かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第十七話 ユニちゃん。

公開日時: 2020年9月10日(木) 18:46
文字数:1,685


「これが…ユニコーン!!!」

 わき腹を角で突かれたであろうタチが大喜びしている。

 裸の時にそんな足ひろげちゃダメだよ…一応女の子なんだから。


「どうしたの?迷子かな?」

 見た目のちんまりした感じで、子供に話す口調になってしまう。

 詳しくはしらないけど、清らかな湖に生息するはずだ。なんで川に?


「…」

 じーっとこっちを、いや、タチを睨みつけている。

 可愛い顔に不釣り合いな表情で。


「私の生涯で、出会えるとは思わなかったぞ…!」

 いつも通り気さくに手を伸ばし、ユニコーンの頭を撫でようとするタチ。

 しかしヒョイッと、かわされてしまう。


 そのまま私の太ももにひっつくユニちゃん。…なつかれた?

 嫌悪感や不快感は一切ない、さすが清純の象徴。


「大丈夫だよ。怖いかもだけど、そこまで悪い人じゃないからね。…たぶん。」

 子供をあやすように声をかける。


ニコッ。


 ユニちゃんが私の方を見上げて笑顔をみせる。

 …可愛い。これが彼女の自然な表情なのだろう。


「そうか…ユニコーンに会うには処女を水に投げ込めば良かったのだな…。」

 はだか仁王立ちで腕を組み、人間とは思えない発言をする不純の塊りタチ。

 


「そういう思想だから睨まれるんだよ…。」

「精神の問題じゃなく百戦錬磨のこの体が――ぐはっ!」

 ユニちゃんが再びタチに体当たりをする。

 尖った角が痛そうだ。


「なにが気に食わんのだ…!」

 わき腹を押さえながらうめくタチ。

「たぶん、私に触ろうとしたからじゃない?」

 私にひっつくユニちゃんに対抗心を燃やし、タチもくっつこうとした所迎撃された。


「ナナを抱きしめて何が悪い!この厄介処女狂いめ!」

「…!」

 無言で威嚇するように睨みつけるユニちゃん。

 バチバチと二人の間に火花が散る。


「お前も抱かせろ!!」

 睨み合いのすえ、出た結論が性欲なタチさん。


 …困ったなとりあえず、服が着たいんだけど。裸に布一枚じゃ居心地が悪い。


「帰らんと思ったら、珍しい子がいるの。」

 うにょうにょと川をすべるようにズーミちゃんが現れた。

 忘れてた!私エサだったんだ。

 

 作戦は成功したのだろうか?


「ズーミこのかわいいの、どうしたら手なずけられる!」

 意地でも頭を撫でたいのか、両手をニギニギと構えているタチ。


「お主にはぜーーったい無理じゃよ。貞操観念が壊滅しとるからの!」


ぱちゃぱちゃ!

 ズーミちゃんとタチが口論を始めると、ユニちゃんは川の流れにそって逃げてしまった。


「待て!せめて一撫で…!」

「ふむ。わらわの化身の力に驚いてしまったようじゃな。」

 ズーミちゃんの周りの水が、ギュポギュポと彼女の体内に吸われている。

 口惜しそうに、ユニちゃんの背中を見送るタチ。

 

(ねぇねぇ。剣は処理できたの…?)

(ササッとじゃが、木の上に引っ掛けて隠した。高い位置じゃし見つからんじゃろう。)

「抱きたい!!!」

 拳を川に突き立て、大暴れするタチの裏で

 ズミナナ同盟はのヒソヒソと密談するのだった。



   *   *   *   *   *


「ん?」

 川を出て、私が乾いたふかふかの布で体をふいてる最中。

 タチは下着を履いている途中で、剣がないコトにきづいた。


「あいつ、どこにいった?」

 下着姿でキョロキョロと当たりを見渡す。

 私は後ろめたい気持ちで、タチから顔をそらしてしまう。


「どどど…どこじゃろうな…」

 ズーミちゃんも同じ気持ちだろう、やってることは悪いコト。

 まして、真面目そうな彼女には荷が重い。


 嘘も下手だし。


「まったく世話を焼かせる奴だ…」

 すぅっと息を吸い、キッと気を張るタチ。

 

 凄い気迫だ。


「…!」

 なんだろうこの感覚、…恐怖?


「少し離れているな。」

 下着にブーツだけはいて、トコトコと木々の中へと歩いていくタチ。


(ねぇ。あっちって…。)

(わらわが、剣を隠した方じゃ…!)


 

ドン!


 タチの向かった方で、大きな打撃音がして、鳥がバサバサと飛び立つ。

 この鈍い音…木を殴った?


「ひっ!」

 戻って来たタチの手には、黒々とした剣…神殺しが握られていた。


 道中ずっと大人しく灰色だったのに、先ほどのタチの気配に反応したのだろう。

 真っ黒に染まっている。


 だめだ…この禍々しさ、鳥肌が収まらない。


 良い所まで行きはしたが、三日目もズミナナ組の作戦は残念な結果に終わったのである。

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