次の日の夜。
なんと祭りが始まった。
いつも通りに賑やかで楽しそう。
アタシはヒトからもスライムからも離れた秘密の場所で、祭りの音と空を楽しんでいた。
ヒトが疲れて静かになったら、新たな棒を探しに行こう。
いつも思う。アタシがヒトだったら毎日全てに感謝して、毎日祭りにするんだけどな。
だってその方が絶対楽しい。賑やかで。騒がしくて。寂しくなくて。
美味しいモノだっていつでも食べれて、棒だって手に入る。
踊って、しゃべって、笑って…。
なんでそうしないのだろう?スライムのアタシには理解できない。
「スライムちゃん。」
ビク!!
突然のしゃがれた声に体が跳ねて広がった。
振り向くとそこにヒゲオジがいた。あとイヌも。
…なんで??
「約束しただろう?俺のコレクションをみせるって。」
何言ってんだか分んないけど、肩に掛けたカバンをパンパン叩いてる。
ヒゲオジがアタシの横に来て、カバンの中からナニかを取り出した。
「ほらこれ。丸いだろ?」
「…」
なにこれ?石じゃん。
ヒゲオジは嬉しそうに丸い石を次々引っ張り出して、均等に並べる。
「さすがに全部はもってこれなかったんだけどな。家には、こ~んなでっかくて真ん丸の石もあるんだぞ?」
「…」
たぶん、きっと。
アタシが宝を見せたから、そのお返しに持ってきてくれたんだろう。
悪いけどこんなただの丸い石、あっちこっちに落ちてる。
でも、ヒトには珍しいのかもしれない。
「ほらみろコレ。星形の跡がついてるんだ。」
「わん!!」
でもま。ヒゲオジはスッゴク自慢げで、なんでかイヌまで盛り上がってて。
どうしてかアタシまでウキウキしてきたので、これでいい気がする。
何言ってんだか分んないけど、ヒゲオジが並べる石をアタシとイヌは楽しく眺めていた。
「おっと、忘れる所だった。キミにプレゼントがあったんだ。」
ヒゲオジが服の内側から紙袋を取り出した。
ヒトって不便だよね。自分の体にしまえないんだもん。
「少し冷めてしまったけど…キミには丁度いいかな?」
「!?」
それは…!それはまさか…!
棒だった。
二股に分かれた棒。
それも実付きの!!
「!!」「!!」
アタシは体の中をポコポコさせながら釘付けになる。
湯下たってるじゃん!!棒!!!
「これはキミの。こっちは俺とジェットの分だ。」
ヒゲオジが一本、アタシの方へと棒を差し出す。
まさかヒゲオジ・・・!アタシにくれるっていうの!?
「ほら。遠慮せずお食べ。右に刺さってるのがイモで。左が肉だ。」
「ヒゲオジスキ!!」
差し出された棒に、震える手を伸ばす。
「キミには熱いかもしれないから、気をつけてな。」
何言ってんだかわかんないけど。
この素敵で優しい生き物はなんだ?汚いヒゲなのに。
言葉も通じないスライムのアタシに、どうしてこんな優しくしてくれるのか。
「キミが食べないと、ジェットも食べられないよ?」
へっへっへ。
イヌがよだれを垂らして、お座りしている。
まってよイヌ。アタシにだってココロの準備ってもんがあるんだよ。
パクリ。
口に含んだ瞬間。
体内に美味しさが花開いた。
花火ってやつかな?
「おいしい!!!」
自然に目が閉じ、全身が震える。
なんと神聖で、愛おしい食べ物だろう!
これがヒトの作った食べ物!
おいしい!
「はっはっは!言葉が通じなくてもわかるよ。おいしいだろう?俺の知り合いが作ってるんだぞ?今が稼ぎ時だ。」
何言ってんだか分んないけど。大好きだよヒゲオジ!あとでそのヒゲ洗ってあげるよ!
夢中になって頬張り食べる。
バグバグモグモグ。
今回の祭りはなんて最高なんだろう。
綺麗に平らげた後に残るは、アタシが作りだした棒!
こんなことってあっていいのだろうか?
