かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第十九話 寝る!

公開日時: 2020年9月12日(土) 05:03
文字数:1,407

 ピチョンの街について半日。

 消耗品の補充と、馬車席の予約であっという間に時が過ぎた。

 着いて始めに取った宿に戻ると、もう夜中。


「明日の朝にズーミちゃんを呼んで、お昼には馬車に――」

「…わざわざ二つとらなくてもいいだろうに…。」

 今後の予定を確認する私と、二部屋取ったことをまだ不満がるタチ。

 私の部屋で旅の荷造りをしている。


「タチと同じ部屋で寝るのは危ないからね。自己防衛。」

 乾かした布を畳み終え、食料の整理を手伝う。

「金の無駄だ…いや、可愛い体の無駄使いだぞ!もったいない!口惜しい!」

「お金ならまだあるんでだいじょーぶです。ご心配どーも。」


 お金は多少あるのだ、前回の人生で稼いだ分が。

 前回、私は水の大陸南端、ウォタの村で調合師をやっていた。

 

 ずっと引きこもって、お肌に良い液体やら、栄養価の高い錠剤やらを調合して生活していた。 

 作った品は大人気。みんなの喜ぶ姿やお礼の言葉が嬉しすぎて、ずっとずーっとお家で作業していた。


 日に当たらない、運動しない毎日で、転生して十年たたずに不摂生で死んだ。

 

 その時貯めこんだお金を、今回最初に手に入れてある。

 人間の生活でお金って大事なの学んだからね!才も能も無いと特に。


「せっかく二人きりだというのに…初めてぐらいは純愛っぽくしてやれる最高の機会なのに…」

 まだブツブツと物騒な事を口づさむタチ。作業が進んでないですよ?


「いいでしょ。ここまで三人仲良く夜を過ごしてきたんだから。」

 安眠、快眠、タチ腕枕に、私とズーミちゃんはやられっぱなしだった。

 スミナナ同盟敗北の歴史である。


「そういう和やかな幸せは私の本分ではない!刺激を!蹂躙じゅうりんを!」

「私とズーミちゃんはすっごいタチのこと好きになったよ?枕として。」

「快眠好感度があったところで、抱かせてくれないじゃないか!!」

 勢いよく立ち上がり、わなわなと震える拳を握るタチ。


「そういうのは愛する人とするの!」

「愛しているぞナナ!!大好きだ!!抱きたい!!」

 ガシッと両肩を上から捕まれる。


「勢いは認めるけど、綿あめより軽い言葉じゃダメです。」

 ちょっとタチの扱いにもなれてきた。余り真剣に受け止めちゃいけないのだ。

 どうせ会う女、会う男に、熱をぶつけ散らかしているんだから。


「えぇーーーい!!」

 ペタンと床に座って荷物を詰めていた私を、タチが軽々と抱き上げる。


「ちょっと!?なにするの!?」

「しらん!!ふて寝だ!!」

 ポンと私をベッドに投げ。タチもドカリと横に身を投げる。


「ふて寝って一人でするものでしょ!?」

「嫌だ!今度はお前が枕になれ!」

 タチが横から包むように抱きついて、両腕が私の頭を、両足が私の腰を押さえつける。

 抵抗できないほど強い拘束力だが、痛くも苦しくもないのが不思議なところ。



「まだ…明日の準備が…!」

「しらん。やらかい。ちいさい。かわいい。寝るぞ。」

 沢山言いたい文句が、私の口から出る前に眠気がじんわりと体中に広がる。

 疲れた体に久しぶりのふかふかベッド。

 なんでか安心感のあるタチの二の腕。

 顔に押し当てられた、けしからない胸からとってもいい匂いがする…。


 だめだ…ここで負けたら…。


「愛しているぞ。」

 頭を優しく一撫でされる。

(なんで…タチがこんな撫で方を…人間め…)


 あたたかい。やわらかい。ここちよい。

 抵抗しようとする気持ちすら、私の根っこから抜け落ちていた。



「ふぁっ!!」

 目の前には、満足げにほほ笑むタチの笑顔。


 当然。窓からはお天道様がのぞいていた。


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