かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第六十五話 影。

公開日時: 2022年1月8日(土) 04:17
文字数:5,474

 私達の戦いは続き、ダッドの体積が半分に減った頃。

 まばゆい光が世界を覆った。


「戻られたのですね。時の化身。」

「イトラ…!」

 頭上から降りて来たのは、光の化身イトラ。

 驚くことはない、彼にとっても私にとっても予定通りの仕組まれた再会…。

 とはいえ、目の前にすると体に緊張が走り、冷や汗の一つもかいてしまう。


「やっと現れたな!次は私がお前の首を跳ねる番だ!」

 土人形との戦いで、完全に体が温まったタチが、剣先をイトラに向ける。

 一番動き回って戦果を挙げている彼女が、未だに一番、闘志全開だ。


「単純な生き方ですね。…いったいコレのどこに魅力を感じたのやら。」

 タチの言葉など意にも介さず、ただ私だけを真っすぐと見つめ宙をたゆたうイトラ。


「お主、見る目がないとイトラ様に馬鹿にされとるぞ。ちなみにわらわもそう思う。」

「いいもん!誰になんと言われたって、好きな気持ちは変わらないよ!」

 ズーミちゃんの作った小さな水の玉から、顔だけを出して私は空を睨む。

 なぜこんな恰好かというと、戦いの後半、体力を使い果たした私はこの中で一人休憩を頂いていたからだ。

 

 だって、ヘトヘトだったんだもん…。

 「足を引っ張らない」という第一目標のタメには仕方がなかったのだ。 


「そんな情けの無い姿で睨みつけてもの。どうみたってあっちが偉大な存在じゃな。」

「今からでるもん!ちゃんと格好よく向き合うもん!別にちっさくていいもん!!」

 ヌプヌプと手足を水玉からだして、多少回復した体を起こす。

 イトラの出現にともない、ダッドと土人形は動きを停止している。

 みんなが私を囲む形で、集まり臨戦態勢をとった。


「とはいえ、わらわの友はナナだ。そしてアルケー湖の、水の大陸の皆だ。割り切れてるわけではないが、それらを傷つけ付けようとするイトラ様には賛同できん。」

 飛ばしていた水の玉を体に戻し、ズーミちゃんが私の肩に手を置く。

 共にイトラの方へと顔を向け、戦いもやむを得まいと拳を握りしめながら。


「申し訳ありませんが、私もこちらに着かせてもらいます。――自由を尊重していますので。」

 風の化身ナビも、私達の横並びに参加し、緑の髪をなびかせて静かに口を開く。


「!!!」(興奮ユニちゃん)

 状況が一番理解できていないはずだけど、清々しい顔で空を見るユニちゃん。

 日ごろのうっぷんを戦闘で晴らしたせいだろう、勢い余って小さな舌を出し挑発まで始めてしまう。 

「前回と同じだと思うなよ…!」

 タチが神殺しの剣を構え、鋭い眼光で啖呵を切る。


 今、まさに、私達の因縁の決戦が始まろうとしていた――、はずだった。


「…なんじゃ?ナナ?その手は??」

 一致団結!最終決戦!の流れだったはずが、黙って右手を上げる私に、唯一突っ込んでくれた優しいズーミちゃん。

「はい!…話し合いがしたいです!」

 こんな空気で悪いんだけど、それが私の正直な気持ちだった。

 タチと再会するまでの道中は、不安と心配で胸がいっぱいで、そんな想いをさせたイトラの事が許せなかったけど…。

 

 やはり、どうしても憎しみきれない。目の前にして対峙しても。


「この期に及んでですか?」

 イトラが誰もが思ったであろう感想を口にする。

 わかっているさ。そんなこと言い出す空気じゃないことぐらい。


 人になってからこの言い回しが多い気がするけど。「でも、だって…」なのである。



「だって…。イトラの言う「世界が増える」とか「醜く乱れる」とかを協力して解決できるなら…。」

「それが認識すらできていない、あなたが。この世界すら見通せてないあなたが。危機感を抱いてもいない、あなたが。何ができるというのですか?」

 イトラの言葉に怒りの匂いは漂っていなかった。

 淡々と、上位の者のみが見える事実を語るだけ。

 

 今の私にはわからない、真実とか言うやつを。


「でも…無理に対立しなくて良くなるかもしれないし…。」

「何が無理にですか?あなたが「神」をやめたから、こうなったのです。なぜ、こんな事になってしまったのかも理解できない愚かな存在に自ら落ちた…。許されるとでも思いですか?許す者が不在な世界で。」

