水の剣が美しい弧を描き、土の巨人ダッドの顔へと吸い込まれる。
少しずつ少しずつ。
寄っては離れ、空を舞うタチが攻撃を繰り返していた。
「さすが。としか言えませんね。この様に自由に動き回れるのは。」
タチの足に、風の力を宿らせたナビは援護しながら賛辞を贈る。
「初めてでもないからな。」
「とはいえ、私を味方にしてからたった数度の体験です。」
「私は風の大陸出だ。きっと相性がいいのだろう。」
「嬉しいお言葉です。」
宙を跳ねる剣士と空を泳ぐ化身。
2人の戦う姿は、洗練されてとても美しい光景だった。
「「「うぉぉおおおぉおお!!!」」」
そんな上品な空の下で、泥臭い雄たけびを上げる3匹の青い影が、ばく進していた。
「…なんだ?」
「水の玉…ですね。」
タチとナビが眼下に目をやると、大きな水の玉が1つ、凄まじい勢いでダッドの顔へと転がっていた。
迎撃のために撃ち込まれる土塊を弾き飛ばしながら。
「まったく…大人しくしてればいいのに。あいつら。」
「言葉と裏腹に嬉しそうですよ?タチさん。」
「だろうな。心配も喜びもどちらも本位だ。」
* * *
「今更じゃがのっ…!もうちっと近くから走るんでも良かったんじゃいのかっ!?」
「い…勢いがないとっ――だもんっ!!」
「!!!」(ユニちゃん)
水の玉の中を全力疾走する私達3人。
分厚い水の壁を頼りに「体当たりをしてやろう作戦」をただいま実行中だ。
「こうしてっ…協力してると思い出すねっ…!2人で計画ねってた頃っ!!」
「神殺しの剣奪いか…!!なつかしいのっ…!!」
「うん!!」
かつて、私とズーミちゃんはタチから剣を奪うため2人で手を組み行動していた。
アルケー湖から港までの道中、コソコソ隠れてお話したり、計画を練ったり…。
「全部失敗したがのっ…!!!」
「それはっ…タチが強すぎたから!ほら見て!今もお空で…かっこいいし!!」
全力疾走しながらのおしゃべりなど、無駄な体力消費にしか思えないだろうけど、お話している方が気がまぎれるのだ。
しかもなんだか楽しい気分になってくる。
青い壁の向こうに見えるのは、空を舞う二人。
あんなカッコイイ戦いに、後れを取るわけにはいかない。
私だって…私達だって、戦力なんだから。
「おぬしっ…!ちっと離れている間に「スキスキ」になりすぎじゃろうっ…!」
「だって…好きになっちゃったんだもんっ!!」
「あやつっ…ただの変態じゃぞっ!?」
「!!!」(ユニちゃんの同意と小さな歯ぎしり音)
確かに、タチと合流してからというもの、私はべったりだし。
確かに、タチはただの所じゃない変態だけど…。
「…うぉおおおおおお!!!!」
「叫んでごまかしとるじゃろぉっ!!!」
全力。全力疾走である。
いつまでもお荷物は嫌なのだ。
大好きな人の、役に立ちたいのだ。
「病は気からッ!!!」
「使いどころ間違っとるしっ!恋の病は別腹じゃしっ!!」
「!!!」(ユニちゃん。困惑。)
突っ込みを入れつつも付き合って全力疾走してくれる2人。
ダッドへの「ブチかまし」まではあと少し。
「「「うおぉぉおおおお!!!!」」」
共にもう一度、声を張り上げる。
私はとても良い仲間に恵まれた。
バシャッ!!
「ぐっご!?」
回転する水の玉がぶつかり、弾けた。
体当たりは成功。ダッドの顔はのけぞり、その大きな体ごと傾く。
効果あり。
私達も、厚い水の壁に囲まれていたとはいえ、ぶつかった時の衝撃は激しく尻もちをついた。
「やった!!!」
「まさかじゃの!!」
「!!」(ユニちゃん喜び)
汗だくの努力が実を結んだ・・・!
