かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第二十三話 タコの日。

公開日時: 2020年9月16日(水) 03:26
文字数:2,783

 北へと向かう船を待つ間。

 相変わらず私たちはピチョンの港を満喫していた。

 

 やらなきゃならない事を差し置いて…。


「本当にすまぬ…何もできずに…」

 今日が最終日の宿屋の一室。

 頭にタコのお面をかぶった、ズーミちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「ズーミちゃんがあやまることなんてなんにもないよ!剣は奪えなかったけど、イトラより私を信じてくれたじゃない。」

 同じくタコのお面をかぶった私は、ズーミちゃんに[タコタコ焼き]を一つ差し出す。


 パン生地の中に大きなタコが一粒入った、一口サイズの焼きパンだ。

 昨日今日とピチョンは海祭り。

 ズーミちゃんの家、アルケー湖みたいに色んな出店が広がっている。


 私も楽しんでるけど、特にズーミちゃんはお祭りが大好きみたい。

 ここ二日、子供みたいにはしゃいで楽しんでいる。 


 タチは…年中一人お祭り状態だから。


「わらわの地にいる間に、どうにかなればよかったのじゃが…」

 光の化身の命に背き、その上なお私の事を心配してくれてる優しいスライムの友達。


「でも、とっても楽しかったよ。」

 二人と出会ってから今日までを思い出す。

 ろくでもない記憶も沢山あるけど、ここ数日の楽しい毎日が補正をかける。

 それもまた、よかったと。


「楽しかったのじゃ…けど、神様はそれでよろしいのかの?」

「ん~。いいんじゃないかな?」

 ズーミちゃんが神様にとっても敬意を抱いてくれてるのはわかる。

 けど、申し訳ないが今の私は一応人間。たいしたもんじゃない。


「なにがどうなってるのか、今の私じゃ全然わからないし…楽しければ良いってことで!」

「良いのかの?」

「例えばね。ズーミちゃんのそれ、意識して動かしてる?」

 ズーミちゃんのお腹の中にある小さな気泡を指さす私。


「してないの…勝手に動いとるが…。」

「私の体もそう。うごけーって思ってないのに、心臓は寝ても覚めても脈打ってくれてるし、息しよう!って意識しなくても呼吸してるし…。」

「うむ?」

「自分の体一つとっても統制できてないし、制御してる感はないもん、今の私じゃ無理無理。」

 狭く短い世界。

 それこそを望んで人になったのだけど、全体を把握し理解しようと思うと限界がある。


「だから、聖地に戻るまでは楽しむ事にしたの。最後の人生として。」

 剣を奪おうとして失敗し、落ち込む。

 イトラの行動に疑問を持ち、不安になる。


 そんな時間の使い方はもったいないと思ったのだ。

 ズーミちゃんやタチと過ごす楽しい毎日を味わうべきだと。


「…わかったのじゃ。」

 小さく笑顔をみせ、ズーミちゃんが右手を差し出す。

 その手のひらには綺麗な水色の宝石みたいなものが、ちょこんと置いてある。


「これは?」

「わらわからの贈り物じゃ。無事聖地まで、楽しく過ごせるようにの。」

 キラキラと、ズーミちゃんの体と同じ色にきらめく宝石だ。

 人差し指と親指でつまんでロウソクの光に見透かす。


 深みととらえようのない青が、私の視線を飲み込む。

 懐かしいような、不思議な感覚。


「綺麗…ありがとう。」

 神と化身。二人の微妙な関係は、今や友と呼べる関係になっていた。

 一緒に寝て、一緒に食べて、たくさん話すことによって。


 少なくとも私は、そう思っている。

 私の大切な大親友。ズーミちゃん。


「おーい。あけてくれ。」

 ドンドンと部屋の扉を叩く、太い音がした。

 声の主はタチ。どうやら軽く体当たり?しているようだ。


 他人がいるとまずいので、ズーミちゃんはベッドの脇に身を隠し、私が扉を開く。


「早かったね…ってなにそれ?」

 扉の向こうには、真っ赤なタコのぬいぐるみ。

 しかもタチが見えないほど大きい。


「喧嘩小屋で勝った商品だ。いい運動になった。」

 また物騒な所に…。

 私の横を抜け、ぬいぐるみをベッドに放り投げるタチ。

 