 たぶん。イトラの言い分はもっともなのだろう。

 私なんかより遥かに全てが視えていて、世界の事を思って行動しているに違いない…。

 でも、だからこそ、私は彼と対立したくなかった。


 私なんかより、はるか立派で頑張っている、イトラとは。


「そうだぞ、私は首をはねられてる。無理なケンカじゃないだろう?」

「十分すぎる理由じゃな。…わらわは友と人をないがしろにされとうない。」

 タチとズーミちゃんが同調しながら、私の方を向く。

 イトラが小さく、「たかが一つの生命。」と言ったのが耳に入り、私は悲しかった。


「首はまだいいが。ナナを泣かせたことは万回殺してもゆるせん。」

 思い出して怒りを膨らませ、タチが熱く言葉を吐き出す。

 鎮火することはないタチの意志が、その言葉から伝わる。


「意気込むのは勝手ですが。心しておいてくださいね。時の化身が、目覚めるのに数か月かかったことを。」

「…私はなんどでも生まれて、タチの元に帰るもん。」

 元をただせば私のせい。だって私は神様だったから。

 ただあったその時から、きっと責任があったのだ。神としての。


 だからこそ、目の前で最愛の人を傷つけた相手でも、純粋な怒りを抱くことができない。

 どうするのが正解なのだろう?元神である私は…。

 

 唯一分かることは一つ。「タチと共に居たい」という気持ち。


「次も数か月で目覚められれば良いですね…。数年だと間に合わないかもしれませんから。」

「…」

 含みをもったイトラの言い回しの意味を、私とタチだけはわかっていた。


「タチ…と言いましたか。あなたのその力。寿命を捧げて得たようですが、後どれほど残っているのですか?次に彼女が目覚めるまで、存在出来とお思いですか?」

「言っただろう。次などない。死ぬのは貴様だ!」

 叫んだタチが風の力を全身にまとい、見下すイトラに勢いよく斬りかかる。

 止めれなかった、止めれる理由も、止まる理由もないのだから。

 

 私だって、ここでイトラに殺されるわけにはいかない。

 例え生まれ直せたとしても、意味がなくなってたら、意味がないのだ。

 

「こりもせず神殺しの剣ですか…。ソレの向かうところは、私ではないのです。」

 タチの一撃を軽く受け止めたイトラが、灰色の刀身を弾いて飛ばす。

 くるくると回りながら、飛ばされた神殺しの剣は、私の足元に刺さって止まった。


「織り込み済みだ!」

 間髪入れず水の剣で追撃を行うタチ。

「神の消えたこの世界で、一番力ある者が私です。敵わないのは道理だと思いませんか?」

 伸びて曲がる水の剣を、余裕をもってかわすイトラ。


 このままいくと前と同じ、一指も報えず終わってしまいそうにみえる――が。


「ズーミ!」

「わかっとる!!」

 タチの掛け声に応じ、ズーミちゃんが水の剣に、いくつもの水玉を飛ばす。

 ぶつかりあった「水」同士が飛び散り広がって、拡散した攻撃となる。


シュピシュピ!

 数発の水棘がイトラの体にぶつかって、小さく光の泡が立つ。

 初めて、イトラにダメージを与えることに成功したのだ。


「…正しい事が理解できぬ愚かさは、もう責めまい。お前の役目は、時の化身の前で死ぬことだけだ。」

 イトラが腕をふると、今しがた飛ばされた水の棘、それと同じ数の光の棘が私達に向かって飛ばされた。


「させません。」

 飛びかう光の棘を、ナビが強風で弾き消す。


 もう完全に戦いは始まってしまった。

 タチを中心に、ナビとズーミちゃんが補助や援護をしてイトラとぶつかり合う。

 

 光の化身に対するは、神殺しと水と風の化身。

 

 タチの振るう水の剣は、ズーミちゃんの水の力によって、伸びたり、飛び散ったり。

 空を切ったはずの斬撃が、ナビの風により弧を描く水色の飛び道具となる。

 

 イトラは向けられた攻撃と、同等の光の反撃を行い、輝く破裂がいくつも起きた。


「私はナナが好きだ!ナナに好かれたいし褒められたい!貴様の正しさなどに殺されてたまるものか!」

「間違っています。」

「言っている!性が好きで、戦いが好きで、腐りかけの人間も好物だ!!美しいものも可愛らしいものもみな食べたい!!」

「穢れめ・・・!」

 言葉の数はタチが多かった。

 だけど、戦闘面では徐々にイトラが押しているように見える。

 

 同等に返していた攻撃が、どんどん激しさと数を増し、3人全員で受けに回らなければいけない瞬間が増えていた。


(私も…私も意思を決めないと…!)

 イトラを憎むことはできずとも、私には絶対の想いがある。

 また、目の前でタチを傷つけたりさせない。

 まして失ったりなんて…絶対しない。


 それだけは心の底から信じられる、私の行動の元。


「ユニちゃん…!お願い手伝って!」

「…!!」(うなずくユニちゃん)

 私と共に、戦いを見上げているユニちゃんの手を取り助けを求める。

 ユニちゃんは少し戸惑ったようにも見えたけど、私の目をじっと見つめた後、小さくコクリとうなずいてくれた。


 私の中にある「源」の力。

 長い間水の化身の中にあって、水の色のついたこの力を、水の玉にして自分のお尻に集める。


「私を蹴って!!!」

 私が叫ぶと、ユニちゃんは小さな体で足を大きく後ろに引き、力を込めて思いっきりお尻を蹴り飛ばした。


バシュウゥウ!!

