かる。



「倒木にあった時はなんてついてない人生だと思ったもんだが…たった1日でひっくり返るとはな…。わからんもんだ。」

「…?」

 力を抜いて、池に浮かぶヒゲオジ。

 何言ってんだかわかんないって。

 次の花咲いちゃうよ?


「キミのおかげだ。ありがとうな。」

 でた。アタシの好きな響きのヤツだ。最後のヤツ。


「…あり?んがと?」

「はっはっは!すごいなキミは!そうだよ。ありがとうだ。」

 

 アタシはヒトが好きだ。

 頑張れば意思が通じることがある。

 ヒドイ目にあわされたこともあるけど、それはヒトだからじゃない。


ヒュゥウウ~。パァアアン。


 次の花火が空に広がった。

 地上で見たのは久しぶりだ、この輝きもまた美しい。



 スライム全部が嫌いじゃないのと一緒で、ヒト全部は好きになれないだろうけど、できれば沢山仲良くしたい。

 

 たぶんこの時。アタシはそう思ったんだ。



     *


「抱かせろ!!!」

 やかましい言い争いに目が覚める。

 いわゆる。いつものヤツだ。

 タチにナナ。ユニコーン。

 最近はナビ様まで積極的に関わろうとしている。

 


 こんな高い空の上からだと、花火はどうみえるのじゃろう?

 寝起きの頭によぎった思考で、懐かしい夢をみていたコトを思い出す。


 あれから何度かヒゲオジと花火をみた。

 わらわがただのスライムだった頃。まだ若く。まだ青い。300年も前の話。


 火の化身と水の化身。二人が喧嘩して、水の大陸を大波が襲うその時まで。

  

(いつからこんなしゃべりになったんじゃったかの…。) 

 理由は覚えている。威厳が欲しかった。

 先代に授かった、この力にふさわしい姿になるために。

 今度は大切なモノを護れるようにと…。背伸びをして。

 

 それがなぜか、光の化身に歯向かい、争おうとしている。

 

 今のわらわなら、きっとおぬしを護れたじゃろうな…。

 夢を見るといつも思ってしまう。けど、そんなに引きずられはしない。なにせ、昔の事だ。


 時の流れとは、大波よりも残酷に全てを流す。

 

 (それでもわらわは…正しく居たいと思うよ。水の大陸を…アルケー湖のみんなを…友を護れるようにと…。)

 高い高い空の上なのに、なぜか、花開く音が聞こえた気がした。

 

 くぐもってくぐもって、水中で全身に響くあの懐かしい音が。



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