「気持ちい喰いっぷりだ。」
ヒゲオジとイヌも一緒に食べた。
こんな美味しいご飯は始めてだ。
自分で棒まで作り出してしまった。
「…。」
「この串かい?こんなゴ――。…良かったら貰ってくれるか?」
ヒゲオジの手にする棒をみていたら、アタシにくれた。
ヒゲオジ本当にいい奴だ。
ヒュルルルル。
そんな幸せな時。
風を切る音が空を駆けた。
パァーン。
輝く花だ。あの花が咲き始めたんだ。
ヒトが祝い、楽しむ花。
「!!」
アタシは慌てて池に飛び込む。
あの花は続けて花開く。
やっぱり見るなら水中からじゃなくちゃ。
「ヒゲオジ!!イヌ!おいでよ!!」
何言ってんだか分んないだろうけど、バチャバチャ水面を叩いて、池へと招く。
「なんだ?来いってか??」
戸惑いながら、身を乗り出すヒゲオジ。
早く早く。五輪ぐらいしか咲かないんだから。
「しかしな…綺麗な池をよごしてしまうぞ?」
「そんなのいいから!一緒に見ようよ!アタシがあとで綺麗にするって!!」
何言ってんだかわかった気がした。
気にするなってヒゲオジ。
「わかった。わかった。…あとで怒るなよ?」
アタシの急かしように押されてか、ヒゲオジとイヌが向き合って頷く。
バシャン!
小さな池に大きな波紋が波うつ。
アタシとヒゲオジとイヌ。
言葉の通じない生き物が、仲良く水中に肩を並べる。
水の生き物はアタシだけなのに。
ヒュルルルル。
2つ目の空気を裂く音。
チャポン。
アタシが浅く潜ると、ヒゲオジとイヌも続いた。
バァーン。
見上げると色とりどりの輝く光。
水に反射して、まとまりなく散らかり広がる。
くぐもった音と振動が、水づたいで全身に響く。
いままで。独り占めしてきた光景。
いままで。分かち合えなかった景色。
汚いヒゲのヒトと毛が抜けるイヌ。それにぼっちのスライム。
こんな瞬間が訪れるなんて、なんて不思議で素敵なのだろう。
ザパァァン!
「なんと…!水中からはこう見えるわけか!!」
息継ぎも忘れて、ヒゲオジが興奮気味に声をだす。
「美しい!これは酒が飲みたくなるな!!」
「わう~ん!」
「でしょでしょ!!」
嬉しい。
何言ってんだか分んないけど。同じ気持ちなことは分かる。
「倒木にあった時はなんてついてない人生だと思ったもんだが…たった1日でひっくり返るとはな…。わからんもんだ。」
「…?」
力を抜いて、池に浮かぶヒゲオジ。
何言ってんだかわかんないって。
次の花咲いちゃうよ?
「キミのおかげだ。ありがとうな。」
でた。アタシの好きな響きのヤツだ。最後のヤツ。
「…あり?んがと?」
「はっはっは!すごいなキミは!そうだよ。ありがとうだ。」
アタシはヒトが好きだ。
頑張れば意思が通じることがある。
ヒドイ目にあわされたこともあるけど、それはヒトだからじゃない。
ヒュゥウウ~。パァアアン。
次の花火が空に広がった。
地上で見たのは久しぶりだ、この輝きもまた美しい。
スライム全部が嫌いじゃないのと一緒で、ヒト全部は好きになれないだろうけど、できれば沢山仲良くしたい。
たぶんこの時。アタシはそう思ったんだ。
*
「抱かせろ!!!」
やかましい言い争いに目が覚める。
いわゆる。いつものヤツだ。
タチにナナ。ユニコーン。
最近はナビ様まで積極的に関わろうとしている。
こんな高い空の上からだと、花火はどうみえるのじゃろう?
寝起きの頭によぎった思考で、懐かしい夢をみていたコトを思い出す。
あれから何度かヒゲオジと花火をみた。
わらわがただのスライムだった頃。まだ若く。まだ青い。300年も前の話。
火の化身と水の化身。二人が喧嘩して、水の大陸を大波が襲うその時まで。
(いつからこんなしゃべりになったんじゃったかの…。)
理由は覚えている。威厳が欲しかった。
先代に授かった、この力にふさわしい姿になるために。
今度は大切なモノを護れるようにと…。背伸びをして。
それがなぜか、光の化身に歯向かい、争おうとしている。
今のわらわなら、きっとおぬしを護れたじゃろうな…。
夢を見るといつも思ってしまう。けど、そんなに引きずられはしない。なにせ、昔の事だ。
時の流れとは、大波よりも残酷に全てを流す。
(それでもわらわは…正しく居たいと思うよ。水の大陸を…アルケー湖のみんなを…友を護れるようにと…。)
高い高い空の上なのに、なぜか、花開く音が聞こえた気がした。
くぐもってくぐもって、水中で全身に響くあの懐かしい音が。
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