 水の玉を、水適正の強いユニコーンが全力で蹴り飛ばす。

 凄まじい勢いで、私は目標。イトラへと吹っ飛ばされる。


「ナナ!?」

 そんな無鉄砲な体当たり攻撃に、驚いたのはイトラより仲間たち。

「ごめん!コレしか思いつかなかったの!!」

 まともに攻撃したって当たりはしないだろう、結局思いついたのがダットに効果があった攻撃、秘儀体当たり。

 短い思考時間、小さな考察、しょせんチビな私に思いつく最大の攻撃方法。


「くらうとお思いで?堕ちたモノよ。」

「でも、返せないでしょ!!」

 下から見ていて気付いたのだ。

 斬撃や飛び道具は同じ攻撃で返していたけど、ズーミちゃんの伸びる手は、撃ち落としていた。

 光の手が伸びて、反撃されることはなく…。

 

 つまり体当たりなら、体当たりはかえってこないんじゃないかって。

 意志あるものの体術は、反射できないんじゃないのかって。


「馬鹿者!無謀にもほどがあるじゃろ!!」

 かわされ飛んでく間抜けな私を、ズーミちゃんが慌てて腕を伸ばし掴んでくれる。

「だが、間ができたぞ!!」

 タチとナビが薄くなった光の反撃を抜けて、捩じりこむようにイトラへと距離を詰める。

 私を習ってタチは剣撃を囮に、蹴りを一発イトラの腹部に見舞う。

 風の加護を強くまとった強烈な一撃だ。


 今までで一番大きな光の泡が空に散った。


「…端的に言いましょう。私はヒトが嫌いです。神を世界に落とし込み愚かにさせた。好ましいと思った個体など一つも存在しない。」

 ダメージはあったはずだが、構うことなくイトラが口を開く。

 私ではなく、タチを見て。


「なぜ、こんな存在に惹かれて「逝って」しまわれたのか…。理解ができません。そう、逝ったのですよ。過去と未来を生み出して、輪廻の輪でくくった完ぺきな「一つの世界」を捨てて…。」

「貴様にナナが理解できるわけがあるまい…!私にもわからんことが沢山あるのに!!」

「嫌いですよ。あなたは特に。醜く足掻くその姿が。」

 イトラとタチは、言い合いしながら攻防を繰り広げる、密着し合った殴り合いは、なぜかタチが責める形になっていた。


「奇遇だな!私もお前が嫌いだ!…所でお前は男か?女か?」

「性など私にあるわけなかろう。」

「いいな…!私が目覚めさせてやる!抱いてくださいと鳴いてみろ!!今ここに体があるのだからな!!」

「触れるな愚者め!!」

 攻撃…というよりまさぐるような接触を試みたタチは、イトラの見せた初めての感情が乗った言葉と共に吹き飛んだ。


「タチ!!!」

 そのままダッドの体へと勢いよく打ち付けられるタチ。

 私はズーミちゃんの手から離れて、土ぼこりの中に倒れたタチに駆け寄る。


「つッ――。おっぱいはあったぞ?下はどうなっているんだ??」

 口元から血を流し、しょうもない情報を口にするタチ。

 しかし、なんだろう今の攻撃は?私には何をされたのかまったく見えなかった。


ドスン!ドスン!

 続けて二回空が輝き、タチが打ち付けられたのと同じ音がする。

 横をみると、ナビとズーミちゃんが同じく地面…ダッドの体に打ち落とされていた。


「敵うと思うのですか?私こそが神に選ばれたモノ。最初のとも。」

 イトラはゆっくりと地面に足を着き、光り輝く翼を広げた。

 神々しい。まさしくこの世の物とは思えない、金色に輝く美しい翼だった。


 一目見て思う。敵う相手ではないのだと…。


「偉そうに御託ごたくを並べちゃいるが、結局ソレなんだろ?」

 男の声がした。

 悪戯っぽいような、他者を小馬鹿にした嫌味のある声が。

 地の底から。


「神が人に惹かれたのが、ムカついて、嫉妬した。そう言えばいいじゃね~か。」

 地面が水面みなもの様に波打つ。

 そこから、長い黒髪の男が競り出て来た。

 黒く、大きな翼をもった化身が。


「産まれた時から副産物だった俺からすりゃ~。だいぶ贅沢なお話で、咥えた指を食っちまいそうだ。」

 初めて見る男。

 でも私は確かにしっている。

 

「…今更何の用です?あなたは神を憎んでいるはずでしょう?」

 イトラが完全に体を表した男に語り掛ける。

 対等な、力ある者として。


「あぁ。嫌いだ。だがテメーの方がもっと好かない。」

 男が指を弾くと、山ほどある大きさのダッドの顔が半分吹き飛んだ。


 神が初めて作り出したのが光の化身。それと共に生み出された存在。

 神に授かった役割を嫌い、自らを「悪魔」と呼ぶ男。

 

 影の化身ヤウ。

 

 タチが契約し寿命を捧げた存在が、私達の前に現れた。



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