かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第六十六話 タチの剣。

公開日時: 2022年12月10日(土) 17:39
文字数:3,790

「産まれた時から副産物。光を作った道理で「出来てしまった」だけの存在――そりゃ全てを憎んで恨んだって不思議はないだろう?」

 影の化身ヤウが表れてから、場の空気は一変した。

 圧倒的な力で場を支配していたイトラの輝きがくすぶり、空も厚く黒い雲が覆う。


「やっとコイツがオレの所まで降りて、遊んでくれてんだ。楽しみをすぐに奪おうとするなよ」

 ヤウは、イトラと向かい合っているが、けっして私の味方ではなかった。

 

「地水火風の化身と違い、あなたならこの地上以外が視えているでしょう。神の消えた世界の現状が」

「当然だ。だが解釈が違う。神はここにいる、馬鹿で愚かで、自ら降りて来たうつけ者がな」

 イトラとヤウが、互いの力を伺うように言葉を交わす。

「そんなもの神ではない。」

「違うね。元々大したもんじゃなかったってだけだ。だってのに、テメーが神の代わりを気取ってふんぞり返るのは許せねぇ」

「力ある者の役目です」

「つぇーから好き勝手しますって言えや」

「あなたの同じ品性にしないで頂きたい」


バチバチバチ!!

 二人が言葉をぶつけるたびに、黒い雲から稲妻が落ちた。

 決して交わらぬ、関係を物語る様に。


「そもそものデキ違うんだろ。お前らは「願い」や「信仰」で地上に干渉してきた。オレは「妬み」「嫉み」で飯を食う」

「そうなったのは、あなたが選んだからでしょう。」

「そうさ。俺は自ら選んでこうなった。立派だろう?俺は人を恐れで煽り、魔物を産む。お前らは道徳で導き、信者を作る」

 私達より遥かに力の強い者たちのやりとりに、元神である私は口をはさめずにいる。

 

「人などという、出来損ないの生命……生み出なければ良かったのだ」

「それを俺に言うのかよ」

 大きく一つ。音もなく輝く稲妻が二人の間に線を引く。


「おい。悪魔。味方につくで良いんだな?」

 身もふたもない言葉で、タチがヤウに問いかける。

「相変わらず意気が良いな。オレはお前と同じ、血や暴力が暗いものが好物なんだよ」

「一緒にするな。根暗なヤツも確かに好きだが、元気で明るいモノだって美味しく食べる。ナナとかな」

 口元の血を拭わずに、タチは私を引き寄せてキスをした。


「わかった、わかった。お前は雑食だったな。……だが調子にのるとまとめてぶち殺すぞ」

「ま…まって!えっと……初めましてというか、久しぶり…?というか???」

 ヤウとタチの間にまで、ひりついた空気が流れ始めたのを感じ、慌てて私は口をはさむ。


「まぁ……今のアンタじゃ覚えてないだろうな。なにせ、遥か昔に別れた存在だ。安心しろよ、あんたも気に食わなねーが、イトラに統治されるのは尊厳に関わる」

「えっと……それはありがたいんだけど、もし、ヤウがイトラと力を合わせてどうにかできるなら――」

「わきまえろよ。元に戻る事なんで二度とねーんだ。あんたが神をやめたその時から。今のアンタには俺たちみたいに視るコトも、知るコトも、まして救うコトなんてできねーんだ。黙って状況の中で足掻いてろ」

「…」

 ヤウの言葉が私の胸に突き刺さる。



「構いません。今この場で、全員粛清しましょう」

「テメーだってオレと同じ「程度」だって思い知れよ!」

 パチン。ヤウが指を鳴らすと、タチの背中にも黒い羽根が生える。

 ヤウの手には黒い大鎌。それが彼の武器なのだろう。


「こっちの都合だ、羽はタダで力を貸してやる」

「礼は言わん!」

 ヤウが加わり、全力jの二回戦が始まった。

 

 ――白と黒。

 空間がちぎれるような、衝突が起きる。


「世界が一つだった頃――調和のとれた美しい世界!それが戻らぬとしても、変わり果てる前に終わらせる!」

「乱れて、壊れて、ごちゃつけばいいんだよ!!」

 ヤウが大きく鎌で薙ぎると、空が千切れ、血のような赤い飛沫が上がる。

 飛び散った赤が地面におちると、その場の土も、草も赤色に染まった。


「地上でふる技ではなかろう!」

 イトラが輝く翼をはためかせると、開いた空が繋がり、色が戻る。

 二人の攻撃は、世界の形を変える強さを持っていた。


パキン!

