青い空!青い海!青い私!
同じ青でも一つだけ、爽快さと真逆のイメージを抱かせる。
「う…うぅ…。」
湧き上がる吐き気との格闘は、まだまだ終わる気配が見えない…。
眩しい太陽も、羽ばたく鳥も、元気の象徴のように輝いてるけど、足元の私は絶不調である。
船酔いで。
ズーミちゃんと泣いて抱き合い、別れを惜しんだのは先日…。
ピチョン港をでた船は、ずっと、ず~っと波に揺られている。
当然なんだけど、それが私をこんなにも苦しめるとは…。
「初めの元気が嘘のようだな。」
タチが冷たい飲み物を手に戻り、私の頬に当ててくれた。
「う゛ぅうー…、きもちいぃ…。」
ひんやりとした木のコップが、私の吐き気を少し押さえてくれる。
「その様子だと慣れるまで、三日四日は掛かりそうだな。」
「み゛っが…よ゛っが…!」
今の私にとってあまりにも遠い時の果て…。
いつ吐いてもいいように、甲板で座り込んでいた私の未来は闇に包まれた。
ホジマリン号。
大きな船は、百人近い人間と、大量の荷物を運んでいる。
その中で、一番重い荷物は私に違いない。
気持ち的に。
「旅を楽しむ事にしたとたん…これとはな。」
「や゛めて…かなしぐなる゛…。」
船に乗った直後、私はタチに宣言した。
この十日程を予定している船旅。ズーミちゃんと別れた寂しさに負けず、全力で楽しもう…と。
涙さんとお別れするための意気込みだったのに、私は今もまだ涙目のままだ。
「俺が介抱してやろうか?じょーちゃんよ。」
ぐっへっへ。と上半身裸のおにーちゃんが話しかけてくる。
確かに海の上、特に甲板上は暑いけど…。どこか他所で披露してくれないだろうか?
今、面倒をあしらう元気が売り切れ中なのに…。
「悪いな。ナナは私の女だ。苦しむ可愛いナナを楽しむのは私だけだ。」
おにーちゃんの視線を遮るように、立ちふさがるタチ。
この時ばかりは、タチの彼氏面がこの上なく頼もしい。
なんか、余計な一言があった気もするけど…。
「女二人じゃよ。何かと不便だろ?あぶねー目にも合うだろうし、慰め合うにも足りねーだろうしなぁ?」
げっへっへ。と目つきも息遣いまでも鬱陶しい…。
このままじゃ、私の気分はどんどん悪くなる。
後は頼んだ…タチ。
「私はとびきり強い。夜も、昼もな。お前などいらん。」
「確かに…夜に強そうなチチをしてやがる。」
むっへっへ。と引く気はない様子のおにーちゃん。
やめておけばいいのに…。
「竿役なら私一人で十分だ、気が向いたら抱いてやるから、今すぐ消えろ。」
「女のクセに舐めた口きくじゃねーか。船の上じゃ逃げ場はねーんだぜ?」
意味ありげに、腰に差したナイフを一撫でする男。
逃げ場がないのはそっちだと思うけど…。長い船旅、さっそく暴力沙汰は私たちも困る。
…私´が´困る。
「男だろうと女だろうと、お前程度で私が受けれると思うな。…抱くぞ?」
「楽しみだぜ…!」
うぅ…やめてよ。変な想像しちゃうから…。
男がナイフを構え、結果の見えた勝負が、いま始まろうとしている…。
騒いでほしくない、私の横で。
ひんやしりた飲み物で、少し引いてきた吐き気がぶり返してしまう。
耐えがたい気持ち悪さに、ひえひえの飲み物を一口。グビリと喉に流し込んだ。
「う゛っ…!これ…おさけ…?」
船酔いで感覚が死んでいてもさすがにわかる。
これはブドウ酒だ。
「あぁ。魔法使いが乗り合わせていてな、たっぷり冷やしてもらった。美味しいだろう?」
いや、そういう事じゃなくて…。私…お酒…。
波の揺れよりも大きく、足元が歪み、世界が回り始める。
万物は流転し。
ただ、時の流れの中、密度を持って錨を降ろし触れ合うことがデキタカラニワ…。
思考が混濁し、意識が変性する…。
バタリ
「ナナ!?」
「おさけ…むり…。」
タチが駆け寄り、私を抱え起こす。
見上げた空も雲も、ぐわんぐわんと踊り狂う。
私の脳みそも意識も。ぐわんぐわん。伸びたり、縮んだり。
その度に痛みも、もたらす…。ぐわんぐわん。
地上を照らすんだい!と言わんばかりの太陽様が、熱く、眩しく、私だけを焼き焦がす。
「あつい…あつい…」
たえられない。もうむり。中からも、外からも焼かれている。
自分のはく息さえ熱い液体のようだ。
「すまない。気晴らしには良いと思ったのだが…。」
タチがめずらしく、どうようしている。へんなの。
笑えてきた。
手袋と靴をもどかしく脱ぎ捨てる。
汗でびちょびちょになった服も早くぬぎたい…。
「いいねぇストリップか!いくら払えば――。ぐふぁ!!」
私を抱きかかえていたタチの手が、男の腹にめり込む。
手首から先が見えなくなるぐらい。
とてもいたそう。
「ふぇっ…ふぇっ…ふぇ~。」
笑えてくる笑えてくる。
そのまま放って置いたら、タチの手は男の内臓になるのだろうか?
男が口から食べたものを、タチの手が消化するんだ。
「誰もみるな!!…このえっちなナナは私のだ!!!」
タチはやっぱりつよいんだなー。
こんな大きな声で、船中にいかくしている。けものみたい。
もう、だめだ。脳みそが回らない。これもにんげん。これがにんげん?
「続きは部屋で二人きりでな…!なっ!!」
最後に聞こえたいつも通りのタチの声、私はプツリと意識を失った。
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