かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第六十四話 ブチかまし。

公開日時: 2022年1月3日(月) 12:34
文字数:3,051

 水の剣が美しい弧を描き、土の巨人ダッドの顔へと吸い込まれる。

 

 少しずつ少しずつ。 

 寄っては離れ、空を舞うタチが攻撃を繰り返していた。


「さすが。としか言えませんね。この様に自由に動き回れるのは。」

 タチの足に、風の力を宿らせたナビは援護しながら賛辞を贈る。


「初めてでもないからな。」

「とはいえ、私を味方にしてからたった数度の体験です。」

「私は風の大陸出だ。きっと相性がいいのだろう。」

「嬉しいお言葉です。」

 宙を跳ねる剣士と空を泳ぐ化身。

 2人の戦う姿は、洗練されてとても美しい光景だった。



「「「うぉぉおおおぉおお!!!」」」

 

 そんな上品な空の下で、泥臭い雄たけびを上げる3匹の青い影が、ばく進していた。 


「…なんだ?」

「水の玉…ですね。」

 タチとナビが眼下に目をやると、大きな水の玉が1つ、凄まじい勢いでダッドの顔へと転がっていた。

 迎撃のために撃ち込まれる土塊を弾き飛ばしながら。


「まったく…大人しくしてればいいのに。あいつら。」

「言葉と裏腹に嬉しそうですよ?タチさん。」

「だろうな。心配も喜びもどちらも本位だ。」



     *       *       *    



「今更じゃがのっ…!もうちっと近くから走るんでも良かったんじゃいのかっ!?」

「い…勢いがないとっ――だもんっ!!」

「!!!」(ユニちゃん)


 水の玉の中を全力疾走する私達3人。

 分厚い水の壁を頼りに「体当たりをしてやろう作戦」をただいま実行中だ。



「こうしてっ…協力してると思い出すねっ…!2人で計画ねってた頃っ!!」

「神殺しの剣奪いか…!!なつかしいのっ…!!」

「うん!!」

 かつて、私とズーミちゃんはタチから剣を奪うため2人で手を組み行動していた。

 アルケー湖から港までの道中、コソコソ隠れてお話したり、計画を練ったり…。


「全部失敗したがのっ…!!!」

「それはっ…タチが強すぎたから!ほら見て!今もお空で…かっこいいし!!」

 全力疾走しながらのおしゃべりなど、無駄な体力消費にしか思えないだろうけど、お話している方が気がまぎれるのだ。

 しかもなんだか楽しい気分になってくる。


 青い壁の向こうに見えるのは、空を舞う二人。

 

 あんなカッコイイ戦いに、後れを取るわけにはいかない。

 私だって…私達だって、戦力なんだから。


「おぬしっ…!ちっと離れている間に「スキスキ」になりすぎじゃろうっ…!」

「だって…好きになっちゃったんだもんっ!!」

「あやつっ…ただの変態じゃぞっ!?」

「!!!」(ユニちゃんの同意と小さな歯ぎしり音)

 確かに、タチと合流してからというもの、私はべったりだし。

 確かに、タチはただの所じゃない変態だけど…。


「…うぉおおおおおお!!!!」

「叫んでごまかしとるじゃろぉっ!!!」

 全力。全力疾走である。

 いつまでもお荷物は嫌なのだ。

 

 大好きな人の、役に立ちたいのだ。


「病は気からッ!!!」

「使いどころ間違っとるしっ!恋の病は別腹じゃしっ!!」

「!!!」(ユニちゃん。困惑。)

 突っ込みを入れつつも付き合って全力疾走してくれる2人。

 ダッドへの「ブチかまし」まではあと少し。


「「「うおぉぉおおおお!!!!」」」

 共にもう一度、声を張り上げる。

 私はとても良い仲間に恵まれた。


バシャッ!!

 

「ぐっご!?」

 回転する水の玉がぶつかり、弾けた。

 体当たりは成功。ダッドの顔はのけぞり、その大きな体ごと傾く。

 

 効果あり。

 

 私達も、厚い水の壁に囲まれていたとはいえ、ぶつかった時の衝撃は激しく尻もちをついた。


「やった!!!」

「まさかじゃの!!」

「!!」(ユニちゃん喜び)

 汗だくの努力が実を結んだ・・・!