 間を抜くように、黒い影が高速でイトラに切りかかる。

「お前たちだけで決をきめるな!!」

 タチがヤウから借りた羽を使い、神殺しの剣を手にして二人の戦いに割って入った。

 だがその速度に、体がついてこられて無いようで、四肢のいたるところから、血飛沫が上がる。


「タチ!!!無茶だよ!!!」

 攻撃を仕掛けている側なのに、損傷が増えてるタチを見ていられなくて、私は声を荒げる。

「私は戦わなければならんのだ!!!ナナを否定するようなヤツを野放しにしない!!!この!私が!!!」

 人には無茶をするなと言うのに、自分は平気で無理をするタチ。

 羽のおかげで光と影の戦いについていけてはいるが、灰色の「神殺し」では攻撃を当てれていても、ダメージがない。


「どうした……!神殺し!」

「二度も言わせるな愚か者!ソレは神に向けられた増悪だ!!」

 イトラが神殺しの剣を掴み、力を込める。

 不協和音を奏でながら、灰色の刃にヒビが走った。


「ちがう!ちがうぞ!!迷っているだけだろう!お前らの憎しみは、かつての神などに向かうべき量じゃない!不条理に!理不尽に嘆いた情熱だ!!今更ナナなど斬って報わるものか!!私に続け!私に振るわせろ!!私に使われろ!!!迷うな!!」

 タチが吠え、握りを強めたその時。

 イトラの拳によって、灰色の刃は崩れ落ちたかのように見えた。


「何故だ!?」

 驚愕するイトラの拳は、光の泡になり消えてなくなる。

 

「そうだ……!それでいい!私と出会ったのだ!いつまでも神殺しでどうする!!」

 タチの握った神殺しの剣は、タチの流す血液と同じく、真っ赤な刀身に色変わりしていた。





「相変わらずでたらめな奴だな。腐った奴の扱いが上手い」

 戸惑うイトラの隙を見逃さず、ヤウは楽しそうに鎌で薙いだ。

 大量の光の泡が溢れて消える。


「調子に乗るな!!」

 イトラの体が大きく輝き、無数の光のつぶてがヤウの体に打ち込まれた。

 まともに浴びた攻撃で、ヤウの体に大量の穴が空く。

 だが、彼は笑っていた――今の状況が楽しくてたまらないかの様に。


「私はいつでも絶好調だ!!!ナナさえ居ればな!!」

 タチは神殺しの剣――いや、「タチの剣」を手にして、光り輝く化身と打ち合う。

 今しがた手に入れたばかりの、真っ黒な翼を広げて。

 重ねるたびに激しく、速くなる攻防を、何度も、何度も、見せつけるように。

 

 そんな白熱していく戦いを、私はただ見守っている。

 一人の人間として。


「ナナ……歯がゆかろうが、そんな顔で居ちゃいかんよ。人になれたことを喜べたお主が」

 私の横には、いつのまにかズーミちゃんが寄り添っていた。

 気付かぬうちに震えていた、私の手を握りしめて……


「ほれ。これを貸してやる。力の使い方はできとるようじゃしな」

 そう言ったズーミちゃんが両手を重ね、体を通して青い光を送り込んできた。


 源の力。

 ズーミちゃんに残された、残りのもう一つだ。


「ズーミちゃん?」 

「その力を使って混じってこい」

 ポンと、背中を叩かれた。

 優しく、気づかいのある。でも力強い「友」の後押し。 


「そうですね。せっかく私達に興味を持ってくださったのです。あなたの意志が見ていたい」

 ひとつの優しい風と共に、ナビが現れズーミちゃんに続いて私の手を取った。

 体を通して流れて来たモノは、同じく源の力。

 

 かつては同じはずだった、今やまったくもって違う「色」をした、化身の化身たる所以ゆえん


「ナビまで……!」

「元より、私とズーミは争い向きではありません。あの次元までいった戦いでは、個々に力を発揮しても影響力が弱すぎます」

 ナビは、ぶつかりあうたび世界を揺らす戦いを、遠い出来事のように見上げる。

 地水火風よりもっと前に存在した、光と影の戦い。

 それに加わるには「力」が必要だ。二人はその権利を私に渡してくれた。


「おぬしなら、二つの源も扱えよう。ちゃんと返せよ?わらわだって死ぬつもりはないからの」

 「返せというより、また貸せかの?」そう言ったズーミちゃんの柔らかい笑顔で、ちょっぴりだけ涙か浮かんでしまった。

 

「うん!!絶対に返す!……ありがとう」

 私の体の中に返った二つの源。

 青の色が付いた源が二つ。右の手に留まり。

 緑の色が付いた源が一つ。左の手に宿った。

 

 二つとも優しい――と、感じる。

 

 確かに元をたどれば私の与えたモノだろうけど、もうとっくに彼女達の一部になっている。

 三十伍憶年前ぐらいに生み出され、それぞれが見守り、育んだ大陸と共に変化した化身。 


 まったく違う色のついた源が、――青と緑が、互いを尊重し傷付けぬように私の中で融和する。


 二つの色が互いの積み重ねに敬意を示し、私の体に気遣って「座り位置」を決めた時――


 私の体に変化が起きた。

 

「私とズーミからの影響ですね。なんか少し感動しちゃいます」

 ナビが微笑みながら、私の髪を一束すくう。

 少し伸びた、左側の緑色の髪を。

 

「おいしい「もちもち」を一緒に食おうな。アルケーに戻る頃にはきっと、新商品も並んでおるさ」

 行ってこい。っとズーミちゃんが髪を揺らす。

 私の右側と同じ、青色の髪を。


「うん!!もちもちだ!!!」

 受け取った絶大な力が、身にまとっていたユニちゃんの服を破き、新たな服を作り出し体を覆う。

 

 ズーミちゃんの体と同じ、プニプニとした感触の青い衣裳。

 ナビの様に、自由に空を舞うための羽を背に生やし。


 少し伸び、青と緑の二色になった髪を広げ、愛するタチを助けるために飛び立った。 



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