むぎゅ。

 

「なにするんじゃ!」

 投げられたタコぬいぐるみは、ベッドでひと跳ねし、潜んでいたズーミちゃんを押しつぶした。

「それはお前にだ。今日でお別れだからな。」


「むぅ…わらわにか…?」

 こんなもの…と続けて言うが、喜んでいるのは表情と体内のコポコポでわかる。



「元は敵だったがな、この旅で友となった。受け取れ。」

 タチが親指を立て、ズーミちゃんにウインクをする。

 気の良い奴だ。変態だけど。


「あぁ~!私もなにか用意しとけばよかった…!タコ!タコもう一粒だべる?」

「いらんいらん!…一緒に過ごした日々が贈り物じゃ。」

 恥ずかしそうに、貰ったタコぬいぐるみを抱きしめ顔を埋めるズーミちゃん。

 小さい体でそれは反則だよ…!友よ!


「ズーミちゃん!」

 よしよしと、別れを惜しみつつ、愛しい友の頭を撫でる。

 ついでにタコの頭も。


「やめい!というかタチ!お主その格好で戦ったのか?」

「ん?」

 二本の剣を壁に立てかけ、ブーツを脱ぐタチ。

 その頭には、私たちとおそろいのタコお面。


「友情の証として、かぶって戦ったぞ?呼び名はタコ女だ。下着はもちろんあのえっちなヤツでな!」

 朝から夕まで三人一緒に祭りを練り歩き、お面はその時ノリで買ったのだ。

 日が落ちる頃には「体を動かしたい」と、いつも通りタチは単独行動していた。


「かぶって戦ったの?」

 私はズーミちゃんの横に座り、二人仲良くお面を被り顔を隠す。


「当然だ。友情を見せびらかしてきたぞ、変態的な強さのタコ女とみな驚いていた。」

 ジャラリと。お金が沢山入った音のする革袋が机に置かれた。


「友情じゃなく、変態アピールにしかなっとらんだろう…。」

 タコぬいぐるみの口をツンツン突くズーミちゃん。

「良かったね。可愛いの貰って。…でもそうか、三人でいるの今日が最後なんだね。」

 もう一度ぎゅっと、タコを抱くズーミちゃんを抱きしめる。

 改めて実感してしまった。今日が三人でいる最後の夜。


「やめい!やめい!泣いてしまう…!」

 ぷるぷるふるえるズーミちゃん。

 お面の奥には、今にも泣きそうな顔が見え隠れしている。

 そんな顔みせられたら、私まで貰いそうになっちゃう。


「よし!最後は友として裸で寝るか!なっ!!」

 いつの間にやら全裸で仁王立ちのタチ。

 いつも通り隠すつもりが無い…というより、引き締まった体を見せびらかしてくる。


「しません!今日は私と隣で寝よ!おそろいのタコお面かぶってさ!」

「それもそれで間抜けじゃろう。」

 同意を求める私に、タコぬいぐるみの足でポコリと一撃入れてくるズーミちゃん。


「わかった。全裸でタコをかぶろう。より友情が深まる…!」

「深まらない!どこの誰がそんな事で深めるのよ!」

「誰もやらんから、こそだろう!私たち3人だけの全裸タコ寝だ!!!」

「まぁ、わらわは元から全裸だから構わんがの…。」

「ズーミちゃんまで!?」


 お別れの夜。最後の時までいつも通り。

 この時間。この時間だ。この時が杞憂きゆうやあらがいより、楽しむ事を大切にしようと思わせた。


 結局最後の夜は、全裸二人と寝間着の私。

 仲良く三人タコをかぶって寝た。最強のタチの腕枕で…。



 起きたら、なぜか、私も全裸タコだったけど…。

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