 目に見えた成果に、3人は自然と喜びの抱擁をする。


 ちょっとは役に立てたはずだ、空の上のカッコイイ二人の。


「フフフ。楽しい子たちですね。」

「だろう?私の自慢の女だ。」

 私達の攻撃で手を止めていた上空の2人が、こちらへ手を振る。

 私も喜んで振り返すと、ゆっくり傾き続けていたダッドが停止した。

 

「止まったの…。」

 ズーミちゃんの言う通り。

 斜めで静止したダッドは、攻撃も迎撃もやめ大人しくなってしまった。

 さすがに、今の一撃で倒しきれるとは思っていないが。どうも様子がおかしい。



ボコボコボコ!

 

 私達の立つ地面、ダッドの体中から土塊が盛り上がった。

 それは1つずつ切り離され、人型に形を変える。


「…第二形態か。」

 慌てた様子もなく、タチが私達のそばに降り立つ。

「あまりにも大きすぎましたからね。私達と戦うに適していません。」

 続けて寄った風の化身ナビも、冷静に状況を判断し言葉にする。


「なるほど…。どでかい状態で暴れ、空を来るであろう、わらわ達の「おびき寄せ」と「捕捉《ほそく》」をしたわけじゃの。」

「…なるほど!」

 納得のズーミちゃんと、とりあえず同意しておく私。

 だって、戦いの事とかよくわからないんだもん。


「ここからは物量作戦というわけだ。」

 タチが言いながら、腰のもう一刀。神殺しの剣を抜く。

 その動作が終わるよりも先に、出来上がった「土人形」達は走り出した。


「ナビ!いつも通り私と手分けだ!離れるぞ!」

「はい。」

 タチとナビ。2人は私達3人を挟み込むように、素早く位置取る。

 私の居なかった2カ月。その間も彼女たちはこうしてダッドと戦っていたのが良くわかる。


「ナナ。おぬし余り離れるなよ。わらわがフォローする。」

「わかった…!足引っ張らないように気を付ける!」

 ズーミちゃんの指示にうなずき、周りを見る。

 押し寄せる土人形を次々切り伏せるタチ、風を使い吹き飛ばすナビ。

 

 2人の間をこぼれてせまる残りを、私、ズーミちゃん、ユニちゃんで相手する。

 中でも一番戦力として低いのが私。


「えいやっ!」

 源の力「水」を込めた拳で、近寄る土人形を殴りつける。

 どうにか戦うことは出来そうだけど、一体倒すにも苦労。

 

 出過ぎないよう注意をしつつの戦い。

 危ない所はズーミちゃんが手を伸ばしたり、体を伸ばしたりして手助けしてくれる。


 そんな私の補助付き戦闘とは真逆で、意外に強いのがユニちゃん。

 日頃のたまったうっぷんを発散するかのように、角を土人形に刺し、体をねじってなぎ倒す。

 

 ボコボコ湧いて出る土人形を、ばったばったと倒していると、地面が徐々に削れていきダッドの体積が減っていく。

 

 何十体も何百体も倒してるけど、下を見れば地上はまだ遠い。

 ダッドの余力はまだまだあるだろう。

 

「はぁ…。はぁ…。一番役に立ってない私が…。一番疲れているという…残念な事実。」

「無理をするなよナナ。」

「うん。気を使わせてごめんね。ズーミちゃん。」

 拭っても拭っても額から汗が流れ落ちる。


 小さな体、少ない体力…今までで一番戦闘に向かないと思っていたが、思いがけないことも1つあった。

 ズーミちゃんから返してもらった源の力。

 

 始めて使ったのは前のナナ。

 ポチ君との戦で使用した時は、激しく消耗しすぐに体調を崩した。

 でも、今回は持続的に戦えている。

 

 たぶん、産まれた頃から備わっていたからかな?

 ユニちゃんの前で目覚めた時、この肉体よりも「源の力」の方が馴染んでいたのを思い出す。


「ナナ!少し休んでいろ!」

 タチが一薙ぎで5体の土人形を斬り倒して、私に目線を向ける。

「大丈夫!まだ戦えるよ…!」

 肩で息を吐きながら、答える私。

 強がり半分、本心半分。ダッドの体積を見れば、まだまだ戦闘は続く予定だ。

 こんな所で弱音は吐きたくない。


「いいか。無理はするなよ?」

「うん!」

 私のそばに一瞬より、頭を一撫でして飛び去るタチ。

 もちろん、敵を倒しながら。

 

 私の第一目標は、足を引っ張らない事。

 絶対無理はしないようにする。

 

 頭に触れた優しい感覚を噛み締めながら、意識を引き締め直すのだった。 

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