かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第十三話 行きたくないって、言ったのに。

公開日時: 2020年9月8日(火) 01:59
文字数:1,977

 ムネを…触られている。

 もういまさら感があるが、犯人はヤツである。


 アルケー湖の底深く。ズーミちゃんの部屋よりさらに下に眠る神殺しの剣。

 それを目の前にしている。


「狭いから仕方ないな。狭いからな。」

 しらじらしい色ボケがいう通り、確かに狭い。

 ズーミちゃんを挟んで私とタチの三人、一つの水玉に包まれ移動してきた。


「狭いからな。」

「繰り返すほど言い訳がましいからね?」

 何かとこじつけて触りたいだけなのは、湖を泳ぐお魚さんだってきっとわかっている。  


「わらわを挟んでいちゃつくな。…ほれ、これで貸し借り無しじゃよ。」

 土の化身を倒した借りがあるだろう?

 そう、タチがズーミちゃんに強引に迫り連れてこさせたのだ。

 

 かわいそうに…追い詰められてプルプルしていた。

 どうやら、ズーミちゃんは感情が大きく動くとプルプルするみたい。


「…黒いな。」

「…黒いね。」

 水底で横たわる、むき身の剣…柄も黒いが、その長い刃は真っ黒だ。

 にぎやかで色とりどりの湖の中、お魚さんが近寄ることもなく、石ころ一つ剣の周りにはない。


 砂、砂、砂、剣の周り十メートルほどはただ砂だけ。

 しかも剣の近くは砂まで黒ずんでいる。



「わらわは拒絶されてこれ以上近寄れん…だが人間ではこの水圧は耐えられんし、どうにもならんよ。」

 ズーミちゃんは言いながら少し震えている。

 

 わかる。見ているだけで悪寒が走る。

 怒り、憎しみ、恨み…負の感情が伝わるのだ…

 

 私への

 

「凄い鳥肌だな、大丈夫かナナ?」

 タチが私の顔色をうかがう。

「…早く戻ろう?ある事は確認できたんだし…一歩進んだでしょ?」

 この剣を作った人間たちの意志に当てられてしまい、気持ちが悪い…吐き出しそうだ。


「少し待ってろ」

 言ったと同時に、タチは私とズーミちゃんを押しのけ水玉の外に。


「ば…ばかもの!人間の耐えられる深さじゃ…!」


ごぽごぽごぽ。

 ズーミちゃんの心配をよそに、剣の方へと泳いでいくタチ。

 いくら体が頑丈だからと言って、危険な行動だ。


「何かあったらどうするつもりじゃアヤツ…」

「その時考えるんだと思うよ…その時にも考えないかもだけど。」

 同じ気持ちで二人して呆れる。


「「!」」

 三人全員が驚いた。神殺しの剣を手に取ろうと手を伸ばしたタチ。

 その手が黒く染まっていく。


「まずい!戻れ!呪われるぞ!」

 ズーミちゃんが叫んだ。

 意思ある存在の強い思い、それは意志ある者に影響を与える。

 心のこもった歌を聞いて涙してしまうように。


 憎しみや恨みだって、伝播《でんぱ》する。


 タチが口からゴポゴポと空気の泡を吐き出している。苦しいのだろうか?


「くっ…わらわでは近寄れん…ただの人間のナナでも…!」

 水玉の中に私を残し、助けに寄ろうとしたズーミちゃん。

 その体が剣の方に近づこうとするも、見えない壁にぶつかって跳ね返される。


 彼女は水の化身。神の眷属。

 剣にとっては、憎き神の仲間。


 私だって助けに向かいたいけど、例え水圧に耐える体をしていても、たぶん近寄れない。

 

 だってあの剣の恨みの張本人だから…。


「ズーミちゃん、タチがこっちに来てる!」

 ゴポゴポと空気の泡で顔を覆いながらも、私達の元へ帰ってくるタチ。

 あとちょっと、もうちょっとだから頑張って…!


「…あれ?なんか笑ってない?」

 近寄れば近寄るほど空気の泡の間からタチの顔がはっきり見えてくる。

 少なくとも苦しそうではない…

「爆笑しておるな…。」


ドパ!

 水の玉にただいましてきたタチ。

 大量に吐き出した空気を補充するため、荒く大きく息を吸う。


「凄いぞ!沢山の怨めしい気持ちが流れ込んできた!!」

 きらきら輝かせた瞳で言う事かな?

 黒く変色していた右手は普段の色にもどっている。


「勝手なことをするな!わらわは助けにいけんのだぞ!」

「はっはっは!心配してくれたのか、かわいい奴だな!」

 グリグリとズーミちゃんの頭をなでるタチ。

 玩具を見つけた子供みたいに、テンションが高い。


「しかし、私の意志の上を取ろうとは…身の程知らずめ…!」

「えっと…もう帰るよね?」

「決着をつけずに帰るわけないだろう!」

 拳を握り、やる気まんまんのタチさん。

 何か、凄い闘志に満ち溢れてる。


「私に根性勝負を挑む無謀さに笑ってしまったが、次はそうはいかん!」

 そういう笑だったんだ。さっきの。

 結構心配したんですけど?私。


「なに、二回戦目みたいにいっとるんじゃ!戻るぞ!」

 タチの無謀な行動に、プリプリ怒るズーミちゃん。

 また感情の動きとともに、体がぷるぷる震えてる。

 ゼリーみたいで美味しそう。

 

「次で仕留める。良い子で待っていろ。娘たち!」


ザプン!

 荒波に立ち向かう漁師ような言葉を置いて、再び剣へと向かうタチ。

 だめだ、完全に入り込んでいる。あの向こう見ず。


「あぁ!!バカ!バカ~!」

 水中で地団駄を踏むスライム。呆れかえる私。

 残された人ならざる二人の娘は、獲物を見つけ楽しそうにはしゃぐ父だか母だかを、ただ見送る事しかできなかった。

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