ピチョンの街について半日。
消耗品の補充と、馬車席の予約であっという間に時が過ぎた。
着いて始めに取った宿に戻ると、もう夜中。
「明日の朝にズーミちゃんを呼んで、お昼には馬車に――」
「…わざわざ二つとらなくてもいいだろうに…。」
今後の予定を確認する私と、二部屋取ったことをまだ不満がるタチ。
私の部屋で旅の荷造りをしている。
「タチと同じ部屋で寝るのは危ないからね。自己防衛。」
乾かした布を畳み終え、食料の整理を手伝う。
「金の無駄だ…いや、可愛い体の無駄使いだぞ!もったいない!口惜しい!」
「お金ならまだあるんでだいじょーぶです。ご心配どーも。」
お金は多少あるのだ、前回の人生で稼いだ分が。
前回、私は水の大陸南端、ウォタの村で調合師をやっていた。
ずっと引きこもって、お肌に良い液体やら、栄養価の高い錠剤やらを調合して生活していた。
作った品は大人気。みんなの喜ぶ姿やお礼の言葉が嬉しすぎて、ずっとずーっとお家で作業していた。
日に当たらない、運動しない毎日で、転生して十年たたずに不摂生で死んだ。
その時貯めこんだお金を、今回最初に手に入れてある。
人間の生活でお金って大事なの学んだからね!才も能も無いと特に。
「せっかく二人きりだというのに…初めてぐらいは純愛っぽくしてやれる最高の機会なのに…」
まだブツブツと物騒な事を口づさむタチ。作業が進んでないですよ?
「いいでしょ。ここまで三人仲良く夜を過ごしてきたんだから。」
安眠、快眠、タチ腕枕に、私とズーミちゃんはやられっぱなしだった。
スミナナ同盟敗北の歴史である。
「そういう和やかな幸せは私の本分ではない!刺激を!蹂躙を!」
「私とズーミちゃんはすっごいタチのこと好きになったよ?枕として。」
「快眠好感度があったところで、抱かせてくれないじゃないか!!」
勢いよく立ち上がり、わなわなと震える拳を握るタチ。
「そういうのは愛する人とするの!」
「愛しているぞナナ!!大好きだ!!抱きたい!!」
ガシッと両肩を上から捕まれる。
「勢いは認めるけど、綿あめより軽い言葉じゃダメです。」
ちょっとタチの扱いにもなれてきた。余り真剣に受け止めちゃいけないのだ。
どうせ会う女、会う男に、熱をぶつけ散らかしているんだから。
「えぇーーーい!!」
ペタンと床に座って荷物を詰めていた私を、タチが軽々と抱き上げる。
「ちょっと!?なにするの!?」
「しらん!!ふて寝だ!!」
ポンと私をベッドに投げ。タチもドカリと横に身を投げる。
「ふて寝って一人でするものでしょ!?」
「嫌だ!今度はお前が枕になれ!」
タチが横から包むように抱きついて、両腕が私の頭を、両足が私の腰を押さえつける。
抵抗できないほど強い拘束力だが、痛くも苦しくもないのが不思議なところ。
「まだ…明日の準備が…!」
「しらん。やらかい。ちいさい。かわいい。寝るぞ。」
沢山言いたい文句が、私の口から出る前に眠気がじんわりと体中に広がる。
疲れた体に久しぶりのふかふかベッド。
なんでか安心感のあるタチの二の腕。
顔に押し当てられた、けしからない胸からとってもいい匂いがする…。
だめだ…ここで負けたら…。
「愛しているぞ。」
頭を優しく一撫でされる。
(なんで…タチがこんな撫で方を…人間め…)
あたたかい。やわらかい。ここちよい。
抵抗しようとする気持ちすら、私の根っこから抜け落ちていた。
「ふぁっ!!」
目の前には、満足げにほほ笑むタチの笑顔。
当然。窓からはお天道様がのぞいていた。
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