目に見えた成果に、3人は自然と喜びの抱擁をする。
ちょっとは役に立てたはずだ、空の上のカッコイイ二人の。
「フフフ。楽しい子たちですね。」
「だろう?私の自慢の女だ。」
私達の攻撃で手を止めていた上空の2人が、こちらへ手を振る。
私も喜んで振り返すと、ゆっくり傾き続けていたダッドが停止した。
「止まったの…。」
ズーミちゃんの言う通り。
斜めで静止したダッドは、攻撃も迎撃もやめ大人しくなってしまった。
さすがに、今の一撃で倒しきれるとは思っていないが。どうも様子がおかしい。
ボコボコボコ!
私達の立つ地面、ダッドの体中から土塊が盛り上がった。
それは1つずつ切り離され、人型に形を変える。
「…第二形態か。」
慌てた様子もなく、タチが私達のそばに降り立つ。
「あまりにも大きすぎましたからね。私達と戦うに適していません。」
続けて寄った風の化身ナビも、冷静に状況を判断し言葉にする。
「なるほど…。どでかい状態で暴れ、空を来るであろう、わらわ達の「おびき寄せ」と「捕捉《ほそく》」をしたわけじゃの。」
「…なるほど!」
納得のズーミちゃんと、とりあえず同意しておく私。
だって、戦いの事とかよくわからないんだもん。
「ここからは物量作戦というわけだ。」
タチが言いながら、腰のもう一刀。神殺しの剣を抜く。
その動作が終わるよりも先に、出来上がった「土人形」達は走り出した。
「ナビ!いつも通り私と手分けだ!離れるぞ!」
「はい。」
タチとナビ。2人は私達3人を挟み込むように、素早く位置取る。
私の居なかった2カ月。その間も彼女たちはこうしてダッドと戦っていたのが良くわかる。
「ナナ。おぬし余り離れるなよ。わらわがフォローする。」
「わかった…!足引っ張らないように気を付ける!」
ズーミちゃんの指示に頷き、周りを見る。
押し寄せる土人形を次々切り伏せるタチ、風を使い吹き飛ばすナビ。
2人の間をこぼれて迫る残りを、私、ズーミちゃん、ユニちゃんで相手する。
中でも一番戦力として低いのが私。
「えいやっ!」
源の力「水」を込めた拳で、近寄る土人形を殴りつける。
どうにか戦うことは出来そうだけど、一体倒すにも苦労。
出過ぎないよう注意をしつつの戦い。
危ない所はズーミちゃんが手を伸ばしたり、体を伸ばしたりして手助けしてくれる。
そんな私の補助付き戦闘とは真逆で、意外に強いのがユニちゃん。
日頃のたまったうっぷんを発散するかのように、角を土人形に刺し、体をねじってなぎ倒す。
ボコボコ湧いて出る土人形を、ばったばったと倒していると、地面が徐々に削れていきダッドの体積が減っていく。
何十体も何百体も倒してるけど、下を見れば地上はまだ遠い。
ダッドの余力はまだまだあるだろう。
「はぁ…。はぁ…。一番役に立ってない私が…。一番疲れているという…残念な事実。」
「無理をするなよナナ。」
「うん。気を使わせてごめんね。ズーミちゃん。」
拭っても拭っても額から汗が流れ落ちる。
小さな体、少ない体力…今までで一番戦闘に向かないと思っていたが、思いがけないことも1つあった。
ズーミちゃんから返してもらった源の力。
始めて使ったのは前のナナ。
ポチ君との戦で使用した時は、激しく消耗しすぐに体調を崩した。
でも、今回は持続的に戦えている。
たぶん、産まれた頃から備わっていたからかな?
ユニちゃんの前で目覚めた時、この肉体よりも「源の力」の方が馴染んでいたのを思い出す。
「ナナ!少し休んでいろ!」
タチが一薙ぎで5体の土人形を斬り倒して、私に目線を向ける。
「大丈夫!まだ戦えるよ…!」
肩で息を吐きながら、答える私。
強がり半分、本心半分。ダッドの体積を見れば、まだまだ戦闘は続く予定だ。
こんな所で弱音は吐きたくない。
「いいか。無理はするなよ?」
「うん!」
私のそばに一瞬より、頭を一撫でして飛び去るタチ。
もちろん、敵を倒しながら。
私の第一目標は、足を引っ張らない事。
絶対無理はしないようにする。
頭に触れた優しい感覚を噛み締めながら、意識を引き締め直すのだった。
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